小田仁志　（一社）日本バルブ工業会　バルブ部会長

「～最後は水で仕上げる～」

2019年1月7日

　バルブ部会長を務めさせていただいております、東洋バルヴの小田です。今月の「私の自由帳」では、僭越ですが私の日常の習慣の一つをご紹介させていただきます。ご興味あればお付き合いください。

　ここ数年、私は週末ごとに自分の革靴を磨くことを習慣にしています。事の始まりは価格の少し高い靴を初めて買ったことでした。それまでチェーン店の１万円程度の革靴を毎年履きつぶしていたのですが、雑誌の広告にあった高級革靴があまりにも魅力的に見えたのでそれにつられて初めて３万円前後の靴を買ってみました。価格の上を見れば際限ないのですが、サラリーマンの商売道具の一つと思うと私にとっては上限の価格でした。これまでの革靴以上に大事に履こうと思い、形崩れを防ぐシューキーパー（木製の靴型）も買って下駄箱にしまう時はそれを必ず中に入れるようにしました。従来の革靴は薄い革にスポンジと布の裏地がついていて、靴擦れがし難いものでしたが、新しく買った革靴は、革が厚く、固く、最初のうちは足入れがし辛いものでした。何とか自分の足に馴染ませないとと思い、インターネットで手入れの方法を調べ、ブラシ、保革油やワックスなどのお手入れ道具を揃えました。これが週末の習慣の始まりでした。

　手入れの方法には人それぞれ違いがあると思いますが、私は「千葉スペシャル」を手本にしています。「千葉スペシャル」とは有楽町にある靴磨き専門店です。革にうるおいを保つことを基本にしています。私のこだわりは、靴の折れる場所に出来る“しわ”を如何に綺麗に見せるかです。“しわ”の部分は、ワックスが綺麗に乗らないので乾燥しがちであり、ほこりや汚れが溜まり易い部分です。手を抜くとすぐに白くひび割れてきます。ブラシで埃を落とした後に、保革油を指先で直に塗り込みます。手で塗りこむことで体温が伝わり、革にしっかり染み込むようです。余分な油はふき取り、乾燥した布で“しわ”を伸ばしながら磨くようにしています。固いつま先や踵の周りは、指先に巻いた布に水を含ませ、それで少量のワックスを伸ばし磨いた後で、もう一度霧吹きで水をひと吹きした上で、きれいな布の部分に巻き替えた指先で更に磨いていきます。力を入れず、細かく動かすことで表面の曇りが取れて輝くようになります。この最後の水みがきが光沢には欠かせないと思います。現在私は黒、茶系、紺の３足を回しながら履いています。一週間で３足を履くと週末に全て磨かなければなりませんが、手間をかけても月曜日の朝に下駄箱を開けて、“輝く” 靴を選ぶ瞬間は、今週も頑張るぞというポジティブな気持ちになれます。

　ほぼ３年履いた革靴は、踵が斜めにすり減ってきていますが革の部分はまだまだ元気な状態です。踵をリペアすればさらに履くことができます。靴の革の質は、靴ごとに違いがあるのが当たり前ですが手入れをしていると左右でも違いがある事に気づきます。磨いていてその違いが結構気になります。次の革靴を買う時は、左右の革の違いを目を凝らして良く見て、手で触って両方のバランスが良い靴を選びたいと秘かに考えています。靴磨きに自信のある方は是非その方法を教えてください。さらに自分の腕にも“磨き”をかけたいと思っています。

小田 仁志 （一社）日本バルブ工業会 バルブ部会長

小田仁志　（一社）日本バルブ工業会　バルブ部会長