環境フットプリントとは

～カーボンフットプリントだけではないフットプリント～

2025年4月14日

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1.　はじめに

2024年5月の本コラム「カーボンニュートラルへの道　#13～カーボンフットプリントとは～」で、「企業の生み出す商品やサービスが温室効果ガスをどれだけ排出しているかを示す指標であるカーボンフットプリント（CFP)」が最近話題になってきていることを説明しました。

このカーボンフットプリントは、2012年に本コラム「EUの新しい環境規制「環境フットプリント」とは～懸念される日本企業への影響～」で記したとおり、EUにおける環境フットプリント（EFP）という概念が根底にあります。

そして、「環境フットフットプリント」は、2025年3月の本コラム「デジタル製品パスポートとは～早ければ2026年にもEU域内への輸出品に適用か～」で説明した「デジタル製品パスポート」へと繋がっていくことを念頭に置くことが重要と思われます。

カーボンフットプリントを実践するためには、「環境フットプリント」を理解しておく必要があると思われますので、今回はEUで2012年にその概念が示された「環境フットプリント」について解説したいと思います。

図1　環境フットプリントとデジタルパスポーﾄのイメージ（筆者作成）

2.　環境フットプリント（EFP：Environmental Footprint）とは

環境フットプリントとは、簡単にいうと「LCA（ライフサイクルアセスメント）の考えを発展させたものであり、人間の消費活動による環境負荷を測る場合、二酸化炭素以外にも存在する環境に負荷を与える物質すべてを指標物質とし、これを定量化し最終的には個々の製品に対する表示を義務化しようとする動き」と言えます。さらには、製品の製造以外にも、エネルギー事業や水供給事業のような事業活動を行う組織自体、行政や教育などの非生産活動に対しても適用しようと考えられています。

図2　環境フットプリントのイメージ図（筆者が生成AIにより作成したイメージ画像）

2-1.　環境フットプリントの種類

下記分類では内容が重複している場合もあります。
カーボンフットプリント
（1）気候フットプリントとも呼ばれ、製品の製造において排出される温室効果ガスをCO2に換算したものです。温室効果ガス（GHG）の排出量を数値化します。
（2）すべてのGHG排出量を指すこともあれば、CO2排出量だけを指すこともあり、これはエネルギーのフットプリントとも呼ばれる。

ウォーターフットプリント
（1）商品やサービスの生産に使用される淡水の量を測定し数値化します。
製品の生産・加工・流通などのライフサイクル全体を視野に入れて、水環境への影響を定量的に評価します。
（2）ウォーターフットプリントには、主にグリーン、ブルー、グレーの3種類があります。
・グリーン・ウオーターフットプリント：雨水や土壌水の消費量
・ブルー・ウオータープリント：河川水と地下水の消費量
・グレー・ウオーターフットプリント：環境に排出された汚染物質濃度が許容水準になるのに必要な水の量

マテリアルフットプリント
（1）サービスを提供するために使用される材料を科学的に表したもの（資源の採掘量を示すものです）。
（2）4大環境フットプリント（温室効果ガス、水、土地、材料）の一部として計算されることが多いです。
（3）ある国で消費された天然資源の量を表す指標。
（4）化石燃料、金属鉱石、非金属鉱石などの採掘量を反映する。
（5）国のニーズを満たすために必要な原材料の量を反映する。

ケミカルフットプリント
（1）有害化学物質の影響と他の廃棄物との相互作用を含みます。
（2）企業が自社の製品に含まれる化学物質の量や、毒性化学物質からより安全な代替物質への移行状況などを把握・開示する取り組みです。企業が環境負荷の低い製品を提供することで、消費者が環境に配慮した商品を選ぶ目安の一つとなることも期待できます。

廃棄物フットプリント
（1）製品やサービスが環境をどのように汚染するかを測定します。
（2）廃棄物によって環境に与える負荷を計算したもので、環境や社会問題の大きさを知るための指標です。

ランド（土地利用）フットプリント
（1）どれだけの土地が資源として使用されているかを測定します。
（2）人間の生活が自然環境に与える負荷を必要な土地面積に換算した指標で、エコロジカル・フットプリントと同じです。

製品環境フットプリント（PEF）
（1）製品が環境に与える影響を測定します。
（2）製品がどれだけのエネルギーと水を使用し、どのような化学物質を含み、どれだけの廃棄物を出すかを考慮するものです。

生物多様性フットプリント
海洋や森林などの自然資源を人間の経済活動で生産・消費した場合に、生物多様性にどれほどの影響を与えるかを数値化したものです。

エコロジカル・フットプリント
人間の消費活動が地球に与える負荷を測るものです。

その他の環境フットプリント
（1）組織環境フットプリント
組織の事業活動による環境負荷を数値化したものです。EUでは、製品の環境フットプリントと同様に、組織の環境フットプリントの制度化も検討されています。
（2）大気フットプリント
製品のライフサイクルにおいて生じる大気汚染物質による環境への影響を計測する方法。
（3）資源フットプリント
環境フットプリントは、人間の消費活動が環境に与える負荷を数値化したもので、温室効果ガスによる気候変動への影響だけでなく、上記のように人体の健康、生活の質、生態系など複数の環境影響領域を評価します。

2-2.　EFP（環境フットプリント）の意味

（1）人や企業、製品、サービス、地域、国などの環境への影響を数値化した指標
（2）温室効果ガスによる気候変動への影響だけでなく、人体の健康、生活の質、生態系など複数の環境影響領域を評価する。

