ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 米国の有害物質規制法(TSCA)の改正・実施強化(その2)
情報発信日:2011-02-18
2010年12月及び2011年1月付け情報でも述べましたように米国有害物質規制(TSCA)の改正が進められていますが、担当官庁のEPA(米国環境保護庁)は、法律改正までの間においても既存の有害物質規制法(TSCA)を最大限に活用した規制の強化に乗り出しています。
包括的な取組の例としては以下のような対応がなされています。
今回は、EPAがTSCAの改正を見据えたうえで現行法の範囲で進める具体的なアクションを含めて、規制強化の方向性について述べて行きたいと思います。
EPAが現行TSCAの範囲内で行うアクションプランに概説されたリスク管理活動の範囲は以下の通りです。
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
---|---|---|---|
軟質塩化ビニル用可塑剤 | 内分泌攪乱作用(主に男性生殖器への影響) | ・懸念化学物質リストを策定するための規則制定を開始 ・未収載の6種のフタル酸エステル類を有害化学物質排出目録(TRI)に追加するために規則制定を開始 ・規制制定を開始する前に使用、暴露及び代替物質について十分評価するために消費者製品安全委員会(CPSC)及び食品医薬品局(FDA)と協力する ・DfE及びグリーン・ケミストリー代替案アセスメント実施予定 |
CPSIA (Consumer Product Safety Improvement Act of 2008) Section 108フタル酸を含む製品の販売禁止 ・DEHP・DBP・BBP 流通する全ての玩具・育児用品に対して、上限基準値合計0.1%を超えないこと ・DINP・DIDP・DNOP 口に含む可能性のある玩具・育児用品に対して、上限基準値合計0.1%を超えないこと |
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
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繊維製品、プラスチック製品、電線、自動車部品などの難燃剤 | 特定のPBDE同族体は人間と環境の両方に対し、難分解性、生体蓄積性、毒性があると懸念。製品と化学的に結合していないので浸出しやすい。 | ・商用PBDE混合物/同族体を懸念リストに追加するための規制制定開始 ・「重要新規利用(SNUR)」を提案するために規則制定を開始 ・C-デカBDEの製造・輸入の自主的な段階廃止を支援及び奨励。「重要新規利用」と以前公表した「試験規則」を同時提案するための規則制定を開始 |
ペンタ及びオクタBDEの製造と輸入は2004年に段階的に廃止された C-デカBDEを2013年12月31日までに販売停止するための準備 |
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
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撥水剤、紙・布・カーペット・衣服等の表面処理剤、界面活性剤 | 甲状腺ホルモン異常、コレステロール代謝の撹乱、神経細胞の発達障害 | ・排ガス及び製品から有機フッ素化合物(PFCs)を除去するために企業と協力するためにPFOAスチワードシッププログラムを継続実施する ・TSCAによる規制制定を開始 ・EPAの「新規化学物質プログラム」の下、代替品の評価を行い国際的な協力を実施 |
PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(パーフルオロオクタン酸)は環境中で難分解性 |
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
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主にエポキシ樹脂、ポリカーボネートの原料 | 内分泌撹乱物質 | ・懸念リストの追加のための規則制定の開始 ・適切な環境影響に関するデータ開発の規則制定開始 ・BPAの排出と暴露削減のためDfE(環境配慮設計)プログラムに沿った代替策アセスメントの開始(鋳物に使用されるBPAに対する代替分析開始) |
潜在的な健康への影響について、さらなる良い判断と評価を行うため、食品医薬品局(FDA)、国立環境衛生科学研究所、疾病管理予防センター(CDC)との継続協議と密接な協力関係維持 |
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
