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環境関連情報

EUの新しい環境規制「環境フットプリント」とは

懸念される日本企業への影響

情報発信日:2012-09-21

はじめに

経済産業省より関係団体各位へとして当工業会宛に「欧州で制度の導入が検討されている『環境フットプリント』について、情報が届きましたので共有いたします」というメールが届きました。

これの内容を引用しますと、
「近年、温室効果ガス(GHG)排出量削減への対応策の一つとして、製品のライフサイクル全体で排出されるGHG排出量を算定、公表するための基準作りが世界各国で進められており、日本においても本年4月より「カーボンフットプリント制度」の民間運用が始まっています。

これらの動きに加え、新たな国際的潮流として、製品のみならずバリューチェーン全体でのGHG排出量の算定、公表や、GHG以外の環境負荷指標を考慮に入れた基準作りの動きが存在します。

欧州で検討中の「環境フットプリント」は、製品・サービスの環境負荷を一定の算定基準で数値化し、製品への表示の義務化等が想定されています。

日本企業への影響としては、製品や企業の市場におけるポジションに影響を及ぼす等、欧州域外の生産者が非関税障壁のような影響を受ける可能性もある一方、もともと日本企業は他の国や地域の企業と比べて積極的に環境配慮に取り組んでいると言えることから、比較評価に基づいた政策は日本にも充分有利に働くとも考えられます。

我が国としては、日本企業の国際競争にとって障害となり得る要素を取り除き、正当に評価されるルールとするために、多国間会議の場で日本として積極的に情報発信及び意見表明をして参ります。

今後のスケジュールとしては、直近9月11日にベルギー ブリュッセルにおいて欧州委員会が中心となり意見交換のための多国間会議を開催、2012年末の算定ガイド策定に向け個別の対象項目について検討を重ねていく予定です。

その他概要につきましては、添付の資料をご覧ください」とあります。

今回は添付資料を解読し、この「環境フットプリントとは何か」をわかりやすく解説したいと思います。


EUで検討されている「環境フットプリント」とは

「フットプリント」とは日本語で「足跡」のことですが、「環境の足跡」とは一体何のことでしょう。最近環境用語として「カーボンフットプリント」とか「エコロジカルフットプリント」という言葉が使われています。「カーボンフットプリント」とは直訳すると「炭素の足跡」ですが、地球温暖化に最も大きな影響を及ぼしていると考えられている二酸化炭素の排出量を数値に換算したもので、個人の活動や企業の活動の結果による製品やサービスにより「どの程度の二酸化炭素が排出されているか」を把握するのに用いられています。(詳細は本コラムの2008年7月版「カーボンフットプリント制度」参照)

また「エコロジカルフットプリント」とは人間活動により消費される資源量を分析・評価する手法のひとつで、人間ひとりが持続可能な生活を送るのに必要な生産可能な土地面積(水産資源の利用を含めて計算する場合は陸水面積となる)として表わされる(詳細は本コラムの2011年1月版「エコロジカルフットプリント」参照)。

また、「LCA」という言葉があります。LCAとは「ライフ・サイクル・アセスメント(Life Cycle Assessment)」のことで、直訳すると「(製品やサービスの)一生の(環境への影響)評価」ということになります。ちょっとわかりづらいかもしれませんので、順を追って説明をしたいと思います。ここでいう「一生の評価」とは、製品を企業が製造する過程だけではなく、製品に使用される原料の採掘段階から、製品に使用される部品や材料が製造・精製される過程、製品が出荷され消費者に届けられる過程、消費者が使用し、修理・メンテナンスを受ける過程、さらには製品が消費者の手を離れて廃棄やリサイクルされるまでのすべての過程における(環境への影響)評価を意味します(詳細は本コラム2003年10月版「LCA(ライフサイクルアセスメント)について」参照)。

しかし、現状におけるLCAでの評価物質には温室効果ガスである二酸化炭素のみが適用されているため、カーボンフットプリントと同義語の様に使われていますが、正確にいうとカーボンフットプリントはLCAの一つと言えます。

