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今後のエネルギー問題を考える #2

日本近海のメタンハイドレートは日本を救えるか

情報発信日:2013-3-22

はじめに

今日までの文明を築き上げてきた石炭、石油及び天然ガスなど、いわゆる化石エネルギーは、近い将来において枯渇の危惧が出始めていることや温室効果ガス排出抑制のために、これらの従来型エネルギーに代わる次世代型エネルギーの開発が緊急の課題となりつつあります。このため、新しいエネルギーをどのように確保するか、世界の各国において、次世代エネルギーの開発が進められています。

特にエネルギー資源が乏しく、ほぼ全てを海外からの輸入に頼っている我が国にとっては、次世代エネルギーをいかに安定的に確保するかは極めて深刻な問題と言えます。しかし、次世代エネルギーとして期待されていた原子力エネルギーは東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故により、「地震大国日本において原子力エネルギーを用いるのは危険であり、それゆえ将来を託すエネルギーとしては不適切であり、早期に安全・安心なエネルギーに切り替えるべき」と言う声が高まっています。

このような状況において、「安心・安全で無尽蔵」と一見すると理想的とも思える再生可能エネルギーに対する期待が一挙に高まってきていますが、風力や太陽光、太陽熱など自然現象に頼るため季節や気候などに左右され、供給量が安定しないことや、エネルギー密度が低いため高コストであること、あるいは再生可能エネルギーを作り出すための風力発電機や太陽光パネルを製造するためにも多くの化石エネルギーを消費することなど多くの問題があり、次世代エネルギーとして再生可能エネルギーだけに頼るのは経済的にも供給の安定面からも難しい問題であると思われます。

以上のことは、本コラムの前月版(2013年2月25日付け)「今後のエネルギー問題を考える #1」でも述べました。その中で、米国を中心に開発が進んでいるシェールガス及びシェールオイルについて解説しましたが、残念ながら我が国には、今のところ、その存在が確認されていません。 一方、日本の領海内には「燃える氷」と言われる「メタンハイドレート」が日本の消費するエネルギーの100年分とも200年分とも言われるほどの量が眠っていると言われていましたが、それをどう取り出すかが難問でした。しかし、奇しくもこの原稿を書いていたところ、経済委産業省・資源エネルギー庁が「本年(2013年)3月12日に渥美半島から志摩半島の沖合(第二渥美海丘)において、メタンハイドレートを分解し天然ガスを取り出す世界初の海洋産出試験を開始し、ガスの生産を確認しました」とする報道が行われ現実味を帯びてきましたので、今回は日本のメタンハイドレートについて解説したいと思います。

 

メタンハイドレートとは

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムなどによりますと、メタンハイドレートは「メタン(methane)」と「ハイドレート(hydrate)」の2語による合成語です。メタンとはメタンガスのことであり、天然ガスの主成分と同じもので、太古の昔に動物性プランクトンなどの死骸が堆積して生成されたと考えられます。ハイドレートとは日本語では「水和物」と訳されますが、水の分子が一定の圧力と温度の下で籠状の分子構造を作りますが、その中にメタン分子が閉じ込められた状態にあるのが、メタンハイドレートです。

このように何らかの分子が籠状の分子構造を構成し、その中に別の分子を取り込んだ物質を包接化合物(クラスレート)と呼びますが、水分子が作る籠状分子の中にはメタンの他にも硫化水素や二酸化炭素が取りもまれることもあるそうです。日本近海において見出されたガスハイドレートはほぼ100%がメタンハイドレートですが、海外においては上記の硫化水素ハイドレートや二酸化炭素ハイドレートなどがあるため、同じメタンハイドレートでもガスハイドレートと呼ぶそうです。硫化水素や二酸化炭素を取り込んだハイドレートはエネルギーとしては使えませんが、エタンやプロパンを取り込んだハイドレートもあるようです。なお、外見は氷の塊のように見えますが、化学的には氷ではなく、あくまでも水和物であり、炎を近づけるとメタンだけが燃えて、燃えない水だけが残ることになります。


(中心の緑の三角がメタン、周囲の赤い球が水分子)
(出所:メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)

人工的に作られた純粋なメタンハイドレートは氷の塊のような外見ですが、天然のメタンハイドレートは砂層の砂粒子の間に挟まれて存在するため、泥の塊のように見えるそうです。そして、この純粋なメタンハイドレートは炎を近づけると燃えて、水しか残らないと言う不思議な物質です。天然ガスとほぼ同じ成分ですので、燃焼すると水と二酸化炭素が発生しますが(CH4+2O2⇒CO2+2H2O)石炭や石油と比べると二酸化炭素の発生は比較的少ないと言えます。

1㎥のメタンハイドレートに約160〜170㎥のメタンガスが

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムなどによると、1㎥のメタンハイドレートには0.8㎥の水が含まれ、残りのわずか0.2㎥がメタンガスと言うことになりますが、気体にすると何と160〜170㎥もの体積になるそうです。この現象を利用して、海外からの天然ガスをハイドレートに閉じ込めた形で輸送しようと言う試みも研究されているようです。

