REACH規則の認可対象物質を追加提案

～附属書XIVに7物質収載を提案～

2021年5月13日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

はじめに

ECHA（EU化学品庁）は2021年4月14日付けでSVHC候補物質リストにある７物質について、認可対象物質に追加することをEU委員会に提案しました。ECHAは「人と環境を保護するために認可対象物質として7つの物質を提案します」と述べており、過去の状況から今後この提案はEU委員会が承認し、官報で公告されるものと思われます。

今回はREACH規則における「認可対象物質（附属書XIV収載物質）」となる手順、収載された場合の規制などのおさらいを行うとともに、今回の提案物質について説明したいと思います。

REACH規則における認可対象物質とは

REACH規則第55条によると、認可対象物質として附属書XIVに収載する目的は「極めて高い懸念のある物質によるリスクが適切に管理され、経済的及び技術的に実用可能であれば、物質が適当な代替物質又は代替技術で代替されることを確保しながら、域内市場が良好に機能することを確実にすることにある」と記されています（出典：環境省）。

認可対象物資
図1　REACH規則における「認可対象物質」の決定（筆者作成）

REACH規則の附属書XIVに収載された物質を「認可対象」と言い、認可対象物質を含む製品や成形品の製造・販売を希望する場合は、用途や数量、曝露防止対策など規定の項目を記載してECHA（EU化学品庁）に認可を申請し、承認を受ける必要があります。

また、以前より使用してきた物質が新たに認可対象物質として附属書XIVに収載された場合には、収載時に設定されたSunset Date （日没日/期限日）の180日以上前にECHAに対して認可申請する必要があります。

認可申請の結果、認可されなかった場合でも、認可申請中で認否決定がされるまでの期間は継続使用ができます。

適用除外
以下の場合は適用除外となります。
（1）研究開発の用途
（2）植物保護製品
（3）殺生物性製品
（4）ガソリンおよびディーゼル燃料など自動車燃料
（5）可動式または固定式燃焼プラントにおける燃料
（6）化粧品における使用
（7）食品包装容器における使用
（8）調剤中のPBT、vPvB、内分泌かく乱性物質の濃度が0.1wt%未満
※（6）（7）などが適用除外となるのは、別途規制があり、二重規制を行わないためです。

今回（第10次）EU委員会に提案された物質

1	英名	Octamethylcyclotetrasiloxane（D4）
	和名	オクタメチルシクロテトラシロキサン（D4）
	CAS番号	556-67-2
	提案理由	PBT, vPvB
	認可対象物質の重量（トン / 年）	100 – 10,000
	認可対象物質の使用例	電子製品の製造、非金属表面処理（シリコンオイル）
2	英名	Decamethylcyclopentasiloxane （D5）
	和名	デカメチルシクロペンタシロキサン
	CAS番号	541-02-6
	提案理由	PBT, vPvB
	認可対象物質の重量（トン / 年）	> 10,000（100 – 10,000）*1
	認可対象物質の使用例	電子製品の製造、ドライクリーニング、傷跡および創傷治療
3	英名	Dodecamethylcyclohexasiloxane （D6）
	和名	ドデカメチルシクロヘキサシロキサン
	CAS番号	540-97-6
	提案理由	PBT, vPvB
	認可対象物質の重量（トン / 年）	1,000 – 10,000 （10 – 1,000） *1
	認可対象物質の使用例	パーソナルケアの処方、製品の洗浄と清浄化、傷跡と傷の治療
4	英名	Terphenyl, hydrogenated
	和名	水素化テルフェニル
	CAS番号	61788-32-7
	提案理由	vPvB
	認可対象物質の重量（トン / 年）	1,000 – 10,000
	認可対象物質の使用例	熱媒体、プラスチック、接着剤、シーラント
5	英名	Dicyclohexyl phthalate（DCHP）
	和名	フタル酸ジシクロヘキシル
	CAS番号	84-61-7
	提案理由	生殖毒性、内分泌かく乱物質-人間の健康
	認可対象物質の重量（トン / 年）	100 – 1,000
	認可対象物質の使用例	有機過酸化物のフレグマタイザー（減感剤）、ポリマーの可塑剤
6	英名	Disodium octaborate
	和名	オクタホウ酸二ナトリウム
	CAS番号	12008-41-2
	提案理由	生殖毒性
	認可対象物質の重量（トン / 年）	1,000 – 10,000
	認可対象物質の使用例	塗料、接着剤、建設資材
7	英名	Benzene-1,2,4-tricarboxylic acid 1,2-anhydride（trimellitic anhydride, TMA）
	和名	ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸1,2-無水物
	CAS番号	552-30-7
	提案理由	呼吸感作性
	認可対象物質の重量（トン / 年）	0
	認可対象物質の使用例	認可の範囲外の使用のみ（例：中間体としての使用）*2

表中の赤字は、バルブにも関連する用途の例
*1　D4、D5、およびD6の制限案が現在の範囲で採用される場合に備えて、括弧内に想定される重量範囲が示されています。この制限案の状況はこちらで確認できます。
*2　この物質は認可の範囲では使用されませんが、すでに推奨されているエポキシ樹脂硬化剤として使用される2つの構造的に類似した物質（HHPAおよびMHHPA）を置き換える可能性があるため、グループ化の考慮事項に基づいて推奨されます。これは、残念な代用（HHPA及びMHHPAの代用）を避けるためです。HHPA：ヘキサヒドロフタル酸無水物、MHHPA：ヘキサヒドロ無水フタル酸

まとめ

（1）過去のケースを見ると、ECHA（EU化学品庁）が専門家に諮問しSVHC候補物質リストから認可対象物質としてEU委員会に提案した場合、経済的に大きな損失が生じるなどの不都合がないかぎりは原案通り承認されるものと思われます。EU委員会の承認後、官報公布にて認可対象物質として公告され日没日（期限日）が設定されます。
（2）上記7物質はすでにSVHC候補リストに入っていますので、当工業会会員各位においては、自社製品・成形品の含有、残留の有無は確認済みとは思いますが、表中に赤字で表記した用途例がありますので、再度の確認をお勧めします。
（3）なお、EUに輸出される可能性がある製品や成形品への混合、または塗布剤として使用している場合は、直ちに代替品に置き換える、または代替できない場合はECHAに対して遅くとも日没日の180日前までに認可申請をしなくてはなりません。
（4）SVHC候補リスト入りしている物質は、いずれ認可対象物質となる可能性が高いと言えますので、SVHC候補リストに収載された時点で、国内を含めたEU域外の国々でも同様の規制がなされる可能性が高いため、早期に代替品と切り替えるのが賢明と言えます。

引用・参考資料

ECHA proposes seven substances for authorisation to protect people and the environment　（ECHA、 2021年4月14日）
化学物質の登録、評価、認可及び制限（REACH）に関する欧州議会及び理事会規則（環境省仮訳）　（化学物質国際対応ネットワーク/環境省）
REACH規則附属書XIV（認可対象物質リスト）が更新～11物質が追加され43物質が54物質に～　（日本バルブ工業会、2020年3月18日）
NITE-CLIP（NITE化学物質総合情報提供システム）　（独立行政法人製品評価技術基盤機構）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。