企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践　＃4

～SDGs実践のためのガイドライン#2～

2019年4月22日

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はじめに

最近、TVを観ていると、政治家や経済人などが図3のバッジを付けている姿をよく見かけます。このバッジは国連本部の売店でしか売っていないそうですが、国連開発計画（UNDP）のオンラインショップにて購入可能だそうです。

さて、前回に続き、SDGsを実際に企業経営に取り入れるための公式ガイドラインであるSDGs Compassのステップ3「目標を設定する」について概要を解説します。

SDGs Compassステップ3「目標を設定する」

SDGsを実際に企業経営に取り込むためには、まずステップ1「SDGsを理解する」でSDGsとは何か、なぜ企業経営に取り込む必要があるのかを把握し、ステップ2「優先課題を決定する」では、自社のバリューチェーンをマッピング・分析し、自社がSDGsの17の目標に対して正の影響を与えている部分と負の影響を与えている部分をしっかり把握します。その中から、どの目標に対してどのように取り組むかの優先課題を決定します。

今回はステップ3「目標を設定する」について読み解いて行きたいと思います。

（1）目標範囲を設定し、KPI（主要業績評価指標）を選択する

ステップ2で決定した優先課題に対して漠然とした目標ではなく、「いつまでに、どの位の目標を達成するのか」を数値として表現できる課題をできるだけ選ぶとよいでしょう。そして、可能な限りその活動の影響または結果に直接対応するKPI を選択することが望ましいですが、KPI の選択が困難または不可能な目標の場合は、各企業が投資しようとする資本等の資源、あるいは実施しようとする研修などの具体的な活動を対象とする指標など、影響の代替指標とみなすことができるKPIを選択することが推奨されます。

ただし、、企業は一般的に使用されている指標をKPIとして選択するべきです。「一般的に使用されている指標」についてはSDGs Compassのサイトに各SDG ターゲットに対応する一般的な事業指標がまとめられたデータベースがありますので、これを参考にするとよいでしょう。

（2）ベースラインを設定し、目標タイプを選択する

目標を設定するには、適正なベースラインの設定が必要となりますが、いくつかの例を示します。

例1）　特定の時点をベースラインにする
たとえば、「女性役員の数を2013 年末のベースラインと比較して2020 年末までに40%増加させる」という目標を設定する場合。
例2）　特定の期間をベースラインにする
たとえば、「2018 年から2020 年までの3年間の平均水使用量を、2006 年から2008 年までの平均水使用量と比較して50% 削減する」という目標を設定し、短期的な変動の影響を排除する場合。

解説）　ベースラインをどこに設定するかによって、目標達成に大きな影響を与えますので、ベースラインの設定にあたっては、選択の仕方と選択理由などを明確にして透明性を高める必要があります。

企業の合併、吸収、撤退などがありベースラインに変更が生じた場合はベースラインの修正する必要が生じます。

目標値については
例3）絶対目標（KPIのみを考慮）
たとえば、「安全衛生事象の発生率を2015 年から2020 年までに30%削減する」という目標を設定する場合。
例4）相対目標（原単位目標、KPI を産出の単位と比較する）
たとえば、「企業の単位売上高に対するスコープ1 の温室効果ガス排出量を、2014 年から2018 年までに25%削減する」という目標を設定する場合。

解説）　絶対目標は、社会に対して及ぼすと期待される影響を表すのに最適ですが、企業の成長（または衰退）を考慮していません。

他方、相対目標は産出単位当たりの達成度の測定における正確性に優れていますが、目標が与える影響については把握しきれません。

どちらの目標でも完全な全体像は把握出来ませんので、単に目標値を示すだけでなく各企業が目指す影響を説明する必要があるといえます。

（3）意欲度を設定する

設定する目標値は、ステークホルダーの意見なども踏まえ、達成容易な控えめの数値とせず、むしろ目標達成の道筋が見えないような高い意欲的な目標を設定する方が、イノベーションや創造性を促進するので望ましいといえます。

「意欲的な目標を決定すること」で宣伝効果や、業界のリーディング企業が同業者に働きかける効果を生むこととなります。（トップランナー方式）
温室効果ガスの排出量削減についても、過去の延長線上での目標設定では、地球温暖化防止は不可能であるという事実を考慮した「目標値」を設定する必要があるという事であり、目標値設定に対する十分な説明が必要であるといえます。

SDGs Compassでは

「現在および過去の業績を分析し、今後の動向と道筋を予測し、同業他社を基準に評価するのが、これまでの企業の在り方であった。しかし、そのような目標の一体的な影響では、グローバルな社会的、環境的な課題に十分対処することはできない。」と断言しています。

また、「SDGs は、世界レベルにおいて望まれる到達点に関する前例を見ない政治的合意であり、企業にとっても広範な持続可能な開発の課題の違いを超えて同様のアプローチを採用する機会を提供するものである」と述べています。

SDGsは2016年から2030年までの目標ですので、企業における目標も2030年までの15年間の計画が必要と成りますが、5年後、10年後の到達点の設定も必要です。

