カーボンニュートラルへの道　#8

～中小企業・小規模事業者のための脱炭素経営～

2023年3月14日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

経済産業省は「2050年カーボンニュートラルや2030年度の（温室効果ガス）削減目標を実現するためには、大企業のみならず中小企業も脱炭素化を進めていくことが必要であり、そのためには中小企業支援機関のサポートが不可欠です」と述べています。

個人事業主を含め日本の中小企業及び小規模企業は、事業者数では99.7％、従業員数では68.8％といわれており、中小企業が脱炭素経営に取組まない限り、日本のカーボンニュートラル達成は難しいといえます。

そうはいっても、大企業に比べ、資金面、人材面、情報面などの点から、「必要とは思うけれど、余裕がないし、やり方がわからない」のが実情だと思われます。

そのような状況において、経済産業省、中小企業庁、独立行政法人中小企業基盤機構、商工会・商工会議所、中小企業組合、商店街組合、金融機関、士業・民間コンサル等、種々の機関や団体が、支援や補助金制度などを設けてこの状況を打開し、中小企業にも脱炭素経営に取組みやすくしようとしています。

今回は、おもに経済産業省、中小企業庁、中小企業基盤機構など、公的及び準公的機関の情報を中心に、中小企業がカーボンニュートラルに向けての脱炭素経営を始めるための情報を提供したいと思います。

以下、経済産業省および中小企業基盤整備機構など公的及び準公的機関の情報を基に解説します。

2.　経済産業省の「中小企業支援機関によるカーボンニュートラル・アクションプラン」とは（出典：経済産業省）

経済産業省は「中小企業団体や金融機関等の支援機関が、2050年カーボンニュートラルに向けて会員企業等の脱炭素化と持続的な成長を支援する取組を『カーボンニュートラル・アクションプラン』としてとりまとめています」と述べています。

2-1.　中小企業のカーボンニュートラル施策の方向性として

各中小企業の排出量や排出削減の取組の状況においては、排出量の見える化、設備投資促進、支援機関からの「プッシュ型」の働きかけ、市場創出などの施策で後押しして行く。

（1）温室効果ガス排出量の「見える化」の促進
全ての希望する中小企業が、温室効果ガス排出量を簡易に算定し、削減取組も含めて公表できるよう、ノウハウの提供や国の電子報告システムの整備を行う。またIoTの活用や専門家による分析・提案も通じて、省エネ・省CO2の予知に係る検討を促す。

（2）カーボンニュートラルに向けた設備投資などの促進
省エネ・省CO2効果が期待できる場合、再エネ設備の導入や高効率な生産設備への入替などにより省エネ・省CO2を促すとともに、それを契機としたコスト削減、生産性向上を促して行く。

（3）支援機関からの「プッシュ型」の働きかけ
（1）、（2）の施策を展開するにあたり、地域の金融機関や中小企業団体等の支援機関によるカーボンニュートラル・アクションプランの策定を慫慂（しょうよう：しきりに勧めること）するとともに、支援人材の育成を行うことなどにより、相談を待つのではなく、「プッシュ型」で支援施策を紹介してもらうなど働きかけを行えるよう、支援体制の強化を図る。

（4）グリーン製品市場の創出（対象は中小企業に限定されない）
製品の排出量等の表示ルールの策定やグリーン製品の調達などを官民で推進することにより、グリーン製品が選定されるような市場を創出してゆく。また、例えば適正な価格転嫁を行いつつサプライチェーン全体で「見える化」・排出量削減を行うことで、当該製品の競争力強化、当該サプライチェーンの強靭化を図るような取組を後押しして行く。
また、今後取引企業から組織や製品のCO2排出量を求められるであろうことを鑑み、脱炭素経営の取組を中小企業も含む企業の実務に落とし込み、グリーン製品や脱炭素経営が評価され、投融資や事業機会の拡大、ひいては地域の脱炭素化・ライフスタイル転換に繋がるよう、必要な環境整備を行う。

