ECHAがREACH 認可対象物に8物質を追加勧告

～鉛及びその化合物を含む8物質をEU委員会に勧告～

2023年6月12日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

ECHA（欧州化学品庁）は、2023年4月12日付ECHA weeklyにおいて、EU委員会に対して鉛及びその化合物を含む8物質（群）をREACH規則の認可対象物質に追加するように勧告を行いました。EU委員会はこの勧告を受け、認可範囲や条件等の協議に入るものと思われます。

なお、物質が認可対象物質リストに追加された場合、企業はそれらを使用し続けるためには認可を得る必要が生じます。

今さらながら鉛が認可対象物質に加えられるのが不思議な感じもしますが、今回は新規に認可対象物質として提案された8物質（群）に関する説明と、鉛に関する規制の現状などをお知らせしたいと思います。

2.　今回提案された8物質（群）

１	物質名	英名	Ethylenediamine
		和名	エチレンジアミン
	CAS RN		107-15-3
	構造式		または　NH2-CH2-CH2-NH2 出典：ECHA
	収載理由		呼吸器感作性物質（第57条(f)（人間の健康））
	主な用途など		キレート剤、エポキシ樹脂硬化剤、殺菌剤、殺虫剤、繊維加工剤（防しわ剤、界面活性剤、染料固着剤）、紙加工剤（湿潤強化剤）、可塑剤、ゴム合成原料、製油所の流れの処理剤、腐食防止剤、プロセス添加剤としての使用、臭気放出の制御での使用など
	認可対象重量範囲		1,000 – 10,000トン／年
	備　考		化審法：既存化学物質、旧第二種監視化学物質化管法：第一種安衛法：新規名称公表化学物質、ラベル表示・SDS交付義務対象物質毒物及び劇物取締法：政令・劇物大気汚染防止法：有害大気汚染物質 EU-REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載、Flagなしその他出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP
2	物質名	英名	2-(4-tert-butylbenzyl) propionaldehyde and its individual stereoisomers
		和名	2-(4-tert-ブチルベンジル)プロピオンアルデヒドとその個々の立体異性体
	CAS RN		なし。ただし、（2-(4-tert-ブチルベンジル)プロピオンアルデヒドはCAS RN 80-54-6
	構造式		CAS　RN　80-54-6の物質は以下出典：ECHA
	規制理由		生殖毒性（第57条(c)）
	主な用途など		香料（洗濯およびクリーニング製品、エアケア製品、艶出し剤およびワックスなど）
	認可対象重量範囲		1,000 – 10,000トン／年以下
	備　考		化審法：優先評価化学物質、既存化学物質化管法：令和5年度分以降の排出量等の把握や令和5年度以降のSDS提供の対象安衛法：ラベル表示・SDS交付義務対象物質 EU-REACHREACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載物質、flagなしその他出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP
3	物質名	英名	Lead
		和名	鉛
	CAS RN		7439-92-1
	元素記号		Pb
	規制理由		生殖毒性（第57条(c)）
	主な用途など		弾丸、ケーブル、車両、機械、電子機器、放射線遮蔽、衛生、建設、美術品、楽器、鉛管、鉛板、蓄電池、顔料（鉛丹，鉛白）、ハンダ、活字、ＰＶＣ安定剤原料など ECHA：この物質の環境への放出は、（1）放出率の低い長寿命材料の屋外使用（例: 金属、木、プラスチックの構造物や建材）、（2）放出率の低い長寿命材料での屋内使用（例：床材、家具、おもちゃ、建設資材、カーテン、履物、革製品、紙およびボール紙製品、電子機器）、（3）放出が最小限に抑えられた密閉システムでの屋内使用（例：冷蔵庫の冷却液、石油ベースの電気ヒーター）、および、（4）放出を最小限に抑えた密閉システムでの屋外使用（例: 自動車サスペンション内の作動液、モーターオイル内の潤滑剤、ブレーキ液など）。
	認可対象重量範囲		10,000トン／年以下
	備　考		化管法：第一種安衛法：ラベル表示・SDS交付義務対象物質大気汚染防止法：ばい煙（有害物質）水質汚濁防止法：有害物質土壌汚染対策法：第２種特定有害物質 EU-REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載物質、flagなしその他出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP
4	物質名	英名	Glutaral
		和名	グルタラール別名：グルタールアルデヒド、グルタールジアルデヒドなど
	CAS RN		111-30-8
	構造式		出典：ECHA
	規制理由		呼吸器感作性物質（第 57 条(f) （人間の健康））
	主な用途など		革なめし、X線フィルム現像液、腐食防止剤、架橋剤および重合反応用助剤、殺菌剤（病院などで使用される内視鏡機器，手術・歯科医療機器の消毒剤）、クーリングタワー等の殺藻剤、試薬、電子顕微鏡観察用試料固定剤など