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紙や繊維や皮革等の染色 | 膀胱がんなどの発がん性 | ・ベンジジン基剤の染料に関して、4種の染料を既存のTSCAに定める重要新規利用規則(SNUR)に追加するために規則制定を開始する ・ベンジジン同族体基剤の染料に関して、TSCAに定める新SNURを提案するために規則制定を開始する |
ベンジジン(Benzedrine)は、芳香族アミンの1種。国際がん研究機関によってヒトに対する発癌性(膀胱がん)が認められており、日本でも労働安全衛生法によって試験研究用途以外での製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁止されている |
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
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RoHS指令で規制されているPBDやPBDEと同じ臭素系難燃剤。その他接着剤の硬化促進剤、繊維のコーティング用等 | 難分解性・高蓄積性のため、環境中に残留しやすい。鳥類に対する繁殖毒性の疑いあり | ・HBCDを懸念リストに加えるためにTSCAに基づき規則制定を開始することを検討する ・消費者向繊維製品の難燃剤として使用するためにHBCDを製造又は加工することを重要新規利用として指定するために、TSCAに基づき規則制定を開始する。HBCDを含んだ消費者向繊維製品の輸入にも適用する ・製造、加工、商業的流通、使用に関する潜在的包括的禁止、又は特定の活動に対処するためによりターゲットを絞った規制を目指してTSCAに基づき規則制定を開始することを検討する ・HBCDを「有害物質排出インベントリー(Toxics Release Inventory: TRI)」に追加するための規則制定を開始する |
難分解性・高蓄積性のため、環境中に残留しやすいことは明確になっているが、生物に対する明確な毒性はまだはっきりしていない EUではPBD、PBDEの代替難燃剤として検討中。日本でも化審法での扱いについて毒性を調査中 |
用途 | 懸念事項 | EPAの措置 | 備考 |
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工業洗剤(界面活性剤)、エチルセルロースの安定剤、油溶など | 哺乳動物に対する急性毒性は低いが水棲生物に対する毒性がある。特に内分泌かく乱物質として作用。また分解すると、ノニルフェノールとオクチルフェノールになる。両者とも魚、藻、無脊椎動物に極めて有毒である | ・工業用洗剤に含まれているNPEsの自主的な段階的廃止を支援・奨励する ・代替案アセスメントを開発し、NPEsを水域に放出する他の産業(すなわち、パルプ・製紙加工セクター及び繊維加工セクター)においてもNPEの廃止を奨励する ・懸念リストに追加するためにTSCAに基づく規則制定を検討する ・「有害物質排出インベントリー(TRI) 」に追加するために規則制定を開始する |
・哺乳類に対する毒性は確認されていないが、水棲動物に対する毒性が認められるため、世界的に代替品探しと使用を控える方向性は同じ |
ナノスケール物質の毒性は未確認ではありますが、環境中に一度拡散すると回収が非常に難しいため、その安全性が完全に確認されるまでの期間において、各国ではその扱いやリスク管理を慎重に検討しています。
米国において、EPAは2005年以降、100件を超えるナノスケール物質の新規届出を受理し、ナノスケール物質へのばく露抑制及び限定のため、いくつかの措置を講じました。その一部は、以下の通りです。
世界的な有害化学物質の規制の傾向を見ると、明確な毒性がない場合でも「難分解性・高生体蓄積性」がある場合は概ね「使用を止める方向」に進む傾向が見られます。これは、かつてのフロンのように、生体に対する明確な毒性はないものの難分解性であったため「オゾン層を破壊する物質であると判明した時点で、もはや打つ手がなかった」という苦い経験から、このような方向性が出ているように思われます。ナノスケール物質に対しても、類似物質がこの世の中に存在しないことから、将来環境に拡散した場合にどのような影響があるか判らないため、極めて慎重な対応が取られているように思われます。
また、同じ物質であっても新しい用途に使用する場合は、やはり慎重な対応が求められており、これもEUにおけるREACH規則のように、「既存物質があっても、新規用途は新規」という慎重な姿勢が見られます。
EUのREACH規則では約300万種類もの化学物質が登録された模様です。化学物質は使い方によって毒にも薬にも成りうるため、規制が非常に難しく、一筋縄では行かないところに各国の苦労があるように思われます。