ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 生物多様性保全と企業活動 #1
情報発信日:2015-03-27
現在、地球を取り巻く環境問題のうち、最も重要なものは、
(1) 人為的な気象変動を防止するための温室効果ガス排出量の削減
(2) 資源及びエネルギーの枯渇による経済活動の縮小を防止するための資源のリサイクルと再生可能エネルギーの活用による循環型社会の構築
(3) 生態系バランスが崩れることにより食物連鎖の頂点に位置する我々人間への食料供給を安定化させるための生物多様性の保全
以上が三大地球環境問題と言われています。
このうち、(1)温室効果ガス排出量の削減、及び、(2)資源の再利用及び再生エネルギーの活用は、企業活動と密接に関わってくる問題であるため経済界でも関心の高い問題であり、企業活動の中に種々の対策が実施されています。
しかし、(3)生物多様性の保全に関しては企業活動とは直接の関わりが少なく、また生物多様性に関する認知度も低いため、活動の多くは地方自治体、NPO、市民ボランティアなどが主体となって進められています。
このため、環境経営に先進的な企業においても「生物多様性と自社との関係性がよくわからない」「生物多様性保全に関して、企業としてどのように取り組めばよいかわからない」という声がよく聞かれます。
一方で、「民間企業としても生物多様性の保全を目指して積極的に行動する企業」の集まりとしてJBIB(Japan Business Initiative for Biodiversity:企業と生物多様性イニシアティブ)が2008年4月に設立され活動を行っています。
今回は、「生物多様性とは何か」「なぜ生物多様性の保全が必要なのか」「生物多様性の保全のためには何をすればよいのか」「民間企業にできる活動は」などについて、解説したいと思います。
生物多様性については、2010年11月26日付けの本コラムにおいて基本的な事柄について述べていますが、再度「生物多様性とは」「なぜ生物多様性の保全が必要か」について解説した上で、企業活動との関連事項について述べてみたいと思います。
環境省の生物多様性センターのホームページによると、「生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。地球上の生きものは40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています」と定義しています。
ここでいう「3つのレベルの多様性」をもう少しわかりやすく説明すると、
(1) 生態系の多様性(生物が生きるために色々な環境があること)
生物が生活する環境として、東京湾の干潟、沖縄のサンゴ礁、白神山地の原生的な森林、釧路や尾瀬の湿原、里地里山、大小の河川など、いろいろなタイプの自然があります。
(2) 種の多様性(この地球上には、3,000万種類とも推定される多くの生物が互いに関わり合って生きていること)
大きなヒグマ、空を飛ぶトンボ、海を泳ぐ魚、ブナ、ヒノキなどの樹木、ハコベやタンポポなど、動植物から細菌などの微生物に至るまで、いろいろな生き物がそれぞれ関わり合い、支え合って生きています。
(3) 遺伝子の多様性(同じ種類の生物でも、千差万別な個性を有していること)
アサリの貝殻の模様が千差万別なことなど、同じ種でも多様な個性があること。異なる遺伝子をもつことにより、環境の変化や病気の蔓延が起こっても、絶滅の可能性が低くなります。
図1 ソメイヨシノ(東京都多摩市)現在地球上に生息する生物種は確認されているものが176万種、未確認のものを含めると3,000万種と言われていますが、人口の増加に伴う地目の変化(工場、農耕地、宅地の増加、自然林の減少、埋め立てによる干潟の減少など)、産業の発達に伴う環境の変化(大気や水質の汚染、温室効果ガスの排出量増加など)、農薬を始めとする有害化学物質の拡散など、人類の活動によって生物の生息環境が大きく変化してきているため、最近の調査によると、毎年3〜4万種類もの生物が絶滅し地球上から消えて行くといわれています。
地球の歴史において火山活動や隕石、氷河期の到来などの自然現象の変化により、恐竜やマンモスなどが大量に絶滅した例外はありますが、生物の種が自然淘汰され絶滅に至るのは1,000年に1種類程度といわれていますので、現在起こっている現象が大変な状況であるとが、おわかりいただけると思います。我々の日常生活の中ではなかなか実感の湧かない問題といえます。
それでは、生物多様性の崩壊を防ぐことがなぜ重要なのでしょうか。それは最終的に我々人間が困るからです。人間は、科学の力によって他の生物とは違って独立して生活しているので、生態系が多少壊れても関係ないと思いがちですが我々人間が日々食べている食料は全て「生物」ですし、人間が生きて行く上で不可欠な水の浄化は微生物の助けを借りていますし、酸素は全て植物が二酸化炭素を分解して生成してくれています。
前述したように、地球上の全ての生物は食べたり食べられたりの食物連鎖を構成したり、お互いに助け合ったりというバランスの上で共存共栄を図って生きています。
