企業における「気候関連財務情報開示」の流れ　#2

～気候変動に関連した情報開示の最新動向～

2020年1月15日

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はじめに

2019年末に世界気象機関が発表したレポートは、「2018年度における大気中のCO2濃度は依然として増加傾向にあり、温室効果ガスの濃度は過去最高値を更新した」と記しています。

平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満（できれば1.5度）に抑えるという長期目標を持つ「パリ協定」が2020年からスタートします。その実施を前に、気候変動枠組条約第25回締約国会議（COP25）が、2019年12月2日から2週間の会期で、スペイン・マドリードにおいて開催されました。しかし、現状における各国の温室効果ガス削減目標が100％達成されても3.2℃の上昇が予測され、各国に対するさらなる目標の上積みが求められました。排出量上位の国々は明確な回答を避け、特に「石炭火力推進姿勢」を改めない日本は非難を浴びましたが、具体的な削減の道筋を示すことはできていません。

このように、世界各国の政府においては「自国ファースト」の傾向が強く、先進国と途上国の利害の衝突など、温暖化防止の流れには暗雲が垂れ込めているように思えます。

一方で、民間においては機関投資家や金融機関などが、温室効果ガス排出量削減に消極的な企業への投融資を避け、逆に温室効果ガス排出に関して積極的に対策をとる企業に優先投融資を行う流れができつつあります。

このような状況で各企業が取組み始めている取組みの1つに「自社における気候変動関連財務情報開示」があります。

この流れに関しては2019年7月17日付け本コラム「企業における「気候関連財務情報開示」の流れ～ESGの先、TCFD提言とは～において、「G20財務大臣・中央銀行総裁会議の指示により金融安定理事会（FSB）が設置した『気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）』の提言（以下「TCFD提言」と言う）が2017年6月に公表されたことをきっかけに、気候変動に関する企業の取組について、投資家等からの情報開示の要請が高まっています」と述べました。また、ESGの中でも企業のE（環境）への取組み状況に対する投資家の関心はますます高まってきており、特に地球全体における最重要の環境課題と言える『気象変動に対する取組み』に関する情報開示が強く求められてきている、とも述べました。

昨今、このTCFD提言に基づく開示競争が急速な勢いで広がりを見せてきていますので、今回はその状況を紹介したいと思います。

TCFD提言とは（おさらい）

TCFD提言については、2019年7月17日付け本コラム「企業における「気候関連財務情報開示」の流れ～ESGの先、TCFD提言とは～において概要を説明していますが、再度整理しておきます。

※以下経済産業省の資料及びTCFDのウェブサイトの記載を用いて記します。

（1）TCFDとは

a）　気候関連の情報開示に関するグローバルな要請を受け、民間主導の気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）が発足。
b）　2017年6月に提言をまとめた最終報告書を公表。
c）　ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標の4項目について開示する事が求められています。

（2）TCFDの動き

a）　G20からの要請を受け、金融安定理事会（FSB）が2015年に設置した民間主導の「気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD：Task Force on Climate-related Financial Disclosures）」
b）　Michael Bloombergを議長とする32名のマンバーによって構成。
c）　TCFD提言に対する実際の開示状況をまとめたステータスレポートを2018年9月に公表。
d）　さらに、第2版のステータスレポートを2019年6月に公表。

（3）開示推奨項目

以下の「ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標」の4項目について開示することが求められている。
a）　ガバナンス＝気候関連リスク・機会についての組織のガバナンス
b）　戦略＝気候関連リスク・機会がもたらす事業・戦略、財務計画への実際の/潜在的影響（2℃シナリオ等に照らした分析を含む）
c）　リスク管理＝気候関連リスクの識別・評価・管理方法
d）　指標と目標＝気候関連リスク・機会を評価・管理する採の指標と目標

（4）TCFD賛同企業・機関（出所：経済産業省）

TCFDでは、気候変動に関する財務情報開示を積極的に進めて行くという趣旨に賛同する機関などを公表しており、TCFDに対して世界全体では金融機関を初めとする920の企業・機関が賛同し、日本では212の企業。期間が賛同の意を示しています（詳細は下表、2019年12月9日現在）。

（5）TCFD取組み事例

a）　トヨタ自動車＝2018年9月、「気候変動に関するシナリオ分析」を掲載した環境報告書を発行し、2030年までに2℃未満を達成するための、電気自動車比率の目標を設定。
b）　日立製作所＝気温上昇により大規模水害被害が予想される東南アジア地域の同社拠点リスクと防災事業拡大の機会などを分析。
c）　三井住友フィナンシャルグループ＝温室効果ガス削減事業の支援の表明
d）　GSユアサコーポレーション＝事業活動に伴う温室効果ガス削減と蓄電池技術による再生可能エネルギーの有効利用
e）　その他、TCFDコンソーシアムへの参加表明が先にあり、具体的な取組はコンソーシアムでの議論を通じて進捗を開示する表明が多い。

（6）TCFDコンソーシアムとは

TCFDコンソーシアムとは、一橋大学大学院・伊藤邦雄特任教授を始めとする計5名が発起人となり、TCFDコンソーシアム（以下「コンソーシアム」）の設立が呼びかけられ、2019年5月27日に設立総会が開催されました。コンソーシアムでは、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論が行われる予定です。

コンソーシアムでは、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論が行われます。
TCFDコンソーシアムは総会、企画委員会、情報開示ワーキンググループ、情報活用ワーキンググループ及びアウトリーチイベントによって構成されます。
企画委員会により活動方針を定め、2つのワーキンググループを定期的に開催します。

TCFDコンソーシアムへの入会は「TCFD規約」に同意すれば可能です。

詳細は以下「入会案内・お申し込み」より

まとめ

（1） 2019年末に行われた世界気象機関（WMO）の報告によると2018年の温室効果ガスは依然として増加傾向にあり、増加率は鈍ることなく過去最高を記録した。
（2） 2020年よりスタートするパリ協定で各国が目標とする削減目標が100％達成されても3.2℃の上昇が計算され、それに先立ち2019年末に行われた気候変動枠組み条約第25回会合（COP25）において、各国の削減目標の上積みが求められたが、我国を含む排出大国からは具体的な回答は得られなかった。
（3）各国政府の対策は、自国ファーストの風潮が強くなり、明るさが見通せない状況にある。
（4）一方、機関投資家や金融機関などが投融資先を評価する場合に企業の気候変動対策や方向性、リスク管理等に関する情報開示を強く求める傾向が益々強くなって来ています。
（5）特にG20財務大臣・中央銀行総裁会議の指示により金融安定理事会（FSB）が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）」に基づくTCFD提言に賛同する企業や機関が急速に広がりを見せて来ています。
（6） TCFD提言賛同企業は、TCFDコンソーシアムに参加して活動をする道がありますので、これを機会に検討する事をお勧めしたいと思います。

引用・参考資料

企業における「気候関連財務情報開示」の流れ～ESGの先、TCFD提言とは～　（日本バルブ工業会、2019年7月17日）
2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#20～大気中の温室効果ガス濃度が過去最高に～　（日本バルブ工業会、2019年12月18日）
COP25報告：パリ協定　積み残されたルールの議論が紛糾　（WWF:世界自然保護機関、2019年12月18日）
2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#17～環境省がSBT達成企業を支援～　（日本バルブ工業会、2019年9月20日）
気候変動に関連した情報開示の動向　（経済産業省）
TCFD開示競争が始まった～見えてきた4つの課題～　（日経ESG、2019年6月24日）
TCFDコンソーシアム　（TCFD）

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