2022年の大気中温室効果ガス濃度は過去最高を更新

～COP28では何が決まったのか～

2024年1月15日

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1.　はじめに

2023年11月30日にUAE（アラブ首長国連邦）のドバイで開幕したUNFCCC-COP28（国連気候変動枠組条約第28回締約国会議）は、会期を1日延長して12月13日に閉幕しました。

この会議に先立ち、2023年11月15日にWMO（世界気象機関）は、2022年の世界の温室効果ガス濃度が過去最高を更新したことを発表し、この資料はCOP28において配布されました。

このように、世界各国が地球温暖化防止のために努力を行っているにもかかわらず、増加率は減少傾向にあるものの、増加を続けている事実が示されました。

そこで今回は、WMOが発表した2022年の温室効果ガス濃度、各種資料より求めた1990年～現在までの国別の温室効果ガス排出量変化、COP28で何が決まったのかについて、概要を示したいと思います。

2.　2022年の温室効果ガス濃度（WMO発表資料より）

1985年～2020年までの主な温室効果ガス濃度と増減率は図1、主要温室効果ガスの2022年の世界平均濃度と増加量は表1のとおりです。

図1　1985年～2020年までの主な温室効果ガス濃度と増減率（出典：WMO/気象庁）

表1　主要温室効果ガスの2022年の世界平均濃度と増加量（出典：WMO/気象庁）

	二酸化炭素（CO2）	メタン（CH4）	一酸化二窒素（N2O）
2022年の世界平均濃度	417.9±0.2 ppm	1923±2 ppb	335.8±0.1 ppb
前年からの増加量	2.2 ppm	16 ppb	1.4 ppb
最近10年間の平均年増加量	2.46 ppm/年	10.2 ppb/年	1.05 ppb/年

2022年のCO 2濃度の増加率は前年及び10年間の平均よりわずかに低いものでしたが、これは炭素サイクルの自然かつ短期的な変動による可能性が最も高く、産業活動の結果として新たな排出量は増加し続けています。

COP28に情報を提供するために発行される温室効果ガス濃度の速報によると、メタン濃度も増加し、第3の主要ガスである亜酸化窒素のレベルは、2021年から2022年にかけて記録的な前年比増加となりました。

現在の温室効果ガス濃度のレベルでは、今世紀末までにパリ協定の目標をはるかに上回る気温上昇が予想されます。

この結果、猛暑と降雨、氷の融解、海面上昇、海洋の熱と酸性化など、さらなる異常気象が伴い、社会経済的および環境的コストは急増すると予想されます。

「早急に化石燃料の消費を削減する必要がある」と世界各国が対策を急ぐ必要性を述べています。
「排出されたCO2の半分弱が大気中に残ります。4分の1強が海洋に吸収され、30%弱が森林などの陸上生態系に吸収されますが、これには年々かなりの変動があります。排出が続く限り、CO2は大気中に蓄積し続け、地球の温度上昇につながります。CO2の寿命が長いことを考えると、たとえ排出量が実質ゼロまで急速に減少したとしても、すでに観測されている温度レベルは数十年間持続するでしょう」とWMOでは結論付けています。

3.　1990年以降の世界各国の温室効果ガス排出量変化（出典：主にWorld Resources Institute、その他のデータ）

図2は、World Resources Institute、その他のデータを基に作成した、1990年～2020年までの世界主要各国の温室効果ガス排出量の推移を示すグラフです。

図2　1990年～2020年までの世界主要各国の温室効果ガス排出量（CO2換算：単位はGt/年）変化
（World Resources Instituteなどのデータから筆者が作成）

CO2換算の温室効果ガス排出量は2004年頃まで米国が最大でしたが、ここを境に中国が急速に排出量を増加させています。その他の地域は概ね2010年頃より減少傾向になっていますが、インドが増加傾向にあります。

主要排出国以外のその他（計）を見ると、ピークアウトしているように見えます。

ここで、各国の排出量は自己申告であるため、数値の正確性が問題となります。

日本の環境省では赤外線を使用して人工衛星から主要な温室効果ガスを測定する試みを行っていますが、最大の排出国である中国のCO2濃度が公表の1.5倍～3倍で増加していることを把握し、COP28において発表を行い問題提起をするとしていました。

