地球の気温は今後5年間で新記録に達する見通し

～WMO（世界気象機関）が警告～

2023年6月12日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

WMO（World Meteorological Organization、）は2023年5月17日付けで行った報道機関向け発表において、「熱を閉じ込める温室効果ガスと自然発生のエルニーニョ現象により、地球の気温は今後5年間で記録的な水準にまで上昇する可能性がある」と述べ、同時にウェブサイトに概要を掲載しました。

二酸化炭素など温室効果ガス排出量は依然として増加傾向にあり、かつ大規模なエルニーニョ現象の発生が予想されるため、2023年～2027年の5年間において、世界の平均気温はパリ協定で目標とされている、1.5℃に達してしまうと予想しています。

今回は、WMOが20023年5月17日に発表した資料、及び、引用資料の“Global Annual to Decadal Climate Update”の概要について、お知らせしたいと思います。

2.　今後5年間の世界の平均気温予測

※以下、2023年5月17日にWMOが発表した資料に基づいて記します。

WMOが発表した新たな最新情報によると。熱を閉じ込める温室効果ガスと自然発生のエルニーニョ現象により、地球の気温は今後5年間で記録的な水準にまで上昇する可能性があると言えます。
2023年～2027年の間で、地球の地表近くの年間平均気温は、少なくとも1年間、産業革命前の水準より1.5 ℃以上高くなる可能性が66%あります。今後5年間の少なくとも1～5年間の全体で、観測史上最高の気温になる可能性が98%あります。
「この報告書は、長年にわたる長期的な温暖化を指すパリ協定で定められた気温1.5℃を永久に超えることを意味するものではありません。しかし、WMOは、一時的に1.5℃レベルを突破する頻度が増えると警鐘を鳴らしている」と事務総長のペテリ・ターラス教授は述べました。
「気温が上昇するエルニーニョ現象が今後数カ月間に発生すると予想されており、これに人為的な気候変動が加わり、地球の気温は未知の領域に到達するだろう」と同氏は述べました。「これは健康、食糧の安全保障、水管理、環境などに広範囲に影響を与えるでしょう。備えが必要です」とターラス教授は語りました。
WMOの予測センターである英国気象庁が作成したWMO Global Annual to Decadal Climate Updateによると、5年間の平均値が1.5℃の基準を超える確率は、わずか32％だとしていました。
一時的に1.5℃を超える可能性は、2015年にはゼロに近かったが、それ以後は着実に上昇してきており、2017年～2021年までの数年間、超過する可能性は10%になり、今回の発表では66％まで高まりました。
報告書を主導した気象庁の専門科学者レオン・ハーマンソン博士は、「世界の平均気温は上昇し続けると予測されており、私たちが慣れ親しんだ気候からどんどん遠ざかって行く」と述べました。

【キーポイント】

2022年の世界の平均気温は、1850～1900年の平均気温を約1.15 ℃上回りました。過去3年間の大部分にわたるラニーニャ現象による寒冷化の影響により、長期的な温暖化傾向が一時的に抑制されました。しかし、ラニーニャ現象は2023年3月に終息し、今後数ヶ月以内にエルニーニョ現象が発生すると予測されています。通常、エルニーニョ現象は発生の翌年に地球の気温を上昇させます。今回の場合は2024年になります。
2023年～2027年の各年の地球の地表付近の年間平均気温は、1850年～1900年の平均よりも 1.1 ℃から1.8 ℃高くなると予測されています。1850年～1900年の平均気温は、人間や産業活動による温室効果ガスの排出が始まる前のことであるため、ベースラインとして使用されます。
今後5年間に少なくとも1回は、非常に強いエルニーニョが発生した2016 年に記録された気温記録を超える可能性が98%あります。
2023年～2027年の5年間の平均気温が過去5年間よりも高くなる確率は98%です。
北極の温暖化は不釣り合いに進んでいます。1991年～2020年の平均と比較すると、今後5年間の北半球の長期にわたる冬の期間の平均をとった場合、気温の異常は世界の平均異常の3倍以上になると予測されています。
2023年～2027年の5月～9月の平均の降水パターンを、1991年～2020年の平均と比較すると、サヘル地域（サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域）、ヨーロッパ北部、アラスカ、シベリア北部で降水量が増加し、アマゾンとオーストラリアの一部で今シーズンの降水量が減少することが示唆されています。

3.　WMOの年次及び10年間の予測

※WMOが毎年発行している“WMO Global Annual to Decadal Climate Update”（世界の年間及び10年間の気象最新情報）最新版より抜粋して記します。