実例：目標設定アプローチの採用

インサイド・アウト・アプローチ（従来型目標設定）目標設定に対し、内部中心的なアプローチを取る今日的なあり方では、世界的な課題に十分対処することができない。		アウトサイド・イン・アプローチ（SDGs型目標設定）世界的な視点から、何が必要かについて外部から検討し、それに基づいて目標を設定することにより、企業は現状の達成度と求められる達成度のギャップを埋めていく。SDGsは、国際的に望ましい到達点に関しての前例のない政治的合意である。

図4　インサイド・アウト・アプローチとアウトサイド・イン・アプローチ
（出典：SDGs Compassより筆者が再描画）

（4）SDGs へのコミットメントを公表する

企業がSDGsと連動した目標設定を行った場合に、その目標の一部、望ましくは全部を公表することは、ステークホルダーに対しての効果的な情報発信の手段となるといえます。

SDGs Compassは「それは、持続可能な開発に関する企業の志が簡潔かつ実用的な言葉で表現されているからである」と述べています。

目標を公表することは、従業員のやる気、取引先との話題作りなど効用がある反面、目標達成までの期間と目標数値を公表する訳ですから、未達成の場合には批判に晒されるリスクはありますが、取組の内容、達成状況、課題等を定期的に情報発信して透明性を高めることが有用と述べられています。

さらなるメリットとして、企業は国連のウェブサイトにおいてSDGs と連動した目標を公表することができます。ただし、、その場合、各企業は目標達成状況について、持続可能性報告または統合報告という既存の方法により毎年情報発信することを誓約し、透明性要件を満たさなければなりません。

まとめ

（1）企業がSDGsと連動した経営目標を立てて推進する場合には、SDGs Compassが公式ガイドラインとして有用です。

（2）前回までに説明した内容
ステップ1：SDGsを良く知り、なぜ企業がSDGsと連動した経営目標を立てる必要があるのか
ステップ2：企業はサプライチェーンをマッピングして自社の現在の活動によりSDGsの目標に対して正の影響を与えている部分と負の影響を与えている部分を明確にし、今後SDGsと連動して経営を進める上での優先課題を決め、課題への取組む前に「ロジックモデル」と呼ばれる5段階のプロセス（投入⇒活動⇒産出⇒結果⇒影響）でシミュレーションを行うことが有用です。

（3）今回説明したステップ3「目標を設定する」では、
a）　まず、「目標範囲を設定し、KPI（主要業績評価指標）を選択する」では、目標は「達成までの期間と目標値を具体的な数字で示せる項目」を選定しますが、一般的に用いられる目標項目を選択する（SDGsのサイトに一般的な目標項目のデータベースがあるので参照するとよい）、目標数値が設定し難い項目の場合は資本投入、研修など代替数値を用いる。
b）　次の段階として「ベースラインを設定し、目標タイプを選択する」では目標値に対するベースラインを明確にすることが重要となります。ベースラインを何処に設定するかによって、目標達成度が大きく変わってしまうためです。ベースラインには「特定の時点をベースラインにする」、「特定の期間をベースラインにする」が、目標値には「絶対目標」、「相対目標」があり、本文中に例が示されていますので、この辺を明確にして目標を設定することが必要です。
c）　目標値に対する意欲度です。従来は、過去の実績や同業者との比較などから目標設定を行うインサイド・アウト・アプローチですが、SDGsの目標は例えば温室効果ガス排出量削減に関する課題では、「地球温暖化を防止するためには、この位の削減が必要」という科学的な根拠から逆算して目標値を設定するアウトサイド・イン・アプローチによります。従って、目標値は、簡単には達成出来ない意欲的なものを設定することになります。しかし、これを達成するためにイノベーションや創造性が発揮され企業を活性化することが出来ます。反面、計画期間に目標が達成出来なかった場合には批判に晒されるリスクもありますので、逐次情報発信を行い、透明性を高める事が有用です。
d）　SDGs へのコミットメントを公表する
これら目標は公表することが必要で、条件はありますが国連の公式サイトにてSDGsと連動した目標を公表することができます。

（4）筆者はSDGs Compassを読むにつれ、「従来のように企業が横一線で生き残れる時代は終わり、トップランナー方式で、業界ナンバーワン企業が先駆的に走り、他の企業がこれを必死で追いかける。そして従来の考え方の延長線上では持続可能な企業経営は成り立たない」という思いが強くなっていきますが、皆様はいかがでしょうか。
「まだSDGsに関わらなくても何とかなるだろう。」と思わず、後を追うより先を走った方が楽だと思いますので、早めにこの潮流に乗ってはどうでしょうか？
即ち、従来の「エネルギーも資源も無限であり、企業は永遠に成長する時代」から「エネルギーも資源も有限であるにも関わらず人口が増加して行く中で、持続可能な開発を進める時代」へのパラダイム・シフトの渦中に既にあることにいち早く気付き行動することが重要だと思えます。

引用・参考資料

SDGs Compass和訳版　（GRI/国連グローバル・コンパクト/ｗｂｃｓｄ/IGES）
SDGs Compass web site　（GRI/国連グローバル・コンパクト/ｗｂｃｓｄ）
国連パートナーシップパスポート　（国連グローバル・コンパクト）
国際連合広報センター　（国際連合広報センター）
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