ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 2030年温室効果ガス排出量26%削減への道 #1
情報発信日:2016-9-26
2015年末に地球温暖化防止を目的としたパリ協定が採択され、世界各国は異次元の目標達成に向けて一斉にスタートを切りました。我国は、温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比で26%削減(2005年度比で25.4%削減)するとの中期目標の達成に向けて、また、約束草案として示した2050年に80%削減するとの長期目標に向けて、具体的にどのようにこの目標を達成するのかと言う道筋が示される必要があり、環境省が中心となり、種々の方向性が矢継ぎ早に示されています。
このコラムにおいては、これらの方向性を示す政策、施策、法制などについて解説することにより、企業活動や個人生活などへの影響を先取りして、備えるべき事項を継続的にお知らせして行きたいと思います。
今回は、「地球温暖化対策計画」の閣議決定で位置付けられた、国民運動の強化等を出発点とする社会構造のイノベーションを目指し、環境省が進める施策の全体像「パリ協定から始めるアクション50-80 〜地球の未来のための11の取組〜 について」の概要をお伝えしたいと思います。
パリ協定から始めるアクション50-80 〜地球の未来のための11の取組〜 について
「アクション50-80」とは2050年に温室効果ガス排出量の80%削減を目指して今から具体的なアクションを起こすことが必要として、環境省の主導のもと国内外をリードして、社会構造のイノベーションを実施しようとするものです。
全体像は、11の取組から構成されています。以下、11の取組の概要について述べます。
①2030年に温室効果ガス排出量26%削減目標の前提は家庭と業務部門で40%の大幅削減
②温暖化への危機感を国民一人ひとりが共有し、省エネ製品への買換えがコスト面でメリットがあるなど正しい知識の情報提供することで、低炭素な「製品」「サービス」「ライフスタイル」の“賢い選択”(Cool Choice)を推進し、関連マーケットの拡大・創出に繋げる。
③国民運動の強化等を内容とする地球温暖化対策推進法の改正
④企業など幅広い関係者と連携するための「Cool Choice推進チーム」(チーム長:環境大臣)を設置。(2016年5月)
⑤国民運動実施計画を策定(2016年6月策定)進捗の点検を行いながら「Cool Choice」のムーブメントを全国に展開。
幅広い関係者と連携・協力し重層的・波状的な普及啓発
・効果的なコンテンツの作成 ・IPCCリポートコミュニケーターによる出前授業 ・小・中・高校等での環境教育の強化 |
⇒地球温暖化に関する危機意識の浸透 |
・家電量販店、小売店、住宅メーカー、自販連、自工会等と連携 |
⇒低炭素製品への買換え |
・鉄道、バス業界、物流、ネット通販、コンビニ等との連携 |
⇒低炭素サービスの選択 |
・自治体、産業界、メディア、NPOなど |
⇒低炭素なライフスタイルへの転換 |
低炭素マーケットの拡大・創出により低炭素で経済的(省エネ)かつ快適・健康的(室内環境、ヒートショック防止など)な暮らしの創造
①エネルギーの自立化など、地域の実情に応じた温暖化対策を推進し、低炭素化と地方創生を同時実現。
②地球温暖化対策推進法の改正により、
・温暖化対策の実行計画を、複数の地方公共団体が共同で策定できる旨を規定し、広域連携を推進。
・実行計画の記載事項に、「都市機能の集約」等を明記し、コンパクトなまちづくりを推進。
③法改正に加え、各地域の低炭素化の実現に向けた実証等を行う。
地方公共団体への各種支援メニューの提供⇒地域のエネルギーを地域で創り、蓄え、融通し合う体制作りへ
①二国間、地域、多国間の全てのフェーズで、あらゆるチャネルを通じた重層的な環境外交を目指す。
②国際協力の強化等を内容とする地球温暖化対策推進法の改正。
③各国大臣・大使等との対話によるトップ外交を展開。TEMMやG7等を通じ、世界の環境政策を牽引。
JCM等を一層強力に推進し、世界全体での抜本的な温室効果ガス削減に貢献。
二国間クレジット制度(JCM)など、多国間での協調・交渉
①民生部門4割削減、それ以降のさらなる削減に向けては、生活者の視点から
⇒未来のあるべき姿を描き、その未来を創造する戦略的取組が必要
②暮らしを支える「素材」、「電子機器」、「住まい」、「エネルギー」の分野で、有効な技術開発、社会実装
①素材:ホワイトバイオテクノロジーによる素材革命
・セルロースナノファイバー等バイオ資源による素材にまで立ち返った温暖化対策
・低炭素素材、次世代素材で軽量化、低燃費化など
②電子機器:GaN、IoE(Internet of Everything)よるスマート社会構築
・窒化ガリウム、ナノ結晶合金などによる電子デバイス・半導体による電子機器の効率最大化
・IoT(Internet of Thing)の高度化によるIoEに向けた取組推進。
③住まい:ZEB(Net Zero Energy Building)、ZEH (Net Zero Energy House)の市場拡大
・新築建築物の平均でZEB実現
・グリーンリース契約の推進
・既存テナントビルや賃貸住宅を支援し、住宅・建築物を抜本的に低炭素化
④エネルギー:クリンーンな水素サプライチェーンの構築
・水素の製造、貯蔵、輸送、利用までの水素サプライチェーン全体の低炭素化を推進
①社会構造の低炭素化と経済成長を同時実現する鍵は、環境価値を織り込んだ低炭素投資。
