EU環境法規制におけるキーワード

～エッセンシャルユースとは～

2023年9月20日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

欧州委員会は、2023年4月13日付けで「Essential-use：エッセンシャルユース（必要不可欠な用途）」の概念と基準を定義するためのプロジェクトによる、277ページに及ぶ「最終成果報告書」を公表しました。

2020年、欧州委員会は「有害な化学物質から人間の健康と環境を保護するレベルを高めることを目的とした持続可能性のための化学戦略（CSS）」を発表しました。これを達成するための手段として、EUにはREACH規則を中心に多くの有害化学物質規制があり、人間の健康や環境に対して有害な化学物質を最終的には全廃することを目指しています。

しかし、有害であることが判明した化学物質であっても、例えばRoHS規制で使用制限が設けられている、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムなど、長い歴史上で多くの用途分野で使用されてきた物質を一斉に使用制限し、現状では代替物質が見つからない場合には社会経済的に大きな混乱や損失を与える可能性があります。このような場合には、期限を定めた「適用除外」や「個別の認可申請による使用許諾」を認めてきました。

このような状況において、適用除外や認可申請に対する許諾の可否判断基準は不明確で、判断の迅速化を図る手段として「エッセンシャルユース」の概念が度々用いられるようになってきましたが、その定義が明確でない問題がありました。

EU委員会が今回発表した報告書は、主にREACH規則を主とする欧州の複数の有害化学物質規制に対して、「エッセンシャルユース」の概念をどのように定義するかについて調査したものです。現在検討されているPFAS規制等におけるREACH規則での認可及び制限の改正において適用可能な「エッセンシャルユース」の概念について議論したようです。

我が国においても，経済産業省がエッセンシャルユースについて「化審法において、第一種特定化学物質が製品の製造に不可欠であって、環境汚染のおそれがない場合に限って、例外的にその使用を容認（エッセンシャルユース※）することがあります。※現在指定されているエッセンシャルユースはありません。」と解説しています。

REACH規則などにおいて、適用除外を申請する際に重要な要件として「特定の用途において『エッセンシャルユース』であることが認定されれば、認可対象あるいは適用除外を認める」という表現を最近は良く目にしますので、この「エッセンシャルユース」の概念を理解することが重要だと思われます。今回の本コラムでは、EUにおける「エッセンシャルユース」の概念について、EU委員会の資料に基づき概要をお知らせしたいと思います。

2.　REACH規則などにおける“エッセンシャルユース”とは

以下、主にEU委員会が2023年4月14日に公開した資料（エッセンシャルユースコンセプトの策定における委員会の支援　最終報告）などより概要を示します。

2-1.　概要

この報告書は、最も有害な化学物質（Most harmful chemicals）（※）の段階的廃止を支援するために、「エッセンシャルユース」の概念と関連基準をさらに定義するための委員会を支援するプロジェクトの結果を示しています。この報告書は、REACH、有害物質制限指令、食品接触材料法、化粧品規制、分類規制、使用済自動車指令などのEU法制において、「エッセンシャルユース」の概念をどのように導入できるかを調査しました。 REACHに関して、当該報告書では、REACHの改定で検討されているように、認可と制限の改革のオプション内に適用できる「エッセンシャルユース」の概念の「サブオプション」を特定しています。最後に、この報告書は、REACHにおける「エッセンシャルユース」の概念の導入により予想される影響は定性的な評価です。

※“最も有害な化学物質（Most harmful chemicals）”とは、「がん、遺伝子変異を引き起こす化学物質、生殖器系や内分泌系に影響を与える化学物質、または、残留性があり生体蓄積性の化学物質を意味します。したがって、REACHで定義されているSVHC以上の有害性が疑われる化学物質がこの定義の対象となります。

2-2.　背景

欧州委員会は、CSS「無毒な環境に向けた持続可能性のための化学物質戦略」の中で、「最も有害な化学物質であっても、『健康、安全のために必要な場合』、または、『安全に使用する必要がある場合』にのみ、その使用が許可できるように、『エッセンシャルユース』の基準を定義する」と定めています。「社会の機能にとって重要であり、環境と健康の観点から許容できる代替手段がない場合」、この定めに関連するEU法全体に対して適用する「エッセンシャルユース」の概念とそれに付随する基準となります。