環境フットプリントとは簡単にいうとLCAの1つであり、環境負荷を測る場合に二酸化炭素以外にも存在する環境に負荷を与える物質全てを指標物質とし、これを定量化し最終的には個々の製品に対する表示を義務化しようとする動きと言えます。さらには、製品の製造以外にもエネルギー事業や水供給事業の様な事業活動を行う組織自体、行政や教育などの非生産活動に対しても適用しようと考えられています。


製品環境フットプリントと組織環境フットプリント

現在EUで検討が行われている「環境フットプリント」には、上述の様に製造業者などが生産する製品に注目した「製品環境フットプリント」と必ずしも製造業ではないが組織として事業活動を行う組織に着目した「組織環境フットプリント」という概念があります。

環境フットプリントはLCAの一種と前述しましたが、従来のLCAの概念では製品の一生を対象とした温室効果ガス排出量を意味していましたが、「製品を製造する」と言った製造業以外の組織、例えば行政、教育、研究、情報産業と言った組織活動においても、その活動においては温室効果ガスなどの環境負荷物質の放出が行われていると考えられますし、また製造業においても製品製造以外の部分においても同様に環境負荷物質の放出はあり得るため、敢えて製品環境フットプリントと組織環境フットプリントに分けて考えようとしています。


環境フットプリントにおける環境影響領域

従来のLCAはある意味で「製品に対する温室効果ガスの放出量の推定」と言った、極めて限定された見方によるものでした。環境フットプリントにおいては、上述した様に製品の製造以外にも組織の活動自体にまで概念を広げたこと、及び、環境影響領域を温室効果ガスによる気候変動の他、13種類を追加し以下に示す14種類を検討対象としています。

環境フットプリントのロードテストと今後の予定

環境フットプリントの考え方を市場に導入することを前提として、EUは以下の要領でロードテストを行い、義務的な導入まで以下の予定で検討を進めています。

(ロードテスト概要)

実施期間:2011年6月〜2011年12月(ドラフトガイドラインにより限定市場で実施済み)

※ロードテストに参加した企業は非公開ですが各セクター最大10社程度が参加した模様

(今後の予定)

① 2012年冬頃に方法論及びガイドライン完成させ自主的な制度として運用(予定)

② 2013年から2014年に製品カテゴリーとセクタールールを確立し義務的な制度として運用開始(予定)


まとめ

従来、製品製造によって地球環境に及ぼすと考えられる影響は、その製品の誕生から廃棄・リサイクルまでの生涯を通して放出される温室効果ガスを指標として評価されLCAまたはカーボンフットプリントと呼ばれて来ました。

しかし、EUにおいて「地球環境に影響を与える因子は温室効果ガスの他にも複数存在する」とする議論が活発化し、LCAの考え方を発展させて14種類の環境影響因子を抽出して環境評価指標とし提案しています。

さらには、従来は製造業における製品のみを対象として来ましたが、製造業以外の行政や小売業などの組織活動にも対象を広げて評価しようと検討が進められています。

既に、限定的な市場及び業種においてのロードテストが終了し、2013年から2014年の義務的運用を目指しての準備が進められています。まだまだ、紆余曲折はあるとは思われますが、最終的には全ての製品を対象に複数の環境影響因子に対するLCA表示が義務付けられる方向にある事は間違いないと思われますので、情報が入り次第、逐次このコラムでも報告して行きたいと思います。

経済産業省としては、この制度は日本企業に対して非関税障壁として不利な点が懸念される一方、積極的に環境問題に取り組んでいることから逆に有利に働く可能性もあるとの考えから、今後の成り行きを見ながらEU当局に対して種々の働き掛けをして行くようです。

いずれにしても、「モノづくりは大変な時代に入った、これじゃあ製造業はやって行けない」と嘆くよりも、誰もが同じ土俵に立つことに成りますので「これは他企業に差を付けるチャンス」と積極的に準備を進めることが重要ではないでしょうか。

引用・参照情報

注意

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