WFDに基づくSCIPデータベースとは

～ECHA（欧州化学品庁）が整備するSCIPデータベース～

2020年9月23日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

はじめに

ECHA（欧州化学品庁）は2020年2月17日付けで、「EU廃棄物枠組み指令（Waste Framework Directive：以下、「WFD」と呼ぶ）に基づき、有害化学物質の代替化と安全な循環経済への移行の促進を目指して、廃棄段階を含む製品の全ライフサイクルに対して成形品に含有される化学物質に関する情報を提供する。2021年以降、重量比0.1%以上の濃度のSVHCを含有する成形品をEUに上市する企業は、ECHAにSCIP情報を届出する義務を負うものとし、SCIPデータベースの試用版を公開した」とするコメントをホームページに掲載しました。

またECHAは2020年7月22日付けECHA weeklyにおいて、「IUCLIDツールが、拡張されて完全なWebインターフェースで更新されました。新しい更新では、データセットと関係書類の高度な検索ができ、成形品と混合カテゴリの選択が向上しています。ユーザーは、SCIPデータベースに送信された情報を参照して、複雑な対象物のSCIP通知を準備できるようになりました。 SCIP通知を準備して送信するための新しいサポートドキュメントも利用できます」とコメントしています。

以上の文章だけでは、よく意味がわからないと思いますので、今回は「WFDに基づくSCIPデータベースへのSVHC物質使用届出」、「IUCLIDツール」、「REACH規則に基づくSVHC物質使用の届出との違い」などについて解説して行きたいと思います。

※筆者注
注1）データセット＝コンピューターで処理されるデータのまとまり
注2） IUCLID （International Uniform Chemical Information Database）＝誰でも無償利用できる国際統一化学物質情報データベース。
注3） SCIPデータベース（Substances of Concern In articles as such or in complex objects （Products））＝WFDの下で確立された成形物や、複雑な物質（製品）中の懸念物質に関する情報のデータベース。
注4） CLS （Candidate List of substances of very high concern for Authorisation）＝SVHC候補物質と同義語。WFDではCLSと呼んでいますが、本コラムではSVHC候補物質と呼ぶことにします。

SCIP Database - ECHA

図1　廃棄物の分別と再利用（出典：ECHA　※動画はこちら）

WFD（Waste Framework Directive、廃棄物枠組み指令）の概要

WFDは2018年6月の改正によって、廃棄物を再資源化して再利用するには「無害な物質による循環」が必要であり、そのためには製品及び材料中のCLS（以下、本稿では「SVHC」と呼びます）含有の有無について、全ライフサイクルを通じた情報伝達が必要であることを示しました。その対応として、成形品供給者及びECHAに対して以下の義務が定められました。

・成形品供給者：REACH規則第33条で定められている成形品中のSVHCの情報伝達内容を2021年1月5日以降、ECHAに提出すること。（WFD第9条1項の（ⅰ））
・ECHA：2020年1月までに成形品供給者が提出するデータを収蔵し、廃棄物処理業者に公開すること、及び、消費者からの要求があれば公開するデータベースを構築すること（WFD第9条2項）

このWFDの要求に応じて、現在ECHAはSCIPデータベースの作成を進めており、このほど試用版を公開しました。

2021年1月5日以降、EUの市場においてSVHCを0.1重量%以上含有する製品を上市する企業はECHAに対してその情報を提出する義務を負います。SCIPデータベースは、成形品に含まれるSVHC に関する情報が、廃棄段階を含め、製品と材料のライフサイクル全体を通じて確実に利用できるように構成されます。

このSCIPデータベース内の情報は、廃棄物処理業者と消費者が利用できるようになります。

SCIPの試用版はこちら
※この試用版は2021年1月5日の本使用以前にリセットされますが、それまでにデータの送信テストが可能です。

ECHAに対するREACH規則とWFDのSCIPデータベースへのSVHC物質届出の違い

REACH規制とWFDによるSCIPデータベースの間には多くの類似点がありますが、企業が考慮すべき重要な違いがあります。SCIPデータベースへのレポートは、かなり複雑で時間がかかります。ECHAに届出る際に必要なデータは以下の通りです。

表1　SCIPデータレポートの要件

REACHに必要なデータ	SCIPにすぐに必要なデータ	提出用データ
・EU REACH規則・供給者名・成形品名・SVHCデータ・安全な使用に関する基本情報	・追加のSCIPデータ・REACHのITアカウント・成形品のレベルデータ・化学物質の懸念データ・物質データ（参照物質ファイル）・書類ファイルを作成する・ECHAへの提出：ポータル	・法人・成形品ID ・より多くのデータ・参照ID（コアIUCLID）・書類ID ・提出ID