	認可対象重量範囲		1,000-10,000トン／年
	備　考		化審法：既存化学物質、旧第二種監視化学物質化管法：第一種安衛法：ラベル表示・SDS交付義務対象物質、強い変異原性が認められた化学物質大気汚染防止法：有害大気汚染物質 EU-REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載物質、flagなしその他出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
5	物質名	英名	2-methyl-1-(4-methyl thiophenyl)-2-morpholinopropan-1-one
		和名	2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノンまたは、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オンなど
	CAS RN		71868-10-5
	構造式		出典：ECHA
	規制理由		生殖毒性（第57条(c)）
	主な用途など		UV 硬化可能なコーティング剤、インク、接着剤の光開始剤 ECHA：コーティング製品、インク、トナー、フィラー、パテ、石膏、模型用粘土などの製品に使用されています。この物質は、パルプ、紙および紙製品、化学薬品、プラスチック製品および金属加工製品の製造に使用されます。この物質の環境への放出は、物品の製造、加工助剤として、および工業現場での加工助剤などの産業用途から発生する可能性があります。
	認可対象重量範囲		1,000-10,000トン／年
	備　考		化審法：新規公示化学物質安衛法：新規名称公表化学物質、ラベル表示・SDS交付義務対象物質 EU-REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載物質、flag：PMN その他出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
6	物質名	英名	2-benzyl-2-dimethylamino4′-morpholinobutyrophenone　または 2-Benzyl-2-(N,N-dimethylamino)-1-(4-morpholinophenyl)butan-1-one
		和名	2-ベンジル-2-ジメチルアミノ4′-モルホリノブチロフェノンまたは、2-ベンジル-2-（N,N-ジメチルアミノ）-1-（4-モルホリノフェニル）ブタン-1-オン
	CAS RN		119313-12-1
	構造式		出典：ECHA
	規制理由		生殖毒性（第57条(C)）
	主な用途など		UV硬化剤、インク、接着剤の光重合開始剤 ECHA: この物質はコーティング製品、インクとトナー、ポリマー、金属とフィラー、パテ、石膏、模型用粘土などに使用。この物質の環境への放出は、屋内での使用（例: 洗濯機用液体／洗剤、自動車ケア製品、塗料、コーティングまたは接着剤、香料、芳香剤）、および、屋外での使用によって発生する可能性があります。
	認可対象重量範囲		100-1,000トン／年
	備　考		化審法：新規公示化学物質安衛法：新規名称公表化学物質 EU-REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載物質、flag：PMN 出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
7	物質名	英名	Diisohexyl phthalate
		和名	ジイソヘキシル＝フタラートまたは、フタル酸ジヘキシル
	CAS RN		71850-09-4
	構造式		出典：ECHA 　　　　　　　　　　　　　環境省
	規制理由		生殖毒性（第57条(c)）
	主な用途など		環境省：主な用途は、防湿セロハン用可塑剤、アクリルラッカー用可塑剤、感熱接着剤用可塑剤、その他プラスチック表面のブロッキング防止剤とされています。
	認可対象重量範囲		規定しない
	備　考		化審法：既存化学物質安衛法：ラベル表示・SDS交付義務対象物質 EU- REACH：高懸念物質（SVHC）出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
8	物質名	英名	Orthoboric acid, sodium salt
		和名	ホウ酸のナトリウム塩または、O-ホウ酸ナトリウム
	CAS RN		13840-56-7
	構造式
	規制理由		生殖毒性（第57条(c)）
	主な用途など		例えば、ホウ酸ナトリウムは、ガラス、陶磁器の釉薬に用いられるだけでなく、洗剤や染色、木などの防腐・防食剤、農薬、殺虫剤にも使用可能です。また、水和物でホウ砂となったものは、一般向けにも流通しています。
	認可対象重量範囲		規定しない
	備　考		化審法：既存化学物質化管法（令和4年度分までの排出量等の把握や令和4年度末までのSDS提供の対象） EU-REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）インベントリ収載物質出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）

