ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 平成26年度版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書

環境関連情報

平成26年度版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書

「グリーン経済」、「グリーン成長」とは

情報発信日:2014-9-24

はじめに

2014年6月、環境省は平成26年度版の環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書を公表しました。内容は約500ページにも渡るもので、全部を読むことは困難ですが、今回は概要版などを参考に、内容の要点を紹介したいと思います。

特に冒頭において石原環境大臣(当時)が、「本白書が、我国におけるグリーン経済拡大の一助になれば幸いです」と述べ、第1部第3章において「グリーン経済の取組の重要性〜金融と技術の活用〜」と題して、約60ページを割いてグリーン経済とこれを拡大することの重要性が記述されています。ついては、今回はこの「グリーン経済」「グリーン成長」とは何かを中心に、平成26年度版の環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書について解説していきたいと思います。

平成26年度版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書の概要

1. 今、地球で起こっている環境問題

現在、この地球上で起こっている環境問題を整理してみると、以下に挙げるいくつかの大きな問題があります。

(1) 地球温暖化と大気汚染(PM2.5やオゾン層破壊)問題

地球温暖化・気候変動の原因は、二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスによると推定されていますが、原因はさておき地球の平均気温は年々上昇傾向にあることは間違いないことと思われます。これにより、地球を取り巻く空気や海流の流れ(動き)が活発になり、従来では数十年、数百年に一度しか起こらないといわれていた異常気象が頻発するようになり、巨大台風の発生、大規模な干ばつや洪水、竜巻などによる農作物に対する被害や人的被害が拡大する危険性が高まってきています。

大気汚染の原因は工場や自動車からの排ガスに含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、浮遊粒子状物質(SPMやPM2.5) などで、我国においても過去に激しい大気汚染による健康被害が出ました。現在では浄化技術の進歩によって清浄な大気を取り戻してきていますが、欧州や中国などでは排ガスの浄化技術が遅れ、微粒子状浮遊物であるPM2.5の問題が深刻になっています。特に、冬季における中国では、ここ数年非常に危機的な状況にあり、我国にも影響が及ぶ危険性が出てきています。

(2) 森林破壊と砂漠化の問題

都市化や人口の急激な増加、森林資源の乱開発、異常気象による干ばつや洪水、工業化や農業の拡大による地下水の汲み過ぎなどにより緑地や森林が急激に減少して、地球上の砂漠面積が急速に拡大しています。特に中国においては、砂漠が首都の北京近郊まで迫るという非常事態が起こっています。

(3) 野生生物の絶滅危機の問題

地球の歴史上において、氷河期など気温の大幅な変化、巨大隕石の衝突、火山の噴火などが要因となり大量の生物(恐竜やマンモスなど)が絶滅するという状況が何回かありました。過去におけるこのような状況はいずれも自然が原因でしたが、現在の地球においては人類の営みによる大気や水などの環境汚染、野生生物の乱獲、野生生物の人為的な生息地の移動(本来の生息域から移動して外来種となる)、人口増加に伴う森林や海、河川湖沼、湿地帯などの乱開発など人為的な要因により、自然の生態系が破壊され多くの野生生物が絶滅の危機または既に絶滅してしまった状況があります。野生生物は、自然環境の中で各々天敵を持って食物連鎖を形成していますが、ある種の生物が絶滅することにより、生態系が壊れ食物連鎖の頂点に位置する人類にもやがて影響が及ぶことが危惧されています。

(4) 資源の枯渇とゴミ問題

20世紀、エネルギーや鉱物資源は無限であり、いくら使っても大丈夫という観点で、大量生産大量消費を享受してきましたが、20世紀末よりエネルギーも資源も有限であり近い将来に枯渇する心配が出てきたことと、エネルギーや資源を湯水のごとく使った結果のゴミの処分問題や環境問題が顕在化してきたため、「循環型社会」という考え方のもと、一度使った資源をできるだけ再利用し、廃棄物・ゴミを極力出さないための検討が進められてきています。エネルギーについても、太陽光や風力など枯渇の心配がない再生可能エネルギーの利用が進められています。

(5) 有害化学物質の使用規制問題

人類が人工的に作り出した化学物質は数十万種類に上るといわれ、多くの化学物質は我々の生活を便利に、あるいは豊かにするために作り出され使用されてきました。しかし、一方では環境中に排出された場合に自然界では分解され難く人体に入り込むと蓄積し、その結果ガンを誘発したり、生殖系や神経系に異常を与えたりする化学物質も少なくありません。また、物質そのものが人体に直接悪影響を与えない場合でも、フロンガスのように地球のオゾン層を破壊してしまうような物質、あるいは石綿(アスベスト)やPM2.5のように化学物質そのものの毒性よりむしろ形状面から来る毒性などがあり、これらの化学物質を使用する場合には十分な専門知識を持って当たる必要性があります。