「エッセンシャルユース」の概念は、EU および世界中の既存の政策や法律において、限定的な範囲で使用されてきました。最も注目すべきは、この概念が、1989年から2019年の間にオゾン層破壊物質の98%を段階的に廃止するモントリオール議定書の下で使用されている例が成功例の1つと言えます。
EU 法における「エッセンシャルユース」の概念の目的は、社会にとって使用が不可欠な場合にのみ化学物質の使用を許可することで、最も有害な化学物質の段階的廃止の意思決定を迅速に行うことです。この概念は、不要不急な使用の段階的廃止を促進することで、最も有害な化学物質への人間と環境の暴露を防ぎ、これらの物質を段階的に廃止するために、より多くの時間を確保することで、最も有害な化学物質から環境と人の健康を守る可能性があります。

REACH及びその他の化学物質法の改正に向けた作業が現在進行中であるため、既存の規制プロセスを改善する機会があります。最も有害な化学物質の使用を段階的に廃止するためのプロセスを改善することは、複雑で時間のかかる制限の協議や、REACHに基づく厳しい認可手順など、化学物質規制における現在の課題を考慮すると不可欠です。現在の協議プロセスでは「エッセンシャルユース」の基準が明確でないため、最も有害な化学物質に対するリスク管理措置を採用するための意思決定に時間がかかり過ぎる可能性があります。その結果、最も有害な化学物質が環境に放出されるだけでなく、国民や労働者の暴露につながる可能性があり、「エッセンシャルユース」という概念の導入により、有害化学物質の協議を早めることになります。

図1　 EU法規制の流れと「エッセンシャルユース」の位置付けイメージ（筆者作成）

2-3.　この結論に至った協議の状況

（1）2022年3月には、650名を超える参加者によるオンラインでの「利害関係者ワークショップ」が開催され、利害関係者の意見を収集し、「エッセンシャルユース」の概念のさらなる開発について情報を提供し、そのコンセプトをREACHおよびその他の関連法規でどのように運用できるかを検討しました。
（2）対象を絞った調査は、REACH およびその他の法律に基づいて、「エッセンシャルユース」の概念を水平的に実施する方法に関する提案を収集するために、2022年4月13日から2022年5月4日まで実施されました。
（3）利害関係者の意見を詳しく説明する機会を提供するために、合計32回のインタビューが行われました。
（4）REACH全体改定に向けた公開協議の中で、回答者は、REACHにおける「エッセンシャルユース」の概念の導入によって予想される利益とコストについて説明しました。

2-4.　「エッセンシャルユース」概念の範囲

（1）「エッセンシャルユース」の概念は、CSSで言及されているように、段階的廃止の優先事項である最も有害な化学物質の使用にのみ適用されるべきだと考えらます。
（2）REACH第3条では、「使用」とは、加工、配合、消費、保管、保存、処理、容器への充填、ある容器から別の容器への移送、混合、物品の製造、または、その他の利用と定義されています。健康や安全への必要性、社会機能への重要性という観点から使用を文書化することが不可欠であり、そのため、特定の最終用途（例えば特定の環境で消費者や専門家によって使用される最終製品）は、社会にとっての本質性を見極める必要があります。
（3）「エッセンシャルユース」の概念は、あらゆる部門に適用できるよう水平展開することを意図しています。どの分野においても最も有害な化学物質の特定の用途は、社会にとって必須である場合もあれば、そうでない場合もあるため、ケースバイケースの評価が必要です。
（4）「エッセンシャルユース」でのすべての使用を許可すると、最も有害な化学物質の重要ではない使用が許可される可能性があります。反対に社会の機能のため、健康と安全のために、必要なもの及び代替可能なもの、さらに「必須ではない分野」でのすべての使用を禁止すると、市場の重大な混乱や、健康、安全、社会の機能にとって重要な使用の中止につながる可能性があります。

2-5.　「エッセンシャルユース」の概念と定義

（1）情報収集タスクを通じて、「エッセンシャルユース」の概念に関連する限定的な定義が特定されました。例えば、この概念は過去に適用された場合（たとえば、モントリオール議定書の下）、基準や定義を説明するさらなるガイダンスはありません。したがって、今回のこの報告書は主観性を軽減するためのものと言えます。
（2）「エッセンシャルユース」の概念と関連する基準をさらに定義するには、粒度、厳密性、および柔軟性の間で適切なバランスを取る必要があります。たとえば、基準が狭すぎると近視眼的となり、製品や分野に対する差別につながったり、社会のニーズの変化に対応できなくなったりする可能性があります。一方で、基準が一般的すぎると、許可される項目が多すぎる可能性があります。

