ホーム > 知ってなるほどバルブと水栓 > 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 #1
情報発信日:2013-11-25
安倍総理大臣が東京オリンピック招致の最終プレゼンテーションにおいて、福島第一原子力発電所の汚染水の問題に関して「放射能汚染水も原発から0.3平方キロメーターの港湾内に収まっており、完全にコントロールされている」と述べましたが、朝日新聞は、2013年10月13日付け朝刊38面(14版)の記事で「港湾の境目10ベクレル」と題し、「東京電力は12日、福島第一原発の外洋と港湾内の境目にあたる港湾口の海水から、放射性セシウムが1リットル当たり10ベクレル検出したと発表した。測定を始めた6月以降で最も高い。東電は『上昇原因は分からない』と説明している。(中略)一方、8月に300トンの高濃度汚染水漏れが発覚したタンク近くの井戸で10日に採取した水からトリチウム(三重水素)が1リットル当たり初めて30万ベクレルを越え32万ベクレル検出された。法で定める放出限度(同6万ベクレル)の5倍超になる」と報じました。
また、2013年10月24日付け朝日新聞夕刊2面(4版)の記事によると「東京電力は24日、福島第一原発の排水溝の水からストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質を1リットル当たり14万ベクレル検出したと発表した。8月から始まった排出溝の水の調査で最高値。放射性ストロンチウムの法定で定める放出限度は1リットル当たり30ベクレル。検出されたストロンチウム以外の放射性物質も含まれているが、高い濃度になっている。(以下略)」と報じています。
この福島第一原子力発電所における汚染水の問題は、上記の記事だけではなく連日のようにテレビや新聞で報道されていますが、福島第一原子力発電所の事故から2年半余りが経過している今日現在においても、この汚染水問題は未だに解決の糸口さえ見つからず、むしろ状況は悪化しているようにさえ思えます。
このような記事において、放射線の強さや被ばく量を示すために「Bq:ベクレル」や「Sv:シーベルト」などの単位が使われますが、これらの数値が人間の健康にとって、どの程度の影響を与えるのかは、あまり報道されません。
本コラムでは、2011年4月20日付けでベクレルとシーベルト、2011年5月20日付けで放射性物質とその除去方法、及び、2011年12月22日付けの「放射線被ばく量と健康被害について」などにおいて、基本的な情報を簡単に紹介しましたが、今回環境省が「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版」を公表しましたので、これを機会に重複する部分も多々ありますが、再度、放射性物質、放射線、放射能などの基礎知識とこれらによる健康影響などについて、この資料に基づく国の統一見解を、何回かに分けて紹介して行きたいと思います。
※以下環境省公表の「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版 ver.2012001」(以下「環境省資料」と約します)を主な資料として記述します。
例えば、電球は電圧をかけると光を放ちますが、その光の強さをcd(カンデラ)という単位で表します。ヒトがその光を受けて明るいと感じますが、その明るさはlx(ルクス)という単位で示されます。これは、放射性物質が放射線を出す能力Bq(ベクレル)とヒトが受けた放射線量Sv(シーベルト)の関係に似ています。
例えば、ある岩石が「放射線」を出す時、この岩石を「放射性物質」と言い、放射線を出す能力を「放射能」と言います。従って「この岩石は放射能を持っている」とか「この岩石は放射線を出す」、「この岩石は放射性物質を含んでいる」などの表現をします。
この岩石の持っている放射線を出す能力をBq(ベクレル)という単位で表し、どの位の量の放射線を浴びたか(被ばく線量)をSv(シーベルト)という単位で示します。BqからSvを求めるためには特有の換算係数があります。
