ホーム > 知ってなるほどバルブと水栓 > 環境関連情報 >「もう一つのC to C」とは~究極のリサイクルへ
情報発信日:2012-2-16
一般的に「C2C」または「C to C」というと、「Consumer / Customer to Consumer / Customer」を意味し、消費者または顧客間で直接取引を行うことを意味します。【企業間の取引はB to B (Business to Business)、企業と一般消費者の取引はB to C (Business to Consumer)といいます。】
しかし、最近欧米で流行り出している「もう一つのC to C」という言葉があります。
欧米では古くからCradle to Grave (揺りかごから墓場まで)という言葉があり、産まれた時から死ぬまでのしっかりした社会保障制度のことを意味しますが、新しい「もう一つのC to C 」はこの言葉をもじり、「Cradle to Cradle」(揺りかごから揺りかごまで)と呼ばれ、「完全循環型の設計」を意味します。 今回は、この完全循環型の設計(C to C)について紹介したいと思います。
今回、廃棄物のリサイクル工場が並ぶ東京都スーパーエコタウンを見学する機会があり、大幅なゴミの減量化に取り組む現場を見て来ましたので、ご紹介したいと思います。
C to C 完全循環型設計とは揺りかご(地球)から得た貴重な資源で作ったモノを使い終えたらゴミとして処分場(墓場)に捨ててしまうのではなく、「ゴミ=資源」という考え方に立って、ゴミを出さない完全循環を目指す全く新しいモノ作りの考え方を指します。
「従来の環境経営で用いられてきたリサイクルやリユースという意味は、使い捨てよりは、”less bad (多少はマシ)”ではあるが、どちらかというと消極的な考え方で、リサイクルやリユースされるごとに品質的には劣化していき、処分場に行くのを多少遅らせるだけである」とするのはC to C 完全循環型設計の提唱者の意見です。
C to C 完全循環型設計は1990年代末から2000年代初期頃にアメリカ人の建築家ウィリアム・マクダナー( William McDonough )とドイツ人の化学者マイケル・ブラウンガード( Michael Braungart )博士によって提唱されました。
20世紀の後半は大量生産と大量消費の時代でした。しかし、エネルギーや資源の枯渇が危惧され始め、大気や水の汚染が地球規模に拡大されてきた現在、資源のリサイクルやリユースを考える人々が増え、エネルギーも再生可能なエネルギーの利用率を高めようという動きが出てきています。
William McDonoughとMichael Braungartの著書「サステナブルなモノづくり-ゆりかごからゆりかごへ」は各国語に次々と翻訳され、特に「中国では1500万部が売れた」(ブラウンガード博士)とされています。それは中国指導者層において、中国経済が大量生産・消費・廃棄型では早晩行き詰ることを痛いほど分かっているだけに、C2Cに並々ならぬ関心を寄せているといわれています。
この著書の中で、二人は「今日の地球が多くの環境問題を抱えてしまったその原因は『20世紀型の産業デザインの欠陥にある』」として、
「その欠陥とは、
(1)毎年何億トンもの有毒な物質を大気中・水中・地中を問わず放出し、
(2)将来何世代にもわたって影響を与えるのであろう危険な物質も生産し続け、
(3)膨大な量のゴミを生み出し、
(4)資源となる貴重な物質も地中に埋めて回収せず、
(5)被害をなるべく遅らせるために何千もの複雑な規制を設け、
(6)労働力の省力化=生産力の向上と考え、
(7)天然資源を採掘・伐採して利用し、利用後は燃やしたり埋め立てたりすることで繁栄を築いてきたと指摘する。」
と述べています。
さらに、
「本来、地球上で許される人間の生産活動は、自然の循環という『動的環境』から資源を得て、この動的環境に廃棄物を返すことだけである。にもかかわらず、この石油文明はいずれ科学技術が解決するものとして、捨て場のないままに資源を利用してきた。しかし、捨て場がない以上、環境汚染というエントロピーの限界を超えることはできない。」とも述べています。
また著者らは「自然界(生態学的見地)にはゴミは存在しない」という視点に立って「ゴミという概念」そのものを否定しています。