【注記】

No.7及びNo.8の物質は認可の範囲内での用途はありませんが、すでに勧告されている、または、認可リストに含まれている構造的に類似した物質と代替可能性があるため、グループ分けの考慮事項に基づいて勧告されています。※既に類似の構造を持った化合物が認可対象物質となっており、構造的に似た当該物質が代替品として使用されないように、予防原則に基づき、認可対象物とするという意味と思われます。
鉛及びその化合物は2022年2月2日付けで一度提案されていますが、協議中に多くのコメントが寄せられペンディングとなったようで、今回再勧告されました。
ECHAの勧告を受けて、EU委員会はどの物質を認可リストに含めるか、及び各物質に適用される条件を決定します。
認可対象物質のリストに収載された場合は、特定の用途に対して認可が与えられている場合以外は、欧州経済領域に上市することができなくなります。

3.　鉛の規制について

金属としての鉛及びその化合物は、加工がしやすいことから、古代ローマ時代より、水道管や食器などの加工物、鉛白などの顔料や化粧品、潤滑材など多くの分野で使用されてきました。

現代では、鉛は鉛単独で使用される場合もありますが、酸化鉛、塩化鉛、硫化鉛、硝酸鉛、硫酸鉛、酢酸鉛などの無機化合物、及び、かつてアンチノッキング剤としてのテトラチル鉛など有機物との化合物である有機鉛としても幅広く使用されています。主な用途は次のとおりです。

（1）鉛単独の主な用途：バッテリー（蓄電池）、ハンダの原料にも用いられています。また、猟銃の弾丸や釣りの錘にも一部用いられてきました。
（2）一酸化鉛の主な用途：屈折率を高めるためのガラスへの添加、蛍光灯やテレビのブラウン管、塩化ビニル樹脂の安定剤の原料として使用されています。
（3）二酸化鉛の主な用途：バッテリーの電極部分、サッシ用パテや建築用シーリング剤に利用されているプラスチック製造の際の硬化剤として使用されます。
（4）硝酸鉛の主な用途：マッチや爆薬の原料として使用されます。

その他にも、当工業会会員の製品と関連の深い、青銅や黄銅などの合金類なども含めて、非常に広範な用途分野に供されています。
一方で、鉛の毒性は古くから知られていましたが、その種々の利便性から本格的に規制が行われ始めたのは、1990年前後の水道管やハンダなどを対象にした規制だったと思われます。

最近のEUにおける基本戦略である「グリーンディール」に基づく8つの政策のうちの1つ、「有害物質のない環境汚染ゼロの追求」により、「基本的に毒性があるとわかった物質は社会経済生と環境を天秤にかけた上でエッセンシャルユース（必須用途）を主張しない限りは、原則規制対象とする」という考え方があると言えます。

図1　最近のEUにおける環境・有害化学物質規制の方向性（出典：EU委員会資料を筆者がアレンジ・加筆）

たとえば、最近のRoHS指令の適用除外をみていると、以下のような極めて限定された狭い用途での適用除外が協議対象となっています。

（1）インビトロで使用される電流測定、電位差測定、および、導電率測定の電気化学センサーの基材として使用されるポリ塩化ビニル（PVC）の熱安定剤としての鉛
（2）圧力トランスデューサー中の水銀と PVC基材中のDEHP
（3）電流測定、電位差測定、および、導電率測定の電気化学センサーのベース材料として機能する、ポリ塩化ビニル（PVC）の可塑剤としてのフタル酸ビス（エチルヘキシル）（DEHP）

大事なことは：たとえEUの法規制であっても、「誰かがやってくれるだろう」ではなく、主張するべきは主張して、自社の権利は自社でしか守れないと考えるべき。

4.　まとめ

（1）今回、REACH規則において、SVHC（認可対象候補物質）リストから、鉛および化合物を含む8物質（群）が認可対象物質として、EU委員会に勧告された。
（2）EU委員会では、認可対象範囲や条件などを協議している。最終的には認可対象物質となると予想されるが、鉛については2022年2月2日付けで一度提案されていて、非常に広範な分野で使用されているため、協議中に多くのコメントが寄せられ、再提案になった模様。特異な分野での使用がある場合は、他人任せにせず、協議に対してコメントを寄せて、適用除外または認可対象用途を得ることが重要。
（3）EUの環境基本戦略は「グリーンディール」にあり、化学物質については、図1に示すように、毒性が認められた物質については、PFASのように大きな分類で一括規制を提案し、エッセンシャルユース（必須用途）を主張しない限りは、自動的に規制対象となる可能性が高い。
（4）「EUの話だし、誰かが主張してくれるだろう」と他人任せにせず、自社にとって不都合となる可能性がある場合は、エッセンシャルユース（必須用途）を主張し、最低でも適用除外を受けるようにすることが重要。

引用・参考資料

ECHA recommends eight substances for REACH authorization　（ECHA weekly、2023-4-12）
Annex to news release ECHA/NR/23/11 List of substances included in the eleventh recommendation　（ECAH、2023-4-13）
C(2032)2785 Commission Regulation (EU) No …/.. amending Annex XVII to Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council as regards lead and its compounds in PVC　（EU委員会、2023-5-3）
amending Annex XVII to Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council as regards lead and its compounds in PVC　（EU官報、2023-3-3）
COMMISSION DELEGATED DIRECTIVE (EU) …/ amending Directive 2011/65/EU of the European Parliament and of the Council as regards an exemption for lead as a thermal stabilizer in polyvinyl chloride used as base material in sensors used in in-vitro diagnostic medical devices　（EU官報、2023-5-16）
Drinking Water Requirements for States and Public Water Systems Lead and Copper Rule　（EPA）
Lead Regulations　（EPA）
鉛及びその化合物　（環境省）
食品中の鉛に関する情報　（農林水産省、2022-11-30）
Availability of the Integrated Science Assessment for Lead (Pb) (External Review Draft); Extension of Comment Period　（米国官報、2023-5-19）
EUにおける環境基本戦略　#1～「欧州グリーンディール」とは～　（日本バルブ工業会、2021-1-12）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。