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環境関連情報

「2015年合意」に向けて動き出した温室効果ガス削減交渉 #1

しかし、2013年度我国の温室効果ガス排出量は過去最高

情報発信日:2014-12-24

はじめに

2014年11月25日付けの本コラムで述べましたが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次統合報告書において、「人為的な温室効果ガス排出量の増加により、地球上の全ての大陸において気候変動が生じており、このまま放置した場合には、水や食料不足など、人間や生態系全体にとって、不可逆的で非常に厳しい状況に陥ることになる」と警告が発せられました。「このまま成り行きで温室効果ガスを排出し続ければ、2100年には、気温が4℃、海面は80cm上昇すると推定される。この気候変動による影響を緩和するためには、気温上昇を2℃以内に抑える必要があり、そのためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を半分に、2100年までにはゼロにする必要がある」とも警告しています。

これを踏まえ、2014年12月1日から12日までの期間、ペルーのリマにおいて国連気象変動枠組み条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)の第20回締約国会議(COP20)が開催されました。

この結果については、次月以降の本コラムで述べたいと思いますが、現在の状況では、京都議定書の締約期間が終了して以降、2011年12月に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17において、「温室効果ガス排出量の削減を目指し、京都議定書に参加しなかった、排出量世界1位の中国及び2位の米国を含む主要排出国を対象に2020年から実施される新しい枠組みを作る」という、いわゆるダーバン・プラットホームが合意されています。この新たな枠組みを2020年から実施するために、作業部会による継続的な検討が行われ、2015年12月にフランスのパリで開催予定のCOP21において各国・地域の削減目標が定められることになっています。

しかし、最終的には、法的な責任を伴う「2020年以降の各国・各地域における温室効果ガス削減目標数値」について合意する「議定書」のような形を目指してはいますが、現時点では、法的な形式についての合意がなされていないため、国際的に法的な責任を伴わない「各国の努力目標合意」に留まる可能性も高いといえるため、あえて「2015年合意」とか「新枠組み」などと呼ばれています。

また、各国の削減目標数値を積み上げた結果が、IPCCが警告した数値の「2050年に半減」に達するのか、非常に注目されるところです。

さらには、「2030年以降に対策がずれ込んだ場合には、手遅れになる」と、警告を与えています。

このような状況において、各国が自国のエゴを捨て、どこまで効果的な削減目標を提示できるかが、「今後の地球の運命を左右することになる」というのも、あながち過言ともいえない状況にあるかと思います。

温室効果ガス排出量削減には、経済的にマイナスとなる要因があるため、各国ともに「国民一人当たり」とか「GNP当たり」などと自国に有利となるような数値による駆け引きが行われて行くものと思われます。

そのような中で、2014年12月4日付けで環境省は2013年度の我国温室効果ガス排出量(速報値)を発表しましたが、それによりますと、「2013度の総排出量は13億9,500万トン(2012年度比+1.6 %、2005年度比+1.3 %、1990年度比+10.6 %)となり、過去最高だった2005年度の13億7,700万トンを超えて、過去最高を更新した」と発表しました。

原因としては、原子力発電が全停止しているための代替電力を火力発電により、賄っている事が主因と分析しています。

このような状況において、我国の温室効果ガス削減目標は2020年までは2005年比▲3.8 %という暫定目標値を掲げていますが、「2050年には80 %」削減を目指しています。どのような道筋を描いているのか興味のあるところです。

今回から何回かに渡り、我国のエネルギー政策と温室効果ガス削減のための施策を中心に、各国の動きなどを解説していきたいと思います。

 

世界の二酸化炭素排出状況と気温の変化

1. 国別の二酸化炭素年間総排出量(2011年)

2006年に中国とアメリカが逆転し、2011年現在、全世界の二酸化炭素排出量は年間約318億トンで、1位中国(26.9 %)、2位米国(16.6 %)、3位インド(5.7 %)、4位ロシア(5.3 %)、日本は5位(3.7 %)。中国と米国の2ヶ国で、45.5 %と約半分を占め、上位5ヶ国の合計で60.2 %となっています。

2. 世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較(2011年)

図1及び図2より、国別の総排出量からみると、中国が1位、アメリカが2位ですが、国民1人当たりで見ると中国は6位、アメリカが1位で中国の2.65倍、日本と比べても2.84倍とアメリカの排出量が多いことがわかります。

現在開催されている温室効果ガスの削減交渉において、簡単にまとまらない原因は、このような点や、既に過去に排出した積算量にも言及するなど先進国と途上国の間の難しい問題があります。

