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環境関連情報

米国の有害物質規制法(TSCA)の改正・実施強化(その1)

情報発信日:2011-01-26

はじめに

前月2010年12月付けの「米国における環境法規制」においても簡単に述べましたが、欧州のREACH規則や日本の化審法に相当する米国の有害化学物質規制法(TSCA)は、1976年に「工業化学物質の製造及び使用を規制するための主要な法律」として制定されましたが、制定から30年以上が経過しているにも関わらず抜本的な改正が行われて来なかったため、欧州や日本などに比べて有害化学物質に対する評価とリスク管理が十分に出来ていないとして、2009年にEPA(米国環境保護庁)より改正提案が行われ、2010年に米国の上院・下院でそれぞれ化学物質の評価とリスク管理に関する法案が提出され審議されて来ました。

この結果につきまして、去る2011年1月13日にEPA(米国環境保護庁)担当官が来日し、TSCA改正に向けた最新動向の説明会があり、その資料が入手出来ましたので概要を報告します。

現状での米国の有害化学物質規制法(TSCA)の課題

以上の状況を改善するため、以下6つの原則に従って今回の改正が行われます。

【原則1】既存化学物質の安全性の再確認

化学物質は、信頼性のある健全な科学に基づいて人間の健康と環境を保護するリスクベースによる安全基準に照らして審査されるべきである。
現行TSCA 改正TSCA
既存化学物質の安全性を再確認するための強制的な審査が行われていない。 市場に流通している全ての既存化学物質も、安全性を確認するための審査の対象とする。

【原則2】既存物質に関する安全性データのEPA提出義務

製造者は新規及び既存の化学物質が一般の人々や環境を危険にさらす事なく安全であることを結論づけるために必要な情報をEPAに提供するべきである。
現行TSCA 改正TSCA
現在利用可能なデータとしては「製造者に提出が要求されている新規化学物質に関する情報」しかなく、既存化学物質に対してはデータ提供が義務づけられていない。追加情報の収集は大変時間が掛る規則制定を通してのみしか行われない。 製造者に対して「流通している全ての商業用物質」に関する重要なデータを提供する様に義務づける。EPAには、製造者に対して、その他必要なデータの提供を迅速に要求出来る明確な権限が付与される。

【原則3】EPAによる有害化学物質のリスク管理措置権限の強化

リスク管理の決定においては、子供等の影響を受けやすいグループ、コスト、代替品の利用可能性及びその他の関連検討事項を考慮するべきである。
現行TSCA 改正TSCA
リスクが判明した化学物質を制限、または禁止するために、迅速で効果的な規制措置をとるために障害があった。 化学物質が安全基準を満たさなかった場合、EPAにリスク管理措置を取るための明確な権限が与えられる。

【原則4】既存化学物質を含む臨機応変な評価・処置の実施と権限

製造者とEPAは、既存・新規を問わず優先度の高い化学物質について適宜評価を行い、措置を講じるべきである。
現行TSCA 改正TSCA
化学物質の見直しは、強制力の弱い要件と手続き上の問題により妨げられている。既存化学物質を見直す要件が設けられていない。 特に影響を受けやすい子供などの集団にリスクをもたらす化学物質の見直しを行うための明確で強制力のある実行可能な期限を設定する。

【原則5】グリーン・ケミストリーの奨励と企業秘密を理由とする情報非公開の原則禁止

グリーン・ケミストリーを奨励し情報の透明性を確保し、一般人への情報公開を保証する規定を強化するべき。
現行TSCA 改正TSCA
グリーン・ケミストリーへの取組は自主的で強制でない。多くの重要な情報は「企業秘密」という理由で開示されていない、或いは一般には入手できない。 グリーン・ケミストリーは明確に奨励され企業秘密を理由とする非開示は大幅に制限される。一般に対してより多くの質の高い情報が開示される。
注:グリーン・ケミストリーとは、汚染物質を排出することなく有用な化学製品を作る、環境に優しい化学を創造するための考え方のこと。廃棄物はできるだけ出さない、原料をなるべく無駄にしない形の合成をする、人体と環境に害の少ない反応物・生成物にする、毒性のなるべく低い物質を作るといった地球環境改善のための対策が「グリーン・ケミストリーの12箇条」として提唱されている。将来へ継続的に維持活動を行うことが重要であることから、グリーン・ケミストリーは「サステナブル・ケミストリー(持続可能な化学)」とも呼ばれている。(Wisdom ビジネス用語辞典より)

【原則6】化学物資リスク管理のためのEPAの予算付与

EPAには、法律の施行・遂行のために継続的な資金と予算が与えられるべき。
現行TSCA 改正TSCA
製造者が新規化学物質の審査に対して支払うわずかな費用ではEPAの業務が運営出来ない。 化学物質の審査費用を賄うために支払われる費用はEPAが化学物質の安全性を確認するための業務を賄えるものとする。

議会(上院及び下院)に提出された法案骨子

優先化学物質 優先リストに登録されてから18ヶ月以内
高生産化学物質 制定後3年以内
中生産化学物質 制定後4年以内
低生産化学物質 制定後5年以内
新規化学物質 製造前届出の提出時

米国の有害化学物質規制法(TSCA)改正の要点

1. 化学物質の優先順位付け

2. 安全基準

3. リスク管理

4. 新規化学物質と新用途

5. データの管理と開示

6. その他の主要な規定

まとめ

米国の有害化学物質規制法(TSCA)は、1976年に制定されて以来30年以上も大幅な改正がないまま、EUのREACH規則や日本の化審法に比べて有害化学物質の評価やリスク管理が不十分であり大幅な改正が必要であるとのEPA(米国環境保護庁)長官の提案を受けて、上院及び下院において、それぞれ法案が提出され審議が行われた結果、改正に向けた骨子・要点が公表されました。

骨子・要点を見ると既存物質の再評価、優先物質の特定(REACH規則での高懸念物質:SVHC)、サプライチェーンを通しての情報公開、既存物質で有っても新規用途は新規審査、動物実験の最少化、EPAの権限強化などREACH規則に共通する点が多いように思えます。

具体的な優先規制物質などの詳細については、次月に詳しく述べますが、引用・参考資料5、6を参照願います。

引用・参考資料

  1. TSCA及びEPAの「化学物質管理強化プログラム」 (米国環境保護庁:EPA)
  2. 米国議会図書館の立法情報システム 
  3. 米国有害物質規制法(TSCA)の解説及び改正の最新動向について<日本語> (化学物質国際対応ネットワーク)
  4. 米国有害物質規制法(TSCA)の解説及び改正の最新動向について<英語> (化学物質国際対応ネットワーク、EPA)
  5. 米国における化学物質管理強化への取組について<日本語> (化学物質国際対応ネットワーク)
  6. 米国における化学物質管理強化への取組について<英語> (化学物質国際対応ネットワーク、EPA)
  7. グリーン・ケミストリー (wisdom 環境用語辞典)

注意

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