有機ふっ素化合物類（PFAS）に関する最新基本情報　#1

～環境省がQ&A集を公表～

2023年9月20日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

現在、EU域内においてふっ素樹脂を含む10,000種類にも及ぶ広範な有機ふっ素化合物（PFAS）に対する規制案が協議中ですが、環境省が2023年7月31日付けで、PFAS規制の発端となったPFOS、PFOAなどの最新情報に基づくQ&A集、及び、PFASに関する我が国の今後の対応の方向性、国際動向など一連の情報を公開しました。

本コラムでは、これらの公開された情報について何回かに分割して概要を紹介したいと思います。

2.　「PFOS、PFOAに関するQ&A集（2023年7月時点）」の要約

2-1.　本Q&A集作成の目的

（1）環境省や都道府県等が実施した調査において、国内の河川・地下水等の水環境で PFOS、PFOAの暫定目標値（50 ng/L）を超過する事例が確認されており、PFASのうち特に関心が高いPFOS、PFOA については、住民の不安に寄り添い透明性を確保しながら適切な情報発信を行っていく必要があります。
（2）こうした状況を踏まえ、本Q&A集は、PFASのうちPFOS、PFOAについて、現時点の科学的知見等に基づき、環境省が設置した「PFAS に対する総合戦略検討専門家会議」の監修の下で作成されたものです。
（3）今後、さらなる科学的知見等が得られた場合には、適宜、必要な見直しを行っていく予定です。

2-2.　PFOS、PFOA に関する基本的情報

性状
（1）有機ふっ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称して「PFAS」と呼び、1万種類以上の物質があるとされています。
（2）PFASには炭素鎖の長さが異なる複数の同族体が存在し、その物性は炭素鎖の長さで大きく異なりますが、中には撥水・撥油性、熱・化学的安定性等の物性を示すものがあり、そのような物質は撥水・撥油剤、界面活性剤、半導体用反射防止剤等の幅広い用途で使用されています。
（3）PFASの中でも、PFOS（ペルフルオロオクタンスルホン酸）、PFOA（ペルフルオロオクタン酸）は、幅広い用途で使用されてきました。具体的には、PFOSについては、半導体用反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤、泡消火薬剤などに、PFOAについては、ふっ素ポリマー加工助剤、界面活性剤などに主に使われてきました。
（4）PFOS、PFOAには、難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質（POPs）があるため、現時点では北極圏なども含め世界中に広く拡散しています。そして、仮に環境への排出が継続する場合には、分解が遅いために地球規模で環境中にさらに蓄積されていきます。環境や食物連鎖を通じて人の健康や動植物の生息・生育に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

図1　PFOSとPFOAの化学構造（種々資料から筆者が作成）

ヒトの健康への影響

（1）PFOS、PFOA は、動物実験では、肝臓の機能や仔動物の体重減少等に影響を及ぼすことが指摘されています
（2）ヒトにおいてはコレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されています。しかし、どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについてはいまだ確定的な知見はありません。そのため、現在も国際的に様々な知見に基づく検討が進められています。
（3）国内において、PFOS、PFOA の摂取が主たる要因と見られる個人の健康被害が発生したという事例は確認されておりませんが、環境省は厚生労働省と連携し、最新の科学的知見に基づき、暫定目標値の取扱いについて、専門家による検討を進めています。

【筆者解説：転ばぬ先の杖】

PFASの定義に該当する化学物質は10,000種類ほど存在すると言われていますが、おおよそ炭素鎖の数によりOECDがグループ分けしています。炭素数が8つのPFOS、PFOAは化学的に安定な界面活性剤としての物性を有するため、便利な化学物質として泡消火剤や半導体製造工程など多くの用途分野で大量に使用されてきました。
しかし、21世紀に入ってPFOSやPFOAによるヒトへの発がん性や生殖障害、免疫系への影響などの疑いが出始めました。しかし、「どの程度の量が身体に入ると影響が出るのか」がはっきりしない状況で世界的な使用制限が論じられているのは、PFASが「難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があるため」予防的な措置として使用制限を行おうとしていると言えます。
将来、ヒトへの影響が明確になった場合、あるいはオゾンのように地球環境への影響が見つかった場合などにおいて、その時点で規制を開始しては「難分解性、高蓄積性、長距離移動」の性質が災いして、対応が極めて困難になるため、「転ばぬ先の杖」的な発想での規制と位置付けられます。

