ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 動物由来感染症について #3
情報発信日:2014-08-22
2014年8月8日付けで世界保健機関(WHO)は、西アフリカで感染が拡大しており感染すると致死率50〜90%と言われるエボラ出血熱に対して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、世界的な流行を防止するための国際的な協調対応を呼びかけました。
2014年8月8日付けのロイター通信によりますと「WHOは2日間に渡る緊急委員会後に声明を出し、さらなる感染拡大で予想される被害は、ウィルスの毒性を踏まえると『極めて深刻』だと指摘。『国際的に協調して対応することが、感染拡大を食い止めるために不可欠だ』と訴えた。国際的な緊急事態を宣言したことで、ウィルス拡大に対する警戒レベルが引き上げられることになる」と報じました。さらに「また、これまでに感染が確認されているギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ各国に非常事態を宣言すべきだと勧告する一方、国際的な渡航や貿易は全面禁止にすべきではないとした」、また、「ケイジ・フクダ事務局長補は、ジュネーブのWHO本部で開いた電話会見で『これは謎の疾病ではない。封じ込め可能な感染症だ』と述べ、空気感染するウィルスではないと強調した」とも報じましたが、WHOは「今回の流行について、エボラ出血熱がヒトから確認されて以来、約40年間で最も深刻な事態だとしている」とも述べ、極めて憂慮すべき事態に直面していると警告しています。
このところ、鳥インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome; SARS(サーズ))やここで述べるエボラ出血熱など、極めて毒性の強いウィルスによる新しい伝染性疾患が脅威として登場して来ます。本コラムの2013年5月24日付け「動物由来感染症について #1 中国で鳥インフルエンザがヒトに感染」において説明しましたが「ウィルス」は微生物ではなく、遺伝子とタンパク質で構成され単独で増殖することは出来ません。生物の細胞に入り込んで増殖し、また短期間で変性するためワクチンに対する耐性も変化しやすいという厄介な物質です。
現在西アフリカで感染が拡大し、死者1,000人に迫る勢いにあり、現在のところ有効な治療法やワクチンがなく致死率も高いため、感染の拡大が強く危惧されています。
日本から感染地域への人の往来は今のところ少なく、また感染地域への接触機会はないようですので感染の心配は少ないようですが、米国や欧州には感染者が移動した可能性があるようで、今回はこのエボラ出血熱について基本的なところを解説したいと思います。
(以下はWHOのHPを筆者が和訳)
【特徴】
・エボラウィルス性疾患 (「EVD」 Ebola virus disease;以前はエボラ出血熱として知られていました)は、人間にとって厳しく、しばしば 致命的な病気と言えます。
・現状EVDの発症による致死率は最高90%です。
・EVDの発生は熱帯雨林に近く、主にアフリカの中央及び西部の僻村で起きています。
・このウィルスは野生動物からヒトに感染し、次にヒトからヒトに感染します。
・エボラウィルスの自然宿主はオオコウモリ族のフルーツコウモリだと考えられています。
・フルーツコウモリの糞や唾液などにより感染したサル、チンパンジー、ゴリラ、豚などを介し、ヒトに伝染するようです。
・重篤な患者には集中的な治療が必要になります。そして、現状では未承認の特異的な治療法またはワクチンのみが利用可能なだけで、承認された有効な治療法はありません。
エボラウィルス疾患は、1976年にスーダンのNzaraとコンゴ民主共和国のYambukuの2ヶ所で同時発生的に発現しました。後者のYambuku村の近くにあるエボラ川の名前を取りエボラウィルス疾患の名前が付けられました。
エボラウィルス属は、Marburgvirus属及びCuevavirus属と共にFiloviridas科3属(糸ウィルス)の1種です。
エボラウィルス属には以下の5種が属しています。
1) ブンディブギョ・エボラウィルス(BDBV)
2) ザイール・エボラウィルス(EBOV)
3) レストン・エボラウィルス(RESTV)
4) スーダン・エボラウィルス(SUDV)
5) タイ系諸族の森のエボラウィルス (TAFV)
この中でBDBV, EBOVとSUDVはアフリカにおいてEVDの発生と関係していますが、RESTVとTAFVは関係していません。RESTV種(フィリピンと中国で発見)はヒトに感染しますが、ヒトの疾病や死亡は報告されていません。
(1) 伝染
エボラウィルス疾患は、感染した動物の血液、分泌物、器官またはその他の体液への接触によりヒトに伝染します。アフリカにおいては伝染は、熱帯雨林にいる感染した又は死んだチンパンジー、ゴリラ、フルーツコウモリ、猿、アンテロープやヤマアラシなどとの接触で生じると記されています。
次に、こうして感染した人々の血液、分泌物、器官または他の体液に人間同士が直接接触(傷ついた皮膚または粘膜を通して)することで伝染します。そして、そのような流体によって汚染された環境に間接的に接触することによっても、社会に広がって行きます。亡くなった人の身体に会葬者が直接接触する埋葬方式はエボラの伝染を助長します。
