企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践　#6

～SDGs実践のためのガイドライン　#4～

2019年6月17日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

はじめに

2015年9月25日～27日、ニューヨーク国連本部において「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として、「我々の世界を変革する：持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。これはSDGs（Sustainable Development Goals：持続可能な開発）と呼ばれ、「17の目標と169のターゲットからなる、人間、地球及び繁栄のための行動計画としての、宣言および目標」であり、2016年から2030年までの15年間における「全人類の共通目標」を定めたもので「地球憲章」ともいえるものです。

このSDGsは国連で採決された遠いところの話ではなく、日常生活における我々一人一人の行動指針として位置づけられているという認識が深まり、経営方針として取り込む企業が急速に増えてきています。

SDGsの根幹は、「資源もエネルギーも無限、空も海も自然の浄化作用に任せれば大丈夫」という考えから、「資源もエネルギーも有限、空も海も自然の浄化作用には限界があり、このままでは地球規模の気象や生態系さえも変動させてしまう」という危機感にあります。そのため、何としても「持続可能な開発」へとパラダイムシフト※させなければならないという強いメッセージが込められています。

従って、SDGsを実際に企業の経営に取り込むには「急な坂を登る」という相当な覚悟が必要となると思われますが、SDGsを実践するための公式ガイドブック「SDGs Compass（和訳版）」が示す5つのステップのうち、今回は最後のステップ「報告とコミュニケーションを行う」について解説したいと思います。

※パラダイムシフト：（paradigm shift）とは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。パラダイムチェンジともいう。

図1　SDGsのロゴ（Sustainable Development Goals：持続可能な開発目標；出典国連広報センター）

SDGs実践のためのステップ　（5/5）「報告とコミュニケーションを行う」を実践するには

SDGsを企業経営に取り込む場合に大切なことは二つ。一つ目はステークホルダーや一般社会に対して「SDGsの目標を公開すること」、二つ目は「SDGsの目標に対する進捗状況を定期的に報告すること」にあります。

SDGs実践のための公式ガイドブックである「SDGs Compass」のステップ5の冒頭に「企業の持続可能性に関する情報開示はここ10年の間、ステークホルダーによる情報要求とともに劇的に増加した。各企業が企業のステークホルダーのニーズを把握してこれに応えるために、SDGsに関する進捗状況を定期的に報告しコミュニケーションを行うことが重要である」と述べられています。

SDGsの根幹である「持続可能な開発」について、当初は企業の信頼の醸成と社会的評価の向上のための手段と位置づけられていました。
しかし現在では、持続可能な意思決定プロセスを支援し、組織発展を促進し、達成度を向上させ、ステークホルダーと協働し、投資を呼び込む等のための「戦略的なツール」に変容してきているといわれています。

言い換えると、「持続可能性に関して無頓着な企業には将来性が乏しいので投資しない」と見られるといえます。
世界のトップ企業250社のうち、持続可能性に関する報告を行っている企業は93%にもなるそうです。また、逆にSDGsは大手企業よりも中小企業の方が取組みやすい面もあり、取り組む企業が増加しています。

このようにSDGsに取り組むことで大きなメリットが見いだされるため、企業は正規の報告書だけでなく、様々な方法を活用して持続可能性に関する戦略や達成度についてコミュニケーションを行う傾向が強まっています。

大企業にとっても中小企業にとっても、自社のSDGsへの貢献に関して公に報告し伝達することから便益を得ることができると思われます。これらの持続可能性についてステークホルダーや一般に伝達する効果的な方法は、企業のウェブサイト、ソーシャルメディア、イベント、製品・サービス表示、市場、宣伝など実に様々であり、機会を捉えて報告を行うことが増えてきています。

効果的な報告とコミュニケーションを行う

ステークホルダーや一般に対してSDGsの進捗状況や結果を報告する場合、何の基準にも従うことなく行っては「手前味噌」になりかねません。このため、国際的に認められた方法で報告することが求められます。SDGs Compassにでは「GRI の包括的基準やCDP 等の課題別報告メカニズムなど、『持続可能性の報告に関する国際的に認識された基準』を企業が用いることが重要である。課題別報告メカニズムとしてはこれ以外にも、国連人権報告枠組みやCDSB（Climate Disclosure Standards Board、企業の気候変動情報開示の標準化を目指す）国際枠組みがある」としていますが、別途GRIと国連グローバル・コンパクトが「持続可能性報告ガイドライン」としてAn Analysis of the Goals and Targets及びIntegrating the SDGs into Corporate Reporting: A Practical Guideを公開していますので、本項に続き、概要をお伝えしたいと思います。

