企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践　#3

～SDGs実践のためのガイドライン　#1～

2019年3月19日

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はじめに

SDGs（Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標）は2015年9月の国連総会において、2016年から2030年までの15年間における国連加盟国共通の目標として採択されました。

このSDGsについては、本コラム2018月10月25日付け「最近の経営のキーワード『ESG経営』『SDGs』」とは」において、経営の方向性にSDGsを取入れる企業が増えてきており、今後経営のキーワードになりつつあること伝えました。

また、本コラム2019年1月21日付け「企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践 #1～SDGsを詳しく知る～」において、SDGsについて、具体的な内容をお知らせしました。さらに、本コラム2019年2月18日付け「企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践　#2～SDGsをCSRに組込む意義～」においては、企業が経営の指標としてSDGsを取入れる意義やメリットについて記しました。

今回より、企業が実際にSDGsを経営の方針に取り込む場合の公式ガイドラインである「SDGs Compass」を読み解き、私見も交えて、ステップごとの具体的な行動について解説して行きたいと思います。

SDGs Compassとは


グローバル・レポーティング・イニシアチブ	国連グローバル・コンパクト	持続可能な開発のための世界経済人会議	公益財団法人地球環境戦略研究機関

SDGs Compassは、GRI、国連グローバル・コンパクト、WBCSDの三者により作成され、和訳にあたっては、IGESが協力して作成されました。各々の機関については以下の通り。
・GRI（グローバル・レポーティング・イニシアチブ）は、1997 年以降、企業の持続可能性に報告を提唱してきた独立の国際組織である。自前の持続可能性報告基準とマルチステークホルダーのネットワークを通じて、世界各地の意思決定者に対し、経済と世界をより持続可能なものにするために働きかけることを使命とする。

・国連グローバル・コンパクトは、企業に対しその戦略と事業を人権、労働、環境、腐敗防止等に関する普遍的な原則に連動させ、国連の目的を推進する行動を取ることを要請するものである。160 カ国の8,000 社を超える企業が参加しており、世界最大の企業による持続可能性イニシアチブとなっている。

・持続可能な開発のための世界経済人会議（WBCSD）は世界の財界に対し、企業、社会および環境にとって持続可能な未来の創造を働きかけることを使命とする。現状を変革するビジネス・ソリューションを拡充するため、200 社の会員企業からなるフォーラムを主催している。

尚、本ガイドラインの和訳版は、公益財団法人地球環境戦略研究機関とグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンによって、行われました。

・地球環境戦略研究機関（IGES）が研究対象とするアジア太平洋地域では、経済発展に伴い人口増加や都市化が進み、環境問題（地球温暖化、資源の枯渇、生物種の絶滅など）や貧困問題が深刻化しています。IGESでは、各国の政府・研究機関・企業・NGO・国際機関・市民の皆さんと協力しながら、これらの問題の解決方法を研究し、環境を守りながら人々が豊かに暮らせる持続可能な社会を目指して、様々な提案を行っています。

SDGs Compassとは何かについては、SDGs Compassの冒頭に「SDG Compass の目的は、企業がいかにしてSDGsを経営戦略と整合させ、SDGs への貢献を測定し管理していくかに関し、指針を提供することにある」と記されており、企業がSDGsを経営戦略として取り組むためのガイドラインであると位置付けられておりますので、これからSDGsを自社の経営戦略として取り組む場合には、必読書といえます。

SDGsを企業経営に取り込むための5つのステップ

SDGs Compassは企業がSDGsに最大限貢献できるようにするために、5つのステップを設定しています。

【ステップ１】　SDGsを理解する

第1ステップは、企業がSDGs に関し十分に理解することを支援するものであり、

・SDGsとは何か？
・企業がSDGsを利用する理論的根拠
・企業の基本的責任

【ステップ２】　優先課題を決定する

第2ステップはSDGs によってもたらされる最も重要な事業機会をとらえ、リスクを減らすために、企業は、そのバリューチェーン全体を通して、SDGs に関する現在および将来の正および負の影響を評価し、それに基づき、それぞれの優先的に取り組む課題を決定するという作業を行います。

