グローバル環境で会員の強み存分に発揮

グローバル環境で会員の強み存分に発揮

2011年3月18日 日刊工業新聞 13面掲載

※この座談会は2011年2月18日に開かれました

日本バルブ工業会会長(タブチ) 田渕 宏政氏
早稲田大学名誉教授(元日本ガスタービン学会会長) 大田 英輔氏
日本バルブ工業会広報副委員長(山武 調整弁技術担当) 奥津 良之氏

日本バルブ工業会はバルブ産業の地位向上を図るため、3月21日を「バルブの日」と制定。この日を期に、バルブ関連企業に向けいっそうの発展を促すとともに、広く社会に対し、バルブへの理解を深めてもらうため、広報・啓発活動を展開している。この活動の一環として、日本バルブ工業会の田渕宏政会長と奥津良之広報副委員長、長く流体力学とその応用技術に携わってきた大田英輔早稲田大学名誉教授の意見交換を通して、バルブ産業が向き合う課題と、今後の進むべき方向性を探った。

高品質で世界一を目指す (田渕氏)
【バルブとのかかわり】

田渕  日本バルブ工業会会長の田渕です。当社では主に水道給水装置用バルブ類を扱っています。日頃バルブとはなくてはならない存在、空気や水と同じ存在と思っています。普段はあまり意識しないが、バルブなしで現代の生活は成立しません。バルブが故障するとシステムは正常に機能しない。人に例えると理性をコントロールする部分がバルブではないかと感じています。

大田  バルブとの関わりは1960年代に入って、日本が工業教育の強化に取り組み始めた頃からです。流体力学という基礎的な教育ばかりでなく、技術教育もとなるとさまざまな設備が必要となります。そこでバルブ企業から現物支給の形で手助けを受けたのが縁です。工業会との関わりでは日本工業規格(JIS)関係のお手伝いをしています。

奥津  私は30歳手前で企業に移るまでは大学で調節弁の内部流れを研究していました。その後25年間調節弁の研究開発と学会活動の両面で仕事をしています。この意味では産業界と学術界両方の事情と気持ちが理解できるつもりです。

【バルブの信頼性と寿命】

大田  バルブは単体で存在しても意味がなく、コントロール系と一体化しシステムにつながってはじめて機能します。その中でバルブは機能とともにその信頼性が求められます。メーカーは信頼性の目安をどの位に置いているのですか。

田渕  家庭用バルブの耐久性を当工業会では消耗品を交換した上で「最低10年」とガイドラインを示しています。一方、水道の本管系は50年、工業プラントも消耗部品を交換しながら50年の耐久性を期待される顧客もおられます。さらに水道本管では100年耐久性が論じられています。

大田  例えばエネルギープラントで50年といっても、技術の進歩で高効率システムが登場してきます。その点で本当に50年必要なのか。疑問に思うこともあります。定期的に交換するシステムも良いと思います。

奥津  今後のバルブシステムの将来をみると、大きく二つの方向性があります。一つは高機能化する方向、もう一つは絶対的な安全確保です。

田渕  バルブには一定期間絶対に壊れてはならない責務があります。昨年メキシコ湾の石油流出事故では一番肝心な元栓がきちんと閉まらず、バルブの重要性が広く認識されました。ロケットや原子力発電所でもバルブこそが生命線なのです。

奥津  バルブに関連して設計技術の上で十分解明されている部分は5%ぐらいではないかという感覚があります。バルブの現場技術を振り返ってみると未知の大穴がいくつも開いているように見えます。摩擦や非定常性もあり1+1=2とは限らず、単純な機構こそ多様な現象が関与します。例えばバルブ配管系からの発生騒音が現場でどうなるか正確に予測できないのが実状です。ある程度の理論と限られた実験データを根拠に、推定値を求めるに過ぎません。しかし、ユーザーから複雑な現場の騒音予測値を±5デシベル程度の推定精度で期待される場合があります。できるはずだと思い込まれており大きなギャップを感じます。

継承・進化のサイクル持続を (大田氏)
【欧米主導の国際標準規格】

大田  国際電気標準会議(IEC)規格などをみると、現場で対応できるのか心配に思うこともあります。逆に欧米に先手を打たれJISを自前で作る力が不足している印象を受けます。

奥津  失われた10年とも20年ともいわれる近年の国内バルブ産業への研究投資・技術者の確保・挑戦的な研究開発などが困難であったのは事実です。しかしバルブの技術者レベルで欧米に劣るとは考えていません。

田渕  各社のグローバル戦略を聞きますが、例えば水道システムは日本の優位技術と考えられます。漏水率はパリで17%、ニューヨークで19%、ホーチミン市に至っては39%です。東京は3%以下で日本製バルブ技術の優秀さがその要因といわれています。また逆流防止技術なども日本の最先端技術が支えています。

奥津 一方、バルブ産業も激しいグローバルコスト競争にさらされているのも事実です。ただし、国内技術者は理論解析とすり合わせ型技術展開が得意といわれています。制約条件が高ければ高いほど、それを克服して産業を維持してきました。対環境性・省エネ・多種変量・深耕技術・カスタマイズ・節水・節湯・安全・安心等々、日本が得意とする技術視点がバルブ産業に投影されます。良い設計にユーザーが感動して製品を購入するのが本筋で、これからの国産バルブ製品には明るい未来が開けています。コストが全てではありません。

