ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 「2015年合意」に向けて動き出した温室効果ガス削減交渉 #2
情報発信日:2015-1-19
2014年12月1日より14日まで、ペルーのリマにおいて国連気象変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)及び京都議定書第10回締約国会議(CMP10)等が会期を延長して行われました。
一方では2014年11月2日付けでIPCC(気象変動に関する政府間パネル)の第5次統合報告書が発表されましたが、これによると「2050年までに温室効果ガス排出量を半減、2100年までには『ゼロ』にする必要があり、もしこれが達成されない場合には、地球は修復不能なダメージを受ける」と警告を発し、「その対策に2030年までに取り組まないと間に合わない」と最後通牒のようなものになっています。
ところが、温室効果ガス削減交渉は京都議定書の締約期間が終了した2012年以降については「世界の第1位と第2位の排出国であり、全世界の温室効果ガスの半分弱を排出している中国と米国が参加しない削減には意味がなく、不公平」だとして日本などが離脱を表明するなど、一時は全く先行きが見えない状況に陥ってしまいました。
しかし、2011年12月に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17において、「温室効果ガス排出量の削減を目指し、京都議定書に参加しなかった、排出量世界1位の中国及び2位の米国を含む主要排出国を対象に2020年から実施される新しい枠組みを作る」という、いわゆる「ダーバン・プラットフォーム」が合意されました。
具体的には、「2015年の早い時期に各国が自国の2020年以降の温室効果ガス削減目標を設定し表明する」というもので、また「先進国は2020年には80%の削減」を目標にすること等が合意されています。
今回は、このような状況においてCOP20では先進国グループと途上国グループとの利害が激しくぶつかり合ったようですが、最低線での基本合意が出来たようですので、今回はCOP20の状況について、種々の報道からまとめてみたいと思います。
注)「ダーバン・プラットフォーム」とは、2011年に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17において設置が合意された「2020年に向けた新たな国際枠組みを検討するための特別作業部会」。正式名称は、「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」。2012年5月にドイツのボンで第1回会合が開催されました。
COP20は、ペルーのリマにおいて当初は2014年12月1日から12日まで12日間の会期が予定されていましたが、先進国と途上国の間での利害対立により2日間の会期延長を行い14日の未明に何とか会議が終了しました。しかし、その割には成果の乏しかった会議だったといわれていますが、曲がりなりにも「国別目標案の『要件』が決まったことにより、今後は各国が、そのための準備を本格化させて行くことになった」と考えられます。
現在の国連気象変動枠組み条約締約国間の交渉は2015年12月にパリで開催予定のCOP21において「気象変動に関する新しい枠組み条約に合意すること」を目標に進んでいます。
WWF(国際自然基金)のレポートが、COP20の結果を以下のとおり、わかりやすくまとめていますので紹介します。 今回の会議では、3つの大きな論点がありました。
特に重点が置かれて審議されたのは1と3です。とりわけ1の論点は、今回の会議で必ず結果を出さなければならなかったため、会期を延長するほど交渉が長引いた主な原因となりました。
各国間、特に先進国グループと途上国グループ間の対立が激しく、最終的には「各国が国別目標案として出すべき中身の最低限の情報要件」と、「各国が国別目標案を出した後に、それらを集計した統合報告書をまとめる」という点で合意ができました。
今回の会議で決まることが期待されていた国別目標案を評価する事前協議は、一部途上国の反対によって非常に弱められてしまいました。
3つ目の論点である2020年までの取組の底上げについても、目立った成果を挙げることができず、この結果「成果の乏しい会議になってしまった」といわれています。
しかし、最も重要だった「国別目標案における提案の要件」が何とか決まったことで、各国は今後「国別目標案提示」のための準備を本格化させて行くものと思われています。
※以下「WWF(国際自然基金)のCOP20に対するレポート」より多くを引用
前回2013年のCOP19での決定事項が再確認され、2015年3月までに目標案を出せる国は提出するよう促されています。
削減目標の中身について明示し、透明性を持ってわかりやすく出す。目標の基準年や約束期間、範囲や対象とするガス種、目標達成のプロセス、人為的温室効果ガスを計量可能な形で提示するための前提や手法、吸収源など細かな情報が挙げられます。
また、自国の目標案が、各国の事情を考慮しながらも公正で衡平なものになっているか、危険は温暖化を防止する条約の目的に貢献するかなどの説明も挙げられています。
提出された各国の目標案は条約事務局のウェブサイトで公開され、2015年10月1日までに提出された各国の目標案を、11月1日までに各国の目標案を足し合わせた効果について統合した報告書が準備されることになりました。
目標案として、適応への取り組みを提出することが奨励されています。
