金属表面処理におけるPFAS問題

～六価クロム処理や潤滑処理など～

2023年5月16日

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1.　はじめに

2023年4月21日付の米国官報において、EPA（米国環境保護庁）は「情報収集活動としてクロム仕上げ業界のデータ収集を行い、審査と承認のための管理予算局へ提出する」と公告を行いました（コメントの受付は2023年5月22日まで）。

2023年2月7日付でECHA（欧州化学品庁）が公開したREACH規則に基づく広範なPFAS制限案では、パブリックコンサルテーションの意見を踏まえて検討される「特例の対象となる可能性の化学品」リストに、硬質クロムメッキ用のPFASは制限の決定後6.5年の猶予期間後に使用禁止物質とされていますが、米国においても硬質クロムメッキなどの金属処理に使用されるPFASについて、調査を開始した状況にあります。

また、PTFE微粉末をメッキ被膜中に取り込んだ潤滑メッキなど金属の表面処理においてもPFAS問題があります。

そこで、本コラムでは当工業会会員にとって重要な技術である硬質クロムメッキや潤滑メッキなどの金属処理におけるPFASの関わりや代替材料・代替技術の有無などについて調査を行いました。

2.　2023年4月21日付け米国官報の概要（メッキ処理液中のPFAS制限）

当該官報は、2022年11月16 日付で公開された官報に対する60日間のパブリックコメントでは十分な情報が収集できなかったようで、今回30日の追加のパブリックコメントを求めたようです。
概要
（1）2023年1月に発行されたEffluent Guidelines Program Plan 15（排水ガイドラインプログラム計画 15）で言及されているように、EPAはクロム電気めっき、クロム陽極酸化処理、クロム酸化成コーティング、および、クロム酸エッチングなど仕上げなどを行う施設のサブセットからのパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質（PFAS）の排出に対処するための規則作成を実施する予定です。
（2）「排水ガイドラインプログラム計画15」の7.4項において、以下の通り計画しています。EPは「排水ガイドラインプログラム計画15」（以下『予備計画』と言う）、及び、PFAS戦略ロードマップにて、PFASの廃水の排出に対処するために、金属仕上げ、及び電気メッキの点源カテゴリを改訂します。
（3）これまでに収集されたデータに基づいて、EPAは、クロム電気めっき、クロム陽極酸化処理、クロム酸化成コーティング及びクロム酸エッチング（クロム仕上げ施設と呼称）を含む六価クロムを使用する、または使用した可能性のある作業を行っている施設を特定しました。
（4）クロムを用いた金属仕上げ及び電気メッキなどを行っている施設の排水からのPFAS濃度は、クロムを用いない金属仕上げ及び電気メッキ施設より数桁高い。
（5）PFASは主に六価クロムの排水及び吸入暴露を軽減するために化学発煙抑制剤を含む、PFAS使用することにより、クロム仕上げ施設からの廃水中にPFASが含まれます。
（6）有害大気汚染物質の国家排出基準（NESHAP）の改訂により、2015年PFOSの使用が段階的に廃止されました。しかし、過去にPFOSベースの化学発煙防止剤を使用していた施設からの廃水中には依然としてPFOSが検出されています。PFOSの段階的廃止の結果、多くの施設が別のPFASを含む化学発煙防止剤に切り替えました。代替化学発煙防止剤6:2フルオロテロマースルホン酸（(6:2-FTSA)は、クロム仕上げを行う施設からの廃水から高濃度で検出されています。
（7）EPAは以下のことを学びました。

PFASを含まない市販の化学発煙抑制剤を使用しても六価クロムの排出を軽減することが可能です。
化学発煙抑制剤を使用する必要のない三価クロムを使用することも可能です。
多くの施設では粒状活性炭を使用して廃水中のPFOSを処理し、水質の制限を満たすことに成功しており、粒状活性炭は金属仕上げ及び電気メッキ廃水中の他のPFASに有効である可能性があります。
膜、イオン交換及びPFAS分解技術を含むクロム仕上げ施設からの廃水中のPFASを処理できる他の技術が存在するか開発中です。

（8）EPAはさらにデータを集めて、2024年までに排水制限ガイドラインの改訂を行う予定です。
（9）具体的には、クロムめっき、クロム陽極酸化処理、クロム酸エッチング、クロム酸化成処理など、六価クロムの排出を制御するために PFAS を使用する、または使用したことがある、六価クロムを使用する特定のクロム操作を行う施設（以下、「クロム仕上げ施設」という）。これらの施設は、金属仕上げ及び電気めっきにおける PFAS 排出の主な発生源であると予想されます。これらの施設に関する公開データ、クロム仕上げ作業を行うかどうか、全国規模で PFASの使用と排出を行うかどうかなど、制限されています。（以下省略）

3.　潤滑メッキにおけるPFAS問題

前述のように、クロムめっき、クロム陽極酸化処理、クロム酸エッチング、クロム酸化成処理など、六価クロムを利用した金属処理においては、処理液中に含まれる六価クロムのミストによる作業者保護の目的で、PFOSなどのフッ素系発煙抑制剤を使用しており、これが廃水に混入して排出されることが問題とされています。
もう一つの問題は、メッキ浴中に0.2μm前後のPTFE微粒子を均一に分散させ、メッキを行うことにより、被膜中にPTFE微粒子を含有した潤滑性のあるメッキが施されます。

しかし、PTFE微粉末には製造上の問題か、または微粉末を均一に分散させる目的かはっきりはしませんが、現状では、まだPFOAが含有れている場合が多いようです。メッキ加工メーカーは「PFOAを代替品に切り替え中」、または「規制値以下の原料を入手した」と公表していますが、PFOSから他のPFAS類への代替は将来的には禁止の方向にありますので代替品の確認が必要かと思われます。

4.　まとめ

（1）PFASの多くは界面活性剤の性質を有しているため、水と油の両方と結びつくことができる性質を持っています。このため、金属の表面処理を行う際にも種々の用途で使用されてきました。現在判明している用途には、以下の2つがあります。
（2）1つは、六価クロムを使用した金属表面処理として、クロムメッキ、クロム酸エッチング、クロム酸化成処理など六価クロム処理を行う際に、処理浴から六価クロムのマイクロミストが飛散し作業者が吸入する危険性を防ぐ目的でPFOＳを有効な発煙抑制剤として使用してきました。
（3）2つめは、メッキ被膜にPTFE微粉末を均一に分散させることにより、メッキ被膜に潤滑性を持たせる手法において、PTFE微粉末を均一に分散させるためにPFOAを使用してきました。
（4）これらの技術において、メーカーは「代替品・代替技術がある」としていますが、EUの広範なPFAS規制案のように、ふっ素樹脂やふっ素ゴムを含むPFAS全体を規制する動きにおいては、PFOA、PFOSの代替として使用されていた長鎖PFCA（パーフルオロカルボン酸類）も規制対象となるため、確認を行うことが重要と言えます。
（5）今回のEUのREACH規制による10000種類にも及ぶ広範なPFAS規制においては、思わぬ用途にもPFASが使用されている可能性がありますので、注意が必要です。

引用・参考資料

Agency Information Collection Activities; Submission to the Office of Management and Budget for Review and Approval; Comment Request; Chromium Finishing Industry Data Collection (New)　（米国官報、2023-4-21）
Effluent Guidelines Program Plan 15　（EPA、2023-1）
欧州における永遠の化学物質「PFAS」の規制案　（みずほリサーチ&テクノロジーズ、2023-2）
PFOAとめっきの関係って？　（サン工業）

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