3. 燃料別に見る世界の二酸化炭素排出量の推移

図3より、第二次世界大戦が終わった1950年頃から石油由来の二酸化炭素が急増し、石炭の使用量も増えたため、1950年/2000年比では5倍にまで増加しています。

4. 大気中の二酸化炭素の経年変化

5. 世界の地上気温の経年変化(年平均)

図3、図4、図5に世界の二酸化炭素排出量、大気中の二酸化炭素濃度、世界の気温各々の経年変化を示しました。 二酸化炭素は水に溶けやすいため、排出されても海水に溶け込んでしまう分もありますし、地球の温室効果ガスとして一番影響のあるガスが水蒸気です。しかし、水蒸気は気温が上昇すれば増加しますし、気温が下がれば減少するのでIPCCでは、考慮に入れないなど、3つの図の値は簡単な式で結びつけるのは難しいと思われますので、3つの図は、「現実に起きている現象」として捉えた方が良いと思います。

日本におけるエネルギー消費と二酸化炭素排出量の現状

冒頭にも述べましたが、2014年12月5日に環境省が発表した「我国における2013年度の温室効果ガス排出量(速報値)」によると、「総排出量は13億9,500万トンで2005年度に記録した13億9,400万トンを超えて過去最高値になった」と伝えられました。主な原因は、東日本大震災以降、全て停止している原子力発電の代替として火力発電で電力を賄っていることや、代替フロンの影響によると分析しています。

内訳をみて見ますと、

環境省の変化に対する分析では、以下の2つの要因が大きいとしています。
・前年度と比べて排出量が増加した要因は、化石燃料消費量増加により、産業部門及び業務その他部門のエネルギー起源のCO2の増加が挙げられます。
・2005年度と比べて排出量が増加した要因としては火力発電の増加による化石燃料消費量の増加により、エネルギー起源CO2の排出量が増加したこと、オゾン層破壊物質からの代替に伴い、冷媒分野でハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量が増加したことなどが挙げられます。

部門別では、産業部門(工場など)が前年比+3.0 %、業務その他部門(商業・サービス・事業所など)が+3.2 %と増加しているのに対して、運輸部門(自動車等)が▲1.8 %、家庭部門が▲0.4 %と減少しました。

但し、2005年度と比べると、産業部門が▲6.3 %、運輸部門が▲12.6 %と減少しているのに対しては、業務その他部門が+19.5 %、家庭部門が+16.3 %と大幅に増加したことになります。

 

電気は、石炭・石油・ガス、あるいは原子力エネルギーなどによって作った水蒸気によって、発電タービンを回して作る場合が大半を占めていますが、熱を電気に変換する時点で30%程度のエネルギーロスが生じると言われていますので、電気は便利なエネルギーですが、それを用いて、表3に赤字で示したような、熱エネルギーとして利用することは、極めて贅沢で勿体ないエネルギーの使い方といえます。

照明器具は上位に入っていますが、熱エネルギーを放出する白熱電球や蛍光灯の代替としてLED照明に変換することや、ブラウン管式のテレビから液晶型の薄型に変更されること等により、将来的には省エネが図られて行くと予想されます。

各家電製品の消費電力に関しては、かなりの省エネ化が図られてきていると思われますが、様々な新製品の登場や冷蔵庫やテレビなどに見られるような「大型化」などによるものと推定される要因、及び、快適な生活を求めて、様々な場面で電気の需要は伸び、特に家庭における一次エネルギーとしての電力消費比率は増加傾向にありますが、2000年頃より横這いの状況になってきています。

2000年以降、総発電量は横ばい状況にありますが、電源別発電電力の比率は、2011年の東日本大震災による福島第1原発の事故以来全ての原発が停止するという状況が続いているため、これを代替する発電として、石油及び天然ガスによる火力発電が急増しています。

電気事業連合会の分析では「一世帯当たりの電力消費量は家庭のIT化や高齢化などにより、増加傾向にある。」としていますが、1995年頃より、エコ荷電などと呼ばれる「消費電力を抑えた電化製品」が出回るようになり、一見横這いにも思えます。

エアコン・クーラーなどの家電製品の普及に伴い、家庭での電気の使用量は年々増加傾向にあります。また、家庭で使う電気の4割がエアコン・クーラーと冷蔵庫によるものとなっています。

電力消費量は、図8のとおり、2000年頃より横這い傾向にありますが、1990年頃と比べると約2倍で高止まりにあるかと思います。

 