2023年～2027年までの各年の地球の地表付近の年間平均気温は、1850年～1900 年の平均よりも 1.1 ℃～1.8 ℃高くなることが予測されています。
2023年～2027年までの少なくとも1年間、地球の地表近くの気温が産業革命前の水準より1.5 ℃を超える可能性は66%です。しかし5 年間の平均がこの閾値を超える可能性は32%と低いです。
2023年～2027年までの少なくとも1年間が、観測史上最も暖かい年である2016 年を超える可能性は 98%です。2023年～2027年の5年間の平均が、過去5年間の2018年から2022年よりも高くなる確率も98%です。
エルニーニョ南方振動（ENSO）は、2023年12月～2024年2月にかけてプラスになる可能性が最も高いと予測されています。
1991年～2020年の平均気温と比較した北極の気温の異常は、北半球の今後5年間の長期にわたる冬を平均すると、全球平均の異常の3倍以上になると予測されている。
1991年～2020年の平均と比較した2023年の降水パターンの予測は、インドネシア、アマゾン、中央アメリカの一部で降水量が減少する可能性が高まることを示唆しています。
1991年～2020年の平均と比較して、2023年～2027年の5月～9月の平均の降水パターンの予測は、サヘル地域で平均を上回る降雨が降る可能性が高まっていることを示唆しています。
ヨーロッパ北部、アラスカ、シベリア北部で、アマゾンとオーストラリアの一部では今シーズンの降水量が減少しました。
ユーラシア北部では、最近の傾向と一致して、2023年～2027 年にかけて 12月～2月の降水量が平均を上回る可能性があります。

4.　大規模なエルニーニョ現象が発生した2016年の世界の異常気象

2016年は大規模なエルニーニョ現象（太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、それが1年程度続く現象で、世界的に気温が高くなる現象）が発生して、世界的に多くの異常気象と気象災害を引き起こしました。

気象庁の資料によると、2016年は、図１に示すように多くの異常気象と気象災害が多発し、以下のように総括しています。
世界の広い範囲で異常高温が頻発

特に低緯度域では、年間を通じて異常高温が持続した。要因として、2016年春まで続いたエルニーニョ現象や、温室効果ガスの増加に伴う長期的な地球温暖化の影響があると考えられる。

干ばつ、熱波、大雨や洪水、ハリケーンによる大きな気象災害

東南アジアでは干ばつ（1月～5月）、インドでは熱波（3月～5月）、中国南東部・南部では大雨や洪水（4月～7月）、ハイチではハリケーン（10月）によって、大きな被害が発生した。

図1　世界の主な異常気象・気象災害（2016年）（出典：気象庁）

表1　2023年の異常気象と気象災害（出典：気象庁）

年／月	高温	低温	多雨	少雨	気象災害
2023/1	4件	3件	6件	1件	2件（大雨、サイクロン）
2023/2	2件	2件	2件	2件	2件（大雨）
2023/3	5件	2件	7件	2件	2件（大雨、サクロン）
2023/4	5件	1件	4件	4件	2件（大雨、竜巻）

5.　まとめ

WMO（世界気象機関）は2023年5月17日付けで報道機関向けの発表を行い、2023年～2027年までの5年間において、温室効果ガス排出量の増加及び2016年以来の大規模なエルニーニョ現象の発生が予想され、世界の地表付近の平均気温が1985年～1900年の産業革命以前と比べて1.1～1.8℃上昇し、人類が経験したことがない気温になると予想。
ただし、この先5年間の平均気温がパリ協定の目標である1.5℃を連続して上回るとことを意味するわけではなく、ピークとして1.5℃上昇した世界を経験する可能性が高い。
2016年に大規模なエルニーニョ現象が発生し、世界的に多くの異常気象と気象災害が発生したが、今後5年間において、さらなる高温が生じる可能性があり、多くの異常気象や気象災害を警戒する必要がある。

引用・参考資料

Global temperatures set to reach new records in next five years　（世界気象機関、2023-5-17）
WMO Global Annual to Decadal Climate Update　（世界気象機関）
世界各地で異常高温が頻発～2016 年（平成 28 年）の世界の天候（速報）　（気象庁、2016-12-21）
2022年度「世界の気象変動の今」～COP27が閉幕～　（日本バルブ工業会、2022-12-12）
地球温暖化による気候変動の今～「インド洋ダイポールモード現象」との関連～　（日本バルブ工業会、2022-12-12）

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