2-3.　PFOS、PFOAに関するQ&A集

Question	Answer	備考
Q1：　PFOS、PFOA はなぜ、製造・輸入禁止といった非常に厳格な措置が採られているのですか。	PFOS、PFOA は、有害性のほか、難分解性、高蓄積性、長距離移動性という特性があることから、環境への排出が継続された場合の将来への影響を未然に防止するために、国際条約や法律により製造や輸入が禁止されました。	難分解性、高蓄積性、長距離移動性を有し有害性が疑われる物資はストックホルム条約によって、廃絶または使用制限の対象となります。 PFOSは2009年、PFOAは2019年に廃絶物質リストに収載されました。
Ｑ2：　身近な環境中の PFOS、PFOA はこれから増えるのでしょうか。	PFOS、PFOA はいずれも既に製造・輸入が原則禁止されており、環境省の調査によると、2009年以降、同一の測定点において水質（河川等）、底質、大気中の濃度が全体的な傾向として年々減少傾向にあります。調査は引き続き実施していきます。	PFOS、PFOA はいずれも「化審法」に基づき、既に製造・輸入等が原則禁止されています（PFOSは 2010年、PFOAは2021年）。消防機関の他、石油コンビナート、基地、空港などの施設などの泡消火剤にPFOS、PFOAが使用されているものがありますが、保存法・廃棄法などが厳格に定められています。
Ｑ3：　永遠の化学物質と聞きました。一度身体に入ったら一生残るのでしょうか。	一生身体の中に残るわけではありません。	PFOS、PFOA は代謝されにくいものですが、消化管から体内に吸収され、その後ゆっくりではありますが、体内から排泄されていくと考えられています。欧州食品安全機関（EFSA）によると、新たな摂取がない場合に人の体内の濃度が半分になるまでの時間（半減期）は PFOSで約3.1～7.4年、PFOAで約2.3～8.5年と見積もられています。ただし半減期は摂取量にもよります。
Q4：　一部の地域では、PFOS、PFOAが飲み水に含まれている場合があると聞きました。大丈夫なのでしょうか。	飲み水中の PFOS、PFOA が暫定目標値を超えることがないように、水道事業者等による管理をお願いしています。なお、PFOS、PFOA の摂取が主たる要因とみられる個人の健康被害が発生したという事例は、国内において確認されていませんが、最新の科学的知見に基づき、暫定目標値の取扱いについて、専門家による検討を進めています。	厚生労働省では、水道水について、2020 年にPFOS、PFOAを水質管理目標設定項目に位置付け、PFOSとPFOAの合算値で50 ng/L 以下とする暫定目標値を定めています。 ※現状、これは世界で一番厳しい基準目標値です。以下に詳細を示します。
Q5：　米国などで水道水の目標値等を厳しくする動きがあるようですが、日本の水道に係る暫定目標値の50 ng/Lでは甘すぎるのではないでしょうか。	現在の暫定目標値（＝50 ng/L）は、2020年当時における安全側に立った考え方を基に設定されたものです。引き続き、各国・各機関により更なる検討がなされており、我国においても、最新の科学的知見に基づき、暫定目標値の取扱いについて専門家による検討を進めています。	【WHO】2022年に暫定ガイドライン値としてPFOS 100 ng/L、PFOA 100 ng/L、総PFASは500 ng/Lを提案。【米国】2023年に、現時点での分析能力（定量下限4 ng/L）を考慮してPFOS 4 ng/L、PFOA 4 g/Lとする規制値案を公表。それまではPFOS＋PFOA＝70 ng/L以下【EU】現状PFOS+PFOA＝200 ng/L以下。2028年に4 PFAS（PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS）合計20 ng/Lを適用予定。
Q6：　健康影響に関する血中濃度の基準はないのですか。PFOS、PFOAの血液検査を受ければ健康影響を把握できますか。	現時点での知見では、どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるかについては明らかとなっていません。このため、血中濃度に関する基準を定めることも、血液検査の結果のみをもって健康影響を把握することも困難なのが現状です。	現時点での知見では、どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるかについては明らかとなっていません。
Q7：　PFOS、PFOAは消火器に含まれていると聞きました。家庭で使う消火器にも含まれているのでしょうか。	通常家庭で使われている住宅用消火器にはPFOS、PFOAを含有しているものはありません。	消火器には住宅用消火器と業務用消火器の二種類がありますが、住宅用消火器にはPFOS、PFOA を含有しているものはありません。
Q8：　PFOS、PFOA を含む泡消火薬剤の代替をどのように進めているのでしょうか。	関係省庁ではPFOSを含まない泡消火薬剤への代替の促進を図っており、PFOAを含む泡消火薬剤についても、今後、PFOS、PFOAを含まない泡消火薬剤への代替の促進を図っていく予定です。	PFOSを含む泡消火剤は、石油コンビナートや航空機の火災など大規模なものを想定しており、小規模な家庭用の消火器などに使用されている例は少なく、所在がハッキリしているものが多く、順次代替を図って行く予定。
Q9：　泡消火薬剤以外にも、様々な用途で使われていたと聞きましたが、生活をする中で気をつけるべきことはありますか。	身の回りの製品について、特段心配するようなことはありません。PFOS、PFOAは既に製造・輸入等が禁止されており、PFOS、PFOA を使用した製品が新たに流通することは想定されません。	PFOSは2010年、PFOAは2021年に化審法により既に製造・輸入等が原則禁止されていますので、身の回りにPFOS、PFOAを使った製品は流通していません。フライパンのコーティングや撥水スプレーなどにEUで規制しようとしているふっ素樹脂が使用されていますが、PFOSやPFOAは含有していません。

