自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）が発足します

～TCFDの自然版、「TNFD」とは～

2020年12月17日

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はじめに

2020年10月30日付けweb版「日経ESG」は、「『TCFDの自然版』発足へ、自然が企業財務に与える影響を開示」と題した記事を掲載し、「2020年9月25日、国連総会のイベントで、『自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）』の非公式作業部会が発足した。自然関連のリスクと機会が企業の財務に与える影響を開示する枠組みを決めるタスクフォースで、『気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）』にならって構想された」と報じました。

本コラムでは、「近年企業における非財務情報の開示がますます重要になってきており、機関投資家や金融機関が投融資を行う際の可否判断に大きな影響を与えている」ということをたびたび伝えてきました。G20及び金融安定理事会が主導するTCFDについても過去に解説をしていますが、今回は、すでに多くの大手金融機関などが非公式の作業部会に参加している、TNFD（自然関連財務情報開示タスクフォース）について解説したいと思います。

TCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）とTNFD（自然関連財務情報開示タスクフォース）

TCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）とTNFD（自然関連財務情報開示タスクフォース）とは名称が類似しているので、同じ機関や団体が背景にあるように思えますが、前者TCFDは、G20の要請によってFSB（金融安定理事会）が設置した先進主要国中心のタスクフォースです。一方、TNFDは国連開発計画（UNDP）や国連環境計画（UNEP）などによる世界全体を対象としたタスクフォースです。

図1　TCFDとTNFDの背景（種々情報より筆者が作成）

また、前者TCFDは温室効果ガス排出量増加による干ばつ、豪雨、洪水、強大な台風による風水害、高温などの異常気象から企業が受ける可能性のある、財務的な脅威と機会に関わる4項目（ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標）にどのように備えるのかについて情報開示を求めるものです。

一方、TNFDは「今後ビジネスに影響を与える環境問題は気候変動だけではなく、生物多様性、砂漠化や森林の減少、海洋汚染などの自然の崩壊、さらには人類が今まさに直面している人獣共通感染症（COVID-19）、その他など、TCFDだけでは不十分である」として設置されました。

TNFD（自然関連財務情報開示タスクフォース）が必要な理由

TNFDの公式ホームページは、このタスクフォースが必要な理由を以下のように述べています。

「自然の喪失はこの惑星の緊急事態です。人類はすでに野生哺乳類の83％と全植物の半分を失い、氷のない土地の4分の3と海洋環境の3分の2に大幅な変化をもたらしました。気候変動に起因する可能性のある生物多様性の損失は、負のスパイラルループで生態系の回復力に影響を与えます。今日さらに目立つのは、人獣共通感染症であるCOVID-19パンデミックであり、その波及は野生生物の違法取引や環境劣化に関連している可能性があり、自然関連のリスクは気候リスクよりも早く経済に影響を及ぼし、すべてのセクターに影響を与える可能性があるという事実を強調しています」。

世界経済フォーラム（WEF）は「世界のGDPの50％を超える44兆US$（4,620兆円、1USドル＝105円換算、以下同様）の経済的な価値の創出は大なり小なり自然に依存している」と推定しており、これら自然の崩壊が経済に大きな影響を与える可能性があります。

自然の変化・崩壊へ手をこまねいているリスクは計り知れないものがありますが、積極的に行動することにより、機会も巨大なものになります。世界経済フォーラムによると「自然保護に前向きな取組みを行うことで年間最大10.1兆USドル（1060.5兆円）の経済的な価値を生み出し、2030年までに3億9500万人の雇用を創出する可能性がある」と推定しています。

図2　TNFD設置の背景（TNFD及び世界経済フォーラムの情報より筆者が作成）

TNFDの狙い

UNDP（国連開発計画）、UNEP FI（国連環境計画金融イニシアティブ）、WWF（世界自然保護基金）、IPBES（生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム）などの公的機関及びNGO、各国中央銀行や民間金融機関が連携して、この自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）を推進します。

