有機ふっ素化合物類（PFAS）に関する最新基本情報　#2

PFASに関する今後の対応の方向性と国際動向

2023年10月16日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2023年9月20日付けの本コラム「有機ふっ素化合物類（PFAS）に関する最新基本情報　#1～環境省がQ&A集を公表～」で述べたように、現在EU域内において、ふっ素樹脂を含む10,000種類にも及ぶ広範な有機ふっ素化合物（PFAS）に対する規制案が協議中ですが、2023年7月31日付けで環境省がPFAS規制の発端となったPFOS、PFOAなどの最新情報に基づくQ&A集、及び、PFASに関する我が国での今後の対応の方向性、国際動向など一連の情報を公開しました。

前回は「Q&A集」について解説しましたが、今回は「我が国おけるPFASに対する今後の対応の方向性」及び「国際動向」についての概要を述べたいと思います。

2.　我が国におけるPFASに対する今後の方向性

PFOS、PFOAに代表されるPFAS類に発がん性や生殖毒性などの有害性があることが疑われ始め、未だ明確なデータはありませんが、PFASが「難分解性、生体蓄積性、長距離移動性がある」ことから、各国がPFAS類の規制を急いでいます。
我が国においては、環境省が「PFAS に対する総合戦略検討専門家会議」を発足させ、対応を協議しています。
※以下、環境省が公表した「PFASに関する今後の対応の方向性」の資料より概要を示します。

【背景】

PFAS（ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称）の1つである PFOS（ペルフルオロオクタンスルホン酸）や PFOA（ペルフルオロオクタン酸）について、人の健康の保護の観点から、その（濃度や摂取量など）の目標値や基準に関し国際的にも様々な科学的な議論が行われ、POPs条約（ストックホルム条約）においても規制対象物質とされています。
一方、これまでに環境省等が行った調査において、局地的に比較的高濃度のPFOS、PFOA が検出された地域の関係自治体や地元住民からは、その影響に関する不安や、目標値や基準値の検討等の対策を求める声が上がっています。
こうした状況を受けて、国内外の最新の科学的知見及び国内での検出状況の収集・評価を行い、これらを踏まえた科学的根拠に基づくPFASに対する総合的な対応策を検討するとともに、国民への分かりやすい情報発信を通じて、国民の安全・安心に資することを目的として、学識経験者等からなる「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」が環境省水・大気環境局に設置され、これまで4回にわたり検討を行ってきました。
これらの検討結果より、現時点での取組むべき方向性をまとめました。

【概要】

PFOS、PFOAに対する対応

PFOS、PFOA以外のPFASへの対応

PFOS、PFOAへの更なる対応の強化のため、以下4点の継続・充実を図ることが必要。

管理の強化など

（1）正確な市中在庫量の把握等の管理強化
（2）泡消火薬剤の更なる代替促進
（3）環境中への流出防止の徹底
（4）水質の暫定目標値の取扱いの検討

暫定目標値等を超えて検出されている地域等における対応。

（1）「対応の手引き」の充実による飲用ばく露の防止の徹底
（2）自治体による健康状態の把

リスクコミニュケーション

（1）今回作成したQ&A集を活用した丁寧なリスクコミュニケーションの実施
※Q&Aは広く認知活動を行い新しい情報・知見が得られたら必要に応じて更新する。

存在状況に関する調査の強化等

（1）環境モニタリングの強化
（2）化学物質の人へのばく露モニタリング調査の本調査の実施に向けた検討（血中濃度測定など）
※国内での健康被害に関する報告は確認されていない。

その他のPFASについては、以下の物質群に大きく分類して対応。
※PFOS、PFOA以外のPFASは種類が多く、ほとんどの物質に関する知見が少ない、または全くない。
〈物質群1：POPs条約で廃絶対象となっている物質等〉