②海外では、社会構造の低炭素化に向けて、環境などの非財務情報を考慮したESG投資が急拡大。機関 投資家による炭素資産からのダイベストメントの動きも見られる。
③低炭素投資の促進に有効な施策について、我が国としてあらゆる可能性を視野に検討、取り組んでいく。
・ESG(環境Environment、社会Social、企業統治Governance)投資の促進
・企業と投資家等の対話の促進⇒「環境情報開示システム」の運用
・地域金融機関との連携:グリーンファンドによる出資、地域経済循環を拡大、地域金融機関や自治体との連携を強化
・グリーン金融商品の普及:グリーンボンド(地球温暖化対策事業などの資金調達のため発行される債券)や再エネファンド等のグリーン金融商品の普及
・カーボンプライシング:「環境価値」を顕在化・内部化し、財・サービスの価格体系に織り込むためのカーボンプライシング (炭素税、賦課金、排出量取引制度などの炭素の価格付けに関する制度)について、諸外国の状況を 含め、総合的・体系的に調査・分析を行いつつ、検討。
①パリ協定やG7エルマウサミットの首脳宣言を受け長期の低炭素戦略の策定が必要
・社会構造の低炭素化は、「高度成長」以来の大変革であり、国としてのビジョンが必要
・目指すべき社会像を提示し、国民・企業の行動を喚起
・低炭素化と経済成長が同時実現する姿をいち早く提示し、内外の投資を呼び込む
・技術のみならず、ライフスタイルや経済社会システムの変革をも視野に入れ、社会構造のイノベーションの絵姿として、長期低炭素ビジョン(仮称)を策定。
①パリ協定で、長期目標(2℃目標)の設定、全ての国が削減目標を5年毎に提出・更新すること、前進を示すこと、長期の低排出開発戦略を提出すること等に合意。
②我が国の署名・締結に向け必要な国内準備(協定の翻訳作業等)を進める。(2018年頃にパリ協定発効?)
①26%削減の達成と長期的な目標に向けた総合計画として「地球温暖化対策計画」を策定。
②政府として率先して対策に取り組むべく、先導的な対策を盛り込んだ「政府実行計画」を策定。
①地球温暖化対策の目指す方向
・我が国の約束草案で示す2030年度26%削減目標の確実な達成
・長期的目標である2050年80%削減を見据えた戦略的取組の実施
・世界全体の温室効果ガスの排出削減への最大限の貢献
②地球温暖化対策の基本的考え方
・環境、経済、社会の統合的向上
・約束草案の対策の着実な実行
・パリ協定への対応
・研究開発の強化と世界への貢献
・全ての主体の参加透明性の確保
・計画の不断の見通し
③主な対策と施策
・徹底した省エネルギーの推進及び再生可能エネルギーの最大限の導入
・電力業界全体の取組の実効性の確保(自主枠組みと政策的対応)
・国民運動の推進(危機意識の浸透、「COOL CHOICE」の推進等)
①2030年目標達成に向けて
・電力業界の自主的枠組みと
・省エネ法等の政策的対応により、電力業界全体の取組の実効性を確保する
・毎年度進捗をレビューするほか、引き続き平成25年の「局長級とりまとめ」に沿って実効性ある対策に取り組む
②2050年目標達成に向けて
・「局長級取りまとめ」に基づきCCS(二酸化炭素回収貯留)に取り組む
③中長期的には
・石炭火力発電への投資には、追加的施策の導入等に伴うリスクがある
①「気候変動の影響への適応計画」を関係府省庁と連携して着実に実施。
・地方公共団体における気候変動影響評価や適応計画策定をモデル事業等により支援
・途上国の適応計画策定に関する二国間協力やアジア太平洋適応ネットワーク(APAN)等の国際ネット ワークを通じた人材育成を推進。国際標準化機構(ISO)等の適応に関する国際規格化に貢献。
・気候リスク情報の提供を通じ、地方公共団体や事業者等の取組を促進する基盤として、本年夏頃を 目途に気候変動適応情報プラットフォームを国立環境研究所に設立。
①気候変動の実態把握を継続し、気候変動による危機を周知するとともに対策立案の基盤とする。
・世界初の温室効果ガス観測専用の衛星「いぶき」(GOSAT)を用い、全大気二酸化炭素濃度の月別速報値を毎月公表する。性能向上を図り、2017年度を目途に新たにGOSAT後継機を打ち上げ。
・気候変動の影響・被害の監視・把握を行い、包括的な気候変動影響評価を定期的に実施。
昨年末に開催されたCOP21において採択されたパリ協定において、我国は温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比で26%削減(2005年度比で25.4%削減)するとの中期目標及び2050年に80%削減するとの長期目標を約束草案として示しました。
これは、京都議定書における目標と比べて異次元とも言える高い目標であり、現状の技術や方向性の延長線では到底達成が不可能であると思われます。
このような目標を達成するため、環境省が中心となり今後は種々の施策を提案して来るものと思われますが、今回の「アクション50-80 〜地球の未来のための11の取組」は、今後の方向性を示す上での根幹と言えるもので、大変興味深いものと言えます。
但し、今回示された施策は「概念的」なものであり、今後より具体的な行動目標に落とし込まれて来ると思われますので、継続的に方向性を見ながら、このコラムにおいて当工業会への影響予測を踏まえ解説して行きたいと思います。
最後に、先般排出国第1位と2位の中国と米国が他国に先駆けて「批准」を宣言したことは極めて大きな意義があり、我国も本気でこの目標に向かって全力を尽くす必要が出て来たことを認識する必要があります。