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情報発信日:2013-09-30
環境省は2013年6月、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称:外来生物法)」の改正法が成立し、6月12日に公布された」と発表しました(但し、この改正は公布から1年以内の政令の定める日から施行されますので、現在はまだ効力はありません)。
近年、外国との人的・物的交流がより一層活発になってきたことや、ペットの輸入などにより、本来その地域や国に生息していなかった生物が、その生物が持つ本来の移動範囲を越えて移動することにより、その地域や国の生態系に影響を与えたり、自然環境・農作物や水産物・畜産物、あるいは人の身体・生命・健康等に対して影響を与えたりすることが度々社会問題として取り上げられる事が増えてきています。
一概に外来生物が全て「悪者・問題」という訳ではなく、例えば日本人の主食となっているお米も、稲は元々外国から持ち込まれたものですし、園芸用の植物、農作物、ペット用の動物にも多くの外来種がありますが、私達の生活に役立っているものも少なくありません。問題となる外来生物とは、例えば沖縄島や奄美大島に生息するハブを駆除する目的で持ち込まれたマングースがヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどの希少な在来種に大きな影響を与えている状況や、ペットとして飼育されていたが手に負えなくなり飼い主が自然に放ったカミツキガメやアライグマ、ワニなど人間の身体に危害を加える危険性がある動物が野生化している状況、あるいは非意図的な例として輸入貨物や農産物等に紛れて侵入したと思われる毒グモや毒を有する昆虫などの有害外来生物が知らない間に侵入している状況などが、問題となっていると言えます。
このような状況において、日本の生態系や農林水産業・畜産業、あるいは人の生命や身体・健康への被害防止と、こうした被害を及ぼす外来生物の飼養等を規制し、また防除を推進する事を目的とした外来生物法が(2004年に公布、2005年から施行)法制化されました。しかし施行から5年以上が経過し、新たに生じた種々の問題に対応する必要が生じたため規定に従い、今回大幅な改正が行われました。そこでこれを機会に外来生物法と今回の改正内容を合わせて紹介したいと思います。
例えばカミツキガメ、アライグマ、ブラックバス、マングース、アメリカザリガニ等のように、本来日本には生息していなかった生物が、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指します。
また、同じ日本の中にいる生物でも、たとえばカブトムシのように、本来は本州以南にしか生息していない生物が北海道に入ってきた、というように日本国内のある地域から、元々生息していなかった地域に持ち込まれた場合にも、元来その地域にいる生物に影響を与える場合がありますが、外来生物法では海外から入ってきた生物に焦点を絞り、人間の移動や物流が盛んになり始めた明治時代以降に導入されたものを中心に対応することになります。 ※渡り鳥、海流にのって遠距離を移動してくる魚や植物の種などは、自然の力で移動するものなので外来種とは定義されません。
オウム(多摩動物公園にて)
環境省によりますと「日本の野外に生息する外国起源の生物の数はわかっているだけでも約2000種」にもなるそうです。また「明治以降、人間の移動や物流が活発になり、多くの動物や植物がペットや展示用、食用、研究などの目的で輸入されています。一方、荷物や乗り物などに紛れ込んだり、付着して持ち込まれたりするものも多くあります。これらは、意図的、非意図的の違いはありますが、人間の活動に伴って日本に入ってきているという点では共通しています」ということになります。
しかし、外来種が全て「危険で、害を及ぼす生物」ということではありません。外来種の中には農産物や家畜・ペットのように我々の生活に溶け込み順応している有用な生物も多くいます。また、輸入品や飛行機や船などに紛れるなどして非意図的に侵入してきた生物も多くあります。しかし、多くの場合は生息環境の違いなどにより子孫を残し定着することは少ないと考えられますが、中には子孫を残すものがあり、このケースが問題となる場合があります。
上述した外来生物の中でも、地域の自然環境や生態系に大きな脅威となる可能性のあるものを特に「侵略的外来種」と呼びます。例えば、上述したように沖縄や奄美大島で毒蛇のハブを退治するために持ち込まれたマングースは予想以上に繁殖して島固有の希少種であるヤンバルクイナやアマミノクロウサギ絶滅危惧の原因になってしまいました。また、大陸と一度も繋がったことがないことから、多くの希少な昆虫が生息する小笠原諸島に、本来生息しないグリーンアノールと呼ばれる小型のトカゲが何処からか侵入してきて、これらの希少な昆虫を絶滅の危機に晒している等の問題が生じています。
環境省によりますと「『侵略的』というと、何か恐ろしい・悪い生物のように思われがちですが、本来の生息地ではごく普通の生き物として生活していたものですので、その生き物自体が恐ろしいとか悪いというわけではありません。たまたま、導入された場所の条件が、大きな影響を引き起こす要因を持っていたに過ぎません。たとえば、日本ではごく普通にどこにでもいるコイという魚や土手などに生えているクズという植物でも、本来生息・生育していなかったアメリカでは、『侵略的』な外来種だとして扱われているそうです」ということで、全ての侵略的外来種が生態系や人に危害を加えるものではないと言えます。
生態系というのは長い年月の中で喰う、喰われると言った状況の末に微妙なバランスを保って成り立っています。その中に外来種が侵入しても、その自然のバランスの中に溶け込み何ら影響を与えない場合もありますが、そこに入り込むことによって、バランスを大きく崩してしまう危険性を有する外来種も少なくありません。
a) 生態系への影響
外来種が侵入した新たな場所では、動物であれ植物であれ、自身が生きるために餌を採ったり、植物であれば、根を張り、葉を茂らせる必要があり、本来の生物との間で競争が起こったりします。在来の動物が弱ければ、外来種に餌を横取りされ衰退して行きますし、外来植物が大きな葉を茂らせれば、より小さな在来植物は陽の光を受けられなくなり枯れてしまうかも知れません。
b) 人の生命や健康・身体への影響
例えば、毒を持った外来生物に刺されたり噛まれたり、また仮に毒を持っていない場合でもカミツキガメやアライグマなどのように凶暴な動物に噛まれたり、引っかかれたりすれば大けがを負いかねません。
c) 農産物や水産物・畜産物などへの影響
農産物を食べ荒らす、畑を踏み荒す、漁業対象物の捕食などがあります。
レッサーパンダ(多摩動物公園にて)
従来の外来生物法の要点は以下の三原則です。
(1) 入れない!
