ECHAが長鎖PFCAの製造・使用制限を発動

～PFAS規制、2つの方向性～

2023年4月17日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2023年2月7日付けでECHA（欧州化学品庁）はREACH規則による約10,000種類にも及ぶPFAS規制案を公開しましたが、包括的な規制案であるため、成立するまでには多くの議論と数年間の時間を要すると予想されています。

このため、PFOA、PFOSのように、（1）大量に製造・使用されている、（2）代替品が容易に見つかる、（3）毒性が明確になっている、などの物質（群）については、包括的な規制案の成立を待つことなく、逐次制限の発動が行なわれています。

今回はREACH規則における附属書XVII（制限物質リスト）のEntry #68にリスト化されている、PFASのサブグループである6種類の長鎖PFCA（パーフルオロカルボン酸類）の制限が、予告どおり2023年2月25日に発動されました。これにより、現状で代替品がない一部の用途には移行期間が設けられますが、ほとんどのアプリケーションにおいては、製造、上市及び使用が制限されます。

これら対象となった6種の物質は、2022年1月24日から28日まで開催されたストックホルム条約の検討委員会においても、危険性に関する詳細調査を行うことを決定しており、米国TSCAにおいても2020年7月27日付け官報にて、「長鎖パーフルオロアルキルルカルボン酸（LCPFAC）およびパーフルオロアルキルスルホン酸塩（LCPFAS）化学物質に関する重要な新しい使用規則」により、「これらの化学物質の製造（輸入を含む）、使用、加工等する場合TSCA第5条（製造及び加工届出）に従い、90日前までに届出を行った上で審査を受けること（SNUR対象物質）」が義務付けられています。

今回はこの6物質（群）についての用途、特性などわかる範囲でお伝えすると同時に、2023年2月7日に公開された総括的なPFAS規制案の協議が3月22日に開始され、また4月5日に行われたウェビナーでも説明が行われましたので、現時点で判明している状況についても、併せてお知らせしたいと思います。

2.　ECHAの発表内容

ECHA Weekly, 2023-2-22から要約して紹介します。

<長鎖 PFCA に対する制限が発動されました>

EUにおける広範な規制として炭素数が9～14の長鎖パーフルオロカルボン酸及びポリフルオロカルボン酸（PFCA）とそのサブグループは、2023年2月25日以降、上市することも、ほとんどのアプリケーションに使用することもできなくなりました（一部の用途には、移行期間を設定しました）。

この制限を行うことにより、2020年7月から世界的に禁止されている PFOA の代替品としての使用ができなくなり、人や環境が PFCA にさらされることが軽減または防止され、持続可能な化学物質戦略が行えます。

カナダでは、この物質（群）をPOPs（残留性有機汚染物質）としてストックホルム条約においても規制するべきと主張しています。

3.　当該6物質（群）に関する「結果までの制限意図の登録」文書

ECHAウェブサイトから要約して紹介します。
※ECHAではREACH規則による制限物質の提案があった場合、ウェブ上に対象物質ごとに“Registry of restriction intentions until outcome（結果までの制限意図の登録）”というページを作り、種々の情報を書き加えていきます。

3-1.　対象物質の名称、CAS RN、用途、規制など

1	物質名	英名	Perfluorononan-1-oic acid 略称：PFNA (C9-PFCA)
		和名	ペルフルオロノナン-1-オイック酸別名：ヘプタデカフルオロノナン酸
	CAS RN		375-95-1
	主な用途など		界面活性剤
	備考		化審法：既存化学物質安衛法：ラベル表示・SDS交付義務対象物質 EU：REACH高懸念物質(SVHC) 米国：有害物質規制法（TSCA）既存物質、Flag：S その他：省略出典：NITE化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
2	物質名	英名	Nonadecafluorodecanoic acid 略称：PFDA (C10-PFCA)
		和名	ノナデカフルオロデカン酸
	CAS RN		335-76-2
	主な用途など		界面活性剤
	備考		化審法：既存化学物質 EU：REACH高懸念物質(SVHC) 米国：有害物質規制法（TSCA）既存物質、Flag：S その他：省略出典：NITE化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
3	物質名	英名	Henicosafluoroundecanoic acid 略称：PFUnDA (C11-PFCA)
		和名	ヘニコサフルオロウンデカン酸別名：ペルフルオロウンデカン酸
	CAS RN		2058-94-8
	主な用途など		界面活性剤
	備考		化審法：既存化学物質 EU：REACH高懸念物質(SVHC) その他：省略出典：NITE化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
4	物質名	英名	Tricosafluorododecanoic acid 略称：PFDoDA(C12-PFCA)
		和名	トリコサフルオロドデカン酸別名：ペルフルオロドデカン酸
	CAS RN		307-55-1
	主な用途など		フッ素系界面活性剤
	備考		化審法：監視化学物質、既存化学物質 EU：REACH高懸念物質(SVHC) 米国：有害物質規制法（TSCA）既存物質、Flag：S その他：省略出典：NITE化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
5	物質名	英名	Pentacosafluorotridecanoic acid 略称：PFTrDA (C13-PFCA)
		和名	ペンタコサフルオロトリデカン酸別名：ペルフルオロトリデカン酸
	CAS RN		72629-94-8
	主な用途など		フッ素系界面活性剤
	備考		化審法：監視化学物質、既存物質 EU：REACH高懸念物質(SVHC) その他：省略出典：NITE化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）
6	物質名	英名	Heptacosafluorotetradecanoic acid 略称：PFTDA (C14-PFCA)
		和名	ヘプタコサフルオロテトラデカン酸別名：ペルフルオロテトラデカン酸
	CAS RN		376-06-7
	主な用途など		フッ素系界面活性剤
	備考		化審法：監視化学物質、既存物質 EU：REACH高懸念物質(SVHC) 米国：有害物質規制法（TSCA）既存物質、Flag：S その他：省略出典：NITE化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）