SDGsは17の目標と169のターゲットから構成されていますが、自社の事業形態や方向性からどの目標及びターゲットが関連付けられるかを吟味して優先課題を抽出するものであり、決して全ての目標及びターゲットを関連付ける必要は無く、１つでも２つでもできるところから取り組むことが重要といえます。

・バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する。
・指標を選択し、データを収集する。
・優先課題を決定する。

【ステップ３】　目標を設定する

目標の設定は、事業の成功にとって重大であり、企業全体を通じ、優先的事項の共有を促進し、パフォーマンスを改善する。企業は、その目標をSDGs と整合させることによって、企業のリーダーは持続可能な開発に対する明確なコミットメントを示すことができる。

・目標範囲を設定し、KPI（主要業績評価指標）を選択する。
・ベースラインを設定し、目標タイプを選択する。
・意欲度を設定する。
・SDGsへのコミットメントを公表する。

【ステップ４】　経営へ統合する

中核的な事業と企業ガバナンスに持続可能性を統合し、企業内のすべての機能に、持続可能な開発目標を組み込むことは、設定された目標を達成する上で鍵となる。共有された目的を追求し、組織的な課題に取り組むためには、バリューチェーン全体を通じて、そのセクター内、あるいは、政府や市民社会団体とのパートナーシップにより協働していく必要がある。

・持続可能な目標を企業に定着させる。
・全ての部門に持続可能性を組み込む。
・パートナーシップに取り組む。

【ステップ５】　報告とコミュニケーションを行う

企業は、共通の指標や共有された優先課題を活用して、持続可能な開発に関するパフォーマンスを報告することができる。SDG Compass は、企業が、SDGs に関する事項を、多くのステークホルダーとの意見交換や報告に導入していくことを推進する。

・効果的な報告とコミュニケーションを行う。
・SDGs達成度についてコミュニケーションを行う。

ステップ2 「優先課題の決定」の実践

※ステップ1のSDGsを詳しく知る、SDGsを企業経営に取り込む意義などについては、以前のコラムで説明済みですので、今回のコラム以降は、ステップ2～5について解説します。今回はステップ2の「優先課題の決定」について、詳しく解説したいと思います。

SDGsの17の目標は各企業にとって等しく重要であるというわけではなく、各目標に対して自社が貢献できる程度や各目標に関するリスクと機会は種々の要因に左右されます。そこで、SDGsに戦略的にアプローチするためには、自社のバリューチェーン全体を通じて自社の企業活動がSDGsに及ぼしている、あるいは、及ぼす可能性のある正または負の影響を把握することにあります。それによって、正の影響を拡大する分野と、負の影響を低減もしくは回避する分野を特定できるようになります。

手順としては、

（1）バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する。
（2）指標を選択し、データを収集する。
（3）優先課題を決定する。

図1　バリューチェーンにおけるSDGsのマッピング例（SDGs Compass和訳版を参考に筆者が作成）

◆バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する。

自社のサプライチェーン（原料調達から製品の廃棄まで）の各段階において、SDGsの17の目標と169のターゲットの課題に対して、直接または間接的に現在及び将来において正の影響と負の影響を与えているかを、詳細ではなく俯瞰的に判定し、影響が大きそうな課題を抽出してみる（ブレーンストーミング的に各段階で正と負の影響を抽出してみる）。

図1の例では、

【正の影響】

目標 8	企業が国内外の事業所において従業員に十分な賃金を支給し安定した雇用の強化を優先課題とする。
目標13	・自社製品の使用によって消費されるエネルギーをより少なくする製品改良により温室効果ガスの排出量削減に努める事を優先課題とする。・自社事業所で使用する電力量の削減、再生可能エネルギーの積極的利用促進を優先課題とする。

