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環境関連情報

米国における給水器具に含有する鉛に規制強化の動き

情報発信日:2011-02-18

米国における最近の飲料水中の鉛問題

In Deep等によりますと2010年11月3日、ニューヨーク市当局は「市内の水道水から基準を超える鉛が検出された」と発表しました。ニューヨーク市ではSDWA (Safe Drinking Water Act:安全飲料水本法)の下に定期的に水道水の水質検査を行い、各建物に供給される飲料水の水質をモニターしていますが、今回行った222件の建物調査では全体の14%に当たる30件からEPA(米国環境保護庁)が定める15ppbを越えた鉛が検出されました。

水道水の中の鉛の濃度は、1987年以前に立てられた住宅やビルでは高い傾向にあります。これは、それまでに建てられた米国の住宅における水道用パイプ接合部に鉛のハンダが使用されているからで、さらには 1961年以前に建てられた建物では給水管自身が鉛で出来ているため、この懸念はさらに高くなります。

EPAでは試験を行った建物の10%以上で鉛の濃度が規定値の15ppbを越えた場合は地元の公益企業に行動を起こすことを求めていますが、この結果に対してニューヨーク市環境局は「今回の調査で判明した鉛の濃度はEPAが規定する水道水に含まれる鉛の濃度の危険レベルをほんの少し上回っただけで、健康に被害を与えるレベルではない」としました。

鉛を高濃度で摂取すると、脳や腎臓あるいは神経系や赤血球などに損傷を与える可能性がありますが、市当局は、今回の結果から水道水によって鉛中毒になることはほとんどないだろうが、人々を鉛にさらすことになる可能性はあると認めました。

またEPAは「鉛に関しては、懸念される濃度レベルより少ないことが望ましい。なぜなら、米国CDC(疾病予防管理センター)や EPA(環境保護庁)によれば、子どもにとって安全な鉛の濃度レベルという概念は存在しない」とも述べており、このため市当局は「水道水を飲んだり料理に使たったりする場合は、暫く水を流した後に使用するように」と訴えました。

2010年11月12日付けで米国のThe Medical Newsにおいては飲料水の鉛による汚染事故例に対する調査結果が報告されています。それによると「2008年半ばに連邦法の基準を満たした配管器具を使用して新しく建築された建物の水飲み場から、基準の15ppbを大きく越え300ppbもの鉛が検出されるという問題が発見され、数か月ものフラッシングによっても基準をクリア出来なかった。ノースカロライナ大学とバージニア工科大学の共同研究による調査の結果、連邦法の規定(鉛含有量は製品重量全体の8%)を満足し、配管装置業界の国家標準にも合格したとしてNSFのリストにも登録された特定のボールバルブに起因していることが判明した。調査の結果、この特定のボールバルブの接液部から重量比で18%もの鉛が検出された。そして、このボールバルブを配管から取り外したところ、水質基準は基準内に収まった」と報告され、上院での給水器具に対する鉛規制強化法案が審議されていることが述べられています。

米国上院で飲料水中の鉛規制強化法案が提案

上記のような事件が後押ししたのか、あるいはEUにおけるRoHS指令などに見られるように、国際的に鉛に関する規制強化の動きが高まっていることが要因かわかりませんが、米国上院の環境と公共事業委員会(Environment and Public Works Committee)のホームページによりますと、2010年9月29日付けで米国上院の環境と公共事業委員会に飲料水中の鉛の規制を強化する法案を提案しました。

提案の詳細な内容や改正される数字などの根拠は不明ですが、現行の給水器具に対する鉛の規制は「製品全体の重量の8%以下」と規定されていますが、改正案では「接水部の加重平均鉛含有量は0.25%以下」と大幅に強化されることになります。今回の改正における注目すべき点は、浸出量でなく接水部材に対する含有重量が厳しく規制される点にあるかと思います。本法案の提案ではEPAの見解にもあるように「鉛は、神経系や脳の発達を阻害する恐れがある有害汚染物質であり、特に妊娠中の女性、幼児や子供にとって大変危険な物質」とされています。

米国における鉛の規制は、人間が最も多く鉛を摂取する原因とされる建築用の塗料や子供用玩具などに関するものがありますが、ここにきて飲料水に対する規制が強化されるのも、その流れの一端かと思われます。

この他、金属有害物質としては環境対策で問題になっている金属は、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、セレン、テルル、ニッケルなどがありますので、今後各国、各業界の動きを注視してゆく必要があると思われます。

米国において「飲料水から危険な鉛を削減する法律」であるボクサー法案にオバマ大統領が署名

米国の上院における環境と公共事業委員会(Environment and Public Works Committee)のホームページによると、民主党のバーバラ・ボクサー上院議員が2010年9月29日に環境と公共事業委員会に提出した「飲料水から危険な鉛を削減する法律」であるボクサー法案は、2010年12月6日に上院において全会一致で可決され、2011年1月4日付けで米国法律3874号「飲料水から鉛を無くすことに役立つ超党派法案」としてオバマ大統領がこれに署名をしたと報じました。

本法案の全文は引用・参考資料の5に記載されていますが、目的は「水道管、管継ぎ手と配管器具の鉛含有量を削減することによって、飲料水による鉛中毒防止基準を強化し明確にするもの。」としており、規制値は2010年9月29日に提案された数値がそのまま採用されて、給水器具に含有出来る鉛の含有量は現行の「製品重量の8%以下」から「接水面の部材は0.25%以下」と大幅な規制強化になります。

なお、ホームページには本法案は以下の業界、政府、環境団体などによって広範囲に支援されていると記載されています。

まとめ

SDWA (Safe Drinking Water Act:安全飲料水本法)の改正である米国法律3874号では「接液部材に関して鉛含有量は0.25%」と記載されていますが、給水器具などの規格を管轄するNSF(National Science Foundation:アメリカ国立科学財団)からの情報では、NSF/ANSI 61 Drinking water system components「飲料水システムの部品」に関する規格は、新たにNSF/ANSI 372として、パイプ、継手、給水器具などの鉛の含有量は「製品の鉛含有量は加重平均で0.25%以下」と改正されるとのことで、法案の規制よりも厳しくなっているようです。

詳細な情報が必要な方は、NSF/ANSI 372を入手し解読されるのが良いと思います。

なお、同じくNSFからの情報によると、新規格NSF/ANSI 372の適用は法案に大統領が署名した2011年1月4日から36カ月後の2014年1月4日からのようです。

通常、飲料水水質に関する規制のガイドラインはWHO(世界保健機関)におけるGDWQ(Guidelines for drinking water quality:飲料水水質ガイドライン)が基本になりますが、米国においては独自の規格が適用されることも多いので、別途の注視が必要です。現在、鉛に続き、六価クロムに関する規制が検討されているとの情報もありますので、今後も継続的に調査して行きたいと思います。

参考文献及び引用先

注意

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