カーボンニュートラルへの道　#9

～省エネ法改正と事業者クラス分け評価制度～

2023年7月7日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2023年6月9日付けで内閣府、経済産業省など関係省庁で構成される「省エネルギー・省資源対策推進会議省庁連絡会議」は、「2023年度夏季の省エネルギーの取組について」と題し、電力がひっ迫すると予想される今夏の省エネ方針を発表しました。

その冒頭において、「2050年カーボンニュートラル及び 2030年度削減目標の実現に向けて、暮らし、ライフスタイルの分野でも大幅なCO2削減が求められるが、具体的な行動に結びついているとは言えない状況にある。そのため、2022年10月、『脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動を開始した。』」と述べています。また、第2章「工場・事業場関係について」の「（1）工場・事業場における省エネ法に基づくエネルギー管理の実施」においては、「以下に掲げる取組の推進を含め、省エネ法に基づく適切なエネルギー管理を実施すること。なお、特定事業者においては、平成28年度から開始した事業者クラス分け評価制度によるSABCの評価も踏まえた取組を行うこと。」と述べています。

2023年3月24日付け本コラム「カーボンニュートラルへの道　#8～中小企業・小規模事業者のための脱炭素経営～」では、経済産業省が「カーボンニュートラルへの第一歩は省エネです。まずは省エネに取り組みましょう。」としていることを紹介しました。今回は、2023年4月に改正された省エネ法とそれに基づく、上記「事業者クラス分け評価制度」とカーボンニュートラルに向けての第一歩である省エネの実施などについて考えてみたいと思います。

2.　省エネ法とは（2023年4月1日改正）

以下、経済産業省/資源エネルギー庁の資料を引用して説明します。

省エネ法（正式名称「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」）は、直近では2023年4月１日付けで改正法が施行されています。対象は一定規模以上の（原油換算で1500kl／年以上使用する）事業者に、エネルギーの使用状況等について定期的に報告義務を負わせ、省エネ取組の見直しや計画の策定等を行うように求める法律です。

従来は、図1のように、「化石エネルギーの使用の合理化」だけについて省エネを求めていましたが、今回の改正では、2030年のCO2排出量47％削減及び2050年のカーボンニュートラルを見据えて、全てのエネルギーに対する省エネ及び非化石エネルギーへの転換、電気の需要の最適化も求めるように改正されました。

図1　旧省エネ法と2023年改正省エネ法の違い（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

2-1.　すべてのエネルギーの使用の合理化

旧法では化石エネルギー（石油、揮発油、可燃性天然ガス、石炭など）の使用だけを対象としていましたが、改正法では化石エネルギーの他の非化石エネルギー（黒液、木材、廃タイヤ、廃プラスチック、水素、アンモニア、非化石熱、非化石電気（太陽光、風量など））も含めたエネルギー使用の合理化を求めています。

図2　旧法と改正法におけるエネルギー管理（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

2-2.　非化石エネルギーへの転換

非化石エネルギーへの転換では、特定事業者に対して中長期計画の提出と定期報告書の提出を求めています。

図3　非化石エネルギーへの転換　（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

2-3.　電気の需要の最適化（旧：電気の需要の平準化）

再エネ出力制御時への電力の需要シフトや、電力の需給ひっ迫時の電力の需要減少を促すため、特定事業者等は、電力の需給状況に応じた「上げDR（再エネ余剰時等に電力需要を増加させる）」・「下げDR（電力需給ひっ迫時に電力需要を抑制させる）」の実績報告を行うことが求められます。これまでと比べ、報告の方法も変わります。

図4　電気需要の最適化（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

2-4.　2023改正省エネ法の実施スケジュール

図5　主なスケジュール　（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

3.　省エネ法に基づく「事業者クラス分け評価制度及び産業トップランナー制度（ベンチマーク制度）

以下、経済産業省/資源エネルギー庁の省エネポータルサイトを引用して説明します。

3-1.　事業者クラス分け評価制度の概要

省エネ法では一定規模以上の（原油換算1500kl／年以上使用する）事業者にエネルギーの使用状況について定期的に報告する義務が課せられていますが、これに従い提出された定期報告書の内容を確認し、事業者をS・A・B・Cの4段階へクラス分けし、クラスに応じたメリハリのある対応を実施する制度と言えます。