我国の温室効果ガス削減のための施策は

我国の温室効果ガス排出量は、2007年をピークに2008年、2009年と減少傾向にありましたが、これは2008年に起きたリーマンショックの影響による経済的な要因によるものと思われ、景気が回復傾向となった2010年から再び増加傾向になり、2011年の福島第1原発の事故を契機とした全ての原発停止に伴う、代替火力発電の稼働によって大幅な増加傾向となり、2013年度は過去最高となってしまいました。

我国の最新の「エネルギー基本計画」では、原子力発電を重要なベースロード電源と位置づけていますが、その割合については触れていません。

川内原発が、2015年の早い時期に再稼働の見通しとなっていますが、他の原発については再稼働の見通しは依然として不透明な状況にあります。

一方では、温室効果ガスの排出量の大幅削減は「待ったなし」の状況になりつつあります。 このような状況において、現時点における我国の温室効果ガス削減目標は、
①【短期目標】2020年に2005年比▲3.8 %<暫定値> 今後のエネルギー政策やエネルギーミックスの検討の進展を踏まえて見直し確定的な目標を設定する。
②【長期目標】2050年▲80 % (何年を基準にするのか不明確)

2009年7月のG8ラクイラ・サミットでは、G8北海道洞爺湖サミットにおいて合意した、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50 %削減するとの目標を世界全体で共有することを再確認し、この一部として「先進国全体で1990年度または最近の複数の年と比較して2050年までに80 %または、それ以上削減する。」との目標を支持する旨が表明されています。

しかし、80 %もの温室効果ガス排出量削減をどのように行うつもりなのか、我々の日常生活や企業活動にも大きな影響が及んで来る可能性があり、心配されるところだと思います。

【2050年における温室効果ガス80 %削減の姿】
中央環境審議会地球環境部会は、2050年における温室効果ガス80 %削減の姿を以下の通り提示しました。 (1) 2050年の最終消費部門では、特に民生部門と運輸部門において、大幅な省エネと電化が実現し、最終エネルギー消費量が現状の4割程度削減されている。 (2) 2050年にはエネルギーの低炭素化が進み、一次エネルギー供給量に占める再生可能エネルギーの比率が5割となっている。 (3) 2050年に必要な二酸化炭素回収・貯留(CCS)の量は2億トンCO2/年 ※80 %削減の内訳は省エネ40 %、再生可能エネルギーの利用30 %、二酸化炭素の吸収・貯留10 %

まとめ

(1) 1880年から2012年までに地球の平均気温は0.85℃上昇しました。
(2)大気中の二酸化炭素濃度は1960年の315ppmから2013年には395ppmまで上昇しました。
(3)二酸化炭素を主体とする温室効果ガスの排出量増加に伴う気象変動は世界各地で観測されています。
(4)このまま、成り行きで温室効果ガスの排出を続けた場合、2100年には世界の平均気温は4℃、海面は80cm上昇すると予想され、この結果の異常気象により食料や水が不足し、人類や生態系は不可逆的で甚大な損傷を受けることになります。
(5)気象変動による損傷を緩和するためには気温の上昇を2℃以内に抑える必要があり、そのためには2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で50%削減、2100年にはゼロにする必要があります。この対策は2030年までに行わないと間に合わなくなります。
(6)これに対して、国連気象変動枠組み条約において協議されており、「先進国全体で1990年度または最近の複数の年と比較して2050年までに80%または、それ以上削減する」という基本合意はなされています。
(7)現状、世界の温室効果ガス排出量を国別で見ると、第1位中国、第2位アメリカ、第3位インド、第4位ロシア、第5位日本となりますが、国民1人当たりで見ると第1位アメリカ、第2位韓国、第3位ロシア、第4位日本、第5位ドイツ、第6位中国、第7位インドとなります。削減目標をどう公平に扱うかが課題です。
(8)日本は、現在原子力発電所が全て停止した状況で、代替電力を火力発電により賄っている事が主な要因となり、2013年度の温室効果ガス排出量は過去最高となってしまいました。
(9)このような状況で、現状の生活や経済レベルを維持しながら、どのように2050年までに80%の温室効果ガスの排出量を削減するのかが大きな課題です。
(10)中央環境審議会地球環境部会がまとめた2013年以降の施策に関する報告書では、原子力発電所の稼働の有無などを含めて複数の選択肢をシュミレーションしています。80%の内訳は、省エネで40%、再生可能エネルギーへの切り替え30%、二酸化炭素の吸収・貯留で10%としていますが、かなりの技術開発を行い、生活や企業活動に対する概念を大幅に変更する必要がありそうです。
(11)まずは、国連気象変動枠組み条約の中で主要排出国の間で、満足の行く目標削減量が合意できるか否かが、地球の将来を決めることになるといえます。

引用・参照情報

注意

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