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企業における水資源のリスクと管理 #2

ISO14046 ウォーターフットプリントとは

情報発信日:2015-06-29

はじめに

製品の環境配慮を示す指標の1つとして「カーボンフットプリント(CFP)」がしばしば使われます。

カーボンフットプリントとは、商品の一生(原料調達、製造、運搬、使用から廃棄・リサイクル)までに、排出される二酸化炭素の量を商品に表示する仕組みです。

これは、消費者に対して「温室効果ガス排出による気候変動の防止を、企業としてどの程度意識しているのか」を示す指標として用いられ、一種の「ライフサイクルアセスメント(LCA)」と呼ばれます。

ライフサイクルアセスメントでは、主に個別の商品の原料調達から製造、輸送、販売、使用、廃棄・再利用までの各段階における環境負荷を明らかにし、その改善策をステークホルダーと共に議論し検討します。また、このような環境負荷の少ない商品の開発や設計については、特に『環境配慮設計』と呼ばれます。

このような状況において、新たなライフサイクルアセスメント(LCA)の指標の1つとして、商品の一生において消費される水の量を示す「ウォーターフットプリント(WFP)」の概念が、2014年に国際規格であるISO 14046として定められました。

なぜ、水の使用量の多少が環境への影響の大小になるのでしょう。なぜ、今「ウォーターフットプリント」なのでしょう。

2015年5月26日付けの本コラム「企業における水資源のリスクと管理 #1 世界の投資家が注目する『CDPウオーター』とは」で述べましたが、近年、企業にとって「水に対する危機管理」は投資の判断材料にされるほど重要な課題になってきています。

そこで、今回は「ウォーターフットプリント」をキーワードに、企業における水資源のリスク管理の重要性を述べて行きたいと思います。

 

なぜ、今「ウォーターフットプリント」なのか

近年、特に21世紀に入ってから世界では、急激な人口の増加とそれに伴う経済の拡大、さらには温室効果ガス排出量増加に伴う気候変動により生じる大規模な干ばつや洪水によって、食料や安全な飲料水の確保が困難な地域が増加する、という問題が提起されています。

日本は水資源に関しては、未だ比較的恵まれた状況にあり、水に関する危機意識は薄いと思われますが、企業が事業を国際展開して行く中においては、世界の水資源分布に対して重要な関心を示す必要があります。

世界において、水資源に関する危機意識が急速に高まってきている背景には種々の事象があります。例えばWHO(世界保健機関)が2009年に公表した報告書の中で、全世界におけるヒトの余命を奪った要因を調べたデータがありますが、喫煙を間接的原因とするものが5,689万年、肥満3,579万年、そして、安全でない飲料水や衛生設備の欠如が原因となる下痢や感染症によって実に6,424万年の余命が失われたとしています(水が原因で失われた余命は1人当たり20年とすると300万人、1人当り10年とすれば600万人に相当します)。地球温暖化による「損失余命」は540万年と推定されていますので、水を原因とする損失余命はその10倍以上にも達します。

また、実際の世界の水使需要についても国連(UNESCO:国連教育科学文化機関、及び、UNDP:国連開発計画)の資料によりますと、世界で急増している様子が見て取れます。


図2を見てわかるとおり、水の用途の70%は農業用途ですが、日本は食料自給率が40%しかなく、多くの農産品を輸入しています。東京大学生産技術研究所の沖教授が提唱している「バーチャルウオーター(仮想水)」の考えにより試算すると、年間でアメリカから169億m3、中国からは約100億m3の水を輸入している計算になります。全ての国からの輸入農産品を仮想水に換算すると685億m3/年にもなります。日本国内における水の使用量は約820億m3/年ですので、国内で使用される水の4分の3に当たる水が日本のために海外で消費されている計算になり、日本においても水資源の危機とは決して無縁ではないことがわかると思います。

「ウォーターフットプリント」について

1. 「ウォーターフットプリント」とは

「ウォーターフットプリント」とは、水利用に関する潜在的な環境影響を、原材料の採取・生産、製造・加工、輸送・流通、消費、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で定量的に評価する手法として開発が進められています。

「ウォーターフットプリント」は、環境への影響を評価することを目的としているため、使用した水量を単純に積み上げるのではなく、水利用によって生じる水量の変化及び水質の変化の量を捉え、その変化が環境に与える影響を評価するものです。

ウォーターフットプリントの主要な評価手順には「インベントリ分析」と「影響評価」があります。

2. インベントリ分析

インベントリ分析では、特定のプロセスにおける水利用より「水質や水量の変化量」を取得します。この時、水質変化の量としては、水質汚濁物質の排出量や濃度などのデータを取得します。また、水量変化の量としては、水源からの取水量や排出量などのデータが該当します。

ウォーターフットプリントでは、「水量と水質を総合的に勘案する」ために、取水と排水で水質に大きな違いがなく、同じ地点に短期間で戻された水であれば、取水した水ではありますが、消費した水とはみなさないという考え方になります。

他方、水質や地域、時間が異なる取水と排水の場合には単なる水量変化だけでは評価できません。

ウォーターフットプリントでは、図4のように、水量と水質だけではなく、どの地点で利用したか、どの地点に排出したか(空間特性)、どの期間に利用したか、どの程度の期間に排出したか(時間特性)についても、インベントリの情報として考慮する必要があります。