3-2.　制限範囲の詳細

製造、使用及び上市禁止 (物質として、混合物として、他の物質の成分として)。
対象物質の１つを含む成形品、部品を上市してはならない。

3-3.　制限の理由

PFOA と同様の懸念がある
ライフサイクルの各段階（製造、加工、物品の使用、廃棄）における複数の用途からの排出がある。
代替物質がある。
C9-C20 前駆体物質は、欧州委員会の PFOA-POP 提案に既に含まれている。

3-4.　附属書XVの概要

対象物：構造式：CF3-(CF2)n-Cでｎが７～12またはCF3-(CF2)n-, nが8～13である直鎖または分岐構造の化合物及びその塩類。
分解してC9-C14 PFCAになる可能性のある化学物質（塩類及びポリマーを含む）。
除外対象物は省略。
閾値：C9-C14 PFCA とその塩の合計が 25 ppb 以上、または C9-C14 PFCA 関連物質の合計が 260 ppb 以上の物品またはその一部。

3-5.　フッ素樹脂との関わり

PVDF（ポリフッ化ビニリデン）で処理された物品から今回規制対象となったC9-PFASが検出されたことがある。実際に米国ではニュージャージー州のフッ素樹脂工場近辺の地下水や飲料水からC9-PFASが検出されている。
原因としては、過去にC9-PFASがPVDFの加工助剤（乳化重合における乳化剤）として使用されていた。過去EUにおいC9-PFASは、PVDF及びフッ素エラストマーの製造に使用されていたが、現在は使用されていない事が確認されている。しかし域外品から微量のC9-14PFASが検出されており、重合方法を変更することでコストアップになるため、不使用は確認できていない。また製造中に意図しない物質として生成することがある。

4.　まとめ

（1）現在EUにおいて、PFASの制限措置が2つの方向で平行して進んでいる。
（2）1つは、今回のような10,000種類あると言われるPFASのうち、1) 大量に製造・使用されている、2)毒性がはっきりしている、3) 代替品が比較的容易に見つかるなどの条件を満たしている場合には、短時間の移行期間後に使用制限を開始する。
（3）もう1つは、10,000種類のPFASについて、個々の製造・使用状況、毒性などを調査していては膨大な時間がかかるため、十分な調査が行われない中で、「予防原則」として全てのPFASを制限対象とし、製造・加工業者、利用者などからの情報提供（パブリックコメント）により、安全性や経済性、代替品の有無がはっきりした場合には、エセンシャルユースとして認め、長期の移行期間設定または無期限の使用を認める方針であることが読める。

（4）このため、後者の総括的な制限案に対しては、従来の対応とは異なり、「誰かが対応してくれるだろう」ではなく、個人、個社、団体などにとって「不都合がある場合」には、できるだけ多数のパブリックコメントを出す事が必要であると言える。
（5）パブリックコメントの提出：ECHAの委員会（リスク評価委員会及び社会経済評価委員会）による協議が6月にスタートするので、できるだけその前にパブリックコメントを提出することが重要となる。
（6）最終的なパブリックコメントの提出期限は委員会審議が終了する9月までとなるが、パブリックコメントを基に協議が行われるので、できるだけ早く提出することが重要。
（7）パブリックコメントを提出しない場合には、制限案を認めたことになるので、リスクが生じる。できるだけ、多くのパブリックコメントを出すことが、継続使用に繋げる唯一の方法である。
（8）パブリックコメントはここから提出できます。
（9）2023年4月5日に行われたウェビナーの録画はこちらです。

引用・参考資料

Long-chain PFCA restriction kicks in　（ECHA Weekly、2023-2-23）
Registry of restriction intentions until outcome　（ECHA）
ANNEX XV Report　（ECHA）
amending Annex XVII to Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council as regards perfluorocarboxylic acids containing 9 to 14 carbon atoms in the chain (C9-C14 PFCAs), their salts and C9-C14 PFCA-related substances　（EU官報、2021-8-4）
Substances restricted under REACH　（ECHA）
Long-Chain Perfluoroalkyl Carboxylate and Perfluoroalkyl Sulfonate Chemical Substances; Significant New Use Rule　（米国官報、2020-7-27）
「永遠の化学物質PFAS」の規制が世界的に強化　#3～4,700種類のPFASをどのように規制するのか　#2～　（日本バルブ工業会、2022-11-14）
POPs条約（残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約）の動き～条約対象物質の追加について～　（日本バルブ工業会、2022-3-17）
REACH附属書XVII (制限物質) リスト和訳版　（三菱重工）
【EU】PFCAs（ペルフルオロカルボン酸類）規制情報　（一般財団法人カケンテストセンタ、2021-8-4）
REACH規則制限対象物質の追加　（科学物質と法規制研究、2021-9-25）
C9〜C14 PFCA（パーフルオロカルボン酸）リンク　（環境報告駆け込み寺、2021-11-22）

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