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IPCC (気候変動に関する政府間パネル) 第5次統合報告書を発表

気温上昇を2℃以下に抑える道筋を示すも、難しい選択を迫られる日本

情報発信日:2014-11-25

はじめに

2014年11月2日付けでIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル Intergovernmental Panel on Climate Change)は、「2014年10月27日〜31日にコペンハーゲンで開かれた総会において、地球温暖化に関する第5次評価報告書の仕上げとなる統合報告書を承認した」と発表しました。

この報道資料によると、「温室効果ガス排出量増加により地球上全ての大陸において気候変動が生じており、このまま放置した場合には、水や食料不足など、人間や生態系全体にとって、不可逆的で非常に厳しい状況に陥ることになる」としています。一方「2030年までに、19世紀末の工業化以前に比べて、地球の平均気温上昇を2℃以下に抑えることによって、その危機を乗り越えることが可能であり、その道筋はいくつかある」ともしています。

ただし、そのためには「2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を「現在の半分」に、今世紀末までに「ゼロ」にすることが求められており、このまま対策を打たずに推移すれば2030年には、手遅れになり温暖化の影響を回避することが出来なくなる」と結論付けており、本年末から国連において本格化する温室効果ガス削減交渉の各国首脳や政策担当者に対して、早急な対策の実行を打つか否かの最終決断を迫る形となっています。

2012年で締約期間が終了した「京都議定書」以降の温室効果ガス削減交渉は、紆余曲折の後に京都議定書に参加しなかった中国および米国(世界の温室効果ガス排出量第1位と2位)も参加を表明しており、この先1年が地球の将来を決定する重大な年になるといえます。

このような状況において、各国の温室効果ガス排出量削減目標が提示され始めて来ていますが、東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故以来、国内54基全ての原子力発電所全てが停止してしまっているため、代替を火力発電に頼っている我が国は、原子力発電所の再稼働問題に見通しが立たないため、削減目標が作れない状況にあります。

そのような状況にあって、安全でクリーンな太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの開発が盛んに進められていますが、2014年9月24日に九州電力は「既に再生可能エネルギーの接続契約の申込みを済ませている事業主及び今後の新規接続申し込みを行う予定の事業者に対して、接続の回答を保留する」とし、今後は太陽光発電などによる電力の接続を事実上拒否する形となりました。

これは、送電網の整備問題や、ベースロード電源(安定電源)との比率など技術的な問題と、現在進んでいる再生可能エネルギー全てを利用した場合には、国民1人当たり2.3万円×20年の再生可能エネルギー賦課金を支払う必要が生じるなど多くの問題があります。

一方、原子力発電の代替として、経済性が高く、ベースロード電源になりうる石炭火力発電ですが、世界の各国では温室効果ガスの排出が多いことから、廃止の方向に進んでいる中、現状では日本だけが逆行する状況にあり、ベースロード電源として原子力発電の危険性と温室効果ガスにより気象変動の危険性と、どちらを優先的に回避するべきなのか、待ったなしの難しい選択を迫られることになりそうです。

前置きが長くなりましたが、今回はIPCC第5次統合報告書の概要、今年の末から本格化する温室効果ガス排出量削減交渉の各国進捗状況、日本の今後のエネルギー政策などについて考えてみたいと思います。

 

IPCC第5次統合報告書の概要

(1) IPCCとは、統合報告書とは

気象変動に関する政府間パネルIPCC(The Intergovernmental Panel on Climate Change)は、気象変動に関連した科学を評価するために、世界気象機関WMO(The World Meteorological Organization)と国連環境計画UNEP(United Nations Environment Program)によって国連総会の議決をもって1988年に設立された世界的な機関です。

そして、毎年世界中で公開される学術論文を評価して、これを整理して各国の政策担当者に対して科学的な気象変動についての理解してもらうための情報提供を行います。しかし、それは特定の見解や行動を促進はしません。IPCCは各国の政策担当者のために選択肢は提示しますが、「どれを選択するべきか」は決定しません。

IPCCには3つの作業部会があります。第1作業部会は「気象変動が生じる科学的な根拠」と「それにより将来予測されるシナリオ」について検討を行います。第2作業部会は「気象変動による影響、適応、脆弱性」について検討します。第3作業部会は「気象変動を緩和について」を検討します。

そして、IPCCは6年ごとに報告書をまとめます。2014年は第5次報告書をまとめる年度になっており、第1作業部会は2013年9月23日〜27日にストックホルムで開催された第37回総会において、第2作業部会は2014年3月25日〜29日に横浜で開催された第38回総会において、第3作業部会は2014年4月7〜12日にベルリンで開催された第39回総会で各々作業部会の報告書を公表しています。そして、今回これら3作業部会の報告書を統合した第5次統合報告書の概要版が総会において、一行ずつ確認され承認されて公表されました。