最も有害な化学物質であっても、その使用は社会にとって不可欠であると評価される場合もあります。その場合リスクを最小限に抑えるために、次の結論を導き出しました。
（1）基準はCSSに規定されているとおりに維持する必要がある。
（2）水平的なガイダンスは、法律全体にわたるこれらの基準の適用において、さらなる定義と一貫性をもたらすべきである。
（3）必要に応じて、法律固有のガイダンスを作成する必要がある。

【要約】
1.　（CSS：「無毒な環境に向けた持続可能性のための化学物質戦略」に従って）社会にとって「エッセンシャルユース」と定義される物質の使用の基準は、以下のとおりであることが求められます。
（1）健康、安全のために必要、および/または社会の機能にとって重要。
（2）環境と健康の観点化から許容できる代替手段が現段階で見つからない。
2.　水平的なガイダンスがあれば、基準の適用がさらに明確になり、具体性が増し、さまざまな法律にまたがっても一貫性が保たれます。水平的なガイダンス文書を作成することで、法律を超えたコンセプトの実施における主観性を制限し、予測可能性、有効性、効率性、一貫性を向上させることができます。基準ではなくガイダンスで詳細を示すことの主な利点は、「柔軟性を持たせ、政治的な舵取りをある程度可能にする一方で、利害関係者には、基準を解釈可能で実用的に実施可能な詳細レベルを提供すること」ができます。
3.　必要に応じて、法律特有のガイダンスを作成することは、「エッセンシャルユース」の概念が実際に各法律にどのように導入されるかについてのニュアンスを反映することになります。

社会にとっての必要性に基づいて、制限から逸脱／許可された使用については、次のように結論付けられます。
（1）最も有害な化学物質は最小限に抑えられる。
（2）より安全な代替品への置き換えが奨励される。
（3）社会にとっての「エッセンシャルユース」に関する決定は、計画に基づいて一定期間後に見直される。
※ケースバイケースで、その使用が依然として社会にとって不可欠なものとしての資格があるかどうかを判断します。

図2　REACHにおける認可申請に必要な情報が、申請された用途の必須性評価にどのように使用できるかを示す概略
（出典：Environmental Sciences Europe資料を筆者が翻訳）

図3　水平的「エッセンシャルユース」の概念の高レベルな概要（出典：EU委員会資料/筆者訳）

2-6.　EU法における「エッセンシャルユース」の概念（EU委員会）

最も有害な化学物質が許容されるのは、以下の場合のみに限定するため「エッセンシャルユース」の基準を定義する。
（1）その使用が、健康や安全のために必要な場合、または社会機能にとって重要な場合
（2）環境および健康の観点から、許容できる代替物質がない場合

2-7.　REACHにおける「エッセンシャルユース」の概念

目的と法的根拠

REACHにおける「エッセンシャルユース」の概念の導入は、REACHの認可と制限の改革との関連で検討されます。一般的および特定のリスク管理における「エッセンシャルユース」の概念は、主に非必須用途において、時間の経過とともに非必須となる可能性のある「エッセンシャルユース」において、最も有害な化学物質を段階的に廃止するためのツールを提供できると想定されています。

「エッセンシャルユース」の概念は、認可決定や規制緩和において、より簡素化、透明性、予測可能性、効率性をもたらすことを意図しています。この概念は、制限の適用除外を正当化し、認可を正当化するためのアプローチを変更することにより、最も有害な化学物質の「非必須用途」への使用を防止することを意図しています。さらに、このコンセプトは、「エッセンシャルユース」と、それに関連する人の健康や環境への暴露やリスクを可能な限り最小化することを意図しています。

最後に、この概念は、産業界が代替品の開発と使用に適切な努力を払っていることを証明するよう求めることで、「エッセンシャルユース」の代替を奨励することを意図しています。