図2 玉川上水(東京都小平市)昨今、日本人の好物である「うなぎ」が絶滅危惧種になりました。他の魚介類も天然産物は採り過ぎれば絶滅の危機に陥ります。逆に、日本の近海で海女さんが減り「ウニ」の漁獲量が減ったため、ウニが増殖し、ウニと餌が競合するアワビやサザエが減少するという状況が見られるように、生態系は微妙なバランスの上に成り立っているといえます。
即ち、我々人類の活動による環境変化によって、生物多様性に変化が生じた結果は、最終的に人間の生存を脅かすことに繋がるといえます。従って、この生態系の微妙なバランスを崩さないように多種多様な生物と共存共栄することが重要になってきます。
(この章、環境省・生物多様性センターの資料より引用)
我々は、事業活動や日常生活を通して、
(1) 生態系サービス(生物多様性の恵み、自然の恵み)を享受しています。
(2) 資源の採取・採掘、製品・サービスの利用・消費、排気・排出、土地利用などの様々な形で生物多様性に影響を与えています。
すなわち、我々は、事業活動や日常生活を通じて、生態系サービス(生物多様性の恵み、自然の恵み)を享受すると同時に、生物多様性に様々な影響を与えています。
我々人間が生きていくために必要な食料はもちろん、衣食住に関するものの多くは、生物多様性の恵みに由来しています。また、経済分野では、生態系サービスの供給源である天然の資本を「自然資本」と呼び、その持続的な利用が事業活動の持続可能性を確保するために不可欠との認識が広がりつつあります。
一方、生物多様性への影響は、生物多様性基本法に基づく生物多様性国家戦略において、生物多様性に及ぼす「第1の危機」「第2の危機」「第3の危機」「第4の危機」として分類されています。
生物多様性の危機とは(生物多様性国家戦略2012-2020より)、
第1の危機:開発など人間の活動による危機
第2の危機:自然に対する働きかけの縮小による危機
第3の危機:外来種など人間により持ち込まれたものによる危機
第4の危機:地球温暖化や海洋酸性化など地球環境の変化による危機
では、事業活動が生物多様性に与える影響とはどんなものがあるでしょう。
図3 事業活動が生物多様性に与える影響(出典:環境省 生物多様性資料)
このように考えると、生物多様性に影響を与えない業種は、現実には存在しないと考えられます。
2009年に環境省が公表した 生物多様性民間参画ガイドライン では、このような自社の「事業活動と生物多様性の関係」を分析、理解し、その影響の低減を図り、生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組むことを促しています。下図は、家電量販店で販売されるパソコンを例に、生物多様性とどのような関係がありうるのか、その概略をイメージするための模式図です。
事業活動が生物多様性に与える影響は様々で、複雑に絡み合っているので、正確に分析し、理解することは容易ではありませんが、産業・業種別に生物多様性との関わりを考える際の参考となるよう、その関係性のイメージが環境省の生物多用性センターのホームページに代表的な業種ごとに示されています。
※ホームページには業種ごとにリンクが貼られています。
上述した我々が事業活動や日常生活において生態系から得ているサービスについて、わかりやすく具体的に説明します。
私たちが生物多様性から受ける恵み、すなわち自然の恵みを、生態系サービスと呼んでいます。国連が発表した報告書では生態系サービスを、「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス(生息・生育地サービス)」の4つのグループに分類しています。
そして、あらゆる事業活動は、この生態系サービスに依存して成り立っています。
例えば、第一次産業は、太陽エネルギーに支えられ、直接的に自然の恵みを受けて生産活動を行うので、農林水産物を生産・加工する分野の事業活動のすべてが、直接的又は間接的に生態系サービスに支えられているといえます。また、すべての事業者が日常的に使用している紙や水も、生態系サービスとして生物多様性から供給されているものです。
生態系サービスの分類を下記の表に示します。
今回、生物多様性とその保全の重要性について述べました。我々は日常生活や経済活動において、生物多様性から多大な恵(生態系サービス:自然の恵み)を受けている半面、経済活動を進めることによって、生物多様性に負荷を与えていることを認識しました。
但し、経済活動と生物多様性の関係は複雑に絡み合っており、簡単に「何をどうすればよい」という具体的な対策や取組に難しい面があり、民間企業においても生物多様性保全活動が進まない面もありましたが、生物多様性の保全を怠ると、最終的に我々の不利益として跳ね帰って来ることは明白になっています。
このような状況において、政府の「生物多様性戦略」、環境省による「生物多様性民間参画ガイドライン」も策定され、大手民間企業を中心に生物多様性の保全への取り組みが加速されつつあります。
次回は、環境省の「生物多様性民間参画ガイドライン」の概要と、実際の民間企業の取組事例などを紹介したいと思います。