EU及び米国におけるPFAS規制情報

～欧州ECHAと米国EPAからの最新情報～

2025年1月21日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

I.　はじめに

2025年の新しい年を迎えましたが、2024年12月12日付けの本コラム（EUにおける広範囲PFAS規制に関する情報 #4）で、ECHA（欧州化学品庁）及びPFAS規制提案国が、提案当初に想定していなかった用途の1つとして「シーリング用途：シール、パイプライニング、ガスケット、バルブ部品など、消費者向け、プロフェッショナル向け、産業向けの幅広い用途でフッ素ポリマーが使用されています」という事実を認め、規制の方向についても「完全な禁止か、代替品がまだ利用できない場合に期間限定の例外を伴う禁止」の二択だけではなく、永久使用を認める方向性も検討範囲に含まれていることを紹介しました。

2024年11月に開催されたECHAのRAC（リスク評価委員会）の議事録が公開されていますので、今回はその内容を紹介するとともに、EPA（米国環境保護庁）が公表した、2025年度に新規TRI （有害物質排出インベントリ）に収載されたPFASについてお知らせしたいと思います。

II.　ECHAにおける2024年11月開催RAC（リスク評価委員会）におけるPFAS関連審議

ECHAが2024年11月10日付けで、2024年11月25日～28日に開催された第71回RAC（リスク評価委員会）の議事録を公開しましたので、PFASに関する協議部分について、概要を示します。

RACは前回の開催が9月でしたので、今回は本来12月に開催されるべきでしたが、クリスマス休暇の関係で11月に行われました。そのため大きな進展がありませんでした。次回委員会は3月の予定です。

ECHA Conference 2024 – save the date and share your ideas
ECHA（欧州化学品庁）（出典：ECHA Website）

III.　2024年11月開催RAC議事録におけるPFAS関連情報＜PFAS関係は9章「制限事項」＞

EUにおけるREACH規則など有害化学物質の規制に関する審議は、対象物質の毒性についてはRACにおいて審議され、対象物質の規制による社会的・経済的影響についてはSEAC（社会経済評価委員会）が各々評価し、両委員会の総意によりEU委員会に結果を報告するシステムとなっています。
各委員会においては、

（1）職場における健康に基づく「ばく露限度」
（2）調和された分類と表示（CLH）、種々の化学物質
（3）物質の制限（制限するか否か、閾値の設定など）
（4）物質の許認可（REACH規則の許認可物質の審議）
（5）飲料水指令
（6）その他

などの審議が行われます。

今回のPFAS制限に関しては上記（3）の「9. 制限」にて審議されました。議事録の内容を抜粋して、以下に紹介します。

9.2.1 ユニバーサル・パーフルオロアルキル物質（UPFAS）に関する意見書作成

今回審議したのは次の項目。

a）現状と今後の取り組み
b）UPFAS 制限提案の分野別/用途別の側面の評価
i. 繊維、室内装飾品、皮革、アパレル、カーペット（TULAC）
ii. 食品接触材料および包装
iii. 建設製品
※出席者は提案5ヶ国代表及びステークホルダー（詳細は省略）

結論／合意／採択	会議終了後に要請された措置（誰がいつまでに）
（1）繊維、室内装飾品、皮革製品、アパレル、カーペットに関するRAC-70の最新情報（TULAC）：・RACは、RAC-70に続いて報告者によって導⼊された最新情報、具体的には排出量の再計算と PPEに関する提案された免除の再検討に注目しました。・RACは、TULACの分野固有の要素、すなわち量、排出量、リスク特性、代替案のリスク、特定されたリスクの削減効果、特定の分野/用途固有の特例に関する結論、および不確実性の要約に関する報告者の評価のすべての要素を支持しました。	報告者は、RACの書面コメントラウンドで受け取ったコメントとRAC-71での議論を考慮して、意見草案に変更を加えます。 SECR（※）は、以下のようにさらなる議論を行う予定です。 2025年3月（予定）・フッ素化ガスの用途・輸送・エネルギー ※“SECR”は度々出てきますが、意味不明です。
（2）食品接触材料および包装に関連する保留中の問題についてのRAC-66およびRAC-70からの最新情報：・RACは、RAC-70に続いて報告者によって導入された更新、具体的には排出量の再計算と用語の変更に注目しました。・RAC-70で合意されたFCMおよび包装に関するセクター固有の要素、すなわちリスク特性、代替品のリスク、特定されたリスクの低減の有効性、特定のセクター/用途固有の特例に関する結論、および不確実性の要約に関する報告者の結論に関連する変更はありませんでした。	2025年に予定されている次の分野・潤滑油・医療機器・電子半導体そして委員会の計画に関する詳細は、作業が進むにつれて発表されます。この情報は、委員会の会議に合わせて伝えられます。
（3）建設製品・RACは、建設製品の分野固有の要素、すなわち量、排出量、リスク特性、代替案のリスク、特定されたリスクの低減の有効性、特定の分野/用途固有の特例に関する結論、および不確実性の要約に関する報告者の評価を支持しました。・RACは、これらのセクター固有の要素に関する結論に暫定的に同意したが、クロスチェックは保留中である。・RAC-71での議論中に強調された使用中のボリュームに関する情報。