医療従事者にも感染が起きています。感染症制御予防措置を厳しく行わないと、患者との接触により感染する危険性があります。
(2) 兆候と症状
EVDは、しばしば突然の発熱、極端な衰弱、筋肉痛、頭痛、のどの痛みなどの出現などによって特徴付けられる急性の重症ウィルス性疾患です。
その後、嘔吐、下痢、肝臓や腎臓の機能不全が見られ、一部では内出血、外部出血が続きます。血液検査では、白血球や血小板が減少、肝臓の酵素値の上昇が認められます。
ウィルスの感染から発症までの潜伏期間は、2日から21日です。感染したヒトの血液や分泌物にウィルスが存在する間は、他のヒトに感染する可能性があり、発症後61日間にも渡りウィルスが検出されたとの報告もあります。
(3) 診断
EVDの診断を考えるとき、他のもっとよくある疾患を見落としてはいけません。例えば、マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウィルス性出血熱です。
EVDの確定診断は検査室での検査によってなされます。患者検体は感染源としてのリスクが高いので、検査は生物学的封じ込めの最大の環境下で行われます。
(4) ワクチンと処置
EVDのために認可されたワクチンも特異的な治療法もありません。いくつかのワクチンが試験されていますが臨床的には使用できません(WHOが例外的処置として、未承認ワクチンの試用を一部認めました)。重症例に対しては、集中的な療法が必要です。患者は、しばしば脱水症状を起こし、電解質を含んだ輸液や経口補水液の投与が必要です。
(5) 予防と管理(以下、厚生労働省検疫所HPより)
ヒトでの感染と死亡を減らすためには、エボラウィルスに感染する危険因子の認識の向上と個人ができる予防対策を行うことしかできません。無防備でのエボラ患者との濃厚接触は避けるべきです。家庭で患者の看護をする際には、手袋や個人予防具(個人予防具着装前、特に脱装後の手指衛生を含め)の適切な使用の訓練を行うべきです。通常の手指衛生は病院へ患者の見舞いへ行った後や家庭で病人の看護をするときにも必要です。
ヘルスケアワーカーの感染のほとんどが基本的な感染防御対策がとられていないことに起因すると報告されています。 どのような患者を介護するヘルスケアワーカーも標準的予防策を訓練すべきです。エボラウィルス感染が疑われる又は確定された患者を介護するときは、ヘルスケアワーカーは標準防予防策に加え、患者の血液や体液、またはそれらを含んでいる可能性のある状況への暴露を避けるための感染制御策をとるべきです。
エボラウィルス疾患で死亡した患者の遺体の埋葬への対応もウィルスを伝播する高いリスクがあります。死亡した患者は迅速かつ安全に埋葬されるべきです。
WHOは政府や自治体、技術的なパートナーと協調して、状況の評価と制御を支援するための専門家を配置しました。隔離施設や、移動検査室を設置しました;感染予防、制御、臨床的な管理ガイドラインが提供されました;注意喚起と教育キャンペーン、社会的動員、リスクコミュニケーションが流行地域で実施されています。
EVDが最近報告された地域へ滞在する人は感染時の症状に注意し最初の症状が出たらすぐに受診して下さい。
流行地域へ渡航し帰国した人が疑わしい症状で受診した場合、医師はEVDの可能性を考慮してください。マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウィルス性出血熱との鑑別診断が必要です。
WHOは、EVDを疑わせる症状のサーベイランスを含むサーベイランスの強化と、IHR(2005)に基づくヒト感染症の検知と報告を確実にするため、通常ではないパターンの注意深い観察と国家健康対策の継続を各国に奨励します。
WHOはこの事例に関し渡航や貿易の制限を推奨しません。
(1) エボラウィルス性疾患(エボラ出血熱)は1976年にスーダンとコンゴ民主共和国の2ヶ所で初めて同時に発生が確認された急性ウィルス性疾患です。
(2) オオコウモリが自然宿主で、サル、ゴリラ、チンパンジー、ブタなどを介してヒトに感染し、次いでヒトからヒトに感染が広がる伝染性疾患です。
(3) 感染は、空気感染ではなく、感染者の血液、唾液、精液、汗、糞便などに直接接触し傷口や粘膜から感染する場合と、感染者の体液を介して間接的に感染する場合があります。
(4) エボラウィルスの感染力は極めて強く、数個のウィルスの侵入により感染するとも言われています。
(5) ウィルスの感染から発症までの潜伏期間は、2日から21日です。
(6) 感染した場合の症状としては、突然の発熱、極端な衰弱、筋肉痛、頭痛、のどの痛みなどの出現、次いで、嘔吐、下痢、肝臓や腎臓の機能不全が見られ、一部では内出血、外部出血が続きます。血液検査では、白血球、血小板の減少と肝臓酵素の上昇が起こります。
(7) 但し、マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウィルス性出血熱との鑑別診断が必要です。
(8) 現状、有効な治療法やワクチンはなく、感染すると致死率50〜90%とされています。
(9) 対処療法としては脱水状況になるため、補液による集中治療が必要です。
エボラウィルス疾患は空気感染ではなく、患者の体液に接触することにより感染する疾患ですが、ウィルスの感染力が極めて強く、現状では感染すると有効な治療法がなく、致死率50〜90%とされていますので、十分な注意が必要です。