カーボンニュートラルへの道　#14

～サステナブル会計基準が義務化される方向へ～

2024年6月17日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

日経ESGは2024年5月20日付けの記事で、「サステナビリティ基準委員会（SSBJ）が国内での開示基準の草案を公表した。2025年3月までに最終化し、27年3月期から企業に適用を義務付ける見込みだ」と報じました。このSSBJは2023年6月26日付で「ISSBが最初のグローバルなサステナビリティ開示基準を公表」とするプレスリリースを掲載し、金融庁も2023年6月27日付けで「国際会計基準（IFRS）財団モニタリング・ボードによる国際サステナビリティ基準審議会（ISSB）の基準最終化の歓迎について」とするプレスリリースを公表しました。金融審議会は「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方」についての審議を急いでおり、金融庁はSSBJ基準を有価証券報告書のサステナビリティ開示基準にすることを検討、2027年3月期から一定規模以上の上場企業に対して義務化し、順次非上場の企業にまで拡大していく意向のようです。

以上の説明では、雲をつかむような話だと思われますので、今回はこれらの話題について、わかりやすく解説したいと思います。

2.　ISSB（国際サステナブル基準審議会）とは

ISSB（International Sustainability Standards Board、国際サステナビリティ基準審議会）については、2022年1月17日付け本コラム「企業における非財務情報開示基準」においても説明していますが、おさらいをするとともに、この基準によって、実際に企業の有価証券報告書への記載が義務化される方向へ急速に動き出していますので、この辺の事情も解説したいと思います。

ISSBはIFRS（国際財務報告基準財団）傘下の組織で、企業がサステナビリティに関する情報を一貫性のある方法で開示できるようにするために2021年11月に発足しました。ISSBは、世界の資本市場における投資家の情報ニーズに応えるため、サステナビリティ情報開示の国際基準の統一化を目指しています。具体的には、企業の非財務情報開示に関する基準やフレームワークが多数存在している中で、ISSBは統一感のない基準の乱立を解消し、投資家が比較可能な情報を得られるようにすることを目指しています。ISSBは、気候変動に関する情報開示を含むサステナビリティ情報の統一的な基準を策定しており、企業には既存のフレームワークとIFRS会計基準のコンセプトを共に取り組んだ形で開示することを求めています。（出典：Blue Green, ESG Journal, IFRS, ASUENE MEDIA, etc.）

図1　企業における非財務情報開示基準の変遷（種々資料から筆者が作成）

2023年6月26日、ISSBは最初のIFRSサステナビリティ開示基準を公表しました。これは、世界中の資本市場におけるサステナビリティ関連開示の新たな時代の幕開けを告げるものであり、投資意思決定に情報をもたらすためのグローバルなベースラインを作成することを目的としています。

この基準は、企業のサステナビリティに関する開示に対する信頼と信用を向上させ、気候関連のリスクと機会を共通言語で形成する役割を果たします。（出典：SSBJ　※SSBJは日本の財務会計基準機構の内部組織で、日本のサステナビリティ開示基準の開発に取り組む委員会です。SSBJはISSBの提案する国際基準を基に日本の国内基準の策定を進めており、2025年3月末までに基準を確定する予定です。）

IFRSサステナビリティ開示基準は、TCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）の4本柱のアプローチ、すなわち、ガバナンス、戦略、リスク管理および指標と目標で構成されています。（出典：PWC）

3.　ISSBによるIFRSサステナビリティ開示基準策定の背景と目的

（1）2015年にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約締約会議（COP21）において、「パリ協定」が採択され、世界的な気候変動対策が加速しました。
（2）各国が温室効果ガスの排出削減目標を掲げ、企業にも脱炭素経営が求められています。
（3）金融安定理事会（FSB）は気候変動が金融システムの安定を損なう恐れがあるとして「気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）」を設立し、国際的な情報開示ルールを策定しました。
（4）IFRS財団はTCFDの提言を受け、サステナビリティ開示における国際的に一貫性のある基準策定のためにISSBを組織しました。
（5）ISSBは2023年6月26日に基準の最終案を公開しました。
ISSBの基準は、企業がサステナビリティに関連する情報を開示する際の指針となり、世界的なベースラインを提供します。具体的には、以下の2つの基準があります。