2. 東日本大震災からの復興

現在、我国における最大の環境問題の一つに東日本大震災からの復興問題があります。

これは、言わずと知れた東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う、放射性廃棄物及び汚染水問題です。原発の水素爆発や原子炉のベントにより発生した放射性物質の塵埃による汚染は屋根のふき取りや表層土の剥ぎ取りなどによる「除染」が順次行われていますが、除去した汚染土や瓦礫の集積・処分場の問題が未だに解決出来ない状態にあります。また、日々原子炉から流出する汚染水問題も解決の道筋さえ見えない状況にあります。

このような困難な状況を克服して、全力で復興へ向かうことが政府の大きな義務と言えます。

世界でも類を見ないような原子力発電所の大事故ですが、政府は現在全停止中の原子力発電所を安全が確認でき次第、順次再稼働させようとしていますが、危機管理に万全を期して二度と同じ事故は起こさないように全力を尽くしてもらいたいと思います。

白書に度々登場する「グリーン経済」、「グリーン成長」とは

平成26年度版の環境白書には、「グリーン経済」「グリーン成長」という言葉がところどころに使われ、特に第1部第3章において「グリーン経済の取組の重要性〜金融と技術の活用〜」と題して、約60ページを割いてグリーン経済とこれを拡大することの重要性が記述されています。グリーン経済とは「環境に配慮した経済」と容易に想像はできると思いますが、グリーン経済の背景や具体的な取組などを以下に紹介したいと思います。

環境省が平成24年度版の環境白書において、「グリーン経済(Green Economy)」とは、国連環境計画(UNEP)が2011年11月に公表した言葉として、「環境問題に伴うリスクを軽減しながら人間の福利や不平等を改善する」と定義しています。また、同じような言葉として、2011年5月に経済協力開発機構(OECD)が「グリーン成長(Green Growth)」という言葉を公表していますが、これは「資源制約の克服と環境負荷の軽減を図りながら経済成長を達成する」と定義しています。

UNEPの報告書では、「グリーン経済」を、環境問題に伴うリスクと生態系の損失を軽減しながら、人間の生活の質を改善し社会の不平等を解消するための経済の在り方であると定義しています。そして、「『グリーン経済』では、環境の質を向上して人々が健康で文化的な生活を送れるようにするとともに、経済成長を達成し、環境や社会問題に対処するための投資を促進することを目指しています。また、気候変動、エネルギーの安定確保、生態系の損失の問題に直面している世界情勢の中で、国家間・世代間での貧富の格差を是正することに焦点が当てられています」とも解説しています。

一方、OECDの報告書において、「『グリーン成長』とは、経済的な成長を実現しながら私たちの暮らしを支えている自然資源と自然環境の恵みを受け続けることであると考えられています。その重要な要素として、生産性の向上、環境問題に対処するための投資の促進や技術の革新、新しい市場の創造、投資家の信頼、マクロ経済条件の安定等が必要であることを指摘しています。グリーン成長は、資源制約が投資効率の悪化の要因となったり、生物多様性の損失などの自然界の不均衡が不可逆の悪影響を及ぼす要因となったりするリスクを低下させると考えられています」と述べています。

図1 グリーン成長における重要な要素 (出典:環境省)

他の説明を見て見ると、デジタル大辞泉では、「環境保全や持続可能な循環型社会などを基盤とする経済。自然環境の保全や天然資源の循環利用によって、将来にわたって持続可能な経済成長を実現しようとするもの。再生可能エネルギーの研究や自然環境の再構築、廃棄物削減事業など環境分野の雇用促進、環境対策への投資など、環境問題への取組みを経済の中心に据えることで、経済発展と環境保全の両方の課題を同時に解決することを目指す。2008年、グリーン経済への移行を促進するため、国連環境計画(UNEP)を中心として、『グリーン経済イニシアチブ』が立ち上げられた」と述べています。

