ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 我が国の新しい希少資源リサイクル制度の動き(2)
情報発信日:2012-05-15
先月、本コラムにおいて「レアメタル・レアアースとは何か?」、「どのような特徴を有し、どんな用途に使用され、どこの国・地域で産出するか?」、などレアメタル・レアアースに関する基本的な事項について述べました。特に、レアメタルの中でも携帯情報端末機器、電気自動車、高度医療機器、LED照明や液晶テレビなどに代表されるFPD(フラット・パネル・ディスプレー)など最近のハイテク産業に欠かせない材料となってきているレアアース(希土類金属)は、その産出量の97%をも中国が占めており、今後我が国における基幹産業になりうる可能性の高い上述の新しいハイテク産業の根幹がややもすると中国1国の胸三寸により揺るがされかねないといった危うい基盤の上に乗っていることを述べました。
このような状況において、特に尖閣諸島の領土問題という微妙な問題を抱える中国との関係を考慮した上で、我が国の政府及び産業界は将来に向けたこれら希少資源の確保に向けた動きを加速してきています。
また、金属材料を多く使っているバルブ産業においてもニッケル、クロム、タングステンなどのレアメタルの安定確保は重要な課題だと思われますので、今回はこの辺の動きについて述べるとともに我々としても、今後はどのような行動を取るべきかについて考えてみたいと思います。
市場の原理によって需要と供給のバランスが崩れて供給が需要を上回れば価格が下落しますし、逆になれば価格が高騰するのは当然の結果であり原油におけるOPEC(石油輸出国機構)のように市場の様子を見ながらバランスが崩れないように産出量の調整を行うのが普通ですが、レアメタルは先月の本コラムで述べたように産出する国・地域が偏在しており、現状では極めて限られた国からしか産出しないため、寡占的な状況にあるといえます。
従って、今後需要が高まれば加速度的に価格が暴騰する可能性を秘めているといえます。このような状況において安定的にこれらの資源を確保するために考えられる対策としては、
などが考えられていますが、いずれも未だ種々の難題があり簡単には行かないのが現状のようですが、この辺の動きについて課題も含めて述べて行きたいと思います。
レアメタルの効率的な回収とそのリサイクル技術などについて、資源確保の観点からは経済産業省・資源エネルギー庁や経済産業省の外郭機関であるNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や独立行政法人産業技術総合研究所などを中心に種々の検討が行われています。
特に、実際の研究組織を抱えている産業技術総合研究所においてはレアメタル・タスクフォースが組織され、環境管理技術研究部門と環境化学技術研究部門において、少量元素の分離技術の開発などリサイクル技術の開発、サステナブルマテリアル研究部門と環境化学技術研究部門においては代替材料技術と省使用材料技術の研究が行われ新材料・新部材の開発、新プロセス技術の開発、また地圏資源環境研究部門では新資源の探査、低品位鉱石の積極的な利用など新たな資源探査を行うなど、レアメタルの安定確保に対して総合的な検討が行われています。
レアメタルの中にはチタン、マンガン、クロムといった実際は地殻中に大量に存在している元素も含まれています。マンガンやクロムなどの元素は古くから鉄の特性を向上させる添加物として使われ、産業において不可欠な元素であったことと、チタンは地殻に大量に存在しますが酸化物として産出するため鉱石の精錬に極めて高度な技術が必要で、製造が難しい金属の一つとされ、同ように多くのレアメタルも添加剤的に使用されているため、効率的な分離技術開発がリサイクルを行う上で極めて重要となってきます。
一方、レアメタルの中には毒性の強い材料も多く、環境汚染防止の観点から、環境省がレアメタルを多く使用している機器として小型電子・電気機器に対するリサイクルの在り方についての検討を行っています。
レアメタルのリサイクルに当たっては、上述したように主原料に対する添加剤的に使用される場合が多いことに加えて、分離・精製が難しいことから、現状ではリサイクルをする方がコスト高であり、また市場規模が小さいためビジネスとして成立しないという問題が障害になっています。
