地球温暖化と気候変動のメカニズム

～最近わかってきたこと～

2023年10月16日

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1.　はじめに

2023年の夏は、日本をはじめ世界中の多くの地域で、過去において記録にない高温を記録しました。また、最近の気象情報でよく耳にする「線状降水帯」による局地的な集中豪雨や台風の強大化などによる気象災害の増加が肌で感じ取れるようになってきていると思います。

これらの現象は、温室効果ガスの排出量増加に伴う地球温暖化によって、海水温が上昇し大気中の水蒸気量が増加した結果、温室効果がますます促進される（水蒸気は温室効果係数が非常に大きい）と同時に、大量の雨や雪を降らせることになると言われています。

一方では、少雨・干ばつや寒冷化による気象災害も発生しています。これらは偏西風の蛇行により発生すると言われてきましたが、なぜ偏西風が蛇行するのか、そのメカニズムがよくわかっていませんでした。

しかし、最近になってその偏西風の蛇行のメカニズムがだんだん解明されつつあるようですので、今回は地球温暖化とその結果、この先どんな異常気象が起こるのかを、種々の情報から解説してみたいと思います。

2.　温室効果ガス排出量の増加と異常気象

図1　気温上昇と気象変動の関係（種々の情報から筆者が作成）

1900年頃の地球は太陽から受け取る熱、大気による温室効果熱、それと宇宙に放出する熱がほどよくバランスして、生物が繁殖するのに適切な環境にありました。しかしながら、図1に示すように、CO2やメタンなどの温室効果ガスが大気中に排出され続けて濃度が上昇すると、太陽から受け取る熱に対して、宇宙に放出される熱が温室効果ガスによって遮られ、気温が上昇する結果となります。
大気中の水蒸気量は気温によって必然的に決まります。大気の温度が上昇すると、海水温や陸地の地表面の温度が上昇し、大気中の水蒸気量も増加します。この水蒸気は赤外線を多く吸収するため、温室効果ガスとしてはCO2などより強い温室効果係数を有しています。地球温暖化問題で水蒸気が問題に上がらないのは人間にコントロールできないからですが、CO2などによって気温が上昇すれば、水蒸気量も増えますので、気温上昇を加速する結果になります。

大気中の水蒸気量（飽和水蒸気量）は地球全体で見れば一定ですが、気温は均一ではありません。気温が下がった場所では雲ができ、さらには雨や雪などとなり地表や海に戻ってきますが、この戻る量も多くなります。

この結果、一度に降る雨や雪の量が増え、洪水などの災害をもたらす原因になります。また海水温が上昇することで台風やハリケーンなどが発生すると、海水から受け取るエネルギーが大きくなるため、台風が強大化する原因となります。

図2　CO2の増加による温暖化と、それに伴う大気中の水蒸気量増加がもたらす効果（出典：国立環境研究所）

3.　気温上昇だけでは説明できない異常気象

温室効果ガス排出量の増加による気温上昇だけでは説明のつかない異常気象や気象災害も多く発生しています。

例えば、最近日本でもよく耳にする「線状降水帯」が頻繁に発生し、大量の雨雲が次々とやってきて、今年も各地に大きな被害をもたらしたことは記憶に新しいと思われます。1年中晴天の日が続く北アフリカのリビアでは、1日で1ヶ月分の雨が降ったことによりダムが決壊し、2000人以上とも言われる多数の命が奪われました。

この他にも世界中で、1日～3日で1ヶ月分の雨が降ったり、気温が平年月の2倍の高温になったりなどの例が多く報告されています。
このような、通常では少雨の地域で多量の雨が降る、逆に多雨の地域で少雨・干ばつが起きる、北極圏なのに30℃を越える高温になる、砂漠に雪が降るなどの異常気象も報告されてきています。

この原因は「偏西風の蛇行」によると解説されていますが、なぜ地球温暖化が問題視されるようになって偏西風の蛇行が発生するようになったのでしょう。

異常気象分布図
図3　2023年6月～8月の世界の異常気象（出典：気象庁）

4.　地球温暖化と偏西風の蛇行

気象庁によると「偏西風とは、地球の周りを西から東へ向かって吹いている風のことです。地上ではなく、上空で観測されます。地球の北極・南極に近づくほど寒く、赤道付近に近づくほど暖かいために起こる『温度差』と『地球の自転』という2つの原因で吹きます。偏西風は、南北の温度差が大きく、自転の効果も大きい中緯度（ちゅういど）地帯（北極・南極や赤道付近以外の地域）でよく見られます」と説明しています。