生態系等への悪影響を及ぼすかもしれない外来生物は、むやみに日本に「入れない」ことがまず重要。
(2) 捨てない!
もし、すでに国内に入っており、飼っている外来生物がいる場合は、野外に出さないために絶対に「捨てない」ことが必要。
(3) 広げない!
野外で外来生物が繁殖してしまっている場合には、少なくともそれ以上「拡げない」ことが大切。
(1) 外来生物の交雑種も規制対象の範囲として規定
交雑種とは、異なる種の生物同士(例えばイノシシと豚など種が近い異種生物)あるいは種が近い外来種と在来種が交配して生まれた種ですが、特定外来生物から生まれた交雑種の中には親と同じ様な性質を有し、生態系に影響を及ぼす危険性がある場合があります(例えば、本来はインドや中国南部にかけて生息していて、実験動物として日本に持ち込まれたものが野生化した特定外来生物アカゲザルと在来種のニホンザルの交雑種化が房総半島で進んでいますが、これが進むとニホンザルが絶滅する危険性があると言われています)。このように、特定外来生物の交雑種についても規制する必要がありましたが、従来の外来生物法では対応が出来なかったため、今回の改正では、交雑種も特定外来生物の規制対象に選定することが可能になります。
(2) 特定外来生物の野外への放出等を可能に
従来の外来生物法では、全ての特定外来生物の野外への放出が例外なく禁止されており、違反した場合には非常に重い罰則が規定されていました。しかし、外来生物の行動範囲や営巣活動などの生活形態については、わからないことが多く、一度捕獲した対象生物に標識などを付けて再度放出して生態を研究する場合についても禁止されていました。このような状況において、①防除に資する学術研究の目的で主務大臣の許可を受けて行う場合、②外来生物法で規定する防除として行う場合、の2つの場合に限られて野外放出が認められることになります。但し、これらの目的で野外放出される場合にも、不妊手術を行うなど万一の事故にも備え、万全を期すことが求まられます。
(3) 特定外来生物が付着・混入している輸入品等への措置を規定
改正の3つ目のポイントは、特定外来生物が付着・混入している恐れのある輸入品の検査及びそうした輸入品に対して消毒や廃棄命令が行えるようになります。
前述のマングースやアライグマ、カミツキガメなどのように意図的に持ち込まれた場合と、毒グモや毒を持った昆虫のように、輸入品などに付着・混入して非意図的に侵入してしまった場合があります。従来でも、通関時に植物防疫や動物検疫など税関での検査を受ける規定はありましたし、特定外来生物を輸入することは禁じられていましたが、非意図的な状況で輸入品に付着または混入している可能性がある場合について具体的な対応法がなく、輸入者の判断に任されていましたが、今回の改正では、特定外来生物が付着・混入の可能性がある場合は、税関に検査権限を付与し、付着または混入が認められて場合には駆除または廃棄の命令が出せるものとしました。
現在地球上に生息する生物種は、確認されているものが176万種、未確認のものを含めると3,000万種と言われています。これらの生物が各国や各地域において、長い年月を経て喰ったり喰われたりした結果において、微妙なバランスの上に生態系が形成されていると言えます。しかし、その微妙なバランスの中に、他の国や地域においては問題なく生息している動植物が、自然の移動能力を超えて他の国や地域に侵入し繁殖した場合には、その国や地域の生態系のバランスを崩してしまう危険性が生じてしまいます。このような事態が生じた場合には、自国や当該地域の生態系を守るために侵入してきた外来生物を駆除する必要性が生じます。しかし、侵入した生物自身には罪がなく、意図的にせよ非意図的にせよ、人間の都合や不手際で持ち込まれた結果生じたものと言えます。
ついては、このような可哀想な状況を作らないためにも「外来生物法の基本三原則」である、外来生物を「入れない」「捨てない」「広げない」を、個人も団体も厳守する必要があると言えます。