3.　まとめ

（1）現在、EUではふっ素樹脂やふっ素ゴムまでを含むPFASと定義される約10.000種類もの化学物質を一括して広範囲に規制するための協議が行われている。米国においては、複数の既存のPFASについての規制と新規PFASの製造前審査の厳格化などが検討されている。我国においても、環境省が設置した「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」において、PFASに対してどのように対応するべきかの審議が行われている。
（2）このような状況において環境省や都道府県等が実施した調査にて、国内の河川・地下水等の水環境で PFOS、PFOAの暫定目標値（50 ng/L）を超過する事例が確認されており、PFASのうち「特に関心が高いPFOS、PFOAについては、住民の不安に寄り添い透明性を確保しながら適切な情報発信を行っていく必要がある」として、2023年7月31日付けで環境省がPFAS規制の発端となったPFOS、PFOAなどの最新情報に基づくQ&A集及びPFASに関する我国での今後の対応の方向性、国際動向など一連の情報を公開した。
（3）今回は、一連の情報のうち、Q&Aについて概要を記した。
（4）PFASについては、ヒトに対する発がん性、生殖毒性などの毒性を疑う報告が複数あるが、PFOSやPFOAなど大量に使用されてきた物質に対してさえも、どの程度の量を摂取した場合に有害性が現れるのかは未確認であり、その他のPFASについては、ほとんど毒性を示す報告やデータは存在しない。
（5）しかしながら、世界各国・地域において、慌てふためくように規制を急ぐ背景には、PFASが難分解性、生体蓄積性、遠距離移動性を有する物質（ストックホルム条約対象物質）であり、かつてのフロン類のように、後世になって、有害性が明確になった時点からの規制では回収が困難であるため、現状では「転ばぬ先の杖」的な意味合いでの規制と言える。

引用・参考資料

PFOS、PFOA に関するQ&A集－2023 年７月時点－　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
PFAS に関する今後の対応の方向性　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
PFOS、PFOA に係る国際動向　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
PFASに関する今後の対応の方向性（概要）　（環境省/PFAS に対する総合戦略検討専門家会議、2023年7月31日）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化～企業が注意するべき事項～　（日本バルブ工業会、2021年4月19日）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化　#2　～4,700種類のPFASをどのように規制するのか　#1～　（日本バルブ工業会、2022年10月11日）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化　#3　～4,700種類のPFASをどのように規制するのか　#2～　（日本バルブ工業会、2022年11月14日）

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