IPCC第6次統合報告書が公開

～2030年までにCO2排出量半減が必要～

2023年4月17日

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1.　はじめに

IPCC（国連の気候変動に関する政府間パネル）は、第6次ワーキンググループIの報告書を2021年8月9日に、ワーキンググループIIとIIIの報告書を各々2022年2月28日と4月4日に公表しました。そして、2023年3月20日付けで第6次統合報告書を公表しました。

今回はこの第6次統合報告書の概要について説明します。

2.　IPCC第6次統合報告書の概要

以下は、IPCCウェブサイトに掲載されている第6次統合報告書の「プレスレリース資料」からの抜粋・要約です。

（1）2018年にIPCCは、温暖化を1.5℃に抑えるためには前例のない規模の課題が必要であることを強調しました。しかし、5年後の2023年において、温室効果ガスの排出量は増加し続けており、課題はさらに大きくなってきています。これは、現在の計画、今までに取られてきた対策の規模とペースが不十分であることを示しています。
（2）過去100年以上に渡る化石燃料の燃焼と持続不可能なエネルギーと土地利用により、産業革命前と比べ、すでに1.1℃も地球温暖化が進んでいます。
（3）これによって、異常気象が頻繁かつ激しさを増し、世界のあらゆる地域で自然と人々にますます危険な影響を与えています。
（4）世界の人口の約半数が気候変動の影響を非常に受けやすい地域に住んでいます。過去10年間で洪水、干ばつ、暴風雨による死者は非常に脆弱な地域では15倍に上っています。
（5）今後この10年間に気候変動に適応するための行動を加速することが、過去の行動とのギャップを埋めるためには不可欠です。
（6）産業革命以前のレベルから温暖化を1.5℃に抑えるには、全ての部門で大幅かつ迅速かつ持続的な温室効果ガス排出削減が必須です。
（7）温暖化を1.5℃に抑えるには、現状温室効果ガス排出は減少傾向にありますが、2030年までにほぼ半分にする必要があります。
（8）温暖化に対応するために温室効果ガス排出を減らすとともに、気候変動に適応する開発も必要になります。しかしながら、温暖化が進むにつれて、この気候レジリエントな開発は難しくなります。
（9）今後数年間の選択が私達と次の世代の未来を決定する上で重要な役割を果たします。

3.　現状と傾向

以下は、IPCC第6次統合報告書の「政策決定者向けのまとめ」と環境省資料（AR6統合報告書政策決定者向け要約）からの抜粋・要約です。

（1）人間の活動による温室効果ガス排出によって地球温暖化が起きていることは疑う余地がなく、1850～1900年を基準とし、2011～2020年に世界の平均気温は1.1℃上昇。世界の温室効果ガス排出量は増加し続けている。
（2）大気・海洋・氷雪圏、生物圏に広範で急速な変化が起きている。また、世界中の全ての地域で多くの気象と気候の極端な現象を起こしている。
（3）「適応」の計画と実施は全ての部門及び地域にわたって進展しており、成果を上げているが、現状では温暖化の速度に追いついていないし、限界に達しつつある。資金的にも追いついていない。
（4）「各国が決定する貢献（NDCs）」によって示唆される2030年の世界全体のGHG排出量では、温暖化が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を2℃より低く抑えることがさらに困難になる。資金的にも不足している。

4.　長期的な気候変動、リスク、及び応答

以下は、IPCC第6次統合報告書の「政策決定者向けのまとめ」と環境省資料（AR6統合報告書政策決定者向け要約）からの抜粋・要約です。

（1）推定では短期のうちに1.5℃に到達する。地球温暖化が進行するにつれて同時多発的な危険が増大する。
（2）しかし大幅で急速かつ持続的な温室効果ガスの排出削減は、約20年以内に地球温暖化の識別可能な減速をもたらし、数年以内に大気組成に識別可能な変化をもたらすであろう。
（3）気候関連のリスクはIPCC第5次報告書より高く、予測される長期的影響は現在観測されている影響の数倍に及ぶと予想される。
（4）将来変化の一部は不可避かつ不可逆的だが、世界全体の温室効果ガスの大幅で急速かつ持続的な排出削減によって抑制しうる。
（5）今日実現可能で効果的な適応オプションは、地球温暖化の進行に伴い制限され、効果が減少する。
（6）人為的な地球温暖化を抑制するには、CO2排出量を正味ゼロにすることが必要である。温暖化を1.5℃又は2℃に抑制しうるかは、主に正味ゼロのCO2排出を達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まる。