放射能(Bqで表す数値)が大きいほど、放射性物質からより多くの放射線が出ていることを意味しますが、被ばく線量(Svで表す数値)は放射線物質と被ばくする人との位置によって変わります。放射線の強さは、放射線を出している物質から近いほど強く、遠ければ弱くなります。電球に近づけば明るく、遠ざかれば暗くなるのと同じです。
放射性物質とは放射線を出す物質のことです。例えば「この水は放射性物質を含んでいる」と言います。放射能という言葉は、放射性物質と同じ意味に使われることもありますが、自然科学では放射能とは放射線を出す能力の意味で使います。密封された容器に放射性物質を含んだ水が入っていた場合、容器から放射線は出てきますが、放射性物質は出て来ません。が、もし密封されていないで、水がこぼれた場合には放射性物質が広がって行きます。
放射性物質:そこから放射線を出します。放射性物質は体に入ると身体に残ったり、移動したりすることがあります。
放射線:体に残りません、移動もしません。
放射線は目で見えないし臭いもなく、人間が感じることはできませんが、容易に測定することはできます。専用の測定器(サーベイメーター)を使って、土壌、水、食品の放射能を測定すれば、どんな放射能がどれだけ含まれているか知ることができます。このサーベイメーターを使うことにより、物質が出す放射線の強さと種類及び人間が受ける放射線の大きさも知ることができます。
放射性物質から放射線を受けることを放射線被ばくと言います。一方、放射能汚染とは、放射性物質の存在によって望まれない物(人も含めて)や場所が汚染されることを言います。つまり、放射能汚染とは意図しない放射能の存在を言います。
被ばくの種類には、外部被ばくと内部被ばくがあります。外部被ばくは、被ばく者本人が放射性物質に近づいて放射線を浴びることを言い、状況によって局所被ばくと全身被ばくがありますが、本人が放射性物質から離れることにより被ばくは止まりますので、他人が被ばく者に近づくことによる二次被ばくはありません。ただし、放射性物質を含んだ塵や水などを体に浴びてしまい、放射性物質による体表面の汚染が起きた場合には、衣服を脱ぎ捨て放射性物質を洗い落とさないと放射性物質から遠ざかれないため、本人及び周囲の人が汚染・被ばくする可能性が出てきます。一方、放射性物質を含む塵を吸い込んだり、飲食物を摂取、あるいは傷口から侵入したりする内部被ばくは、被ばく者本人が継続して被ばくする可能性がありますし、周囲の人にも二次被ばく被害を与える可能性があります。
また、放射線にはα線、β線、γ線、など放射線の種類や放射性物質(核種)の種類があり、それぞれ空気中や体の中での通りやすさや排せつのしやすさ、半減期などに違いがありますので、それぞれ被ばく状態は異なります。
原子は原子核(プラスの電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子)とその周りを飛び回るマイナスの電荷を持つ電子から構成されています。原子の化学的性質は陽子の数で決まり、例えば陽子の数が6個であれば炭素、7個であれば窒素、8個であれば酸素と必然的に決まり、これを表にしたものを周期律表と言います。しかし、例えば陽子が6個の炭素でも中性子が5個、6個、7個、8個の炭素が存在します。これらを区別するために、陽子と中性子の数を合計した数字を元素名の後に付けて炭素11、炭素12、炭素13、炭素14と呼びます。しかし、陽子と中性子の数の関係にはエネルギー的に安定なものと不安定なものがあります。通常の炭素は陽子数6、中性子数6の炭素12ですが、安定な窒素14に宇宙線の1つである中性子が当たり、陽子を追い出すと炭素14が自然の放射性物質として生成されます。しかし、この状態は陽子が6個に対して中性子が8個とバランスが悪くエネルギー的にも不安定なため、1個の中性子を陽子に変えて陽子も中性子も7個ずつの安定な形になろうとします。この時、余分なエネルギーが電子として放出されますが、こればβ線です。つまり炭素14はβ線を放出して陽子と中性子が7個ずつの窒素に戻り安定します。