【負の影響】

目標6	自社に納入する部品を供給するため、サプライヤーが大量に消費している洗浄水の削減を優先課題とする。
目標11	製品の配送時、梱包材料によって発生する大量の廃棄物を削減するため、包装の簡素化、通函の利用、無包装などの強化を優先課題とする。
目標12	自社の製品廃棄時に、再利用、再資源化を妨げる材料、構造、形状が多いが可能な限り再利用、再資源化し易い製品改良を優先課題とする。

◆指標を選択し、データを収集する

バリューチェーンをマッピングした次は、各企業がSDGsに与える影響を把握するためには、事業活動を経済的、環境的および社会的な影響に置き換えて認識することが重要です。このためには、ロジックモデルと呼ばれる5段階のプロセス（投入⇒活動⇒産出⇒結果⇒影響）で追ってみる。この際、ステークホルダーと協働で作ると有益である。

（トイレの未整備によりもたらされる社会・衛生環境問題の解決を目指し、安価で高品質なトイレを途上国に提供。）


研究開発費、製造費、マーケティング費	安価で高品質なトイレを途上国に提供	トイレの未整備によりもたらされる社会・衛生環境問題の解決を目指す	感染症による疾病の減少	女性や若者に対して新たな雇用の創出、ジェンダー平等、途上国のトイレ市場の環境整備

図2　具体例：（株）LIXILにおけるロジックモデル（SDGs Compass及び外務省資料より筆者が作成）

◆優先課題を決定する

以上によって選択された課題にどのように優先順位を付けるか？

この優先順位付けは、水ストレスの高い場所における水の使用量が多い事業所と水使用量が多いが、水資源が豊富な場所の事業所では、同じスケールで評価は出来ない。
優先課題を決める場合、SDGs CompassのWebサイトのビジネスツールまたはビジネス指標などを用いて、自社事業に関連するデータの在庫があればこれを利用することが有用といえます。

まとめ

（1）実際にSDGsを自社の企業経営目標に取組む際にはガイドラインとして、国連を中心として公的機関が公表しているSDGs Compassをガイドラインとして利用するのが好ましい。
（2）SDGs Compassに取組む為には5つのステップを経て取り組むようにガイドラインを示している。
（3）5つのステップのうち、第１ステップのSDGsの理解、SDGsを企業経営に取組む意義は、既に説明しているので今回より、ステップ２より、各ステップの概要を説明する。
（4）SDGsを企業経営に取り込む場合の第２ステップは、自社の

・バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する。
・指標を選択し、データを収集する。
・優先課題を決定する。

の手順に従ってSDGsの課題における自社の正と負の影響をバリューチェーンにてマッピングし、個々の課題に対して評価を行い、対応するべき優先課題を決定する事から始める必要がある。
（5）どの課題を優先するかの指標の評価は、SDGs Compassのwebサイトのビジネスツールまたはビジネス指標が使える場合は、これを使った方が良い。
（6）次回は、ステップ３について詳細する。

引用・参考資料

SDGs Compass和訳版　（GRI/国連グローバル・コンパクト/WBCSD/IGES）
SDGs Compass web site　（GRI/国連グローバル・コンパクト/WBCSD）
最近の経営のキーワード「ESG経営」「SDGs」とは～今、経営に求められている方向性～　（日本バルブ工業会、2018年10月25日）
企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践 #1～SDGsを詳しく知る～　（日本バルブ工業会、2019年1月21日）
企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践　#2～SDGsをCSRに組込む意義～　（日本バルブ工業会、2019年2月18日）
GRI（グローバル・レポーティング・イニシアチブ）
国連グローバル・コンパクト
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン
持続可能な開発のための世界経済人会議（WBCSD）
ジャパンSDGsアワード（外務省）

注意

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企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践 #3

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