表2　成形品記録で提出される情報

必須

オプション

・成形品名
・一次成形品のID
欧州商品コード（EAN）、国際取引商品コード（GTIN）、グローバル商品分類（GPC）等の各種商品コード、カタログ番号、ECHAが付与するID等
・成形品分類
合同関税品目分類表（CN）コード等を選択
・EUにおける生産
はい／いいえ／非開示のいずれかを選択
・安全な使用法
安全な使用に関する情報。特別な情報がない場合は、「SVHC情報の開示以外に安全な使用に関する情報はない」旨を記載
・SVHC候補物質リスト及び参照
確認したSVHCリストのバージョン（〇年〇月版）
・物質ファイル
SVHCリストから物質または物質群を選択
・濃度範囲
0.1～0.3wt%、0.3～1.0wt%、1.0～10.0wt%、10.0～20.0wt%、20.0～100wt%、0.1～100wt%の濃度幅から選択
・材料分類または混合分類
材料分類（必須）：CLSが材料に含有している場合は、ECHAの材料リストから選択
・混合物分類（必須）：SVHCが成形品の加工・組立時に用いられる混合物（接着剤、はんだ、コーディング材等）に含有している場合は、「欧州製品分類システム（EuPOS）」から選択

・他の名前
・その他の成形品ID
・高さ
・長さ
・幅
・直径
・密度
・重量
・体積
・色
・複雑な対象物、分解手順など
・追加の材料特性
・ECHA条項 Ⅰ

REACH規則では、安全な使用のための十分な情報として最低限「物質名」を提供することが定められています。

しかしながら、SCIPデータベースの情報要件では、消費者による安全な使用のみならず、廃棄段階での安全な使用の観点から、どのような種類の成形品の、どの部分に、どのSVHCが、どの程度の濃度で含有しているかを明確にするよう求めていると言えます。

図1　SCIPデータベースの情報の流れ（出典：ECHA）

ECHAへの届出方法は以下の3つの方法があります。

・ECHAがホストするIUCLIDオンラインソフトウェアを使用

・ECHAが提供するIUCLIDオフラインソフトウェアを使用。

・Assentなどの第三者ソフトウェアソリューションを通じて。

図2　SCIPデータベース情報

表3　REACH規則とSCIPデータベースの目的の違い

SCIPデータベースの目的

REACH規則の目的

EUに入る成形品での代替物質の使用をサポートすることにより、有害廃棄物の量を減らすことです。データベースは、廃棄物処理プロセス中に自分自身を保護するために必要な重要情報を確認するために、下流の廃棄物処理業者によって使用されます。また、当局は製品中の有害物質の使用を監視し、廃棄段階を含む製品の寿命にわたってこれらの製品に適切な行動を決定することができます。

REACH規則の主な焦点は、公衆と環境を保護し、商品の生産に使用される有害物質の代替を奨励することです。この規制は、製造段階または商品が市場に投入される時点に重点を置いており、製品の最終用途にはほとんど影響を与えません。

まとめ

（1）2021年1月5日以降、0.1重量％以上のSVHCを含む成形品をEU域内で流通させる場合には全てWFD（廃棄物枠組み指令）に従い、ECHAのSICPデータベースに登録する義務が生じる。※REACH規則と廃棄物枠組み指令と重複した届出の必要が生じる模様。
（2）現在、SICPデータベースへのデータ送信に関するテスト版が稼働している。
（3）SCIPデータベースへデータ送信する場合に、SCIP送信のために更新されたEU版の国際統一化学物質情報データベースIUCLID（International Uniform Chemical Information Database）を利用すると、成形品や混合物の分類などの情報を得るのに有用。
（4）対象者はEU域内の生産者、輸入者であるが、域外のサプライヤーも協力することが求められる。
（5）ECHAに届け出る点ではREACH規則と類似しているが、REACH規則の目的が「公衆と環境の保護を目的とするため、商品の生産と市場に投入される時点を重点とし代替物質への奨励」とするのに対して、WFDに基づくSCIPデータベースは「廃棄物の再資源化に対して有害物質の排除」であるため、SCIPデータベースでの登録の方が、事業者にとっては詳細なデータの提出が必要であり、面倒。
（6）SCIPデータベースは対象がEU域内であるが、RoHS指令やREACH規則と同様にEU域内への輸出に関してはデータが求められるので、試用版を参考にデータ提供の準備をすることが重要と思われます。

引用・参考資料

ECHA weekly　（ECHA、2020年7月22日）
SCIP Format　（ECHA）
SCIP Notification Format SCIP data model　（ECHA、2020年7月）
SCIP Notification Format Preparing a SCIP dossier　（ECHA、2020年7月）
SCIP Database Notifications How to prepare and submit a SCIP notification dossier　（ECHA、2020年7月13日）
Dissemination and confidentiality in the SCIP Database　（ECHA、2020年7月）
SCIP Database　（ECHA）
How Is the SCIP Database Different From the REACH Regulation　（Assent Compliance Blog、2020）
Towards circular economy: test our database to track harmful chemicals in products　（ECHA、2020年2月17日）
WFDに基づくSCIPデータベースの概要　（一般社団法人東京環境経営研究所、2019年10月3日）
WHITEPAPER　EU WASTE　FRAMEWORK　DIRECTIVE:　UNDERSTANDING SCIP　DATABASE REQUIREMENTS　（assentcompliance）※氏名、所属、電話番号を登録しないと閲覧できません
SCIP Database Notifications　（ECHA）

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