これは、地域や時間の因子を持たない「カーボンフットプリント」と大きく異なる点です。 これは、水に地域や季節特性があり、同じ量の水を使用した場合でも、影響が異なるためです。また、取水地域が河川の上流で、排水が下流である場合、取水が湖沼や地下水で排水が河川といった場合も影響は異なるためです。季節特性では、雨季と乾季の違いがあります。

3.影響分析

ウォーターフットプリントで考慮すべき水への影響としては、「水資源枯渇(水を消費することの影響)」と「水質汚染(水質汚染物質を排出することの影響)」の2種類の影響領域が考えられます。ウォーターフットプリントでは、これらの水に関する影響を考慮した上で、評価の目的に応じて影響領域を選択することが出来ます。

3.1水資源枯渇の影響

水資源枯渇の影響を考慮する際は、水消費量の評価に加えて、地域に応じた水利用可能量を考慮することが望まれます。水利用可能量で考慮することは、水ストレス地域のような地理的特性や事業活動により水質が劣化することによる間接的な水利用可能量の減少などがあります。

3.2水質汚染の影響

水質汚染の影響を考慮する際は、評価する影響領域(富栄養化や生態毒性など)を、評価目的に応じて特定する必要があります。

 

ウォーターフットプリントの計算について

ウォーターフットプリントについて規定したISO14046: 2014においては、ウォーターフットプリントの定義や考え方についての記載はありますが、具体的にどのように計算するかについては記述がありません。

このため、各国の多くの研究機関や研究者あるいは企業が具体的な計算例を公表していますが、未だ計算方法についての各国間での合意はなされていません。

これは、まず対象とする製品の寿命をどの位と見るのかという大きな問題があります。例えば1個のワイングラスがあったとします。買ってすぐに割れてしまうもの、何十年も使われるもの、装飾用にされるもの、どの程度の頻度で使われ、1個洗うのにどの位の水が使われるのか。衣類についても、寿命はどの位か、どのように洗うのか、洗濯機による水洗いとドライクリーニングの割合はどの程度か。自動車のように数万点もの部品からなる製品では、寿命年数や部品1個1個の水消費量を積み上げて行く必要があり、データベースや計算方法によって、大きな差異が出てくるなど、多くの課題があります。

このような中で、世界の大企業が積極的に自社製品に関する計算事例を公表し始めています。

国内でウォーターフットプリントの研究を進め、4,000品目の水使用量・消費量のデータベースを公開し、色々な計算例も示している東京都市大学環境情報学部・伊坪研究室によりますと、「コカコーラやネスレが立派な報告書を出しており、コカコーラは500ccのコーラ1本に使用する水は70倍の35,000ccで、全体の80%が原料生産、残りが容器、さらに細かく見ると原材料に使用される水の半分が雨水、残りが地下水と河川水。汚染物質が出るとこれを環境基準に適合するまで希釈する必要がありますが、その量も計算されている」そうです。また、ネスレのシリアルについては「原料は小麦と低脂肪ミルクで、それぞれの水消費量を合わせると1食分のウォーターフットプリントは106,000cc(106リットル)となっており、詳細は雨水が90,000cc(90リットル)で、これは牛が食べる牧草を育てるのに使用された水」と記載されているとしています。このように、世界的な企業が自社製品のウォーターフットプリントの計算事例を続々と公表する背景にはウォーターフットプリントネットワークというオランダの団体の存在があり、この団体がホームページに牛肉、卵、ワイン、パン、コーヒーなどに使用される水の量をデータベース上に公開しています。

図3はカップコーヒー1杯を作るために使用される水の総量を計算するイメージです。自社で使用される水は計測可能ですが、コーヒー豆栽培のための水使用量、カップに使用される紙の原料となる木材栽培の水使用量、紙を作るための水使用量、電気を作るための水使用量....と膨大なデータを外部から入手しなければなりません。これは大変な作業になりますが、ウォーターフットプリントに関する国際合意が出来るまでは、個々の企業が共通のデータベースを用いて顧客を納得させられるデータを提供し、水使用量の削減による環境負荷低減を進めて行くということになるかと思います。 。

 

まとめ

(1) 近年、世界的に人口の急増、森林の減少・砂漠化、異常気象の多発などによる水需要の増加に反して、深刻な水不足が問題に成りつつある。
(2) 日本は比較的水資源は豊富と思われているが、水使用量の75%は農業や畜産業に供されている。食料自給率が40%程度と低く、日本の国内で使用されている水の3/4にも当たる量が海外で日本のために使用されている計算になり、危うさがある。
(3) 日本企業も海外に進出して工場操業を行っており、水に対する危機対策は必要。
(4) 水を多く消費することは、資源やエネルギーを多く消費することであり、製品のライフサイクルを通じた水使用量を削減し、環境影響を少なくする努力が重要。
(5) 製品のライフサイクルを通した水使用量の概念をウォーターフットプリントと言い、ISOで規格化されたが、簡単には計算できず、まだ計算手法に関しては国際的な合意は出きていない。
(6) オランダの組織「ウォーターフットプリントネットワーク」という組織が、種々の原料や製品の総水使用量のデータベースの公開をきっかけに世界的な企業が自社製品のウォーターフットプリントに関する計算結果を公表し始めてきた。
(7) 企業にとって、事業活動を進める上では水の危機管理が重要であること、水使用量削減が環境影響低減という認識を持つことが重要であり、管理指標としてウォーターフットプリントを理解する意味がある。

引用・参考資料

注意

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