POPs条約の廃絶対象となっている物質（PFHxS）及び検討中の物質（長鎖PFCA（PFNAなど））の優先的な取組の検討

※PFOS、PFOAは既に廃絶リスト入り

存在状況に関する調査の強化等

環境モニタリング（水質、底質、大気等））の強化や化学物質の人へのばく露モニタリング調査の対象物質への追加を検討
〈物質群2：それ以外の物質〉

当面対応すべき候補物質の整理
存在状況に関する調査の強化等（水環境中の調査、化学物質の人へのばく露モニタリング調査対象物質の検討）
上記2項目を踏まえた対応（適正な管理の在り方の検討、物質群としての評価手法の検討）

※多くのPFASは分析方法が確立していないものも多い

PFASに関する更なる科学的知見等の充実について

国内外の健康影響に関する科学的知見及び対策技術等は、常に更新されており、継続的な収集が必要。
既存の知見の収集のみならず、国内において関連する研究を推進すべき。

3.　PFOS、PFOAに係る国際動向

以下、2023年7月31日に環境省が発表した「PFOS、PFOA に係る国際動向」を主な資料として概況を記します。

3-1.　POPs条約（残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約）における状況

（1）附属書A（廃絶）収載
・ペルフルオロオクタン酸（PFOA）とその塩及びPFOA関連物質
・ペルフルオロヘキサンスルホン酸（PFHxS）とその塩及びPFHxS関連物質
（2）附属書B（制限）
・ペルフルオロオクタンスルホン酸（PFOS）とその塩
・ペルフルオロオクタンスルホニルフオリド（PFOSF）
（3）検討中の物質
・炭素鎖数 9～21 の長鎖ペルフルオロカルボン酸（PFCA）
※2023年4月17日付け本コラム「ECHAが長鎖PFCAの製造・使用制限を発動～PFAS規制、2つの方向性～」参照

3-2.　各国、各機関などによる飲料水水質基準など

（1）WHO（世界保健機関）

2022 年9月、WHO 飲料水水質ガイドライン作成のための背景文書「飲料水中のPFOS及びPFOA」のパブリックレビュー版が公表されました。
暫定ガイドライン値：PFOS について 100ng/L、PFOA について 100ng/L を提案しています。
2022 年第４四半期から 2023 年第１四半期に、これらの内容を含んだ「飲料水水質ガイドライン第４版」の第3追補が作成される予定になっていますが、2023年8月末現在WHOのウェブサイト上では確認できません。

（2）USEPA（米国環境保護庁）

2022年3月、「飲料水の生涯健康勧告値（Lifetime Health Advisory Level）」について、2016 年度の暫定的な更新として PFOSが0.02ng/L以下、PFOAが0.004ng/L以下が提案されました。
その後、2023 年3月に第一種飲料水規制案としてPFOSについて4 ng/L、PFOA について4 ng/L が提案されました。同時に以下の4物質に関する規制提案が行われました。

1）パーフルオロヘキサンスルホン酸（PFHxS）
2）ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸（HFPO-DA）およびそのアンモニウム塩（GenX 化学物質としても知られています）
3）パーフルオロノナン酸（PFNA）
4）パーフルオロブタンスルホン酸（PFBS）、およびこれらのPFASの混合物

また2022年11月、USEPA は安全飲料水法に基づき、第5次汚染物質候補リスト（Fifth Contaminant Candidate List, CCL 5）の最終版を公表しましたがPFAS類の種類が膨大に及ぶため、個別にリスト化する事が困難となるため、表1のような定義でグループ化して規制提案を行いました。

表1　安全飲料水法に基づく第5次汚染物質候補リストにおけるPFAS類

以下の3つの構造のうち少なくとも1つを含む化学物質（すでに規制過程にあるPFOAとPFOSを除く）
■R-(CF2)-CF(R′)R′：CF2及びCF部分は両方とも飽和炭素であり、R基はいずれも水素であってはならない
■R-CF2OCF2-R′：CF2部分は両方とも飽和炭素であり、R基のいずれも水素であってはならない
■CF3C(CF3)RR′：すべての炭素は飽和であり、R基はいずれも水素であってはならない