このように、化石燃料の使用量から計算する手法では、特に途上国における排出量が正確に把握できない可能性があり、今後の課題だと言えます。

4.　COP28では何が決まったのか

以上述べて来たように、世界の多くの国が温室効果ガス濃度の上昇による気候変動・異常気象を肌で感じ始めており、化石燃料使用による温室効果ガス排出量の削減に努力を行っているにもかかわらず、依然として温室効果ガス濃度は上昇を続けており、このままではパリ協定の目標の達成（世界の気温上昇を1.5℃以下に抑える）は困難に見えます。

先進国と途上国の利害が相反する状況においてCOP28がUAEのドバイで開催されましたが、大きな成果があったという声が聞こえてきません。世界の主要産油国であるUAEが議長を務めた会議で一体何が議論され、何が採択されたのか、COP28、国連、WWFなどの公的機関のウェブサイトを主な資料とし、各報道資料なども参考にCOP28の結果を述べてみたいと思います。

4-1.　概要

2015年12月にフランス・パリで開かれた第21回気候変動枠組条約締約国会議（COP21）にて世界の200近い国が参加して採択されたパリ協定から8年が経過しました。このパリ協定の実施や結果の評価や追加ルールを議論するCOP28が、アラブ首長国連邦（UAE）のドバイにて、2023年11月30日～12月13日に開催されました。

初日に、長年の課題であった、気候変動による途上国などの「損失と損害」を救済して行くための基金の運用化に合意ができ、幸先の良いスタートを切りましたが、その後の交渉は難航し、会期を1日延長して合意にたどり着きました。

「直接的な化石燃料の段階的廃止」の文言には至りませんでしたが、「2050年のCO2ネットゼロを達成するべくエネルギー・システムにおいて化石燃料から転換して行くこと」に何とか合意して閉幕しました。

4-2.　化石燃料からの転換に合意

COP28での最大の成果は、パリ協定採択以後、史上初めて「温暖化を進める最大要因としての化石燃料の廃止」が合意されたことにあります。「2050年までにネット・ゼロ（温暖化ガス排出実質ゼロ）を達成するために、公正で秩序だって衡平な方法で、エネルギー・システムにおいて化石燃料を転換して行く、この重要な10年にその行動を加速させる」とCOP28の結果報告書に明記されました。

4-3.　2025年提出期限のNDC（次の国別目標）に向けてのメッセージ

COP28では、グローバル・ストックテイクと呼ばれる、世界全体の気候変動対策の進捗を評価する初めてのプロセスが行われました。その結果を踏まえて、各国は2025年までに次の削減目標（NDC）を提出することが求められました。

その際には、気温上昇を1.5度に抑えるためには、2035年までにGHG（温室効果ガス）排出量を2019年比で60％削減する必要があるというIPCCの主張を考慮することが必要とされました。

2015年にパリ協定が策定された当時から、このままの各国の取り組みでは、最終目標である「世界の気温上昇を1.5℃以下に抑えること」には届かないと分かっていました。

このため、パリ協定は、5年ごとに世界全体の取り組み進捗を評価し、もう一方ではそれを踏まえた各国の削減目標等を5年ごとに再提出させるという2つの5年サイクルを設けることで、各国に挑戦的な目標を促す仕組みを組み込んでいます。

このうちの前者、「5年ごとの世界全体での取り組み進捗評価」が「グローバル・ストックテイク」と呼ばれ、今回のCOP28で、その最初の結論を出すことになっていました。

2025年提出期限のNDC（次の国別目標）においては、強制力はありませんが2023年4月に発表されたIPCC第6次評価報告書（AR6）で示された、「1.5℃以下に抑えるためには2035年までにGHG排出量を2019年比60％削減が必要」という、世界全体で必要な削減水準に整合する目標値を記載することが求められることになります。