IV.　2024年11月度RACの審議まとめ

（1）本来2024年12月に開催される予定だったRACは、クリスマス休暇などの理由により、11月に開催された模様。
（2）i）繊維・室内装飾品・皮革製品・アパレル・カーペット、ii）食品接触材料および包装、iii）建設製品について審議したが、各セクターの使用量、排出量、代替案などの数量的な情報収集に留まり、大きな進展はなかった。
（3）次回は2025年3月に、i）フッ素ガス、ii）輸送、iii）エネルギーのセクションについて審議される予定。
（4）2025年はその他に、潤滑油、医療機器、電子半導体など当初予定していなかったセクターについて、審議を行う。さらに、委員会の審議内容は作業が進むにつれて、発表される。
（5）本コラム（EUにおける広範囲PFAS規制に関する情報 #4）で記したとおり、規制提案時当初に想定されていなかった「シーリング用途、テクニカルテキスタイル、印刷用途、医薬品の包装や賦形剤などの医療用途など」の用途があることがわかったので、以後新規セクターとして審議されると思われる。

V.　EPA（米国環境保護庁）が国防授権法に基づき9種類の特定PFASのTRIへの追加

EPAは2025年1月5日付けのメールマガジンにて、NDAA（国防権限法）に基づき、日本の化管法のPRTR制度と同様に、9種類のPFASをTRI（Toxics Release Inventory：有害物質放出インベントリ）指定物質として決定し、EPAに対して「製造・加工・使用・排出などに関する報告する義務が生じる」との公表を行いました。特に該当PFASは特別懸念化学物質ですので、量の多少に関わらず報告義務が生じます。

図2　EPA（米国環境保護庁）本部（出典：EPAEPA）

2023～2024年度の登録情報

EPAは2023年9種類、2024年7種類、計16種類のPFASをTRIに追加しました。同時に100種類以上のPFASを15のカテゴリーに分類し、従来分類されていなかった個別のPFASも再分類してカテゴリーに入れることにより、新規のPFASが自動的にTRIに追加されるように、特に懸念される化学物質として指定する規則を提案しました。

2025年報告年度の重要情報

（1）報告年2025年については、2025年1月1日付で9種類のPFASがTRIリストに追加されました（下表参照）。これにより205種類のPFASが2025年の報告対象です（報告書の提出期限は2026年7月1日）。

※NDDA（国防権限法）によってTRIに特別懸念物質として登録された全てのPFASリストはこちら（EXCEL版、PDF版）からご覧いただけます。

（2）2024年に発生したトリガー条項（上記の特に懸念される化学物質として指定する規則）に基づき追加されたPFASについては、2025年1月1日から、これら9種類のPFASに関する供給業者の通知が初めて義務付けられます。