国立環境研究所系のEICネット「環境用語集」では、「グリーン経済は、持続可能な発展を達成する経済のあり方であり、社会的公平性、とりわけ貧困削減に重点をおいていることに特色がある。グリーン経済は、『持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済』として、リオ+20に向けた2大主要テーマの一つとして、『持続可能な開発のための制度的枠組み』とともにとりあげられている。グリーン経済に関する統一した定義の合意はないが、UNEP(“Towards a Green Economy”, 2011)では、『環境へのリスクと生態学的希少性を大幅に減少させながら人々の厚生と社会的公正を改善する経済』としている。リオ+20に向けた国連事務総長報告(2010)でも、『グローバリゼーションと地球規模の環境問題が進行し、貧困と格差が存在する国際経済の下で、健全な生態系と環境を現在・将来世代に継承するために環境と経済を統合』することの重要性を強調している。日本政府のリオ+20の成果文書へのインプット提案の中では、持続可能な開発実現のための重要なツールとしてグリーン経済への移行を提案し、グリーン経済の意義を『自然界からの資源や生態系から得られる便益を適切に保全・活用しつつ、経済成長と環境を両立することで、人類の福祉を改善しながら、持続可能な成長を推進する経済システム』としている。グリーン経済の特徴としては、(1)環境と経済の統合、(2)健全な生態系と環境を現在と将来の世代へ継承、(3)エネルギー・資源集約度削減、汚染削減、再生可能エネルギー・自然資源などのグリーン投資分野への重点的投資を通じ、環境保全と同時に雇用確保と経済発展を図ること、などがあげられる)と解説しています。

いずれの解説もやや概念的で、具体的な説明がないので、実際の企業活動などにおいて、何をすればよいのかわかりにくい面があるかと思います。

一般的に、経済活動をした結果、大量の資源やエネルギーが使われ、空気や水へは汚染物質や有害物質が排出されたり、廃棄物(ゴミ)を作り出したりしてきました。その結果として、野生生物に影響を与え生態系を壊したり、森林を破壊したり、さらに我々人類に大きな貧富の差を作ったりしてきました。このような状況を是正し、環境と共存した持続可能な経済成長を進め、生態系への負荷低減、さらには国家や人々の貧富の格差是正を目指すというものです。

グリーン経済への具体的な取組

2012年11月25日付けの本コラム「EUにおける環境政策 #3」で、EUにおけるグリーン経済への取組を紹介していますが、再度EUにおけるグリーン経済への具体的な取組を紹介したいと思います。

EU環境省は2013年に、2010年から2050年までの環境目標・目的を示す報告書として「欧州におけるグリーン経済へ向けて(Towards a green economy in Europe - EU environmental policy targets and objectives 2010-2050)を公表しました。この中で、具体的な目標として以下の項目を示しています。

(1) 2020年までにエネルギー使用量の20 %を削減
(2) 気象変動の低減とEU加盟国に対する包括的な支援
(3) 大気汚染の改善とPM2.5の改善
(4) 廃棄物の削減
(5) 埋め立て廃棄物ゼロ
(6)その他

各項目に関する詳細は2012年11月25日付けコラム及びTowards a green economy in Europe - EU environmental policy targets and objectives 2010-2050を参照してください。

まとめ

経済活動が小規模であった時代には、自然や環境に対する影響は顕著ではありませんでしたが、世界の人口の急増に伴い、経済活動が拡大してきた結果として、酸性雨や伐採による森林破壊・砂漠化、膨大な廃棄物や有害化学物質の発生・廃棄、エネルギーの大量使用による温室効果ガスやPM2.5などの固形微粒子・窒素酸化物・硫黄酸化物などの発生・排出・大気汚染等々、地球環境や生態系への影響が益々深刻な状況になりつつあります。過去において、経済活動と環境負荷低減は相反する問題であり、経済活動を拡大して行くためにはある程度やむを得ないことであると考えられてきました。しかし、現状のまま、経済活動の手法を抜本的に改革しないで進むと経済も環境も破綻に晒される危機的な状況にきていると言えます。そこで、近年「循環型社会の形成」とか「持続可能な開発」とかが盛んに叫ばれ始めてきています。

経済活動には常に「コスト」の問題が付きまとうため、単に「環境負荷は低減できるがコストが大幅にアップする」のでは、なかなか受け入れられないと思いますが、できるだけ資源やエネルギーを使わない、できるだけ廃棄物を出さない、できるだけ水を使わないなどの項目は環境負荷を低減すると同時にコスト低減にも寄与するものです。また、再生可能エネルギーの利用は、現時点ではまだまだコスト問題がありますが、今後の技術革新によって利用拡大する必要があると思われます。

最後に、経済活動の結果として貧富の差の拡大や野生生物への影響も今後は環境問題として捉え、是正して行く必要があると言われています。

引用・参考資料

注意

情報一覧へ戻る