4-4.　カーボンマーケットの国際基準

COP28では、パリ協定6条に基づく、国際的なカーボンマーケットのルールが決定されました。特に、大気中から温室効果ガスを除去するいわゆる除去クレジットの取り扱いについて、品質や透明性の確保が重視されました。

4-5.　気候変動の影響へ対応するための2つの合意

1つ目はCOP28では、長年の課題であった気候変動による途上国などの「損失と損害」を救済して行くための基金の運用化に、開幕初日に合意ができた点が最大の成果とも言えます。

この途上国など気候変動に脆弱な国々に対する救済のための基金の創設はCOP27で基本合意はされましたが、「どの機関がこの基金を管理するのか、誰がお金を拠出するのか」等のさまざまな論点についての交渉が、特別な委員会で1年間継続されました。今回の会議でも交渉が難航すると思われていましたが、会議初日に合意が成立したため、本来の1.5℃以下に抑えるための議論に集中する事ができました。

2つ目は、「適応のグローバル目標に関する枠組み（フレームワーク）」の決定です。気候変動の原因であるCO2排出量を減らすための対策が「緩和」ですが、「適応」は気候変動による悪影響に備えて、何を行うべきかと言う課題です。気温上昇や降雨量増加、干ばつなどを見込んだ災害・防災計画から、感染症拡大防止対策、農業における種まきや収穫時期の変更や高温に強い品種への改良など、幅広い「適応」対策が存在します。

温室効果ガス排出量削減を進める「緩和」に比べ、気候変動に備える「適応」は地味なイメージの課題ではありますが、途上国にとっては大事な技術と言えるため、上述の基金の枠組みで対応することを求めましたが、先進国との溝が埋まらず、水資源・水災害、食料・農業、健康、生態系・生物多様性、インフラ、貧困、遺産保護などの分野別の2030年までの目標を設定しましたが、資金面での合意はできませんでした。

以上がCOP28における主な合意事項です。

5.　まとめ

（1）WMOはCOP28の開幕前に「2022年の大気中温室効果ガス濃度は過去最高を更新した」と発表し、COP28において資料を配布した。
（2）WMO、国際NPOのGlobal Change Data Lab、World Resources Instituteなどのデータをグラフ化してみた結果、温室効果ガス排出量は米国、EU、その他の主な国、主要国以外の国々でも減少傾向にあるものの、中国、インドが現在も増加傾向を示している。特に中国は増加率では減少傾向にあるが、ピークアウトは見込めていない。
（3）日本の気象観測衛星「いぶき」が赤外線を使った温室効果ガス濃度の測定を行っているが、例えば中国の温室効果ガス濃度は中国の公式発表の1.5倍～3倍の濃度が観測されている。途上国におけるデータの正確性が課題で、COP28において環境省が問題提起するとしていたが、確認できていない。
（4）COP28での主な合意事項は次のとおり。

化石燃料からの転換に合意
2025年提出期限のNDC（次の国別目標）に向けてのメッセージに合意
カーボンマーケットの国際基準の決定
気候変動の影響へ対応するための2つの合意（途上国などの「損失と損害」を救済して行くための基金の運用及び「適応」に対する基本的な枠組みの決定）

引用・参考資料

Greenhouse Gas concentrations hit record high. Again.　（WMO、2023-11-15）
世界の主要温室効果ガス濃度は観測史上最高を更新　（気象庁、2023-11-15）
温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズによる地球観測　（環境省）
中国のCO2濃度、公表の1.5～3倍で増加…環境省が観測衛星で分析しCOP28で発表へ　（読売新聞オンライン、2023年12月8日）
COP28　（COP28）
COP28結果報告　（WWF 世界自然保護基金）
Summary of Global Climate Action at COP 28　（UNFCC 気候変動に関する国際連合枠組条約）
What was agreed on climate change at COP28 in Dubai?　（BBCネットニュース､2023-12-13）
UN Climate Conference COP28　30 November-12 December 2023 | Dubai, UAE　（国連ニュース）
Greenhouse gas emissions　（国際NPO　Global Change Data Lab）
This Interactive Chart Shows Changes in the World’s Top 10 Emitters　（World Resources Institute）

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