ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 今後のエネルギー問題を考える #6
情報発信日:2015-09-24
2015年1月19日付け本コラム「2015年合意」に向けて動き出した温室効果ガス削減交渉#2 『気候変動枠組条約 第20回 締約国会議(COP20)』等の結果について で述べましたが、IPCC(気象変動に関する政府間パネル)の第5次統合報告書では、「2050年までに温室効果ガス排出量を半減、2100年までには『ゼロ』にする必要があり、これに取り組まないと地球は修復不可能な気候変動に見舞われる」と警告しています。
一方、2015年7月31日現在の環境省ホームページには「2020年に向けた我が国の新たな温室効果ガス削減目標」と題して「東日本大震災以前に国際的にコミットした『2020年までに2005年度比25%削減の目標を撤回し、3.8%削減とする』」と大幅に後退した目標が記載されています。理由は、「(東日本大震災における福島第一原子力発電所の事故により)、原子力発電の活用の在り方を含めたエネルギー政策及びエネルギーミックスが検討中であるため」としています。
また、2015年6月2日付けの各マスコミは「2015年6月2日、政府は地球温暖化対策推進本部を開き、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減する温暖化対策目標の政府原案を了承した」と一斉に報じました。
これに対してWWF(世界自然保護機関)は「憂慮すべき日本の温室効果ガス排出量削減目標」と題して、「日本の2030年に向けての温室効果ガス排出量削減目標として、『25%削減程度(2005年比もしくは2013年比)』という数字が大臣間で調整されているという報道がありました。電力については、2030年時点で原子力が20〜22%、再生可能エネルギーが22〜24%で検討されているというその内容は、まるで日本が、震災・原発事故前に戻るかのような展望を示しています。WWFは、この目標では、日本が国際社会から『公平で科学的に妥当な』目標を掲げた国として認められることは困難であると考え、現状の議論に懸念を表明するとともに、緊急の声明を発表しました」と述べています。理由は「2030年時点で原子力が20〜22%、再生可能エネルギーから22〜24%というエネルギーミックスの問題」及び「日本政府が閣議決定している2050年に80%削減という目標に対して、2030年に25%では目標に対する数字の整合性に無理がある」としています。
このような状況に対して、政府は2050年80%削減のイメージとして「省エネで40%、再生可能エネルギーで30%、二酸化炭素の回収・貯留10%」と説明しています。
本コラムでは、将来に向けて開発中の種々の新エネルギーについて過去にも述べてきましたが、今回は「環境発電」といわれ、過去には見逃されて来た微弱エネルギーをも利用しようという動きがありますので、これを解説したいと思います。
過去において「熱は使い捨てるもの」というのが常識でしたが、近年「熱は繰り返し徹底して使う」という考えが広まり、工場の施設やゴミ処理場などで廃熱利用が盛んに行われています。
一方、最近「過去においては見向きもされなかった微弱なエネルギーを地産地消しよう」という「環境発電」という言葉を時折耳にするようになってきました。
富士通総研のホームページによると、環境発電とは「電池やケーブル等による電力供給を必要とせずに機器等を駆動させる技術であり、エネルギーの効率的な利用が叫ばれる中、今日、注目度が高まってきているものです。なぜ電源が要らないかというと、身の回りにある光や熱、振動、電波のエネルギーを電気エネルギーに変換するからです。利用できるエネルギーとしては、例えば、室内の照明光、工場の廃熱、私たちの体温、道路の振動、携帯電話の基地局から発せられる電波等、様々です。こうしたエネルギーを回収することを『収穫』に例えて、エネルギーハーベストとも呼んでいます」と書かれています。
電気エネルギーは発電所で発電された後、電線によって消費地に運ばれますが、この過程においてある一定量は熱となり損失してしまいます。電線も電池も使わず消費地で発電できれば、これ程の省エネはないといえます。
電源が不要といっても環境発電で得られる電力は現状では未だ「数μW〜数mWのオーダー」ですので、パソコンや携帯電話など大きな機器を動かすまでには至っていませんが、既に身近な存在であるソーラー電卓やソーラー腕時計などに見られるような小さな電子部品や電子機器を動かすエネルギー源として、利用の拡大が種々検討され始めています。
2015年7月10日付けの朝日新聞デジタルの記事によると、列車が鉄橋を渡る時の振動によって発電し、生じた微弱電流により、橋や道路の異常を感知する保安センサーと連動させる例、東京タワーの電波によるエネルギーを電流に変換し、田畑の乾き具合や温度を測定する例、昆虫の体内の化学反応を利用した発電により身に着けて体の状態を調べる医療健康センサーへの応用研究例などが紹介されています。