(2) 統合報告書の概要

①温室効果ガス排出量増加が世界の気象変動の原因であることは疑いがなく、放置すれば人類に深刻な影響

統合報告書の結論として、「全ての大陸において、気象変動の影響を観察して来た結果、気象システムに対して人間が影響を与えている事は、もはや疑いのない事実です。1950年から2000年までに観察された気候の変化は過去に前例がありません。この事は、大気と海水の温度上昇と雪や氷の量の減少そして、海面の上昇などに表れています。そして、二酸化炭素の濃度は少なくとも過去80万年で前例のないレベルにまで増加しています。その影響は増大しており、もしこの状況を放置すれば、2100年には世界の平均気温は4℃上昇し、海面は80cm高くなると推定されます。そして、この気候変動による影響は人々と生態系に対して、全面的で、非常に厳しく不可逆的な影響を増大することになります。しかし、手段を選択することによって、この気象変動を緩和することは可能であり、その解決手段も複数あります。ただし、その手段は非常に厳しいものですが、現状では未だ対処可能な範囲にあるといえます。そして、この対応を行うことにより、明るく持続可能な社会を作ることが出来ます」としています。

気候変動の発生は少数の先進国家からの温室効果ガス排出が原因で、影響は貧しい人々が住む地域に生じます。

②気象変動の緩和

今後、人類や生態系に対して気候変動の影響を緩和するためには、19世紀末の工業化以前に対して、気温の上昇を2℃以下に抑える必要があります。そのためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を50%削減し、今世紀末までには「ゼロ」にすることが必要。そして、2030年までに、各国の対策が実施されない場合には、手遅れになり対策が立てられない状況に陥るでしょう。従って、残された時間は少ない状況です。

③今後の気象変動緩和へ向けたスケジール

このIPCCの報告内容は2014年12月にペルーで開催される第20回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP20)において説明され、各国の政策担当者の政策決定に影響を及ぼすものと思われます。そして、2015年が期限となっている各国の温室効果ガス排出量削減目標へ、どの程度反映されるかが注目されるところであり、今後の各国の出方が注目されるところです。

④ 現状における主な国の温室効果ガス削減目標

中国及びインドが「GDP当たり」としていることや、比較年度がEUとその他が異なることなどから単純な比較は出来ませんが、いずれも2桁の意欲的な削減目標を示しています。

一方で、日本は2020年までの目標が僅か▲3.8 %と極めて低い目標となっているだけでなく、2020年以降の目標についても何時提示できるかさえも明言できない状況にあります。

 

まとめ

(1) 気象変動に関する政府間パネルIPCC(The Intergovernmental Panel on Climate Change)は、気象変動に関連した科学を評価するために、世界気象機関WMO(The World Meteorological Organization)と国連環境計画UNEP(United Nations Environment Program)によって国連総会の議決をもって1988年に設立された世界的な機関です。

(2) IPCCは、毎年世界中で公開される学術論文を評価して、これを整理して各国の政策担当者に対して科学的な気象変動についての理解してもらうための情報提供を行います。

(3) IPCCには3つの作業部会があり、各々「気象変動が起こる科学的なメカニズムの解明」、「気象変動によって生じるであろう、影響の予測」、「気象変動を緩和するための方法」などを検討し、各々6年ごとに報告書を作成し公表しています。

(4) 今回これら3つの作業部会の報告書より「統合報告書」を作成・公表しました。

(5) これによると、全ての大陸において気象変動が観察され、原因は人為的な温室効果ガス排出量の増加によることといえる。そしてこのことは、もはや疑いのない事実といえます。

(6) この現象を放置すれば、2100年には世界の平均気温は4℃上昇し、海面は80cm高くなると推測されます。もしそうなれば、人類や生態系にとって、全面的で、非常に厳しく不可逆的な影響を増大することになります。

(7) これを緩和するためには、2100年までに世界の平均気温上昇を19世紀末と比較して2℃以下に抑える必要があります。

(8) そのためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を50%削減し、今世紀末までには「ゼロ」にすることが必要です。そして、2030年までに、各国の対策が実施されない場合には、手遅れになり対策が立てられない状況に陥ると予測されます。従って、残された時間は少ない状況にあるといえます。

(9) 以上のように、地球・人類・生態系にとって大変厳しい状況であり、この機会を逃せば回復不能なダメージを受けると警告しています。ただ、未だ大変厳しい状況にはありますが、世界の国々が協力し合えば「まだ、間に合う状況」にはあるということです。

(10) 従って、2014年12月にペルーで開催される第20回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP20)及び来年前半までに、各国がどの程度の目標を提示できるのか、「正念場」を迎えることになります。

(11) このような状況において、我が国は東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故以来、54基全ての原子炉が停止状態にあり、再稼働も不透明な状況にあります。そして、原発の代替電力を火力発電に頼っているため、温室効果ガス削減どころか、世界の流れに逆らい石炭火力発電を増やす検討もされています。このような状況において、我が国政府としても厳しい選択を迫られており、結論を先送りすることも限界に近づいているといえます。

(12) 一方、急速に増えている太陽光や風力による再生可能エネルギーですが、九州電力が「接続を拒否」する事態が起きています。今後、原発・温室効果ガス・再生可能エネルギーなどこれからのエネルギー状況はどうあるべきか、次回に整理してみたいと思います。

引用・参照情報

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