EUにおける「デジタル製品パスポート」とは

～早ければ2026年にもEU域内への輸出品に適用か～

2025年3月10日

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1.　はじめに

2024年10月11日付の本コラム「EUのエコデザイン規則が施行～従来のエコデザイン指令との違いは～」において、「エコデザイン規則は、製品、部品、材料のデジタルIDカードであるデジタル製品パスポート（DPP）を導入します。これは、製品の持続可能性をサポートし、製品の循環性を促進し、法令順守を強化するための関連情報を保存するためです」「この情報は電子的にアクセス可能となり、消費者、製造者、当局が持続可能性、循環性、規制遵守に関してより情報に基づいた決定を下すことが容易になります。これにより、税関当局は輸入製品のDPPの存在と真正性を自動的にチェックできるようになります」と述べました。

EUにおける「持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）」は「規則」ですので、2024年7月18日付で、域内で発効されています。これに伴い、デジタル製品パスポート（以下「DPP」）が、早ければ2026年より順次種々の製品群に適用されるようです。

DPPはEUの法律ですが、EU各国税関が輸入品に対して種々のチェックをDPPによって自動的に行うことを目的としていますので、域外からEUに輸出する場合には準備を行う必要がありそうです。

図1　デジタル製品パスポートのイメージ
製品に記載されたQRコードやNFCチップによって消費者が製品の関する全ての情報を容易に収集できるようにするシステム
（注意：この画像は筆者がデジタル製品パスポートをイメージしながら生成AIによって作成したものです。デジタル製品パスポートが実際にこのような形状・形態をしているわけではありません）

2.　デジタル製品パスポートとは

※以下、EU委員会「持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）」などを引用しながら説明します。

2024年7月18日に発効した「持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）」は、より環境的に持続可能な循環型製品に向けた、欧州委員会のアプローチの要となります。

製品とその使用方法は、環境に大きな影響を与える可能性があります。そのため、EUにおける消費は、気候変動や汚染の主な原因となる可能性があります。

ESPRは、2020年循環型経済行動計画の目標を達成し、循環型で持続可能かつ競争力のある経済への移行を促進するための中心的な「施策パッケージ」の一部です。ESPRは、EUが環境および気候に関する目標を達成し、2030年までに材料の循環利用率を倍増させ、エネルギー効率目標を達成するための一助とする計画です。

DPPは、上述したように「持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）」のもと、欧州連合（EU）が導入した新しい取り組みです。DPPは基本的に、製品、部品、材料のデジタルIDカードとなります。DPPには、製品の持続可能性と循環性をサポートするための関連情報が保存されます。

【DPPの主なポイント】

持続可能性情報：製品の耐久性、再利用可能性、アップグレード可能性、修理可能性についての詳細
素材構成：使用されている材料に関する情報
エネルギーおよび資源効率：製品のエネルギー効率と資源消費に関するデータ・情報
リサイクル可能性：製品のリサイクルまたは再製造方法に関する情報
環境フットプリント：製品のライフサイクルにおける二酸化炭素排出量と環境フットプリントの詳細

筆者注）　環境フットプリント：従来のライフサイクルアセスメント（LCA）の考え方を発展させたもので、人間活動が環境に与える負荷を数値化した指標です。温室効果ガスによる気候変動や生態系への影響、人体の健康や生活の質など、さまざまな環境影響を評価します。

【DPPの目的】

製品に関する情報を電子的にアクセス可能にすることで、消費者や当局が持続可能性や規制遵守について、より情報に基づいた判断を下すことを容易にする。
税関当局が輸入製品のDPPの存在と真正性を自動的にチェックできるようにする。
製品に関する情報をデジタル形式で収集・表示することで、サプライチェーンやバリューチェーン上の異なる企業間でのデータ連携を促進する。

【DPPに記録される情報】

製品の構成材料、原産地
製造場所、製造過程、環境影響
使用方法
修理・メンテナンス情報
リサイクル方法、リサイクル指示、廃棄ガイドライン
カーボンフットプリント
サプライチェーン
耐久性
修理可能性

【持続可能性の重視】
DPPの主な目的は、製品の環境への影響に関する詳細な情報を提供し、消費者がより多くの情報に基づいた選択をしたり、企業が持続可能性のために生産プロセスを最適化したりできるようにする

【データへのアクセス】
この情報には通常、製品に埋め込まれたQRコードやNFCチップからアクセスでき、消費者はスマートフォンを使って製品のデジタル・パスポートに簡単にアクセスできるようにする
筆者注）　NFCチップ（NFC ICチップ）は、近距離無線通信（NFC）に対応した半導体デバイスです。ICチップを搭載したカードやタグ、電子機器などを、NFC搭載の機器に近づけることで、無線通信が可能になります。

【サプライチェーンの透明性】
DPPは、製品のライフサイクル全体を通じてデータを追跡することで、原材料の原産地、製造工程、潜在的な環境への影響についてより高い可視性を提供する。

【EUの規制】
欧州連合（EU）は、持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）などの規制を通じて、デジタル製品パスポートの利用を積極的に推進する。

