米国において特定のPFASがTRIへ追加

～7種類が追加され196種類に～

2024年3月12日

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1.　はじめに

米国EPA（環境保護庁）は2024年1月9日付けで、NDAA（National Defense Authorization Ac：国防権限法）により新たに7種類の特定PFASを、TRI（Toxics Release Inventory：有害物質放出インベントリ）に追加したと発表しました。

特定PFASについては、2023年度に9種類がTRIに追加されており、今回の追加によって196種類となりました。TRIについては、本コラムにおいても、何度か簡単な説明を行っていますが、今回はTRIに収載された物質を扱う場合の義務や罰則、今回登録された7種類のPFASの用途などについてお知らせします。

2.　TRI（Toxics Release Inventory：有害物質放出インベントリ）とは

米国における有害物質規制はTSCA（有害物質規制法）がよく知られていますが、TSCAは日本の化審法に似た法律で、既存物質の登録と新規に上市される化学物質が主に対象になります。TRIは米国の環境情報公開制度の一つで、有害化学物質の製造・加工・使用に関する情報の報告を義務付ける法律です。日本の化管法（PRTR制度）に似た法律と言えます。

TRIに登録された化学物質を扱う事業者は、以下の義務を負うことになります。

（1）毎年7月1日までに、前年度の「対象有害化学物質」の取扱量や排出量などをEPAや州政府に報告すること。
（2）製品にTRIの「対象有害物質」が含まれる場合、その物質の種類や濃度などを販売先に通知すること。

現在TRIには約800種類の有害化学物質が登録されていますが、今回追加されたPFASなどは特別懸念化学物質に指定され、低濃度で扱った場合も報告義務が生じます。

TRIの報告や通知を怠った場合、高額な罰金が課される可能性がありますので、注意が必要です。

表1　 TSCAとTRIの違い

項目	TSCA（有害物質規制法） Toxic Substances Control Act	TRI（有害物質排出目録） Toxic Release Inventory
日本での該当法	化審法	化管法（PRTR制度）
目的	有害な化学物質のリスクを防止	有害な化学物質の排出や廃棄を公開
対象	製造や輸入される化学物質、混合物、物品	製造、加工や使用される化学物質
届出	新規化学物質や新たな製造・使用の前	化学物質の排出や廃棄の後
公開	化学物質の安全性データや規制内容	化学物質の排出や廃棄の量や先

3.　PFASに対する規制の強化（特別懸念化学物質に指定）

2023年10月、EPAはPFAS類全てを特別懸念化学物質に指定する新規則を発表しました。従来の規定では、対象のPFASが1%以上（発がん性物質の場合は0.1%以上）の濃度で使用され、かつ対象PFASの取扱量が100ポンド（約45kg）以上の場合のみ、事業場はEPA等に対するTRIの報告を求められていました。しかし、新規則では、これを下回る低濃度の使用でも、環境への排出量等について報告を義務づけられることになりました。

4.　2023年及び2024年にTRIに登録されたPFAS

TRIに2023年と2024年に登録されたPFASは表2のとおりです。表中の有効報告年は、対象物質のEPAへの報告が必要な年です。また、備考欄中でFlagとして示すS、PMN、SPの記号の意味は次のとおりです。

S：SNUR（重要新規利用規則）の対象物質

SNURとは、既存物質に対して、新たな用途や条件で使用する場合には、EPA（環境保護庁）に事前に通知する必要があるという規則です。

PMN：新規物質

新規物質とは、TSCAインベントリに収載されていない物質のことで、米国で製造・輸入・使用する場合には、EPAにPMN（製造前届出）を提出する必要があります。

SP：SNURの提案物質

SPというFlagは、EPAがSNURの対象とする物質を提案した段階で付けられます。提案された物質は、EPAが最終的にSNURを発行するまでの間、PMNと同様の扱いになります。