※1　努力目標：5年間平均単位を年1%以上低減すること。
※2　ベンチマーク目標：ベンチマーク制度の対象業種・分野において、事業者が中長期的に目指すべき水準。
※3　2019年度からは定期報告書、中長期計画書の提出遅延を行った事業者は、Sクラス事業の公表・優遇処置の対象外として扱うことがある。
図6　事業者クラス分け評価制度（SABC評価制度）（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

※「主な事業」について、具体的にはベンチマーク目標を達成した事業のエネルギー使用量
（複数の事業でベンチマーク目標を達成している場合には達成した事業の合計エネルギー使用量）
が当該事業者全体のエネルギー使用量の50％以上を占める場合となります。
図7　努力目標未達事業者のうち、ベンチマーク達成によるS評価を受けている事業者の例（2020年）（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

3-2.　行政によるチェック

提出された定期報告書の内容が評価され、Sクラス（省エネが優良で目標を達成した事業者）は事業者名が公表される反面、Bクラス（Cクラスを含む省エネが停滞していて目標が未達成事業者）には注意喚起文書の送付が行われ、場合により立入検査、工場等現地調査、合理化計画作成指示が行われ、指示に従わない場合は公表・命令が行われる場合もあるとしています。

図8　事業者クラス分け評価制度における報告書評価と行政の対応（出典：経済産業省/資源エネルギー庁）

3-3.　クラス分け評価結果（Sクラス公表）

Sクラス事業者については、経済産業省/資源エネルギー庁の省エネポータルサイトにおいて、年度事に公表されています。

3-4.　工場等現地調査の実施方針について

経済産業省では、「省エネ法」に基づき指定を受けた特定事業者、特定連鎖化事業者、認定管理統括事業者及び管理関係事業者を対象として「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」の遵守状況に関する調査を実施します。

3-5.　産業トップランナー制度（ベンチマーク制度）

ベンチマークとは、特定の業種・分野について、当該業種等に属する事業者が、中長期的に達成すべき省エネ基準（ベンチマーク）です。省エネの状況が他社と比較して進んでいるか遅れているかを明確にし、進んでいる事業者を評価するとともに、遅れている事業者には更なる努力を促すため、各業界で全体の約1～2割の事業者のみが満たす水準を、事業者が目指すべき水準として設定しています。

※ベンチマーク制度では、事業者の自主的な努力を促すため、報告されたベンチマーク指標の平均値、標準偏差、目指すべき水準の達成事業者を、国において公表することとしています。

4.　まとめ

（1）2023年4月1日に改正された省エネ法では、従来の「化石燃料の使用の合理化」から「すべてのエネルギーの使用の合理化、非化石エネルギーへの転換、電気の需要の最適化」の3つを求めている。
（2）省エネ法では一定規模以上の（原油換算1500kl／年以上使用する）事業者にエネルギーの使用状況について定期的に報告する義務を課している。これに従い提出された定期報告書の内容を確認し、事業者をS・A・B・Cの4段階へクラス分けし、クラスに応じたメリハリのある対応を実施する制度がある。
（3）Sクラス事業者は優良事業者として公表し、Bクラス以下の事業者には、場合により工場への立入検査、合理化計画作成指示、命令・公表などの制度も設けられている。
（4）脱炭素経営の第一歩は、自社のエネルギー使用量（電気、ガス、重油、軽油、灯油、その他）を把握し、中長期的な省エネ計画を作成して、実施すること。次は改正省エネ法で規定された非化石エネルギーへの転換であり、この一連の流れが脱炭素経営と言える。

引用・参考資料

省エネ法における「事業者クラス分け評価制度及び産業トップランナー制度（ベンチマーク制度）」　（経済産業省/資源エネルギー庁）
2023年4月～省エネ法が変わります　（経済産業省/資源エネルギー庁、2023-3-31）
20203年度「夏期の省エネルギーの取組について」　（省エネルギー・省資源対策推進会議省庁連絡会議決定、2023-6-9）
カーボンニュートラルへの道　#8～中小企業・小規模事業者のための脱炭素経営～　（日本バルブ工業会、2023-3-24）
工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準（目次）　（経済産業省/資源エネルギー庁）
令和4年度の工場等現地調査の実施方針について　（経済産業省/資源エネルギー庁）

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