2-2.　カーボンニュートラル・アクションプランの必要性

2050年カーボンニュートラルや2030年度の削減目標を実現するためには、大企業のみならず中小企業も脱炭素化を進めていくことが必要。
カーボンニュートラルの流れの中、中小企業の多くは自社の経営に何らかの影響があると感じつつも、具体的な方策については検討が及んでいない状況であり、支援機関のサポートが不可欠。
経済産業省では、中小企業団体や金融機関等の支援機関が、2050年カーボンニュートラルに向けて会員企業等の脱炭素化と持続的な成長を支援する取組を「カーボンニュートラル・アクションプラン」としてとりまとめて公表する予定。

2-3.　カーボンニュートラル・アクションプランの策定例

カーボンニュートラル・アクションプランには、2050年カーボンニュートラルに向けて会員企業等の脱炭素化と持続的な成長を支援する「支援機関による取組」を盛り込んでいただくことを想定。

（1）想定支援機関
商工会・商工会議所、中小企業組合、商店街組合、金融機関、士業・民間コンサル等

（2）「支援機関による取組」の例

省エネ・温暖化対策に関する情報収集・情報提供
相談対応
セミナーや説明会、イベントの開催
経営指導員の研修内容への省エネや温室効果
ガス排出量削減の盛り込み

CO2チェックシートの配布
専門家派遣
補助金等の計画策定・申請実施に向けた支援
J-クレジット制度におけるプログラム型プロジェクトのとりまとめ

2-4.　カーボンニュートラル・アクションプラン策定・公表のメリット

カーボンニュートラル・アクションプランを策定・公表することで、会員企業等と支援機関の双方にメリットがあり、企業の脱炭素経営やカーボンニュートラルへの取組が促進されることが期待できます。

会員企業のメリット

身近な支援機関の支援内容を知ることができる。
支援内容を踏まえて具体的な相談をすることができる。
カーボンニュートラル・アクションプランに基づく豊富な支援を受けることができる。

支援機関のメリット

支援内容を広く周知することができる。
カーボンニュートラルに向けた計画的な支援内容の検討につながる。
多くの事業者の相談を受けることで、事業者が抱える課題の把握や、相談対応スキルの向上につながる。
他の支援機関の取組を知ることができる。

3.　カーボンニュートラルの初めの一歩（出典：経済産業省）

経済産業省四国経済産業局のウェブサイトにカーボンニュートラルに取組む初めの一歩から、わかりやすい説明がありますので紹介します。

このウェブサイトの冒頭に「中小企業者の皆さん、カーボンニュートラルを他人事だと思っていませんか？」と問いかけがあり、続けて「世の中のカーボンニュートラルへの動きが、取引先選別といった企業活動上の制約をもたらす一方で、企業におけるカーボンニュートラルへの経営努力は、エネルギーコストの削減、競争力強化・売上・受注の拡大、知名度や認知度の向上等の多くの利点をもたらします。「そう言われても、どこから初めて良いか分からない」と思っている皆さん、カーボンニュートラルへの第一歩は省エネです。まずは省エネに取り組みましょう。」と呼びかけています。

（出典：経済産業省資料をもとに筆者が作成）

3-1.　支援制度（出典：経済産業省資料）

現状把握と対策検討で利用できるツールや支援制度
（1）セルフ診断ツール（一般財団法人省エネルギーセンターウェブサイト）
（2）省エネ最適化診断（一般財団法人省エネルギーセンターウェブサイト）
（3）省エネお助け隊とは（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）
（4）省エネルギー診断（令和4年度補正予算中小企業等に向けた省エネルギー診断拡充事業）（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）

資金調達で利用できる制度
（1）令和4年度省エネルギー設備投資に係る利子補給金（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）

設備導入で利用できる制度
（1）令和4年度補正予算省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）
（2）令和4年度補正予算省エネルギー投資促進支援事業（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）
（3）令和4年度先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）
（4）令和4年度先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金【設備区分：産業ヒートポンプ】（一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター）
（5）令和4年度ネット・ゼロ・エネルギー・ビル（ZEB）実証事業（一般社団法人環境共創イニシアチブウェブサイト）
（6）ものづくり補助金総合サイト（中小企業庁ウェブサイト）
（7）事業再構築補助金（中小企業庁ウェブサイト）
（8）カーボンニュートラルに向けた投資促進税制（経済産業省ウェブサイト）
（9）地域未来投資促進税制（経済産業省ウェブサイト）
（10）中小企業経営強化税制（中小企業庁ウェブサイト）
（11）中小企業投資促進税制（中小企業庁ウェブサイト）
（12）先端設備等導入税制（中小企業庁ウェブサイト）
※上記の補助金や税制優遇は令和4年度に利用できるもの及び補正予算に係るものを記載しています。

