RoHS指令における銅合金等の鉛含有量の適用除外

～欧州議会と理事会の指令2011/65/EUの改正～

2025年2月13日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

I.　はじめに

2022年2月14日付け本コラム「RoHS指令における銅合金中の鉛含有量の適用除外～2026年7月21日まで延長の見通し～」にて、「RoHS指令における銅合金などの含有鉛量の適用除外申請」に関して、協議を請け負っていたコンサルタントがEU委員会へ提出した最終答申の内容をお知らせしました。

それ以降、随分時間が経過しましたが、2025年1月13日付けEU官報にて、EU委員会がRoHS指令における、（1）鉄鋼・アルミ・銅の合金における鉛の適用除外、（2）電気電子部品のガラス又はセラミック中に含まれる鉛の適用除外、（3）高融点はんだ中の鉛の適用除外の3件の適用除外に関して指令を改定する、とする欧州委員会委任指令案が公表されました。

発効は官報公示の20日後としていますが、官報の内容に対する意見募集を2025年2月10日まで受け付けており、冒頭で「この法案は当機関の最終的な立場を表明するものではないことにご留意ください」との記載がありますので、予断を許さない点もあります。

しかしながら、適用除外の更新申請を行う場合は期限切れ日の18ヵ月前までに延長申請を提出する必要があり、時間的な余裕がわずかしかありませんので、本コラムにおいては、（1）鉄鋼・アルミ・銅合金における適用除外（主に銅合金）について、官報の内容をお伝えします。

銅合金中の鉛含有量に関する適用除外は、コンサルの勧告より6ヶ月延長され、2026年12月31日までとなっています。
適用除外申請を行う場合は、期限切れの18ヵ月前（2025年6月30日）までに行う必要があります。
適用除外の延長申請を行った場合は、結論が出るまでは期限が自動延長されます。
延長申請が認められなかった場合、期限切れ日から12～18ヶ月の猶予期間が設けられますので、最悪の場合でも実効は2027年12月31日以降となります。

II.　2025年1月13日EU官報におけるRoHS指令の改定内容抜粋

官報記載の主要事項は以下のとおりです。EXPLANATORY MEMORANDUM（EU官報、2025年1月13日）から要点を引用します。

＜文書情報＞
発行：2025年1月13日
発行人：欧州委員会環境総局
形式：委任指令（案）
発効：官報公示の20日後
意見募集：（期限：2025/02/10）
提出方法：Hazardous substances – exemption for lead as an alloying element in steel, aluminium and copper
追加情報：この法案は委員会の最終的な立場を表明するものではないことにご留意ください。

1.　委員会委任指令について

この委員会委任指令は技術および科学の進歩に適応する目的で、鋼鉄、アルミニウム、銅の合金元素としての鉛の免除に関して、電気電子機器における特定有害物質の使用制限に関する欧州議会および理事会の指令 2011/65/EU（RoHS 指令）の付属書III（適用除外、期限など）を改正するものです。

2.　適用除外が認められるケース

適用除外が認められるケースは、次のケースです。
（1）設計変更または付属書IIに列挙されている材料または物質を必要としない材料および部品による除去または代替が科学的または技術的に実行不可能である場合。
（2）代替品の信頼性が確保されていない場合
（3）代替品による環境、健康、消費者安全への総合的な悪影響が、環境、健康、消費者安全への総合的な利益を上回る可能性がある場合。

3.　適用除外に関する協議

3.3　銅の合金元素としての鉛
※3.1（鋼鉄の合金元素としての鉛）と3.2（アルミニウムの合金元素としての鉛）の協議内容は省略します。
3.3.1　銅の合金元素としての鉛の適用除外
附属書IIIの6（c）に記載。
3.3.2　適用除外延長理由
重量比で最大4%の鉛を含む銅合金に関する指令2011/65/EUの付属書IIIの6(c)項に関しては、特定の用途では鉛をうまく代替できるという多くの兆候があるにもかかわらず、科学的および技術的評価中に免除が不要になった用途分野を特定して定義することはできませんでした。代替品（主に三菱マテリアルのエコブラス）十分に信頼できないため、免除の延長が認められるべきです。技術的評価を考慮すると、指令2011/65/EUの附属書Iに記載されているすべてのカテゴリに1つの有効期限を設定するのが適切です。
3.3.3　課題（更なる延長申請を行う場合）
銅合金の鉛代替に関して、EEE カテゴリ間で技術的な違いがあることを示す技術情報は提供されていません。技術的評価を考慮すると、RoHS 指令の付属書Iに規定されているすべてのカテゴリに対して1つの有効期限を設定することが適切です。
実施された技術評価から時間が経過していることを考慮すると、新しいサブ免除の有効期間は、技術勧告に基づく最大有効期間よりも短くする必要があります。さらに、範囲が不明な問題と業界からのデータが不完全であることから、申請者に主張を立証する機会を与えるために、短い期限が正当化されます。
申請者は、第5条(1)のポイント(a)の基準の1つが満たされていることを証明する責任があるため、次の評価で完全なデータを提出する必要があります。そうでない場合、委員会は欠落データ不足のため免除を更新しないことを検討する必要があります。
注）第5条(1)のポイント(a)とはRoHS指令における適用除外を正当化できる要件
（1）設計変更または附属書IIに記載されている材料または物質を必要としない材料およびコンポーネントによるそれらの除去または置換は、科学的または技術的に実行不可能である。
（2）代替品の信頼性は保証されていない。
（3）代替によって引き起こされる環境、健康、および消費者の安全への悪影響の合計が、環境、健康、および消費者の安全への悪影響の合計を上回る可能性がある。