2-3.　EFPの目的

EFPは、企業の取り組みを可視化することで消費者の意識を高め、双方の意識を共有する活動を行うことができます。

2-4.　EFPの使用場面

（1）環境保護に関心を持つ人々や企業、政府機関などが、自身の環境負荷を把握し、環境負荷を低減するための戦略を考える上で用いられます
（2）持続可能な社会を実現する上で重要な指標であり、環境保護に関する国際的な取り組みや政策立案においても、重要な役割を果たしています。

3.　EFP (環境フットプリント) を提唱したEUにおける動き

EU（欧州連合）のEFPとは、製品やサービスの環境負荷を数値化したもので、製品への表示の義務化などが検討されています。

3-1.　概要

（1）製品やサービスの環境負荷を評価する手法で、ライフサイクルアセスメント（LCA）の考え方を発展させたもの。
（2）気候変動、水、大気、資源、土地利用などの環境領域を評価する。
（3）製品や組織のEFPという概念があり、製品の製造業者や組織を対象とする。
（4）製品や企業活動が環境に与える負荷を定量的に示すことで、環境への影響度を明らかにする。

3-2.　EUのEFPの取り組み

（1）製品分野ごとや業種ごとにEFPの算定ルールを検討するパイロットプロジェクトが実施されています。
（2）製品カーボンフットプリント（CFP）の算定が活発化しており、一部の製品カテゴリーでは表示義務化の検討も進められていまあす。
（3）炭素国境調整メカニズム規則（CBAM）やEUバッテリー規則などの法規制が制定されています。

3-3.　デジタルパスポート制度の実施

2025年3月の本コラム「EUにおけるデジタル製品パスポート」とは～早ければ2026年にもEU域内への輸出品に適用か～」で述べたように、これらのEFPのデータを、消費者を含めた関係者がスマートフォンなどを使って簡単に得ることができる制度が、早ければ2026年にも実施される見込みです。

4.　参考

EU委員会の資料Environmental Footprint Methodsの要点を以下に記します。

概要
（1）今日の環境意識の高い生産・消費環境では、製品や組織の環境影響に関する正確で信頼できる情報の入手が、企業や消費者の意思決定において極めて重要な役割を果たしている。
（2）企業、特に中小企業は、自社の環境パフォーマンスを信頼できる方法で数値化し、伝えるために必要な知識やツールが不足していることが多い。そこで、環境フットプリント法として総称される製品環境フットプリント（PEF）と組織環境フットプリント（OEF）の手法が登場する。
（3）環境フットプリントの手法は、製品や組織のライフサイクルにおける環境影響をモデル化、算出、報告するための綿密なガイドラインを提供するものである。環境フットプリントの手法は、ISO 14000/44 などの確立された国際的な慣行や基準を基盤としている。これらの手法は、生産者や購入者が十分な情報を得た上でより持続可能な選択をするために必要なツールを提供することで、より持続可能な経済へと前進するために役立っている。

ビジネス
環境フットプリントの手法は、製品や組織が環境に与える影響を評価、定量化、伝達、削減するためのツールを企業に提供する。
Learn how to apply the Environmental Footprint methods to your business

消費者
企業が環境パフォーマンスを計算するために、調和され、信頼性が高く、透明性のあるアプローチを採用し、それについて効果的にコミュニケーションすれば、消費者は十分な情報を得た上で選択することができ、より持続可能で責任ある消費形態の発展に貢献することができる。
Check out the Environmental Footprint methods factsheet

政策立案者
政策立案者は環境フットプリントの手法を利用して、バリューチェーンや影響カテゴリーにまたがる環境上のホットスポットやトレードオフの可能性を理解し、より体系的な方法で政策を分析・立案することができる。

研究者
研究者は環境フットプリントの手法を利用して、より調和のとれた方法でライフサイクルアセスメント研究を行うことができる。例えば、持続可能な技術の開発や生産・消費システムの改善に役立てることができる。

5.　まとめ

（1）最近、企業活動の中で、製品の生産から廃棄までに排出される温室効果ガスの総量を数値化するカーボンフットプリント（CFP) が話題になっている。
（2）カーボンフットプリントの上位概念にLCA（ライフサイクルアセスメント）の概念を発展させた「環境フットプリント」があり、炭素のほか、水、材料、化学物質、廃棄物、土地利用、生物多様性などがある。
（3）これら種々のフットプリントは、企業が製品の製造・販売などの企業活動によって環境にどのくらいの環境負荷を与えるかを数値化し、製品に表示することによって、消費者に持続可能な社会構築のためにどの製品を選択するかの情報を提供することになる。
（4）EUにおいては、消費者が、これら種々のフットプリント情報や取扱説明書など必要な情報を容易に得られるシステムとして、デジタルパスポートの導入を予定している。
（5）デジタルパスポートとは、製品や包装に添付したQRコードやNFCチップをスマートフォンで容易に情報を取得できるシステムである。

引用・参考資料

カーボンフットプリント／環境フットプリント　（一般財団法人日本品質保証機構）
環境フットプリント（EF）のパイロット段階における EU組織環境フットプリント（OEF）の実施ガイダンス　（環境省）
Environmental Footprint Methods　（EU委員会）
カーボンフットプリントとは？わかりやすく図解、製品のCO2排出量「見える化」の仕組み　（ビジネス＋IT、2022年4月20日）
EUの新しい環境規制「環境フットプリント」とは～懸念される日本企業への影響～　（日本バルブ工業会、2012年9月21日）
カーボンニュートラルへの道　#13～カーボン・フットプリントとは～　（日本バルブ工業会、2024年5月14日）
カーボンフットプリント制度～経済産業省が検討を開始～　（日本バルブ工業会、2008年7月4日）
デジタル製品パスポート」とは～早ければ2026年にもEU域内への輸出品に適用か～　（日本バルブ工業会、2025年3月10日）

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