現状の政策・対策で推移した場合： 2.2～3.5℃の範囲で温度上昇（ピンクのゾーン。）
2030年にCO2を22％削減：2.0℃グレーのゾーン
2030年にCO2を48％削減：1.5℃ブルーのゾーン
図1　世界全体の正味の温室効果ガス排出量と予想気温変化モデル（出典：環境省）

（7）温暖化が1.5℃などの特定の水準を超えたとしても、世界全体で正味負のCO2排出量を実現し持続させることによって、温暖化を徐々に再び低減させうる。しかし、一部の現象は不可逆的になる可能性がある。

5.　短期的な影響

（1）現在、全ての人々にとって住みやすく持続可能な将来を確保するための機会の窓が急速に閉まりている。
（2）この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ。この10年の間の大幅で急速かつ持続的な緩和と、加速化された適応の行動によって、人間及び生態系に対して予測される損失と損害を軽減するだろう。しかし緩和と適応が遅延すればリスクとコストが増大し、実現可能性を低減させ、損失と損害を増加させるだろう。短期的な対策は、高い初期投資及び潜在的に破壊的な変化を伴うが、それらはさまざまな可能とする政策により軽減しうる。
（3）気候変動の影響の緩和と適応における加速的かつ衡平な行動が、持続可能な開発に不可欠である。

表1　2019年からの温室効果ガス及びCO2排出量の削減、中央値及び5～95パーセンタイル
（出典：IPCC、政策決定者向けのまとめ）
※パーセンタイル：データを小さい順に並べたとき、初めから数えて全体の○％に位置する値を○パーセンタイルと言う。65パーセンタイルであれば、最小値から数えて65%に位置する値を指す。下記表の％はパーセンタイル。

		2019年排出量からの削減レベル（%）
		2030年	2035年	2040年	2050年
温暖化を1.5℃以下に抑えるまたは越えても限定的（＞50%）	GHG	43 [34-60]	60 [49-77]	69 [58-90]	84 [73-98]
温暖化を1.5℃以下に抑えるまたは越えても限定的（＞50%）	CO2	48 [36-69]	65 [50-96]	80 [61-109]	99 [79-119]
温暖化を2℃以下に抑える（＞67%）	GHG	21 [1-42]	35 [22-50]	46 [34-63]	64 [53-77]
温暖化を2℃以下に抑える（＞67%）	CO2	22 [1-44]	37 [21-59]	51 [36-70]	73 [55-90]

※数値（上段）は中央値、数値（下段）は5～95%の範囲

6.　まとめ

（1）2023年3月20日付けでIPCC第6次統合報告書が公開された。
（2）2018年の第5次報告書において、気温上昇を1.5℃以下に抑えることが必要で、前例がない対策が必要であることを強調したが、2023年現在、温室効果ガス排出量は増加し続けており、現在の対策と規模は不十分である。
（3）大気・海洋・氷雪圏、生物圏に広範で急速な変化が起きている。また、世界中の全ての地域で多くの気象と気候の極端な現象を起こしている。
（4）現状のまま推移した場合、2100年には世界の平均気温は3℃～5℃上昇すると予測される。
（5）世界の平均気温は1900年から既に1.1℃上昇しており1.5℃以下に抑えるためには2030年までにCO2排出量を半減させる必要が有る。
（6）今後10年間が非常に重要であり、気候変動に適応するための行動を加速することが、過去の行動とのギャップを埋めるために不可欠である。
（7）今後数年間の選択が私達と次の世代の未来を決定する上で重要な役割を果たす。この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を与え続けると予測される。

引用・参考資料

Sixth Assessment Report　（IPCC、2023-3-20）
Climate Change 2021: The Physical Science Basis　（IPCC、2021-8-9）
Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability　（IPCC、2022-2-28）
Working Group III contribution , Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change　（IPCC、2022-4-4）
Synthesis Report , Climate Change 2023: Synthesis Report　（IPCC、2023-3-20）
IPCC Press Release　（IPCC、2023-3-20）
SYNTHESIS REPORT 2 OF THE IPCC SIXTH ASSESSMENT REPORT (AR6)　（IPCC、2023-3020）
AR6 統合報告書政策決定者向け要約　（環境省、2023-3-22）

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