この偏西風は、通常は図4に示すように、中緯度付近において比較的波打たずに1年を通して西から東に向かって吹き続けています。
※図4には示していませんが、南半球でも同じです。

図4　通常の偏西風（筆者作成、地図はPowerPointのクリップアート）

この偏西風は気象庁の説明でもあるとおり、地球の自転と、赤道と極の温度差によって、安定的に吹いていますが、地球温暖化によって、北半球では北極の気温が上昇し海氷が溶けだし、年々その面積が小さくなってきていることが時々報道されています。

このため、北半球では赤道と北極圏の温度差が小さくなり、偏西風が蛇行する現象が観察されるようになってきました。

図5　偏西風の蛇行イメージ（筆者作成、地図はPowerPointのクリップアート）

偏西風の蛇行は実際には図5のように規則正しく蛇行するものではありませんが、この偏西風が蛇行すると種々の異常気象発生の原因となることがわかってきました。偏西風が北に蛇行した場合には、赤道付近の暑い空気が、逆に南に蛇行した場合には、北極の冷たい空気が流れ込んできます。特に北極や南極には「極渦」と呼ばれる「極域の成層圏で晩秋から春にかけて発生する強い西風（極夜ジェット）に囲まれた巨大な低気圧性の渦」が温暖化によって中緯度地域まで張り出してくることがあり、その場合大規模な寒波をもたらすことがあります。

また、偏西風に乗って動く移動性高気圧や低気圧、前線、台風などが移動できずに一カ所に長く留まる現象が起こり、異常気象が長時間続くなどした場合に大きな気象災害をもたらすことになります。

今年の9月にリビアで起きた大洪水は、通常イタリア～スペインの中緯度を吹いている偏西風が北アフリカまで下がってきたことと、運悪くメディケーン（地中海に発生するハリケーン並みの暴風雨）と呼ばれる地中海熱帯様低気圧が原因と言われています。

この偏西風の蛇行は夏に限らず、冬季に南に蛇行した地域では寒波や大雪の異常気象が起こる可能性があります。

このように、温暖化によって南極と北極の気温が上昇することによって、安定に保たれていた偏西風の流れが蛇行して、局地的に異常気象が発生することが今後も増えて行きそうです。

5.　まとめ

（1）2023年の夏は北半球及び南半球の全球において、過去に記録がないような高温が続き、ハワイのオアフ島での山火事など多くの気象災害が発生した（図3参照）。
（2）CO2やメタンガスなどの温室効果ガスの排出がもたらす地球の温暖化により、海水温及び地表の温度が上昇すると、水蒸気量が増加する。水蒸気はCO2やメタンガスなどより赤外線を吸収するため、地球温暖化を加速する。
（3）地球の自転と赤道-南極・北極の温度差により中緯度付近に年間を通して偏西風が吹いている。しかし、北極や南極の気温が上昇し赤道との温度差が縮まると、本来は蛇行せず緩やかに吹いている偏西風が蛇行するようになることがわかってきた。
（4）この偏西風の蛇行が起こると、赤道側に蛇行した地域では低温化が起こり、逆に極方向へ蛇行した地域では高温化が起こる。また偏西風の蛇行は、移動性高気圧、台風、低気圧などの動きを阻害し長く同じ地域に留まらせることが起こることがある。これによって、同じ地域に低気圧や高気圧が停滞し、豪雨が長く続き洪水を引き起こしたり、逆に高気圧が停滞して干ばつを起こしたりすることがわかってきた。
（5）このように気温の上昇は従来安定していた気象のバランスを崩し、想像していたより大きな気象災害を引き起こすことが危惧されるようになってきている。
（6）現在、世界各国が温室効果ガスの排出量の削減努力を行っているが、依然として温室効果ガス排出量は増加傾向にあり、ピークアウトしていない。また、温室効果ガス排出量が減少に転じても、急には気温の上昇が収まることはなくオーバーシュートすると言われており、一刻も早い対策が待たれる。

引用・参考資料

Water – at the center of the climate crisis　（世界気象機関）
偏西風の蛇行を追う－気象力学で明らかになる異常気象の謎―　（京都産業大学）
偏西風とその蛇行　（東京大学先端科学技術研究センター中村研究室）
Why Polar Air Keeps Breaking out of the Arcti　（大気研究大学法人(UCAR)）
水蒸気の温室効果　（国立環境研究所地球環境研究センター）
二酸化炭素の増加が温暖化をまねく証拠　（国立環境研究所地球環境研究センター）
世界の異常気象　（気象庁）

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