田渕  工業バルブでは規格の主導権を欧米に取られて、欧米に有利なように規格化されてしまう一方、日本メーカーの技術者に余裕がない。このまま海外の規格に対抗できるのか大変心配です。

奥津  海外の圧力は年々強まっています。例えば計装品の電子辞書規格が最近、ドイツから提案されました。IEC61987シリーズのパート21と22が調節弁です。これは調節弁の仕様項目や用語、その定義などをコンピューターが認識できる形で標準化し、電子辞書データ化する規格です。これを使うと、仕様書のやり取りや購買などが自動化できるので、この考えに追従できないメーカーは将来ユーザー/購入者が使う3次元CADからは自動発注されない運命になる可能性があります。日本も追従せざるを得ません。この仕組みもドイツが主導権を握っています。

大田  製品仕様は寸法や形状だけではなく騒音値などの保証も要求されますね。厳しいですね。現在のIEC規格でも実際の現場との比較ができていない。でも、代表的日本メーカーですら実用規模の研究実験設備を保有していないので、日本として代わりの予測式を提示できない。ある意味、早い者勝ちで国際標準化が進められています。

田渕  これではいけないと、当工業会では多様な勉強会を開いていますが、まだまだ導入段階です。やはり世界で戦うにはナンバーワンを目指さなければいけません。当然各社は競合するライバルですが、横のつながりも大切です。工業会として学生や研究者にスポットを当てるような表彰・褒賞制度も含め技術研さんと継承が必要だと思っています。学生に対し、バルブのやりがいを見いだしてもらいたいと願っています。

ユーザーが感動する設計を (奥津氏)
【生涯現役産業の強み】

奥津  バルブ業界には二つの特徴があります。一つは「生涯現役」産業ということ。この分野は経験の積み重ねがものを言う産業分野です。高齢化が進む日本産業ですが、それは逆にバルブ産業界の体質を一層強くする作用と受け止めるべきです。もう一つは制約があればあるほど鍛えられる産業であるということ。省エネ・環境・国際規格など新たな規制や制約に対して、理論解析とすり合わせ技術を得意とする技術者が多く集う業界なので、必ず克服し強くなっていきます。比較優位の強い業界には若手も魅力を感じるでしょう。

田渕  工業会会員をみると10〜20人くらいの会社が全体の2割を占めます。500人以上の規模の企業数は少ないのです。

大田  小さい会社をどれだけ元気にできるかが大切ですね。若手でキラリと光る人を増やしていくことが肝心です。

田渕  それには工学を学ぶ学生と彼らを受け入れる企業を結びつける活動を工業会として展開したいと考えています。

【産学連携と研究者育成】

大田  産学連携といいますが、大学は資金がない。各社が各大学と連携して研究開発活動するのが望ましいと思います。

田渕  当工業会の技術委員会では近い将来の「日本バルブ学会」(仮称)設立に向けて構想を練っています。「バルブ」を切り口に研究者が集い成果を社会にアピールしていきたいと希求しています。学会ですとアジアを中心とした諸外国の研究者・技術者も参加し易い。将来に向け若いバルブ研究者を結果的に育成したいと考えています。

奥津  バルブの視点は流体工学・金属・材料・信頼性・疲労破壊・振動音響工学・衛生工学・人間工学・シール技術・制御工学・バリアフリーなど多様で、裾野は広がります。それらは広く関心を呼び賛同が集まるでしょう。

大田  成熟した技術立国である日本には、突発的に利益が誘導される工業成果の創出も大事ですが、長期にわたり、継承し、進化させ、引き継ぐという持続的サイクルこそが重要です。信頼あるバルブ産業が社会インフラの基礎です。地道に見えることで日陰に置くことは、蓄積された広い技術を捨て去ることにつながると思います。

【産学連携と研究者育成】

奥津  昨年の「バルブの日」に「ばるちゃん」を当会のキャラクターデザインとしました。社会でのバルブへの理解は、伝統的な水道の水栓のイメージです。キャラクターデザインのアドバイザーからは一般社会のイメージを大事にすることが必要だといわれました。イメージキャラクター公募での181件の応募作品は、バルブのイメージは「縁の下の力持ち」「社会を支える」など、陰徳の美学ではないですが、見えない中で、よく分かってもらっているなぁという印象でした。もっともっと認知してもらいたい、その願いをばるちゃんに込めました。

田渕  工業会としては2013年までの一般社団法人化への移行(予定)に合わせて、組織を大胆に改革していこうと思っています。今後は技術・商品別の活動を重視していきたいと考えています。若手研究者・技術者の育成や環境対応製品の表示制度・グローバル展開、そして何よりも業界として信頼され成長するバルブ産業になりたいと考えています。詳しくは当工業会が創設したバルブ産業ビジョン(追補版)第2期計画をご覧下さい。ウェブサイトで紹介しています。今後も広くご指導をお願いしたいと思います。本日はありがとうございました。

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