【DPPの導入】

DPPは、EUの欧州グリーン・ディール（EGD）および循環経済行動計画（CEAP）の一環として導入が進められている。
DPPは、EUで販売される製品群に義務付けられる見込みです。
DPPの導入は企業の義務となっており、企業は自主的に、自己の負担においてその開発をしなければなりません
DPPは、EUの欧州グリーン・ディール（EGD）および循環経済行動計画（CEAP）の一環として、早ければ2026年にも欧州連合（EU）域内へ出荷される製品に順次適用され、義務付けられることになる見込み

3.　EU域内の製造事業者の最新の動き

欧州の製造業者は、データ収集システムへの投資、標準化されたデータフォーマットの開発、サプライチェーンパートナーとの協力を通じて、製品ライフサイクル全体にわたるトレーサビリティと透明性を確保することで、EUのDPP義務化に向けた準備を積極的に進めており、特に建設、繊維、エレクトロニクスなどの分野では、DPPにおける環境持続可能性情報に関する今後の規制要件を満たすソリューションの導入に重点を置いているようです。

目標は、2030年までに広範な製品にDPPを義務付ける「持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）」にあるように、主要な製品カテゴリーから段階的にDPPを実施する準備を整えることにあります。

＜準備＞

【データインフラの整備】
企業は、包括的なDPPを作成するために必要となる材料構成、製造工程、使用後のリサイクル可能性など、詳細な製品情報を取得・保存するための強固なデータ管理システムの構築の準備を進めている。

【標準化への取組】
メーカー各社は、DPPの標準データフォーマットやプロトコルを開発する業界イニシアティブに積極的に参加し、サプライチェーン全体での相互運用性を確保し、データ交換を促進している。

【サプライチェーンの連携】
DPPは生産の全段階からの情報を必要としているので、企業はデータの正確性と透明性を確保するために、バリューチェーン全体を通じてサプライヤーやパートナーと協力している。

【パイロットプロジェクトによるテスト】
多くの企業が、QRコードやブロックチェーン技術を含むDPPの導入をテストするパイロットプロジェクトを実施し、潜在的な課題を特定し、本格的な導入前にプロセスを改良している。

【テクノロジーの採用】
企業はIoTセンサーやデジタルツインのようなテクノロジーを模索し、採用することで、ライフサイクルを通じてリアルタイムで製品データを収集し、DPP内の情報の精度を高めている。

＜潜在的な課題＞

【データの質と一貫性】
サプライチェーン全体で正確かつ標準化されたデータ収集を確保することは複雑であり、強固な検証メカニズムが必要となります。

【コストへの影響】
DPPシステムの導入には、テクノロジーとデータ管理インフラへの多額の先行投資が必要となる可能性があります。

【規制の複雑さ】
DPPの要求事項の変化に常に対応し、規制がさらに強化された場合にシステムを適応させるのが面倒。

4.　まとめ

2024年7月18日付で、EU域内において「持続可能な製品のためのエコデザイン規則（ESPR）」が発効した。
ESPRは、2020年循環型経済行動計画の目標を達成し、循環型で持続可能かつ競争力のある経済への移行を促進するための主な手段である。
このESPRを推進するための具体的な施策として「デジタル製品パスポート（DPP)」制度を種々製品に対して導入して行く計画で、早ければ2026年より一部の製品に適用される見込み。
DPPは基本的に、製品、部品、材料のデジタルIDカードで、DPPには、製品の持続可能性と循環性をサポートするための関連情報が保存される。
具体的には、製品や部品の構成材料、原産地、製造場所、製造過程、環境影響、使用方法、修理・メンテナンス情報、リサイクル方法、リサイクル指示、廃棄ガイドライン、カーボンフットプリント、耐久性、耐久性、修理可能性、など製品の環境に関する全てのデータが、QRコードやNFCチップにより添付され、消費者がスマートフォンでアクセスできるようにする。
これを実施するには、カーボンフットプリントの算定やシステム構築など、企業にとって大きな負担となる可能性があるが、EU域内の企業は、試行錯誤しながら準備を開始している模様。
EU域外の企業であってもEUへの輸出を行う場合はこの制度が適用されるので、適宜情報を収集して対応する準備が必要になると思われる。

引用・参考資料

Ecodesign for Sustainable Products Regulation　（EU委員会）
COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS On making sustainable products the norm　（EU官報）
Circular economy action plan　（EU委員会）
EU’s Digital Product Passport: Advancing transparency and sustainability　（2024/9/27、EU data）
Euroviews. The EU’s Digital Product Passports: What are they? And how do they impact you?　（Euronews）
The EU’s Digital Product Passport: What It Is, Why It’s Important, & How It Will Impact Supply Chain Sustainability　（INSIGHTS）
What is a Digital Product Passport and How Does It Affect Me?　（Impinj.com）
The Digital Product Passport: The ESG Digital Twin of a Manufactured Product　（aperam）
サーキュラーエコノミーとDPP（デジタル製品パスポート）　（環境省/総合地球環境学研究所）
Digital Product Passport （デジタル製品パスポート）　（GS1 JAPAN）
欧州委、新たな循環型経済行動計画を発表　（JETRO、2020年3月17日）
EUのエコデザイン規則が施行～従来のエコデザイン指令との違いは～　（日本バルブ工業会、2024年10月11日）
EUにおける環境基本戦略　#1～「欧州グリーンディール」とは～　（日本バルブ工業会、2021年1月12日）

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