そして、「資金の流れを変更して自然と人間が繁栄できるようにすること」によって、世界経済に回復力をもたらし、UNFCCC（気候変動枠組み条約）のパリ協定、CBD（2020年以降の世界的な生物多様性目標）、SDGs（国連の持続可能な開発目標）に沿った、「自然にプラスの結果をもたらす資金調達」が行えるようにすることがTNDFの狙いといえます。

今後2年間をかけて金融機関が必要とする企業の報告内容、指標、データフォーマット等に関する枠組みを設計するための準備組織として「非公式ワーキンググループ（IWG）」が設置されました。このワーキンググループにはすでに世界の有力な民間金融機関（銀行、保険会社など。日本からは今のところ三井住友信託銀行が参加）、及び、国際金融公社、世界銀行などが参画しており、事業会社からも参加を募る模様です。さらに、国連が推進するタスクフォースであるため、今後は各国の政府や国際的な機関等も関与するようです。

図3　TNFDの狙い（TNFD及び世界経済フォーラムの情報より筆者が作成）

まとめ

（1）近年、機関投資家や金融機関が民間企業への投融資を行う場合に、従来の財務情報に加えESG非財務情報による可否判断を加味する傾向がますます強くなってきている。
（2）特に環境問題には大きなウェイトが置かれ、気候変動に対する企業の備え、機会と脅威の捉え方などが優先情報になってきた。中でもG20が要請して2017年に金融安定理事会が設置したTCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）が注目を集めている。
（3）2020年には、企業が直面する環境問題は気候変動だけではなく、生物多様性、砂漠化、海洋汚染、人獣共通感染症など自然環境の変化によって企業が受ける財務的な機会と脅威が重要だとする背景から、国連を中心として各国の中央銀行や民間金融機関が連動して、TNFD（自然関連財務情報開示タスクフォース）が設置された。
（4）TNFDに対して民間企業がどのように対応するかは今後煮詰められる予定。
（5）世界のGDPの50%以上（約44兆USドル＝4,620兆円）が多かれ少なかれ自然に依存しており、このまま自然の保護を怠ると、経済に巨大な影響をもたらす危険性が大きい。
（6）反面、自然保護を積極的に行うことにより、世界経済フォーラムの試算では年間10兆USドル（1060.5兆円）の経済効果が見込め、2030年までの10年間で約4億人の雇用が創出されるとしている。
（7）今後、企業は気候変動だけでなく、種々の自然環境を配慮した経営を求められる。

引用・参考資料

TNFD Home～Bringing Together a Task Force on Nature-related Financial Disclosures～　（TNFD）
TCFD Home～Task Force on Climate-related Financial Disclosures～　（TCFD）
【国際】自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）発足。大手機関投資家がすでに参画　（Sustainable Japan、2020年7月24日）
ポスト・コロナの金融をリードする「TNFD」の視点　（WWF、2020年7月29日）
企業活動「自然資本」の観点を　国連機関が提唱Earth新潮流　日本総合研究所理事　足達英一郎氏　（Web版日本経済新聞、2020年8月21日）
Taskforce on Nature-related Financial Disclosure （TNFD）（WWF、2020年8月28日）
TNFD：企業による生物多様性への取り組みを開示する新たなフレームワークが発足　（ThinkESG、2020年9月24日）
「TCFDの自然版」発足へ自然が企業財務に与える影響を開示　（日経ESG、2020年10月30日）
気候リスクの「TCFD」に続く、自然リスク・生態系保護の「TNFD」を官民連携で立ち上げ。来年1月に企業の自然リスク情報開示案公表目指す（RIEF）　（一般社団法人環境金融研究機構）
自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）が発表される　（株式会社イースクエア、2020年7月29日）
Global canopy Home　（Global canopy）
Financial Stability Board (FSB) Home　（FSB）
TCFD（金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース）への環境省の賛同について　（環境省）
IPBES（生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム）公式サイト
企業における「気候関連財務情報開示」の流れ～ESGの先、TCFD提言とは～　（日本バルブ工業会、2019年7月17日）
企業における「気候関連財務情報開示」の流れ　#2～気候変動に関連した情報開示の最新動向～　（日本バルブ工業会、2020年１月15日）

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