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環境関連情報

ドッド・フランク法と紛争鉱物規制

新たなCSRの課題

情報発信日:2012-09-21

はじめに

2011年9月13日付けの日経エコロジーリポートに「浮上した新たなCSRの課題『紛争鉱物』、米国法で使用実態の把握を義務付け」と題する記事が掲載されました。この記事の内容によりますと、『紛争鉱物』とは英語では”Conflict mineral”または”Conflict metal”と呼ばれ、コンゴ民主共和国と以下の周辺9ヶ国(南スーダン共和国を含めると10ヶ国)、スーダン共和国(南スーダン共和国を含む)、中央アフリカ共和国、ウガンダ共和国、ルワンダ共和国、ブルンジ共和国、タンザニア共和国、アンゴラ共和国、ザンビア共和国から産出されるスズ、金、タンタル、タングステンの4種類の金属を指し、ここで言う『米国法』とは2010年7月に成立した『金融規制改革法、別名ドッド・フランク法』を指していますが、なぜこれらの国で産出する4種の金属が『紛争金属』と呼ばれ、米国のデリバティブなどの複雑な金融商品の規制を目的とした『金融規制改革法』と関係があるのでしょうか。最近、取引先から「紛争鉱物は使用してないでしょうね?」などと問合せを受けた会員企業もあると聞きますし、「日本の製造業に対する影響が懸念されている」とも言われていますので、今回は米国における金融規制改革法と紛争鉱物について解説して行きたいと思います。

紛争鉱物とは

トーマツ企業リスク研究所によると「紛争鉱物とは、虐殺や略奪、性的暴力などの非人道的な行為を行う武装勢力が闊歩する国において産出される鉱物を購入することで、武装集団の資金源となり、さらなる紛争を招くおそれがある鉱物を指します」と解説しています。大和総研によると「『紛争鉱物(conflict minerals)』とは、アフリカ等の紛争地帯において採掘される鉱物資源を示す。産出国にとって貴重な外貨獲得源であるこれら鉱物も、紛争の資金となって内戦等を長引かせ、当該地域において人権侵害を惹起する側面が指摘されている。レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ブラッド・ダイヤモンド』のテーマや、スーパー・モデルのナオミ・キャンベルが2010年の国際戦犯法廷において受領を証言した「血のダイヤモンド」と言えば、思い当たる向きもあるだろうか」と述べています。即ち、紛争の起こっている国で産出する鉱物を購入することは間接的に武装集団に資金提供を行うことであり、紛争の手助けをしていることと同じだと考えられ、社会的責任(CSR)から考えると問題があると言えます。

このような人権問題に対して神経質な米国においては、社会的責任投資(SRI)が活発であるため、紛争鉱物に対する企業の関与や責任を問うために上述の米国金融改革法(通称:ドット・フランク法、正式名:ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護に関する法律)の第1502条において、「自社製品に紛争鉱物を使用しているSEC(米国証券取引委員会)に登録している製造企業は、その原産国を合理的な調査手段により開示しなくてはならない」と定めました。

現時点における紛争鉱物の原産国は上述のように内戦による深刻な人権侵害が行われているコンゴ民主共和国と近隣の9ヶ国より産出するスズ、金、タンタル、タングステンの4種類の金属鉱石および派生物質が指定されています。


ドッド・フランク法とは

通称ドッド・フランク法とは正式名称「Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act」、邦訳名称「ドッド•フランク•ウォールストリート改革および消費者保護法」と呼ばれる米国金融改革法で、2010年7月21日にオバマ大統領がサインして成立しました。

2008年9月15日のリーマン・ショックに端を発し、2010年にかけて米国を襲った金融危機の再発防止やその対応のために金融規制監督を大幅に強化するため、1920年代のアメリカにあって金融的投機がもたらした世界金融不安による大恐慌の発生を根絶すべくルーズベルト大統領が成立させたGS法(グラス=スティーガル法)をオバマ大統領が再来させたとも言われ、デリバティブなどの極めて複雑化した金融商品システムの肥大化などを規制することを主な目的とした法律とも言えます。

主な内容は
(1)システム上で重要な金融機関の規制・監督の強化
(2)システム上で重要な金融機関の破綻処理法の整理
(3)店頭におけるデリバティブに対する規制の強化
(4)ヘッジファンドの私募ファンドの助言者の規制の強化
(5)上場会社の規律の強化

など、包括的かつ大規模な改革を行う内容になっています。

一方では、消費者保護を謳って米国民に対する金銀などの取引を禁止などの内容も盛り込まれているため、4000兆円とも言われる巨額な債務を抱える米国が金融破綻した場合には、米国民はドルと全員が運命を共にすることにもなりかねないと言われています。

ドッド・フランク法と紛争鉱物の関係

さて、それでは上述した米国の金融改革法であるドッド・フランク法がなぜ「紛争鉱物」と関係があるのでしょうか。

上記ドッド・フランク法の主な内容の(5)に「上場会社の規律の強化」を記載しましたが、例えば上場企業における不正行為や道義的責任問題が発覚し、それに伴う不買運動などによって経営が立ち行かなくなった場合などを想定し、法的規制の他にも社会的責任(CSR)についての規制も強化しています。

