ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 今後のエネルギー問題を考える #5

環境関連情報

今後のエネルギー問題を考える #5

本格的な水素エネルギー時代は来るのか?

情報発信日:2015-02-18

はじめに

2014年11月18日トヨタ自動車(株)は、新型燃料電池車「MIRAI」の発売に関する記者発表会を開催しました。燃料電池車とは水素と酸素を化学反応させて電気をつくる燃料電池を動力源とする自動車です。これに続きホンダも2015年中に燃料電池車の国内販売を宣言しています。

二酸化炭素などの温室効果ガス排出量の増加に伴う地球規模での気象変動緩和対策は、待ったなしの状況が迫っていますが、温室効果ガスを発生しない原子力発電は万一の事故や使用済み燃料からの放射能問題があり、再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電は自然現象頼りのため、安定性や経済性などでベースロード電源に用いるには課題が山積しています。また、我国は化石燃料を始めとしてエネルギーのほとんどを輸入に頼っていますが、中東地域の政情の不安定などから、自前の安全で安定したエネルギーの開発が急務となっています。

このような状況において、様々な原料から製造可能な「水素」をエネルギーとして利用する技術開発が大きな期待を集め始めています。また水素は酸素と反応しエネルギーを放出した後は「水」と成りますので極めて環境に優しいエネルギーと言えます。

しかし、この水素を製造する過程で温室効果ガスが発生したり、まだまだ経済性で問題もあったり、爆発性が高い水素をどう安全に扱うかなどの課題もあったり、未来のエネルギーと言われながら、なかなか実用化には至らず今日に至って来ましたが、2009年に販売が開始された家庭用燃料電池(エネファーム)は大幅なコストダウンと設置台数の順調な増加が見られます。そしてここに来て、トヨタ自動車が燃料電池車の本格発売に踏み切ったことにより、資源に乏しい我国において「水素が将来日本の重要なエネルギー源になるのであろう」方向性が見えて来たと言えます。

燃料電池の実用化開発はいばらの道を辿ってきましたが、政府が2014年6月に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を発表したことを契機に、「化石燃料に依存しない水素社会構築」に向けて、国全体が急速に動き出したように思えます。

トヨタの燃料電池車発売の発表以降の受注状況も予想を大きく上回り、首都圏及び大都市圏における水素ステーション建設計画の発表もあり、2015年は世界に先駆けて日本が水素社会元年の幕を開ける年になるのではと期待されます。

株価も「水素銘柄」は年明けから暴騰するなど、その期待の大きさも伺えます。

今回は、今後のエネルギーを考える中で、最新の燃料電池の開発状況や、国の戦略などをまとめて解説してみたいと思います。

 

燃料電池とは

今さらながらですが、「燃料電池」の原理から、原料となる「水素」の製造方法・輸送・貯蔵法など再確認をしながら、普及に向けた課題などについて、考えて行きたいと思います。

水素は酸素と反応すると爆発を起こす危険な気体ですが、人為的に制御して反応させると、大きなエネルギーを発生した後は「水」を生成するだけの、極めて環境に優しいエネルギー源となります。

「燃料電池(Fuel Cell)は、使い切の乾電池や、繰り返し充電により電気を貯めることが出来る二次電池とは違い、水素や水素を含むメタノールなどを燃料として繰り返し利用できる一種の発電機と定義できます。

燃料電池には、反応槽の電解質の種類により現在4種類の形式が知られており、それぞれの特性により用途が割り振られています。

燃料電池を広く普及させる上での課題は、やはり「初期コストとランニングコスト」にあると思われます。現在市販されている家庭用燃料電池(発電出力750 - 1000W程度、排熱出力1000 - 1300W程度)は、発売当初の2009年には約300万円でしたが、現在では150万円程度までコストダウンされ、太陽光発電(減価償却期間20年)に比べて、燃料電池(減価償却期間5〜7年)の方が有利と試算されます。しかし、電極に希少で高価な白金を大量に使用するために、これに代わる安価な電極の開発が進まない限り、コストダウンの限界があると言われていますが、この辺の研究も進んでいるようですので、将来的には大幅なコストダウンの可能性はあるようです。

 

水素の製造方法

燃料電池の普及には、燃料電池自身の開発と同時に原料になる水素をいかに環境負荷が少なく、かつ安価に製造するかが大きな課題となります。水素は様々なエネルギー源から製造可能ですが、製造方法によっては、コスト(経済性)、量、環境負荷などの意義は異なります。