IFRS（S1）／一般サステナビリティ開示事項
（1）企業がサステナビリティ関連のリスクと機会を監視、管理、監督するためのガバナンスのプロセスや手順。
（2）サステナビリティ関連のリスクと機会を管理するための企業の戦略。
（3）企業がサステナビリティ関連のリスクを特定し、評価や優先順位の決定、監視するためのプロセス。
（4）サステナビリティ関連のリスクと機会に関する企業のパフォーマンスや設定目標と、目標に対する進捗状況など。

IFRS（S2）／気候関連開示事項
（1）企業の気候関連のリスク（物理的リスクや移行に関するリスクなど）に関する情報開示の要件。
（2）同様に、ガバナンス、戦略、プロセス、パフォーマンス、目標についての情報を提供。

我国おいては、前述のSSBJがISSBをベースに日本版のサステナビリティ開示基準の開発を急いでおり、これらの基準は、企業の持続可能性情報開示を向上させ、投資家や利害関係者に有用な情報を提供することを目指しています。
（出典：東洋経済、日経ESG、日経GXなど）

4.　（参考）炭素会計とは

ISSBが2023年6月26日に公開したサステナビリティ開示基準の最終版には、取引先などを含む「スコープ3」の温室効果ガス排出量のほか、社内炭素価格や利用予定のカーボンクレジットの情報開示も求められています。

2024年1月23日付ウェブ版日経新聞には、「上場企業の二酸化炭素（CO2）排出量の開示が遅れている。2023年3月期の有価証券報告書で自社が直接排出した分の実績を示した企業は14%にとどまった。仕入れ先や製品使用まで含めた分は4%とさらに少ない。データ収集や算定の仕組みが未成熟なことが背景にある。開示要請は世界的に強まる見通しで、企業は体制整備を急ぐ必要がある」とあり、ISSBの基準公開により各企業はスコープ3も含めた温室効果ガス算定の準備を加速させる必要に迫られそうです。

注：スコープ3排出量のカテゴリ

カテゴリ1＝購入した製品・サービス、カテゴリ2＝資本財、カテゴリ3＝スコープ1、2に含まれない燃料及びエネルギー活動、カテゴリ4＝輸送・配送（上流）、カテゴリ5＝事業から出る廃棄物、カテゴリ6＝出張、カテゴリ7＝雇用者の通勤、カテゴリ8＝リース資産（上流）、カテゴリ9＝輸送・配送（下流）、カテゴリ10＝販売した製品の加工、カテゴリ11＝販売した製品の使用、カテゴリ12＝販売した製品の廃棄、カテゴリ13＝リース資産（下流）、カテゴリ14＝フランチャイズ、カテゴリ15＝投資

注：炭素会計（カーボンアカウンティング）

炭素会計とは、組織や個人の活動による温室効果ガス（GHG）の排出量を追跡し、評価する方法論です。具体的には、企業や政府が経済活動においてどれだけ温室効果ガスや二酸化炭素（CO2）を排出または削減したかを算定・集計します。このプロセスは、カーボンニュートラルを実現するために極めて重要であり、環境改善に向けた効果的な緩和策を決定するために用いられます。
炭素会計には以下の要素が含まれます。

CO2排出量算定
（1）企業活動の中で発生するCO2を算定し、脱炭素活動における指標を作成する基準値を導き出します。
（2）CO2排出量の計算式は、以下のとおりです。

活動量：事業規模に対する量（電気使用量や廃棄物の処理量など）
CO2排出原単位：経済活動量1単位あたりのCO2排出量

カーボンニュートラルコスト査定
（1）企業におけるカーボンニュートラルの効果を確認するための方法で、CO2排出にかかる費用を算定します。
（2）企業単体ではなく、サービスを利用するユーザーまでの範囲で算出されます。