このメタンハイドレートですが、なぜ地上ではなく海底に存在しているのでしょうか。メタンハイドレートは地上の1気圧下では-80℃以下でないと存在できませんし、0℃の温度では23気圧と言う高圧でないと存在できません。即ち、海底の深い場所、(例えば海底2000mで18℃、1500mで15℃、1000mで12℃、500mで5℃)で安定した状態にあります。

メタンハイドレートはこのように、少なくとも水深500m以上の深海にあり、かつ安定した固体の状態にあるため、石油や天然ガスのように「井戸を掘れば自噴して来る」と言う性質もないため、その開発は困難を極めたものと思われていましたが、今回の発表により開発の可能性が高まったと言えます。

 

日本近海のメタンハイドレートの埋蔵量

日本のメタンハイドレートの資源量は、1996年の時点でわかっているだけでも、天然ガス換算で7.35兆㎥(日本で消費される天然ガスの約96年分)以上と推計されているそうです。将来、石油や天然ガスが枯渇するか可能性が見えてきて、価格が異常に高騰した場合に、日本近海の海底に眠るメタンハイドレートが低コストで採掘が可能となれば、日本は自国で消費するエネルギー量を賄える自主資源の保有国になる可能性が高くなるとも言われています。

 

メタンハイドレートの採取法と課題

メタンハイドレートは前述したように、①海底500m以上の深海に存在する、②石油や天然ガスのように流動性がなく固体であるため、自噴もしないなど難しい状況にあるため、海外から輸入している既存の天然ガスと比較し競争力のある価格で採掘できるかどうかが課題になっています。

そこで、従来以下の採掘方法が検討されて来ました。

(1) 加熱法(温水圧入法・坑井加熱法…加熱により気体にする)
(2) 減圧法(減圧することにより気体にする)
(3) 分解促進剤注入法(エタノールなどを注入して水とメタンを分離させる)
(4) ゲスト分子置換法(ハイドレート格子内にあるメタン分子より、安定化しやすい二酸化炭素分子などを注入して、メタンと二酸化炭素を置換する)
(5) ピストン打法(独立総合研究所が開発した手法で詳細は不明)(ピストン打法以外はメタンハイドレートを現位置(メタンハイドレート貯留層内)で分解させ、メタンガスを回収する手法です)

今回、経済産業省が報道した第1回メタンハイドレード海洋産出試験に用いられた方法に関する記述はありませんが、カナダが陸上で実施した減圧法ではないかと推定します。

 

今回の産出試験

経済産業省・資源エネルギー庁は2013年3月12日付けで「渥美半島から志摩半島の沖合(第二渥美海丘)において、メタンハイドレートを分解し天然ガスを取り出す、世界初の海洋産出試験を開始し、ガスの生産を確認しました」と報道しました。

報道発表の概要は以下の通り

(1) 背景 メタンハイドレートは、メタンと水が低温・高圧の状態で結晶化した物質です。我が国周辺海域において相当の量が存在していることが見込まれており、将来の天然ガス資源として期待されています。
(2) 第一回メタンハイドレート海洋産出試験の概要 メタンハイドレートの商業化に必要な技術整備の一環として、平成25年1月下旬から渥美半島〜志摩半島の沖合にて、メタンハイドレートを分解し天然ガスを取り出す試験の準備を始め、本年3月12日に、世界初となるガスの生産実験を開始しました。
(3) 試験期間 平成25年1月から3月末まで(予定)
(4) 委託先 ・事業主体:(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ・オペレーター:石油資源開発株式会社
(5) 今後の予定 今後、ガスの生産実験を約2週間実施し、生産実験終了後、今回の実験で生産されたガス量についての集計や、実験結果の解析作業等を行う予定です。

まとめ

メタンハイドレートとは、低温・高圧下で水の分子が籠状の分子構造をとり、その中にメタンを取り込んだ構造物で、存在条件下では固体ですが、炎を近づけると燃えて、水だけが残るため「燃える氷」と呼ばれています。その存在条件から永久凍土の地下深くまたは500m以上の深い海底に存在すると言われています。

世界の各地に分布しており全世界での埋蔵量は陸地で数十兆㎥、海域で数千兆㎥に上り、天然ガスや石油の2倍以上と言われています。

日本にとっては、埋蔵量が陸地よりも海底の方が圧倒的に多いと言うことが幸いで、日本は国土面積こそ世界第60位(約38万平方キロメートル)と小さいですが、排他的経済水域(EEZ)と大陸棚の広さは約447万平方キロメートルと世界第6位の広さを誇っており、メタンハイドレートはこの日本列島を取り巻くように存在していると推定されています。

明治の文明開化以来、エネルギー資源の乏しさ故に苦しんで来た日本ですが、将来この無尽蔵とも言えるメタンハイドレートから安価にメタンガスを取り出すことが可能になれば、一挙にエネルギー大国へと変容出来る可能性が出てきます。民間でも東京ガスや三菱重工、三井造船、新日本石油、日立製作所などが研究開発に力を入れており、今後は経済性と安全性に関する問題など紆余曲折があり、簡単には行かないとは思いますが、今回の成功で一挙に商業化が加速する可能性も出てきたと期待されそうです。

引用・参考資料

注意

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