全体として目標案については、途上国のグループ間での意見の相違が目立ち、先進国との対立が相まって、当初の議長案に書かれていた内容よりも弱くなってしまいましたが、それでも多様化している途上国を含む多国間で合意して、2020年以降の取り組みをすべての国が行なっていくことを前提にした仕組みが動き出していることは間違いありません。
2015年に新しい国際枠組みに合意するために、現在の交渉スケジュールでは、2015年5月に「交渉テキスト」と呼ばれるものを準備することになっています。「交渉テキスト」とは、「2015年合意に向けた下書き」に相当するもので、文字通り各国は、これをベースにして交渉を行う「公式文書」を意味します。
今回のCOP20では2015年に合意を目指す「新しい枠組み」の「要素」、すなわち「新しい枠組みの骨格」作りを議論するのが当初の予定で、その予定を前倒しにして、「要素」をある程度確定しつつ、具体的な「交渉テキスト」の草案に当たるものを作ろうとしました。「要素」は2015年合意の下書きの更に下書きのようなものです。
国連気象変動枠組み条約には190ヶ国以上が参加する多国間交渉ですので、こうした形で、少しずつ慎重に合意ができる点を確認しながら議論が進められて行きます。
これらの具体的な作業は国連気候変動枠組条約の下の「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」、「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」などにおいて、担当者レベルで進められて行きますが、この「要素」に関してはADPの共同議長が準備した草案に基づき行われました。
今回、これが最終的には「交渉テキスト草案の要素」という名前で、今回の決定文書の附属書として添付されました。
今後は、2015年2月に開催される作業部会にて議論が行われながら「交渉テキスト」にまとめ上げられて行く予定です。
現在の「交渉テキスト草案の要素」は、「緩和(排出量削減)」「適応及び損失と被害」「実施のための協力と支援」「資金」「技術開発と移転」「キャパシティビルディング」といった分野に分けられます。これが「要素(elements)」と呼ばれます。会議では、それぞれの「要素」ごとにセッションが設けられ、各国がそれぞれ意見を述べていく、という形式がとられました。今回の会議では、最終的な結論には至っていませんが、2015年合意に含まれるべき内容を一通り含むもので、議論は多岐に渡ります。
代表的な論点は
・2050年や2100年といった長期に向けての目標を設定するのかどうか
・「緩和」だけでなく、「適応」に関する世界的な目標を設定するのかどうか
・2015年合意の中で、最終的に削減目標を義務的なものにするのか、守れなかった時の罰則を設けるのか
・国々が掲げるべき目標を、気候変動に対する責任や能力によって差異化するべきか
・途上国支援については、公的資金を中心に考えるべきか、民間資金の活用にもっと重点を置くのか
国連環境計画(UNEP)のThe Emission Gap Report によれば、「2020年時点で、現在の各国の削減目標を合算した値と、IPCCが必要としている削減量との差は80〜100億トンもの開きがあります」。しかし、各国とも、2020年目標を引き上げることは政治的に難しいのが実情のようです。
このような状況を打破する施策として「2013年のCOP19で、削減のポテンシャルが高い分野に関する専門家を集めて『専門家会合(TEMs; Technical Expert Meetings)』を会議と並行して開催し、その議論の中で「国連気候変動会議の場に対して」「どのように現場レベルでの削減の取り組みを後押しできるか」を議論することになりました。2014年の3回のADP会合に合わせて実際に議論がされてきました。このTEM’sと呼ばれるプロセスは通常は国益を代表して喋らければならない交渉官でも、通常の国連気象変動交渉ではやり難い議論も比較的自由に発言ができる場が設定されたという意味は大きく、概ね好評だったようです。
COP20では、このような専門家会議の中で見いだされたような政策オプションの実施を後押ししようと試みたり、2014年9月に行われた国連気象サミットでは国、企業、自治体、NGOなど、さまざまなイニシアティブを持ち寄り、各国首脳が集まるイベントの中で発表することで、ある種の勢い(モメンタム)を作り出したりと、色々な努力が払われ底上げができないか模索する動きも出てきていますが、今のところ目立った成果はないようです。
特に「先進国がこれまで十分に削減して来なかったツケを途上国に転嫁しようとするものである」という、途上国の不満、不信が大きく、この点が今後最も大きな障害になるといえます。
※以上「WWF(国際自然基金)のCOP20に対するレポート」より多くを引用
前回の「京都議定書」では、排出量第1位の中国及び第2位のアメリカ(当時は、アメリカが第1位、中国が第2位)が離脱しましたが、今回はこの2国が中心となって積極的に活動していますので、全体的には各国が温室効果ガス排出量の削減目標を提示することには至ると思われますが、この目標値は、今のところ自主目標であり罰則を伴う責任数値にできるのか、あるいはIPCCが警告する2050年半減に届くのか予断を許さない状況にあることは変わりがありません。
アメリカ、中国、欧州といった国々が既に削減目標を発表しており、これらを正式に提出する手続きの準備を進めていると思いますが、我国も総量で世界第5位、国民一人当たりでは世界4位という温室効果ガス排出大国として、国別目標案の提出を急ぐ必要がありますが、原発の再稼働問題が明確にならない現状で、この作業は難航しています。
しかし、それができなければ、我国は「不安や不信を募らせている途上国の不満の矢面」に立たされることになり、さらには2015年合意交渉の足を引っ張ることにもなりかねませんので、政府のできるだけ早い決断を望みたいと思います。