ドッド・フランク法1502条において、前述したようにコンゴ民主共和国(DRC)及び周辺9ヶ国(南スーダン共和国を含めると10ヶ国)、コンゴ共和国、スーダン共和国(南スーダン共和国を含む)、中央アフリカ共和国、ウガンダ共和国、ルワンダ共和国、ブルンジ共和国、タンザニア共和国、アンゴラ共和国、ザンビア共和国から産出されるスズ、金、タンタル、タングステンの4種金属を使用している場合は、「SEC(米国証券取引委員会)に登録された製造企業は自社製品に紛争鉱物を使用しているならば、その原産国を合理的な調査手段により開示しなくてはならない。」と定め実質的に紛争鉱物の使用を禁止しています。

コンゴ民主共和国(DRC)においては、1996年以来、550万人以上の人々が戦争に関連した原因で死亡しており、戦争が正式に終わったものの、250万人以上の人々が難民生活をしています。民兵グループは、これら紛争鉱物の取引によって年間数百万US$を稼いでいるとも言われ、今なお政府軍との争奪戦を行っています。結果として、民間人が殺害されレイプが行われています。

従って、これらの国々から紛争の資金源となっている鉱物を購入して自社製品に使用することは、間接的に殺人を手助けすることと解釈し、社会的責任を追及されかねないため、これら紛争鉱物を使用している場合は「消費者に対して明確に示せ」と言うことになるわけです。しかし、自社が直接紛争国から購入しない場合でも、サプライチェーンの源流を辿った場合に、部品や複合原料が含まれている可能性もあるため、これを調査するためには企業にとっては非常に難しく負荷のかかる問題と言えます。

対象となる企業は以下の方法でSECに報告する必要があります。


報告・開示義務

SECへの開示・報告に関する条項には2段階の措置が定められています。第1段階として、まず報告書の発行者は、コンゴ民主共和国(DRC)及びその周辺国(「DRC諸国」)が紛争鉱物の原産国になっているか否かを判断します。第2段階として、法律に基づき必要であれば、「紛争鉱物報告書(Conflict Minerals Report)」を提出する必要があります。

(1)第一段階 合理的な手法による原産国の調査  

報告書の発行者は、紛争鉱物(スズ、金、タンタル、タングステンの4種類の金属鉱石および派生物質)の原産国がDRC諸国か否かについて、「合理的な手法による原産国調査」を行わなければなりません。報告書の発行者は、紛争鉱物の原産国が「DRC諸国ではない」と判断した場合には、年次報告書または自社のウェブサイト上で、その事実および調査プロセスを開示しなければなりません。この場合、報告書の発行者が行う必要な措置はこれだけです。

(2)第二段階 紛争鉱物報告書

報告書の発行者は、いずれかの紛争鉱物の原産国がDRC諸国であると判断された場合、または判断がつかない場合、年次報告書においてその事実を開示し、年次報告書の添付文書として「紛争鉱物報告書」を作成・提出しなければなりません。

そして「紛争鉱物報告書」には、報告書の発行者が紛争鉱物の原産国とその流通プロセスについて合理的な調査であることを示す手段等を記載しなければなりません。発行者の合理的な調査の記載には、調査のために実施した全ての措置について、独立した公認の民間部門による監査結果も示す必要があります。

紛争鉱物を自社製品に使用すること自体は法的な制裁処置はありませんが、SECに対する虚偽報告があった場合には、SECからの制裁処置及び一般の訴訟の対象となり、市場からの退場を迫られることを覚悟しなければならないと思われます。


SEC(米証券取引委員会)の新ルールが日本の製造業に与える影響

これら紛争鉱物であるスズ、タングステン、タンタル、金は、携帯電話、ノートパソコン、MP3プレーヤーなどの我々が日常使用する電子機器製品に多く使用されています。また、バルブや継手類などにもタングステンや錫は使用されていますし、電気・電子機器による動作や表示部を有する場合にはタンタルや金の使用可能性も高くなります。

もちろん、ドッド・フランク法は米国の法律ですので、我が国で生産し我が国で流通させる場合には関係はありませんが、我が国の電気・電子機器製品及び部品はそのまま、あるいは自動車などに組込まれて米国に輸出されていますし、米国の現地法人としてSEC(米証券取引委員会)に登録している企業も多いと思われますので、EUにおけるRoHS指令やREACH規則に対する対応と同様に、これに対応する必要性が多かれ少なかれ生じる可能性が高いと思われます。

スクラップ及びリサイクル材料を使用した場合にはこの法律は適用されないようですが(スクラップの場合には、その先のサプライチェーンを辿るのが不可能)、もし自社製品にこれらスズ、タンタル、タングステン、金が含まれている可能性があれば、RoHS指令のようにサプライチェーンに対して、原産国またはスクラップ材・リサイクル材であることを証明出来る書類を添付させることの出来る体制を早急に構築する必要性があると考えた方が良さそうです。


まとめ

米国の金融規制改革法であるドッド・フランク法による紛争鉱物規制は直接的には環境問題ではありませんが、EUにおけるRoHS指令やREACH規則のように、「自社製品の中に有害化学物質が入っていたなんて知りませんでした」では済まず、企業の社会的責任・道義的責任として「自社製品の製造・販売が紛争国の武装勢力に間接的に加担していたとは知りませんでした」では済まないと言うことではないでしょうか。自社が製造し販売する製品や企業活動によって社会にどのような影響が生じるのか、どんな責任を負うのかと言う問題について、製品のライフサイクル全体及びサプライチェーン全体に対して細かく気を配ると点では、環境問題に対応する手法と同じとも言えるのではないでしょうか。

そして、このような気配りが出来ない企業は近い将来市場から退場を迫られる可能性があると言うことを知る必要があると言えるのではないでしょうか。

引用・参照情報

注意

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