従って、レアメタルの回収・リサイクルを今後成立させるためには、効率的な回収ルールと分離精製技術の確立が重要な課題であるといえます。
2011年8月11日付け毎日フォーラムによると、東大のチームが太平洋底にレアアースを含む泥が大量に存在しており、その量は陸上の800倍にも相当するという論文を英国の科学誌「ネイチャー」の姉妹誌に発表したと報じました。
これによって「資源問題に解決に繋がる」と大きく報じた新聞もあったようですが、海底資源を採算ベースに乗せるのは現状の技術では簡単な事ではないようです。
国内において、これら新たな鉱脈探査は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が中心となり
などの検討を行っています。
また、一般にレアアースは、それ自身が毒性を有している場合や、ウランやトリウムといった放射性物質と混在して産出するため、放射線が採掘の障害になる場合が多く、また精錬には大量の酸を使用するなど環境への負荷が非常に大きいなど、新たな鉱脈が発見されてもコストだけでなく環境問題により簡単に採掘できないという事情もあるようです。
このような状況において、中国が寡占的な産出国となっているのは環境対策のコストをあまり掛けないためともいわれており、最近中国において重金属やこれらレアアースに関連した環境汚染が大きな問題になっています。
レアメタル問題は石油と同ように産出国や地域が偏在した有限の地下資源であり、需要が増えれば価格の高騰が懸念される材料といえます。
しかし、
このような状況において、レアアース以外のレアメタルにおいても需給バランスが崩れる危険性があるため、経済産業省・資源エネルギー庁は「レアメタルは磁性材料や電子部品を作る原料として、電子工業に代表される先端産業に利用されています。また、特殊鋼等の原材料として鉄鋼業、機械工業には必須の資源です。しかし、レアメタルの生産国は政情不安定な国を含めて海外の少数国に限定されており、供給構造は極めて脆弱となっています。 そのため、レアメタル7鉱種(ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウム)について、国家備蓄を行い、鉱山のストライキや、自然災害等による短期的なレアメタルの供給障害に備えています」として、石油同様に備蓄を行う対策を実施しています。
(1)回収・リサイクルの項でも述べましたが、企業や大学などの民間及び産業技術総合研究所など国の研究機関においても、代替材料や使用量の削減などの研究が行われています。
4月30日の日本経済新聞に「インドからレアアース3種輸入 日印が大筋合意-中国依存の脱却狙う」という記事が載っていました。生産するのはランタン、セリウム、ネオジムの3種類のレアアースで日本の年間使用量の約10%を賄えると伝えています。過去1〜2ヶ月の新聞を見ても、レアアースに関する種々の記事が見られ、産出国と、需要国の駆け引きや需給バランスを取るための種々の施策が練られている様子が見られます。
さて、このような状況において同じ地殻資源でも石油や天然ガスなどのように一度使ってしまったらなくなってしまう枯渇性資源と異なり、金属の場合は基本的には回収・リサイクルが可能であり、古くから鉄や銅などは繰り返して使用されてきました。
しかしレアメタルの場合は、元々存在する量が少なく、且つ汎用金属鉱脈に不純物として混入する形で産出したり、毒性が強かったり、分離精製が極めて難しい、あるいは使用する場合も添加剤的に使われるため、回収・リサイクルを行うとしても採算が合わないなど様々な問題があるのが現状のようです。
このような状況において、レアアースの使用量が多い小型の電気・電子機器のリサイクルについて経済産業省と環境省が異なる目的ではありますが、本格的な検討を開始していますので、今後の動向を注視して行きたいと思います。
また、バルブ産業においても関係の深いニッケル、クロム、タングステンなどのレアメタルについても国家備蓄の対象になってはいますが、産出国における政情不安や紛争によっては調達の問題が生じかねない危険性もありますので、今後は、上述の状況を理解した上でこの辺の情報にも併せて注視して行きたいと思います。