付表1　本官報における適用除外期限（案）

本官報（2025年1月13日付け）により、指令2011/65/EUの附属書IIIでは、6(a)、6(a)-I、6(b)、6(b)-I、6(b)-IIおよび6(c)が以下の内容に置き換えられます。

6(a)	機械加工用鋼および亜鉛メッキ鋼の合金元素としての鉛（重量比で0.35%までの鉛を含む）	[PO: 委任指令の発効後 12ヶ月] に期限切れになります。
6(a)-I	機械加工用鋼の合金元素としての鉛（重量比で最大0.35%の鉛を含む）*	すべてのカテゴリにおいて、2026 年 12 月 31 日に期限切れとなります。
6(a)-II	バッチ溶融亜鉛めっき鋼部品中の合金元素としての鉛（重量比で最大0.2%の鉛を含む）*	すべてのカテゴリにおいて、2026 年 12 月 31 日に期限切れとなります。
6(b)	アルミニウムの合金元素としての鉛（重量比で最大0.4%の鉛を含む）	[PO: 委任指令の発効後 12 ヶ月] に期限切れになります。
6(b)-I	重量比で最大0.4%の鉛を含むアルミニウムの合金元素としての鉛（鉛含有アルミニウムスクラップのリサイクルに由来するもの）*	カテゴリ1～7、10については、[PO: 委任指令の発効から12か月後]に期限切れになります。カテゴリ 9 の産業用監視および制御機器、および 11 については、2026 年 12 月 31 日に期限切れになります。
6(b)-II	機械加工用アルミニウムの合金元素としての鉛（重量比で鉛含有量が最大0.4%）*	カテゴリ1～7、10については、[PO: 委任指令の発効後18か月]に期限切れになります。カテゴリ9（産業用監視および制御機器）および11については、2026年12月31日に期限切れとなります。*
6(b)-III	重量比で最大0.3%の鉛を含むアルミニウム鋳造合金の合金元素としての鉛（鉛含有アルミニウムスクラップのリサイクルに由来する）*	カテゴリ 1 ～ 8、産業用監視および制御機器以外の 9、および 10 については、2026 年 12 月 31 日に期限切れになります。
6(c)	重量比で最大4%の鉛を含む銅合金*	2026年12月31日に期限切れになります

* この免除は、EEE（電気電子機器）またはそのアクセス可能な部分が、通常のまたは予測可能な使用状況で子供が口に入れる可能性がある一般大衆に供給される EEE には適用されません。ただし、次の両方の条件が証明できる場合は、免除が適用されます。
－当該電気電子機器またはアクセス可能な部品からの鉛の放出率は、コーティングの有無にかかわらず、1時間あたり0.05μg/cm2（0.05μg/g/hに相当）を超えないこと。
－コーティングされた製品の場合、コーティングは、EEE の通常または合理的に予測可能な使用条件において少なくとも 2 年間、この放出率を超えないことを保証するのに十分であること。
この脚注の目的上、EEE または EEE のアクセス可能な部分は、一辺が 5 cm 未満であるか、そのサイズの取り外し可能な部分または突出部分がある場合に、子供が口に入れることができるものとみなされます。

III.　まとめ

2025年1月13日付けEU官報にて、EU委員会が「RoHS指令における（1）鉄鋼・アルミ・銅の合金における鉛の適用除外、（2）電気電子部品のガラス又はセラミック中に含まれる鉛の適用除外、（3）高融点はんだ中の鉛の適用除外の３件の適用除外に関してRoHS指令を改定する」とする欧州委員会委任指令（案）が公表された。
RoHS指令における適用除外の項目及び期限は附属書Ⅲに記載があり、この改定を目的としている。
EU官報は日本の官報と異なり、EU法（規則、指令、決定）、予算、国際条約、勧告、ガイドライン、欧州連合内の各組織間の手続などが掲載されるが、案の段階で公開され、パブリックコメントを経て最終決定される場合が有る。当該官報も案の形で公開され2025年2月10日まで意見募集を求めており、「この法案は委員会の最終的な立場を表明するものではないことにご留意ください。」との記述が冒頭にある。
本コラムでは、（1）鉄鋼、アルミ、銅の合金における鉛の適用除外に関する官報に基づき、適用除外期限を付表1に記した（2022年のコンサル報告書よりさらに6ヶ月延長された）。
銅合金中の鉛含有量は附属書IIIの6(C)は2026年12月31日まで適用除外が延長される。案ではあるが、さらなる延長が必要な場合は18ヶ月前（2025年6月30日）までにEU委員会環境総局に申請する必要がある。昨今の傾向を見ると、かなり用途を限定しデータを付する必要があると思える。
例）
1. Pack26　電流測定、電位測定、および導電率測定電気化学センサーのベース材料として使用されるポリ塩化ビニル（PVC）の熱安定剤としての鉛
2. Pack25　圧力トランスデューサーの水銀とPVCベース材料のDEHP
延長申請を行った場合は、結論が出るまで自動延長。延長申請が無い場合は、期限切れ後12～18ヶ月の猶予期間後失効。（2027年12月31日に失効）

引用・参考資料

COMMISSION DELEGATED DIRECTIVE (EU) …/… amending Directive 2011/65/EU of the European Parliament and of the Council as regards an exemption for lead as an alloying element in steel, aluminium and copper　（EU官報、2025年1月13日）
EXPLANATORY MEMORANDUM　（EU官報、2025年1月13日）
Hazardous substances – exemption for lead as an alloying element in steel, aluminium and copper　（EU委員会/環境総局）
RoHS指令における銅合金中の鉛含有量の適用除外～2026年7月21日まで延長の見通し～　（日本バルブ工業会、2022年2月14日）
RoHS2指令における適用除外協議情報（速報）～銅合金中の鉛含有量に関する協議状況～　（日本バルブ工業会、2021年1月12日）

引用・参考資料

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