これらの環境発電(エネルギーハーベスティング)に関する研究はエネルギーの節約というメリット以上に機器の電池交換や配線が不要であるという大きな利点があるため、多数のセンサーから得られる情報を活用する「モノのインターネット(IoT)」に応用されることが期待されており、国も「戦略目標」の一つに掲げていると、上記朝日新聞の記事は報じています。
注)モノのインターネット(IoT)
東京コスモス電機株式会社(TOCOS)のホームページによると、「モノのインターネット(Internet of Things: IoT)とは従来は主にパソコンやサーバー、プリンタ等のIT関連機器が接続されていたインターネットにそれ以外の様々な“モノ”を接続する技術です」とし「従来のように人間がパソコン類に使用して入力したデータ以外に“モノ”に取り付けられたセンサー類が人の手を介さずにデータを入力し、インターネット経由で利用されるものです」と説明し、例としては通信機能を持ったセンサーと連動して「ドアが今開いているよ」「猫が今寝ているよ」「植物の喉が渇いているよ」という情報がインターネットを介して様々な場所で活用されることをいいます。
東京コスモス電機株式会社によると、環境面での情報入手例として、左図のような温度、湿度、騒音、気圧、照度などを無線センサーによってインターネットに取り込む例が示されていますが、その際に「環境発電」が重要なファクターであることも記載されています。
その他にも、将来の色々な応用例が示されていますので、興味のあるかたは、TOCOSの「モノのインターネット」紹介ページを参照してください。
アイティメディア株式会社の「環境発電」最新記事一覧によると50件の記事が紹介されています。以下に筆者が興味を持った幾つかの事例を紹介します。
(1) 環境発電で証明を制御、電源と配線が不要な「EnOceanスイッチ」(ローム 2015/8/28)
振動で発生する電磁誘導によって作り出した環境発電電力で作動するスイッチの情報を無線通信で照明器具を制御。電源と配線が不要に。
(2) 1cm角太陽電池で動く無線端末を実現する電源IC(サイプレス セミコンダクタ 2015/8/20)
起動電力1.2μW、消費電流250nAで無線センサー端末を動作させるパワーマネジメントを発売。1cm角の太陽電池による環境発電で動作可能。数百万回の伸び縮み耐性があり、100μm程度の薄膜であり、加工性も優れることから、センサーやIoT向けの環境発電用材料用途を見込む。
(3) 発電ゴム(リコー 2015/5/18)
圧力や振動を加えると高出力で電気を生み出す「発電ゴム」を開発。
(4) トイレもゼロ・エネルギーに、水流で発電してLED照明に電力を供給(LIXIL 2015/6/3)
トイレの便器に給水する水流で発電して、トイレ内の照明に電力を供給するシステムを開発した。蓄電池に貯めた電力で停電時にも照明をつけてトイレを使うことができる。災害時に停電が発生しても、トイレを快適に使えるようにすることが目的。
(5) リコーの色素増感太陽電池とマクセルのラミネート電池を採用した環境発電センサー端末(リコー&日立マクセル 2015/5/11)
電池交換の必要のない温湿度や照度などの情報を取得するワイヤレスセンサーネットワーク端末を開発
(6) 体の熱や動きで駆動するウェアラブル医療モニター、米研究チームが開発に本腰 (米ノースカロライナ州立大2015/4/15)
ナノテクノロジーを使った超低消費電力センサー向けエネルギーハーベスト(環境発電)/ストレージデバイスの開発を進めている。身体の熱や動作で電力を供給する、バッテリーが不要なウェアラブル医療モニターの実現を目指して行われている。
現状では発電の為の高効率な発電素子の開発、極低電力で動作するセンサー類などの更なる研究を進める必要と、ユーザーに対する認知活動、応用分野・用途の開発が必要ですが、住宅関連や医療分野での利用が少しずつ進んでいるようです。
米国における環境発電市場は2021年に44億US$(約6,000億円規模)と予測されていますが、日本においてはユーザーの環境発電に関する認知度が未だ低く、発電素子やセンサーなどの機器開発企業と市場ニーズのマッチングが進んでいないようです。しかし、国も国立研究開発法人科学技術振興機構を通じて「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」に関する研究テーマ募集と開発費の提供を行っており、戦略的にこれら分野に力を入れて行くものと思われます。
未来に向けて多くの情報をセンサーにより検知し有効利用することにより、また一段と便利で快適な生活が見込まれますが、そのために多くの配線が必要にならないようにするためには今後の環境発電の技術開発が重要になってくるものと思われます。