時事ドットコムの記事「『C2C』って何?~ゴミを出さないモノづくり」の中で、「例えば自動車は現在、購入者が車体を所有し、一定期間利用した後、一部製品はリサイクルされるものの、大半はゴミとして廃棄されてしまう。一方、C2C的な考え方は、利用者は一定期間、購入した自動車を「エコ・リース」し、不必要になればメーカーにモノ(自動車)を返却する。自動車は最初から再利用を前提に設計されるから、ゴミとなることなく、持続的に活用できる。理想主義的なきらいはあるが、発生するゴミの量は格段に違ってくるだろう。」とC to C の基本概念について述べています。
つまり、問題はモノづくりにおける「設計概念に誤りがある」と考えているのです。即ち「ゴミの減量」という消極的発想ではなく、「設計によってゴミそのものをなくすことができる」と主張しているのです。この視点に立ったモノづくりは、企業の目的である「利潤の追求」と「環境の保護」は対立・矛盾しないばかりか、利益を生むとさえ言っています。まさに逆転の発想であり、パラダイムの転換であるとも言え、この考え方が直面する地球の多くの環境問題を解決する大きな可能性があるのではと思えます。
C to C TMに基づく設計に対するグローバル認証はこの概念の提唱者であるWilliam McDonough とMichael Braungartが代表を務めるMBDC (McDonough Braungart Design Chemistry) によってグローバル認証が行われています。MBDCは1995年に地球の持続的開発を推進するためのコンサルタントや製品認証を行うために設立されました。民間の機関ですが、彼らの考え方に賛同して、既に多くの企業や事業体が認証を受けており代表的なところではフィリップス、USPS(米国郵政公社)、ナイキ、ボルボ、トリンプといった国際企業や機関が名前を連ねています。
C to C のフレームワークについてMBDCのホームページには以下の3点が示されています。
William McDonoughはグリーンケミストリーチャレンジアワード(2003)、持続可能な開発のための大統領賞(1996)、ナショナルデザイン賞(2004)などの受賞歴を有し、Michael BraungartはEPEA International Umweltforschung GmbHの創立者の化学者とともに有名人ではあるようですが、いかに C to C の考え方が素晴らしいといっても「ひとつの民間機関」ということで日本では、まだまだ認証を取った企業はないようですが欧米人は「素晴らしい、共感できる」となったら「たとえ民間機関の認証でも取る」というところが素晴らしいところだと思います。
C to C の提唱者の内の1人Michael Braungart博士が昨年10月に日本にある外資系化粧品会社の招きによって来日してC to C の説明セミナーで講演を行なったと報じられていますが、博士はC to C の考え方は「日本の美に対する考え方や、自然を畏れ、学ぶ姿勢」、「コストより、品質を重視する日本流のモノづくりの精神」から学んだと述べたそうです。
上述した昨年10月に開催されたC to CセミナーでMichael Braungart博士とともに講演を行なった(株)イースクエア(戦略的CSRコンサルティング/環境コンサルティング会社)の現代表取締役社長の本木啓生氏は「2000年までの半世紀で、世界の人口は2.4倍の約60億6,000万人に、自動車所有台数は10.3倍の7億2,000万台に、電力消費は21.3倍の32億kw/hに拡大した」そして「従来の取り組み方では、環境破壊を少なくしても、ゼロにならない。プラスにしないといけない。カーボンニュートラルではなく、カーボンポジティブにしないとならない。そのような状況においてC to Cは究極のビジネスモデルになるだろう。」と力説したと伝え聞きました。
世界の人口は、1年間で約6,000万人が亡くなっていますが、1億7,000万人が産まれていますので、1年で約7,000万人、1日約20万人、1分間に約140人ずつ増えている計算になり、既に70億人を超えたと推定されます。この人口の急増によって様々な歪が生じていると考えられます。このため、国家間における地球温室効果ガス削減や生物多様性の問題が交渉されていますが、必ずしも順調な交渉が行われているとは言い難い状況にあります。そのような中にあって、C to C完全循環型設計の考え方は我々民間の企業や事業体に所属する人間として導入を考えるべきツールの一つではないかと思われます。