4.　独立行政法人中小企業基盤整備機構のカーボンニュートラルの支援（出典：中小企業基盤整備機構）

独立行政法人中小企業基盤整備機構（略称：中小機構）は経済産業省が主管する独立行政法人で、中小機構のウェブサイトには「中小機構は、国の中小企業政策の中核的な実施機関として、起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、企業の成長ステージに合わせた幅広い支援メニューを提供しています。地域の自治体や支援機関、国内外の他の政府系機関と連携しながら中小企業の成長をサポートしています」と記されています。中小企業の種々の相談、共済事業、講習など中小企業支援活動を幅広く行っている法人です。

4-1.　中小企業・小規模事業者のための支援制度

カーボンニュートラル実現に向けたチェックシート
（1）現状把握 ⇒ エネルギーの使用に伴い発生する CO2 排出量の把握
（2）当面の取り組み ⇒ 省エネ診断の受診、補助金の活用、他社の取り組み事例
（3）計画策定 ⇒ 再生可能エネルギーの活用を中心とした計画策定
※カーボンニュートラル・チェックシート（HTML版）
※カーボンニュートラル・チェックシート（PDF版）

専門家によるオンライン相談窓口
中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラル実現に向けたお悩みについて、専門家のアドバイスが受けられます。
カーボンニュートラル相談窓口（中小機構）

その他
（1）カーボンニュートラルに関する、知識・理解（セミナー、J-net21、その他）
（2）現状の把握（チェックシート）
（3）相談、アドバイス（オンライン相談、地域本部窓口相談）
（4）実行（ハンズオン支援、他）
（5）補助金・融資制度（グリーン枠）
※その他の支援機関よりの支援があります。

5.　まとめ

（1）日本の企業の99.7％を占めるとされる中小企業が脱炭素経営に取組まない限り、日本のカーボンニュートラル達成は難しい。
（2）しかしながら、中小企業では「脱炭素経営は必要だとは思うが、資金的、人的、情報的に余力がなく、どこから手を付けてよいかもわからない」のが現状だと思われる。
（3）このような状況を打破し、中小企業が脱炭素経営に取組みやすくするため、経済産業省、中小企業庁、中小企業基盤整備機構などの公的・準公的機関のほか、多くの民間団体も種々の支援策を準備し、さらに企業からの依頼を待つことなく、「プッシュ型」の支援を開始している。
（4）脱炭素経営は企業側、支援側の双方にメリットがある。
（5）今後、製品に「CO2排出量表示」ルールの策定、炭素税などの検討もされているようであり、いずれは脱炭素経営に取組まざるを得ない状況がくることが予想される。
（6）経産省四国経済産業局は「脱炭素経営の第一歩は省エネ」「やりやすいところから始める」と述べている。大上段に構えず、初めの一歩を踏み出す時期にきている。

引用・参考資料

中小企業支援機関によるカーボンニュートラル・アクションプラン　（経済産業省）
中小企業のカーボンニュートラル支援策　（経済産業省、2022年Ver.2）
中小企業のみなさん！自社のCO2排出量を算定してみませんか？　（経済産業省）
CO2チェックシートについて　（日本商工会議所）
経済産業省のカーボンニュートラルに向けた中小企業支援施策（経済産業省、2022年5月）
中小企業・小規模事業者のためのカーボンニュートラル　（J-net21独立行政法人中小企業基盤整備機構）
カーボンニュートラルに関する相談　（独立行政法人中小企業基盤整備機構）
令和5年度予算（案）及び令和4年度補正予算脱炭素化事業一覧　（環境省）
中小企業者の皆さんへ「カーボンニュートラルへの第一歩は省エネ！」　（経済産業省四国経済産業局）

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カーボンニュートラルへの道 #8

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