表2　 2023年、2024年にTRIに登録されたPFAS

化学物質名	CAS RN	有効報告年	備考（用途など）
パーフルオロブタン酸	375-22-4	2023年	合成試薬、可溶化剤安衛法：新規名称公表化学物質 TSCAインベントリ：Flagなし
パーフルオロブタン酸ナトリウム	2218-54-4		TSCAインベントリ：Flagなし用途データなし
ヘプタフルオロブタン酸カリウム	2966-54-3		EPA発がん性評価用途データなし
パーフルオロブタン酸アンモニウム	10495-86-0		用途データなし
パーフルオロブタン酸	45048-62-2		用途データなし
アルコール、C8-16、γ-ω-パーフルオロ、1,6-ジイソシアナトヘキサン、グリシドール、ステアリルアルコールとの反応生成物。	2728655-42-1		TSCAインベントリ：Flag；PMN; S；SP その他データなし
アセトアミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-、2-[(γ-ω-パーフルオロ-C4-20-アルキル)チオ]誘導体	2738952-61-7		TSCAインベントリ：Flag；PMN; S その他データなし
アセトアミド、N-(2-アミノエチル)-、2-[(γ-ω-パーフルオロ-C4-20-アルキル)チオ]誘導体、N1,N1-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、エピクロロヒドリン、エチレンジアミンとのポリマー、酸化物	2742694-36-4		TSCAインベントリ：Flag；PMN; S その他データなし
酢酸、2-[(γ-ω-パーフルオロ-C4-20-アルキル)チオ]誘導体、2-ヒドロキシプロピルエステル	2744262-09-5		TSCAインベントリ：Flag；PMN; S その他データなし
パーフルオロヘキサン酸 (PFHxA)	307-24-4	2024年	泡消火薬剤、金属メッキ、繊維製品、皮革製品、室内装飾品、研磨剤および洗浄剤、コーティング、含浸／補強材、電子機器および半導体の製造、難燃剤、腐食防止剤 TSCAインベントリ：Flagなし
パーフルオロプロパン酸 (PFPrA)	422-64-0		有機合成原料 TSCAインベントリ：Flagなし
パーフルオロヘキサン酸ナトリウム	2923-26-4		繊維や紙などの表面処理剤として、防水剤や防汚剤、ポリマーやセラミックスなどの分散剤として粒子の安定化や分離を防ぐ。電子材料や医療機器などの潤滑剤、摩擦や摩耗の低減や耐熱性。化審法：既存化学物質 TSCAインベントリ：INACTIVE
パーフルオロヘキサン酸アンモニウム	21615-47-4		繊維や紙などの表面処理剤として、防水剤や防汚剤としてポリマーやセラミックスなどの分散剤、粒子の安定化や分離を防ぐ。電子材料や医療機器などの潤滑剤、摩擦や摩耗の低減や耐熱性。 TSCAインベントリ：Flagなし
1,1,1-トリフルオロ-N-[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミド (TFSI)	82113-65-3		有機合成反応の促進や選択性の向上イオン液体や高分子電解質の構成成分として、電気化学やエネルギー変換の分野で利用安衛法：新規名称公表化学物質 TSCAインベントリ：Flag；PMN;
リチウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]アザニド	90076-65-6		リチウム電池電解質調整原料化審法：旧第二種監視化学物質安衛法：ラベル表示・SDS交付義務対象物質 TSCAインベントリ：Flag；PMN;
ベタイン、ジメチル(γ-ω-パーフルオロ-γ-ヒドロ-C8-18-アルキル)	2816091-53-7		有機合成の中間体 TSCAインベントリ：Flag；PMN;；S

NDDA（国防権限法）によってTRIに特別懸念物質として登録された全てのPFASリストはこちら（EXCEL版、PDF版）からご覧いただけます。

4-1.　<参考1>米国におけるPFS戦略ロードマップ（2021 – 2024）とは

米国環境保護庁（EPA）は、PFAS（パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物）に関する具体的なアクションを含むPFAS戦略ロードマップを策定しています。このロードマップは、2021年から2024年までの3年間にEPAがコミットする取り組みを示しています。

ロードマップの重点は以下の3つです。

（1）調査：PFASのライフサイクルを考慮し、問題の源を捉え、科学的根拠に基づく意思決定を確保します。
（2）制限：人の健康や環境に悪影響を及ぼすレベルのPFASが大気、土壌、水に入り込むことを防止します。
（3）修復：PFAS汚染の浄化を拡大・加速し、人の健康と生態系を守ります。

4-2.　<参考2>米国における資源保全回復法（RCRA）による9種類のPFAS規制

米国EPAは2024 年 2 月 8 日付で「連邦規則集第 40 編の有害成分リストに 9 種類の特定のパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物、その塩、及びそれらの構造異性体を追加することにより、資源保存回復法の規制を変更することを提案した。パート 261 附属書 VIII。これら9つのPFAS は次のとおりである」と発表すると同時に、官報においても、以下9種類のPFASをリストに追加しました。