（3）EFSA（欧州食品安全機関）
2020 年7月、食品中の PFASの存在に関する人の健康へのリスクに関する科学意見書について再評価を行い、PFOA、PFNA、PFHxS、PFOSの1週間の耐容摂取量（TWI）として合計4.4 ng/kg/weekを設定しました。
（4）ドイツ

2023年、欧州飲料水指令の改正による国内法適用のため、飲料水水質が改正されました。
PFASに関しては、PFASの合計は100 ng/L（PFOS及びPFOAを含む20種類のPFASの濃度合算値）及び 4 種類のPFAS（PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS）の濃度合算値について 20 ng/Lが規制値とされ、適用はそれぞれ 2026年及び2028年から。

4.　まとめ

（1）PFAS（有機ふっ素化合物）は、撥水・撥油性、熱・化学的安定性等の物性を示すことから、撥水撥油剤、界面活性剤、半導体用反射防止剤、金属メッキ処理剤、水成膜泡消火剤、殺虫剤、および調理用器具のコーティング剤等の幅広い用途で使用されている。有機ふっ素化合物には炭素鎖の長さが異なる複数の同族体が存在し、その物性は炭素鎖の長さで大きく異なる。
（2）PFASは、その有機ふっ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称であるが、PFAS について国際的に統一された定義はない。
（3）2018 年の経済協力開発機構（OECD）の報告において約4,700物質が特定されていたが、2021年に定義が以下のとおり改訂され、「少なくとも１つの完全にふっ素化されたメチル又はメチレン基（ふっ素が結合している炭素原子に H、Cl、Br、I 原子が結合していないもの）を含むふっ素化物質」とされたが、具体的な物質のリストは示されていない。EUでは約10,000種類あるとしており、この全てを規制対象とすべく議論している。

図1　PFASに関する定義の変更（出典：環境省）

（4）PFOS、PFOAなど一部のPFASに発がん性、免疫系、生殖系などに関する強い毒性が疑われているが、摂取量と健康被害の因果関係は明確になっていない。しかも、数千から1万種類とも言われるPFASに関してはほとんど毒性データが存在しない。しかしながら、各国が広範な規制を急ぐ背景は、PFASがいずれもPOPs条約が成立した要因である「難分解性、生体蓄積性、遠距離移動性」を有しているからである。
（5）このため、PFASの規制に関しては各国・地域において現状では大きな温度差があり、EUのようなふっ素樹脂も含めた過剰とも思える広範な規制を検討している地域と、我が国のようにPOPs条約の決定に追随して行くだけで、積極的に独自の動きは示さない国が多いと思われる。今後、どのように推移するのか、当面目が離せない話題であると言える。

引用・参考資料

PFOS、PFOAに関するQ&A集－2023年7月時点－　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
PFASに関する今後の対応の方向性　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
PFOS、PFOAに係る国際動向　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
PFASの概況と今後の対応　（環境省）
PFOS、PFOA以外のPFASに係る国際動向　（環境省）
PFASに関する今後の対応の方向性（概要）　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)　（EPA）
Drinking Water Contaminant Candidate List 6-Nominations　（米国官報、2023-2-17）
PFAS National Primary Drinking Water Regulation Rulemaking　（米国官報、2023-3-29）
有機ふっ素化合物類（PFAS）に関する最新基本情報　#1～環境省がQ&A集を公表～　（日本バルブ工業会、2023年9月20日）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化～企業が注意するべき事項～　（日本バルブ工業会、2021年4月19日）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化　#2　～4,700種類のPFASをどのように規制するのか　#1～　（日本バルブ工業会、2022年10月11日）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化　#3　～4,700種類のPFASをどのように規制するのか　#2～　（日本バルブ工業会、2022年11月14日）
ECHAが長鎖PFCAの製造・使用制限を発動～PFAS規制、2つの方向性～　（日本バルブ工業会、2023年4月17日）

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有機ふっ素化合物類（PFAS）に関する最新基本情報 #2

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