選択肢とその他のパラメータ

認可と制限の改革に関する望ましい選択肢にもよりますが、「エッセンシャルユース」の概念は、認可（第60条）、及び／または、第68条第1項と第2項の両方による制限の適用除外を認める根拠として適用することができます。
「エッセンシャルユース」の概念については、以下のサブオプションが検討されました。
（1）サブオプションA：現行の規定を補完するオプション的な検討事項として、認可と制限における「エッセンシャルユース」の概念の導入に関する拘束力のないガイダンス。
（2）サブオプションB：現行の規定を補完する任意の検討事項として、認可と制限における「エッセンシャルユース」の概念のための拘束力のある実施規則と支援ガイダンス。
（3）サブオプションC：REACHにおける認可と制限の下での「エッセンシャルユース」に関する法改正の導入。「エッセンシャルユース」の概念は、認可を決定するための社会経済的（SEA）ルートと適切な管理ルート（ACR）を補完するアプローチとなる。「エッセンシャルユース」の概念は、すべての規制緩和の決定に用いられます。
（4）サブオプションD：認可と制限の下での「エッセンシャルユース」について、REACHに法改正を導入し、認可と制限の緩和を決定するアプローチとして、「エッセンシャルユース」の概念が社会経済的なルートに取って代わります。さらに、認可のための適切な管理ルートは削除され、すべての認可申請と制限緩和は「エッセンシャルユース」の概念に基づくことになります。
本報告書では、REACHにおける「エッセンシャルユース」の概念の潜在的な参入経路（認可および制限のプロセス内）、ならびに様々な実施方法を示すために、オプションを説明しました。サブオプションAとBはいずれも、制限や認可からの適用除外に関する現行の規定と並行して、「エッセンシャルユース」の概念を任意で検討することになります。サブオプションCでは、制限の適用除外については「エッセンシャルユース」の概念の適用が義務付けられ、認可については「エッセンシャルユース」の概念の検討が任意となります。サブオプションDは、制限や認可からの適用除外に使用される現行の基準を「エッセンシャルユース」の概念に完全に置き換え、最も有害な化学物質の「エッセンシャルユース」のみを適用除外または認可できるようにするものです。

2-8.　オプションによる主な影響

全てのオプションの下で、「エッセンシャルユース」の概念は、最も有害な化学物質の制限および認可からの逸脱の件数を減らすことが期待されます。また、代替を促進し、最も有害な化学物質の制限／認可された使用による排出と暴露を最小限に抑えることを要求することになります。その結果、最も有害な化学物質に対する保護の向上により、環境と人間の健康にプラスの影響が期待されます。しかし、このプロジェクトではこれらを定量化することはできませんでした。

「エッセンシャルユース」の概念は、認可と制限のプロセスをより単純化し、負担を軽減し、これにより当局と業界の両方にとってコストを削減することを目的としていますが、経済的影響に関しては高いレベルでの不確実性があります。例えば、「エッセンシャルユース」を証明するために必要な情報は、認可や制限の取り消しのための現在の情報要件（社会経済データなど）と比較して、収集および分析が多かれ少なかれ困難である可能性があります。これはおそらくケースバイケースで異なるでしょう。申請者は、社会にとって「非必須用途」とみなされる可能性が高い用途に対する認可申請や制限の除外申請を思いとどまらせることができ、申請にかかる管理コストを節約できる可能性があります。「非必須用途」の物質の生産損失による産業界への経済的コストは相当なものになる可能性がありますが、代替品が利用可能な場合には、これらのコストはより安全な代替品の提供者の利益に転嫁されるでしょう。

3.　過去の事例に見る「エッセンシャルユース」

3-1.　はじめに

このプロジェクトの一環として、いくつかの具体的なケーススタディが作成されました。ケーススタディの目的は、EUのさまざまな法律のもとで、化学物質が規制緩和または認可された既存のケースを調査し、「既存のケース」と、規制緩和・認可の評価に本質的使用の概念が用いられたと仮定した場合の比較差異を見ることです。

全体として、この目的は、もしすでに適用されているのであれば、これらの状況において「エッセンシャルユース」の概念がどのように運用され得たかを評価し、それが（すなわち、既存のケースとの比較において）及ぼし得たかもしれない影響を調査することであり、以下の主要な疑問に焦点を当てることも含まれます。

（1）本事例において、「エッセンシャルユース」の概念の主な要素（健康／安全にとっての必要性、社会機能にとっての重要性、代替品の欠如）をどのように評価し、決定に反映させることができたか。
（2）プロセスの有効性と効率性、健康／環境保護のレベル、法的確実性、予測可能性、代替へのインセンティブなどが改善されるか。
（3）この特定のケースに「エッセンシャルユース」を適用する際の重要な実務上の課題は何か。本事例に「エッセンシャルユース」の概念が適用された場合、健康／環境、経済、社会的にどのような影響があるか。
（4）「エッセンシャルユース」の概念を実施するために、この事例からどのような重要な教訓を得ることができるか。