企業は、持続可能性に関して従来の報告様式や報告書を選択することも、簡潔な独立型の報告書等の作成を選択することもできますが、ここ20 年の間に大きく変わってきており、いくつもの基本的な原則が生み出されてきました。例えばGD Iでは以下10の原則を示しています。

（1）ステークホルダーの包含（包摂性）
（2）持続可能性の文脈
（3）マテリアリティ（重要性）
（4）網羅性
（5）バランス
（6）比較可能性
（7）正確性
（8）適時性
（9）明暸性
（10）信頼性

この中で企業の持続可能性に関するマテリアリティ（重要性）は「企業がもたらす顕著な経済的、環境的および社会的な正または負の影響（ステップ2 で説明）、ならびに、ステークホルダーの評価・決定に実質的な影響を与える」事項のことをいいます。

報告書では、「マテリアリティ評価の視覚化に、以下の図に示すようなマトリックスを用いるのが効果的である」としています。また「マトリックスでは、ステップ2 で設定したような優先課題の分野を『企業の経済・環境・社会面の影響の重要度』と『ステークホルダーの評価・決定への影響』という座標軸の中に位置づける。優先課題の分野は、二つの座標軸の中で重要度がそれほど高くなくとも、優先して報告すべき事項と位置づけてよい」と述べています。

図2　マテリアル（重要性）を基準にした優先SDGs報告事項のマッピング（出典：SDGs Compass）

SDGs 達成度についてコミュニケーションを行う

SDGs Compassでは「SDGs達成度についてコミュニケーションを行う」において、以下のように述べています。

「SDGsはいわば、報告における共通言語である。それは持続可能な開発に関する共通の枠組みであり、持続可能な開発の達成度について企業が様々な発信手段を用いて行う開示の内容の種類や報告内容を優先順位付けるあり方の方向性を決定する上でも役立つ可能性がある。」

多くの企業は、SDGsを企業経営に取り込む以前に、既に「気候変動、持続可能な水管理、雇用、省資源・省エネ、再資源化、働き方、生きがいのある仕事のあり方、人間らしい仕事など」、SDGsのテーマに提示された目標について報告を行い、コミュニケーションを行っているものと思われます。これらを改めてSDGsに焼き直し、SDGsの言葉に置き換えることで、容易にSDGsを経営に取り込むことが可能といえます。ただし、繰り返しますが、目標値については、従来の延長線上に置くのではなく、「あるべき目標値」に置き換える必要があります。
SDGs は今まで述べて来たように、「経済・社会・環境の諸要素を統合し、連携して持続可能な開発をあらゆる側面で実現しようとするもの」です。従って、企業は報告書等の中でこうした要素の関係性を認知し明確化することが有益です。

まとめ

（1）今回まで、SDGsとは何か、SDGsを企業経営に取り込む必然性とメリット、実際の取組み手順などについて概略を解説してきました。
（2） SDGsの根幹には、「エネルギーも資源も無限であり、空や海の汚染も広大な地球による自然の回復力に依存すれが良い」としていた時代から一転して、「エネルギーも資源も有限であり、空や海の汚染も自然の浄化作用の限界を超え、地球の気候にまで変動を与えるようになってきた。また、格差の拡大による貧困、ジェンダー差別問題などを解決し持続可能な開発」へパラダイムシフトしないと、地球は破滅へと向かうという危機感が示されています。
（3）従って、SDGsは「国連での採択事項」という遠い世界の話ではなく、地球憲章ともいえる我々一人一人に対する行動指針といえます。
（4） SDGsを推進する主役は国家や行政ではなく企業や団体、個人といえます。
（5）今回SDGsを企業経営に取り込むための公式ガイドラインである「SDGs Compass」について概要を述べてきましたが、これだけでは実際にSDGsを実践するのは難しい面が多いと思います。SDGsを実践するために、産業別に事例を示したSDG Industry Matrix 日本語版やNavigating the SDGs：SDGsビジネスガイド国連のグローバル目標に関与するためにはが公開されていますので、実際に取り組む場合はこれらを参考にすると良いと思います。
（6）しかしSDGsに取り組む企業が増えるに従い、ホームページにSDGsのロゴを示すなど「SDGsに取組んでいるふり」をしている企業（SDGs washと呼ばれる）も散見されるようになってきていることから、「SDGsの情報開示に関する指針」が公開されていますので、次回以降に、その概要について解説したいと思います。