同じ原子番号(陽子数)の原子でも中性子の数が異なる核種を「同位体」と言います。同位体には放射性崩壊を起こして放射線を放出する「放射性同位体」と、放射線を出さずに原子量も変化しない「安定同位体」があります。
放射性同位体が、不安定な状態を解消し安定な状態になるためにα線、β線、γ線などの放射線を放出します。
α線、β線の放出後には、原子の種類が変化しますが、γ線が放出されても原子の種類は変わりません。どの放射線が放出されるかは、放射線物質の種類ごとに決まっています。
セシウムは陽子の数が55個の元素ですが、中性子の数が57個から96個のものまで見つかっていますが、そのうち安定なのは中性子の数が78個のセシウム133だけで、残りは全て放射線を出す放射性物質です。原子力発電所の事故が起こると、セシウム134やセシウム137が環境中に放出され、β線やγ線を放出します。
水素原子のほとんどは、原子核が陽子1個のH1ですが、陽子1と中性子1個のH2と陽子1個と中性子2個のH3もあります。放射線を出すのはH3(トリチウム)だけです。
このように、放射性の原子が1種類しかない元素もありますが、複数の放射性元素を持つ元素も多くあります。また、原子炉の燃料に使われるウランやプルトニウムのように原子番号の大きい原子では、放射線を出さない安定した原子核を持たないものもあります。
上図のトリウム232、ウラン238、カリウム40のように半減期の長い放射性物質は、遠い昔に宇宙で作られ、地球が誕生する時に地球に取り込まれたものです。トリウム232やウランは色々な放射線を放出し、色々な放射性物質に変化しながら最終的に安定な鉛206や鉛208になります。
原子力発電所の事故などで環境中に放出される人工由来の放射性物質の半減期は自然由来のものに比べて比較的短いのが特徴ですが、プルトニウム239のように長いものもあります。
放射性物質はエネルギー的に不安定な状況にあり、余分なエネルギーを放出して安定な状況になろうとします。この放出されるエネルギーが放射線です。放射性物質は余分なエネルギー全てを放出すれば安定な状態となり、放射線は放出しなくなります。この点は、化学物質の毒性と異なる点です。
放射性物質は放射線を出しきりエネルギー的に安定な状態になれば放射線は出しません。時間が経てば、放射性物質の量は減り放射能も弱まります。こうして、放射能が半分になるまでの時間を半減期と呼びます。
放射能の減り方は上図のように半減期分の時間が経過すると放射性物質の量は元の半分になり、結果として放射能も半分になります。さらに、もう半減期分の時間が経過すると半分となり、元の1/4となります。
放射線を出す原子核の中には大変長い半減期を持つものがあります。ウラン238の半減期は45億年です。地球の年齢が46億年と言われますので、地球が誕生した時に存在したウラン238は、ようやく半分になったと言えます。
放射性物質は1回放射線を放出して安定になるものもありますが、最終的な安定物質になるまでに、種々の放射性物質に変化するタイプのものもあります。
例えば、ウラン238は、まずα線を出してトリウム234に変化し、次にβ線を出してプロトアクチニウムに変化し、最終的に安定な鉛206になるまで、10数回も異なる原子の姿に変化します。
放射性物質から放出される放射線を浴びた場合には「人の健康に悪影響を与える危険性がある」と言われていますが、臭いもなく、色もないことや、原子爆弾のイメージなどから、その存在に対して闇雲に恐怖心を持つ人が多いように思います。確かに、放射性物質による放射線を限度以上に浴びた場合には健康被害が出る可能性がありますが、放射性物質は宇宙の中の自然界でも作られていますし、放射線は医療の種々診断にも多く利用されています。これらのことから放射能については、必要以上に怖がるのではなく、「正しい知識を持って、正しく怖がる」ことが重要だと思います。
次回は、「放射線とは」、「被ばくの経路」、「原子力災害の影響」などについて、引き続き環境省が公表している「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版 ver.2012001」を用いて、解説していきたいと思います。