現状での主な製造方法は以下の通りです。

2015年1月27日付け日本経済新聞朝刊によりますと、「プラント大手各社が燃料電池車(FCV)の燃料となる水素を大量供給出来る技術を開発する。千代田化工建設は天然ガスから水素を取り出す技術の開発を始めるほか、川崎重工は低品位の石炭から水素を取り出すプラントの実用化でJパワーと協業する。2020年をメドに実用化をめざし、燃料電池車普及の後押しをする」と報じており、水素を安価に大量供給する道筋が見えつつあるようです。

その他、苛性ソーダの製造、鉄鋼、石油精製などの過程で副産物として発生する水素も利用可能ですが、将来的には光触媒を用いて水を分解する方法が、経済的にも環境的にも理想と考えられていますが、現在はまだ研究段階にあるようです。

 

水素の輸送・貯蔵

水素は単位体積当たりのエネルギー密度が低く(天然ガスの1/3程度)。これをどのような手段で高い密度に維持しつつ、輸送や貯蔵をするかが最大の課題となります。これに加えて、水素の製造方法や利用方法、供給地と需要地の距離等により様々な方法が考えられています。

 

燃料電池の市場

燃料電池の市場は、世界でも実用化に近い国は我国だけですが、国内だけでも2030年頃に1兆円規模、2050年に8兆円程度と試算されています。また、日本の燃料電池関係の特許出願件数は世界1位で、2位以下の欧米の5倍と、競争力は高いものがあります。

燃料電池の大幅な普及には、まだまだ大きな技術及びコスト的な課題を克服する必要がありますが、今回のトヨタ自動車の燃料電池車発売の発表は、大きな一歩と言えそうです。

 

まとめ

(1) 我国は、石炭・石油・天然ガス及び原子力発電用ウランなどほとんどのエネルギー源を海外からの輸入に頼っており、根本的に脆弱性を抱えています。また、新興国のエネルギー需要の増加、中東地域の政情不安などによる価格の不安定、また、世界の温室効果ガス排出量の増加による気象変動問題が待ったなしの状況に来ています。東京電力福島第1原子力発電所事故による、原子力発電の安全性懸念が増大し、原子力発電所が全停止した結果、化石燃料への依存割合が増加し、国富の流出と温室効果ガスの排出量が増大しています。これを代替すべき風力や太陽光などの再生可能エネルギーは自然現象頼りであるため、ベースロード電源としては安定性や経済性の点で大きな課題があります。このような状況において、将来を見据えた新エネルギーの開発が必須となっています。
(2) 石炭、石油、天然ガスなどの改質や精製、あるいは水の分解により得られる「水素」をエネルギーとして使用する「燃料電池」は、30年程前より研究開発が続けられて来ましたが、燃料電池自身に対する課題のほか、原料となる水素の製造・運搬・貯蔵などのインフラ問題も含めて、大きな期待を寄せられながらも長い間その実用化段階を迎える事は困難と思われて来ました。
(3) しかし、2009年に家庭用固定型燃料電池の設置試験が始まり、当初1kW級で300万円ほどだった価格も現在では半分の150万円程度までコストダウンされ、設置台数も77,000台(2014年末)まで、増加して来ました。また、2014年6月には、政府(資源エネルギー庁)より「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を発表、2015年にはトヨタ自動車とホンダが燃料電池車を発売すると発表したことから、世界に先駆けて日本が燃料電池の実用化に向けて走り出したと言えます。
(4) また、燃料電池自身と並行して進められて来た、水素の製造・運搬・貯蔵に関する開発やインフラの整備計画もここに来て加速しています。
(5) 但し、水素を石炭や石油、天然ガスなどの改質により製造した場合には、「温室効果ガス排出量ゼロ」とは言えませんので、将来の普及を見込んだ場合には太陽光や風力などの再生可能エネルギーを用いて水素を作り出す技術開発の成否が大きな課題となりますし、燃料電池の電極として現在使用されている白金は希少で高価であるため、安価な代替電極の開発も必要であるなど、まだまだ課題は山積みですが、燃料電池自動車の実用化により、取り敢えず実用化の大きな一歩が踏み出されたと言えます。
(6) 政府の戦略ロードマップでは、燃料電池の本格的な普及は2020年以降となっていますが、温室効果ガス排出量の大幅削減を睨み、今後に期待したいと思います。

引用・参考資料

注意

情報一覧へ戻る