名称	略称	CAS RN	備考
パーフルオロオクタン酸	PFOA	335-67-1	半導体用，消火剤，撥水剤，紙の表面処理剤，樹脂改質剤
パーフルオロオクタンスルホン酸	PFOS	1763-23-1	メッキ薬，半導体用，ＬＳＩ用膜原料，消火剤，撥水剤，紙の表面処理剤，　樹脂改質剤
パーフルオロブタンスルホン酸	PFBS	375-73-5	紙や繊維などの撥水剤、表面処理剤、防汚剤、消火剤、コーティング剤などのフッ素樹脂の溶媒
ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸	HFPO GenX	13252-13-6	焦げ付き防止コーティング剤、PFOAを使用せずに、高性能フルオロポリマーを製造するために用いられる加工助剤
パーフルオロノナン酸	－	375-95-1	界面活性剤
パーフルオロヘキサンスルホン酸	PFHxS	355-46-4	泡消火薬剤、金属めっき,織物、革製品、室内装飾品、研磨剤、洗浄剤、コーティング、含浸・補強材（湿気、真菌などからの保護用）、電子機器、半導体の製造、難燃剤、腐食防止剤
パーフルオロデカン酸	－	335-76-2	有機合成原料、フッ素系界面活性剤、触媒、分離・精製用試薬、液体クロマトグラフィー、有機エレクトロニクス材料、機能性有機材料、高分子合成
パーフルオロヘキサン酸	PFHxA	307-24-4	泡消火薬剤、金属メッキ、繊維製品、皮革製品、室内装飾品、研磨剤および洗浄剤、コーティング、含浸／補強材、電子機器および半導体の製造、難燃剤、腐食防止剤
パーフルオロブタン酸	－	375-22-4	分析化学や有機合成化学などの特定の分野で多様な用途を有する。逆相クロマトグラフィーにおけるイオン対試薬の一つである。生化学分野では、タンパク質およびペプチドのシークエンシング、合成試薬、可溶化剤

※資源保全回復法（RCRA：Resource Conservation and Recovery Act）（出典：米国官報）

1976年に制定された資源保全回復法（RCRA）は、固形廃棄物および有害廃棄物の処理を規定する米国の主要な連邦法である。RCRAは、1965年に制定された固形廃棄物処理法を改正したもので、都市廃棄物や産業廃棄物の増加に伴い、国家が直面する問題の増大に対処するためのものである。廃棄物処理による潜在的な危険から人の健康と自然環境を守り、エネルギーと天然資源を節約し、発生源の削減とリサイクルによって廃棄物の発生量を減らし、環境的に健全な方法で廃棄物を確実に管理するという国家目標を設定した。

5.　まとめ

（1）米国ではEPS（環境保護庁）が策定したPFAS戦略ロードマップに従い複数の部局が関連してPFASに関する「調査」、「制限」、「修復」に関して活動を進めている。
（2）TSCAのインベントリに収載された既存のPFASは「特別懸念物質」としてTRIに自動的に収載される。
（3）TSCAに収載されていないPFASは「重要新規利用規則」に従い、EPAに製造前に届け出を行い、製造承認を受ける必要がある。
（4）TRIに収載されたPFASは毎年EPAに対して、製造者、製造量、使用量、廃棄量などの報告が義務付けられ、報告データは一般公開される。
（5）TRIに収載された物質のデータは一般公開されるため、製造者が自主的に製造、使用を中止せざるを得ない状況に追い込まれることを狙っていると思われる。

引用・参考資料

Addition of Certain PFAS to the TRI by the National Defense Authorization Act　（EPA、2024-1-9）
What is the Toxics Release Inventory?　（EPA）
PFAS Strategic Roadmap: EPA’s Commitments to Action 2021-2024　（EPA）
PFAS等の米国・有害物質排出目録（TRI）への報告に関する規制強化　（みずほリサーチ＆テクノロジーズ、2023年12月）
Proposal to List Nine Per- and Polyfluoroalkyl Compounds as Resource Conservation and Recovery Act Hazardous Constituents　（EPA、2024-02-08）
Listing of Specific PFAS as Hazardous Constituents　（米国官報、2024-02-08）
Resource Conservation and Recovery Act (RCRA)　（米国官報）
独立行政法人製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
米国におけるPFAS規制情報　#1～米国官報などに見るPFAS規制の流れ #1～　（日本バルブ工業会、2023年11月10日）

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