ケーススタディ作成の主な成果は、水平的本質的使用の概念の精緻化に役立てることでした。
ケーススタディは、文献調査（例えば、ECHAの報告書や決定書など、一般に入手可能な報告書や立法文書を使用）、欧州委員会の専門家とのコミュニケーション、より広範な利害関係者との協議（調査、ワークショップ、インタビュー）からのインプットを組み合わせて作成されました。

3-2.　「エッセンシャルユース」として規制緩和または適用除外になった事例

本レポートで取り上げた具体的なケーススタディは以下の通りです。
（1）REACH規則におけるカドミウム
（2）REACH規則における六価クロム
（3）食品接触材料法におけるカドミウムと鉛の規制
（4）RoHS指令における合金中の鉛
（5）医療機器に含まれるフタル酸ビス（2-エチルヘキシル）（DEHP）
（6）EU分類法におけるトリクロロエチレン
（7）殺生物剤規制（BPR）における抗凝固殺鼠剤

4.　まとめ

（1）本コラムで概要を述べた「EU委員会によるエッセンシャルユースに関する報告書」は全277ページに及ぶもので、本コラムではエグゼクティブサマリー9ページ及びケーススタディの一部をまとめた。
（2）「エッセンシャルユース」を定義する目的は、現状ではREACH規則を始めとする有害物質規制の協議に時間がかかり過ぎ、その間に有害物質を環境中に放出し続けることになる。有害物質は最終的には全廃を目指すが、現状では代替品がなく、健康や環境を守るための使用や、社会経済的に大きな損失を及ぼす可能性などがある用途があり、これを「エッセンシャルユース」と定義し、使用制限に猶予を与えることにより、協議が迅速に進み、規制当局及び生産者・ユーザー双方にとってメリットになると考える。
（3）本報告では「エッセンシャルユース」の概念をケースバイケースで考える必要があり定量的に定義することはできなかった。EUではCSS「無毒な環境に向けた持続可能性のための化学物質戦略」を基本としているが、「最も有害な化学物質であっても、その使用が健康、安全のために必要な場合、または安全に使用する必要がある場合には、特定の用途に対して規制緩和または適用除外を設け使用を許可する場合がある。この特定の用途を「エッセンシャルユース」とし基準を定義するものである。
（4）この概念を全面的に適用すると、悪影響が生じる可能性がある。「エッセンシャルユース」での全ての使用を許可すると、重要ではない最も有害な化学物質の使用が許可される可能性がある。社会の機能のため、及び／または、健康・安全のために必要なもの、代替可能なもの、さらに、『非必須用途』での全ての使用を禁止すると、市場の重大な混乱や、健康、安全に必要、及び／または、社会の機能にとって重要な使用の中止につながる可能性がある。
（5）最も有害とされる化学物質であっても、安全や健康を守るために必要不可欠な特定の用途を「エッセンシャルユース」と定義するが、ケースバイケースで判断し、規制緩和や適用除外を設けるが、代替技術の進歩などをにらみ、一定期間で見直しを行いながら段階的に廃止の方向へ向かう。
（6）「エッセンシャルユース」の概念は、認可と制限のプロセスをよりシンプルにし、負担を軽減し、したがって当局と業界の両方にとってコストを削減することを目的とする。
（7）当該規制対象物質の有害性は明確であるが、社会経済的な影響に関しては高いレベルでの不確実性があるので必須性を証明するために必要な情報はケースバイケースで判断する。
（8）EUではCSS（無毒な環境に向けた持続可能性のための化学物質戦略）を原則とするが、一度に規制を実施すると社会的な混乱を招く可能性があるので、有害な物質であっても安全、環境、社会／経済的な損失を招く恐れがあり、現状で代替品がない特定用途に対してはケースバイケースで「エッセンシャルユース」を認め、規制緩和／適用除外期間を設けるが、モントリール議定書におけるフロン規制のように段階的に廃止する方向で進める。

引用・参考資料

SUPPORTING THE COMMISSION IN DEVELOPING AN ESSENTIAL USE CONCEPT　（EU委員会、2023-4-13）
The essential-use concept: a valuable tool to guide decision-making on applications for authorisation under REACH?　（Environmental Sciences Europe、2023-1-18）
エッセンシャルユースについて　（経済産業省）
EUの持続可能な化学物質戦略　（環境省、2022-3-17）

注意

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