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環境関連情報

水質汚濁防止法と水質総量規制

第8次水質総量削減に向けた見直し案について

情報発信日:2016-09-26

はじめに

2015年12月7日付けで、中央環境審議会は環境省からの「第8次水質総量削減に関する諮問」の答申を行いました。その後、中央環境審議会水環境部総量規制基準専門委員会(以下「専門委員会」と言う)にて詳細が検討され、2016年3月25日付けで専門委員会における報告案がパブリックコメントを経て、2016年5月26日付けで環境大臣に答申されました。今後、環境省において告示改正が実施される見通しです。

海洋における水質汚濁防止を目的とした「水質総量削減」は過去7回に渡り見直しが行われ、実施されてきましたが、今回の第8次水質総量削減に向けた概要が示されたのを機に、「水質総量規制制度」及び今回の改正概要について解説したいと思います。

水質総量規制制度の概要

(1) 制度の背景

生活排水や事業排水による河川や海洋の汚染を防止する目的の法規制は「水質汚濁防止法」を根幹とし、瀬戸内海などの閉鎖系海域に対しては、特別に「瀬戸内海環境保全特別措置法」などにより実施されています。

しかし、水質汚濁防止法に基づく排水基準は「濃度基準」のみにより管理されているため、COD(Chemical Oxygen Demand: 化学的酸素要求量=資料水中の有機物を酸化してその際使われる酸化剤の消費量で、有機物の総量を推定する値)等の環境基準の達成が困難な場所(人口や産業が集中する広域的な閉鎖海域)を対象として、流域の内陸府県を含めて海域に流入する汚濁負荷物質の総量(=濃度x排出量)を以て総合的に削減しようとする制度が「水質総量規制制度」です。

水質総量規制制度は1979(昭和54)年に制定され、以後現在まで5年毎、7次に渡り実施されて来ました。指定項目はCODと第5次より窒素とリンが加えられ、3項目が規制対象となります。
指定地域は以下の通り。

東京湾

埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の関係地域

伊勢湾

岐阜県、愛知県、三重県の関係地域

瀬戸内海
(大阪湾を含む)

京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、福岡県、大分県の関係地域

(2) 制度による成果

 

図2 水質総量規制による成果(出典:環境省、2007年)

各数値は制度の運用により確実に低下傾向を示していますが、瀬戸内海は大阪湾を含む広域であり流域府県も多いため、東京湾、伊勢湾に比べて高値で推移しています。

(3) 制度の体系

総量削減基本方針(目標年度、削減目標量など)を環境大臣が作成し、削減計画(生活系、産業系、その他個別の削減目標、方途など)は都府県知事が策定・管理。

①総量規制基準:日平均排水量50立米以上の特定事業場に対して負荷量(=濃度x水量)の規制
②削減指導:小規模事業者等対策、未規制事業場対策、農業・畜産農業等、底質対策など
③事業の実施:下水道・浄化槽の整備、その処理の高度化

第8次水質総量削減の在り方と今後の予定

(1) 指定水域における環境改善の必要性

指定水域

現状及び改善の必要性

東京湾及び伊勢湾

今後も水環境改善を進める必要あり

大阪湾

窒素及びリンの環境基準達成状況を勘案しつつ、特に有機物による汚濁解消の観点から水環境改善を進める必要あり

大阪湾を除く瀬戸内海

現在の水質が悪化しないよう対策を講じることが妥当

(2) 対策の在り方

① 汚濁負荷削減対策

(ア) 東京湾、伊勢湾及び大阪湾

効率的に汚濁負荷量の削減が図られるよう対策の推進が必要。
大阪湾においては、窒素及びリンの環境基準の達成状況を勘案しつつ、特に有機汚濁解消の観点から必要な対策の推進が必要。

(イ) 大阪湾を除く瀬戸内海

生物多様性・生物生産性の確保の重要性にかんがみ、湾・灘ごと、季節ごとの状況に応じたきめ細やかな水質管理について、その影響や実行可能性を十分検討しつつ、順応的な取組を推進。

② 干潟・藻場の保全・再生、底質環境の改善等

干潟・藻場の保全・再生等を通じた水質浄化及び生物多様性・生物生産性の確保等の重要性にかんがみ、湾・灘ごとなどの実情に応じた総合的な取組の推進が必要。
→ 干潟・藻場の保全・再生、生物共生型護岸、多様な主体の連携、活動促進のための支援 など

(3) 改訂の概要

今回の答申では
①東京湾、伊勢湾、大阪湾について、業種ごとに定められた基準値の上限(C値の範囲)が引き下げられ、基準の強化が提言されています(瀬戸内海については、今回見直しはありません)
②基準値が見直された水域と業種
・COD:東京湾、伊勢湾、大阪湾関連(15業種区分)
・窒素:東京湾、伊勢湾関連(76業種)
・リン (東京湾、伊勢湾 (72業種区分))

(4) 今後の予定

環境省は中央環境審議会よりの答申を受けて総量規制基準の設定方法について検討を進め、総量削減基本方針を定める予定。また、その後、都府県による総量削減計画が定められることとなります。

 

まとめ

我国は昔から山紫水明と言われ川は澄み切り美しい水の国でしたが、戦後の復興から高度成長時代と言われた昭和40年代に入ると、以前は局地的な事件にとどまっていた公害問題が、その要因や被害の状況においても、また、地域の広がりにおいても比較にならないほど広範なものへと変化して行きました。

特に、生活排水や工業用排水の多くが浄化処理されないまま、河川や湖沼に流入したため、河川、湖沼、沿岸海域等の公共用水域において、産業の発展拡大・地域開発の進展に伴い、さらに水質の汚濁が著しくなって行きました。

特に大規模工業地帯を抱える大都市の河川や湖沼、この下流域である東京湾、伊勢湾、大阪湾を含む瀬戸内海などの閉鎖系海域においては、富栄養化が進み海洋生物の生態系に大きな影響を与える赤潮が多発する事態となりました。
1958年(昭和33年)に制定された公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法)および工場排水等の規制に関する法律(工場排水規制法)ではこの事態を改善するのが難しくなったため、1970年(昭和45年)に「工場及び事業場から公共用水域に排出される水の排出及び地下に浸透する水の浸透を規制するとともに、生活排水対策の実施を推進すること等によって、公共用水域及び地下水の水質の汚濁(水質以外の水の状態が悪化することを含む)の防止を図り、もって国民の健康を保護するとともに生活環境を保全し、並びに工場及び事業場から排出される汚水及び廃液に関して人の健康に係る被害が生じた場合における事業者の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図ることを目的」(水質汚濁防止法第1条より)とした「水質汚濁防止法」が制定されました。

しかし、水質汚濁防止法での規制では排水基準が濃度で管理されるため、希釈して排出すれば規制に抵触せずに大量の汚濁水を排出することが可能となってしまいます。

このことより、本コラムで今回解説した「水質総量規制」は負荷量(=濃度x水量)を管理値として個別に細かな規制を行おうとするものと言えます。

現状では、有機物総量を示すCODと窒素、リンの3項目の規制で、今後も当面は追加される気配はありませんが、現在種々の有害化学物質規制においても規制値の多くは濃度です。今後この様な負荷量(=濃度x量)の考え方が持ち込まれて来る可能性があるかも知れませんので、要注意です。

引用・参考文献

注意

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