PCAF（Partnership for Carbon Accounting Financials）
（1）融資や投資を行う際に温室ガスの排出量を測定し公開することで、環境への取り組み度合を知り企業価値を算定できるようにする取り組みです。
（2）金融機関が主体となり、グローバルな視野での取り組みを進めています。
これらの取り組みにより、企業は環境影響問題に対してより効果的に取り組むことができます。
炭素会計は、これからますます企業や政府など様々な所で不可欠なツールとして活用されていくと思われます。
（出典：Super Stream, IBM, e-dash株式会社, その他）

まとめ

（1）世界的に企業における非財務情報が金融機関や投資家からますます重要視され、開示を求める声が高まってきている。
（2）しかしながら、開示基準が数多く存在していたため、投資家の求めに応じIFRS（国際財務報告基準財団）がTCFDの提言を受け、一貫性のある基準策定のためにISSB（国際サステナビリティ基準審議会）を組織した。
（3）ISBBによる最終基準提案が2023年6月26日に公開された。
（4）これに対して各国政府は早速、自国のサステナビリティ開示基準とする検討を開始した。
（5）我国でもSSBJ（サステナビリティ基準委員会）が組織され日本版の策定が急がれている。
（6）これは単なるガイドラインではなく、日本においても金融庁が有価証券報告書でのサステナビリティ開示基準にすることを検討しており、次のようなスケジュールを見込んでいる。
2025年3月期（SSBJ基準の最終化、任意適用開始）
2027年3月期（東証プライム上場企業で時価総額3兆円以上に開示義務化）
2028年3月期（東証プライム上場企業で時価総額1兆円以上に開示義務化）
他国の様子を見ながら非上場企業でも規模の大きな企業には今後適用を拡大させる可能性がある。
（7）主な事項は本文に記したが、温室効果ガス排出量についてはスコープ3までの提示が含まれており、改正省エネ法や炭素会計においても、スコープ1、スコープ2はもちろん、スコープ3までの温室効果ガス排出量の算定準備を始める必要性が出てきたので、体制を整える必要があると思われる。

引用・参考資料

2023/06/26 国際財務報告基準（IFRS）サステナビリティ開示基準が公表される【速報解説】　（PWC、2023年6月26日）
ISSB（国際サステナビリティ基準審議会）が最初のグローバルなサステナビリティ開示基準を公表　（SSBJ：サステナビリティ基準委員会、2023年6月26日）
サステナビリティー国際基準､企業が知るべきこと　炭素会計支援パーセフォニ幹部に聞く｢必要な戦略｣　（東洋経済、2023年7月31日）
炭素賦課金とは？2028年度導入を前に押さえるべきポイントを解説　（リクロマ、2024年5月3日）
排出量取引、26年度から義務化　削減目標に認証制度　（NIKKEI GX、2024年5月14日）
スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とは　（新電力ネット）
グリーン・バリューチェーンプラットフォーム　（環境省）
サプライチェーン排出量算定に関する説明会 Scope3 〜算定編〜　（環境省）
大手非上場企業にも気候変動関連情報開示を義務付けへ、意見公募開始　（JETRO、2023年7月11日）
ISSB開示、27年にも義務化～サステナビリティ開示の国内基準が明らかに～　（日経ESG、2024年5月20日）
第2回金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ_事務局説明資料　（金融庁、2024年5月14日）
国際会計基準（IFRS）財団モニタリング・ボードによる国際サステナビリティ基準審議会（ISSB）の基準最終化の歓迎について　（金融庁、2023年6月26日）
説明資料（サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する検討）金融審議会総会　（金融庁、2024年年2月19日）
ISSB、サステナビリティ基準の最終版を公表2024年から適用可能に、「スコープ3」や「社内炭素価格」の開示も　（日経ESG、2023年6月28日）
企業における非財務情報開示基準～SASB、TCFD、IIRCからIFRSへ～　（日本バルブ工業会、2022年1月17日）

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