表1　2025年にTRIインベントリに追加されたPFAS

CAS RN	TRI登録化学名	和名	備考
377-73-1	Perfluoro-3-methoxypropanoic acid	パーフルオロ-3-メトキシプロパン酸	情報なし
3108-42-7	Ammonium perfluorodecanoate (PFDA NH4)	パーフルオロデカン酸アンモニウム	REACH規則：SVHC物質
3830-45-3	Sodium perfluorodecanoate (PFDA-Na)	パーフルオロデカン酸ナトリウム	化審法：既存化学物質 REACH規則：SVHC物質
27619-97-2	6:2 Fluorotelomer sulfonate acid	6:2 フルオロテロマースルホン酸	化審法：新規公示化学物質（2011年3月31日以前届出）安衛法：新規名称公表化学物質
425670-75-3	6:2 Fluorotelomer sulfonate anion	6:2 フルオロテロマースルホン酸アニオン	情報なし
59587-38-1	6:2 Fluorotelomer sulfonate potassium salt	6:2 フルオロテロマースルホン酸カリウム塩	情報なし
59587-39-2	6:2 Fluorotelomer sulfonate ammonium salt	6:2 フルオロテロマースルホン酸アンモニウム塩	情報なし
27619-94-9	6:2 Fluorotelomer sulfonate sodium salt	6:2 フルオロテロマースルホン酸ナトリウム塩	情報なし
3030471-22-5	Acetic acid, [(γ-ω-perfluoro-C8-10-alkyl)thio] derivs., Bu esters	酢酸、[（γ-ω-ペルフルオロ-C8-10-アルキル）チオ]誘導体、ブタンエステル	情報なし

※2024年以前のインベントリは、2024年3月の本コラム（米国において特定のPFASがTRIへ追加～7種類が追加され196種類に～）参照。

VI.　2025年1月3日付けEPAのPFASに関する通知まとめ

（1）2025年1月3日付にてEPAは新たに9種類のPFASをNDAA（国防権限法）に基づくTRI（有害化学物質インベントリ）に追加し、TRI収載物質が205種類になった事を報じた。
（2）今回TRIに追加された9物質はいずれも詳しい情報はないが、比較的低分子PFASであり、PFOA、PFOSと同等の界面活性を有する物質と想定される。
（3）引き続き、EPAの公開情報に注視していく。

引用・参考資料

Minutes of the 71st Meeting of the Committee for Risk Assessment　（ECHA, 2024-12-10）
EUにおける広範囲PFAS規制に関する情報　#4～ECHAと欧州5ヶ国がPFAS規制の進捗状況を発表～　（日本バルブ工業会、2024年12月12日）
Addition of Certain Per- and Polyfluoroalkyl Substances to the Toxics Release Inventory　（EPA）
Addition of Certain PFAS to the TRI by the National Defense Authorization Act　（EPA、2025年1月3日更新）
米国において特定のPFASがTRIへ追加～7種類が追加され196種類に～　（日本バルブ工業会、2024年3月12日）
NITE-CHRIP（化学物質総合情報提供システム）　（製品評価技術基盤機構）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。

結論／合意／採択	会議終了後に要請された措置（誰がいつまでに）
（1）繊維、室内装飾品、皮革製品、アパレル、カーペットに関するRAC-70の最新情報（TULAC）：・RACは、RAC-70に続いて報告者によって導⼊された最新情報、具体的には排出量の再計算と PPEに関する提案された免除の再検討に注目しました。・RACは、TULACの分野固有の要素、すなわち量、排出量、リスク特性、代替案のリスク、特定されたリスクの削減効果、特定の分野/用途固有の特例に関する結論、および不確実性の要約に関する報告者の評価のすべての要素を支持しました。	報告者は、RACの書面コメントラウンドで受け取ったコメントとRAC-71での議論を考慮して、意見草案に変更を加えます。 SECR（※）は、以下のようにさらなる議論を行う予定です。 2025年3月（予定）・フッ素化ガスの用途・輸送・エネルギー ※“SECR”は度々出てきますが、意味不明です。
（2）食品接触材料および包装に関連する保留中の問題についてのRAC-66およびRAC-70からの最新情報：・RACは、RAC-70に続いて報告者によって導入された更新、具体的には排出量の再計算と用語の変更に注目しました。・RAC-70で合意されたFCMおよび包装に関するセクター固有の要素、すなわちリスク特性、代替品のリスク、特定されたリスクの低減の有効性、特定のセクター/用途固有の特例に関する結論、および不確実性の要約に関する報告者の結論に関連する変更はありませんでした。	2025年に予定されている次の分野・潤滑油・医療機器・電子半導体そして委員会の計画に関する詳細は、作業が進むにつれて発表されます。この情報は、委員会の会議に合わせて伝えられます。
（3）建設製品・RACは、建設製品の分野固有の要素、すなわち量、排出量、リスク特性、代替案のリスク、特定されたリスクの低減の有効性、特定の分野/用途固有の特例に関する結論、および不確実性の要約に関する報告者の評価を支持しました。・RACは、これらのセクター固有の要素に関する結論に暫定的に同意したが、クロスチェックは保留中である。・RAC-71での議論中に強調された使用中のボリュームに関する情報。