ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 2011年改正RoHS指令の動向 #2
情報発信日:2012-07-19
EUにおける電気電子機器に関する有害化学物質規制であるRoHS指令は2003年2月に廃電気・電子製品指令であるWEEE指令と共に公布され2006年7月に施行されましたが、第1回目の改正が2011年7月1日付けのEU官報によって公布されました。今回の改正では規制物質が大幅に増加すると予想されましたが、規制物質は鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEの6物質に据え置かれたため、「大きな変更はなかった」と安堵し大きな関心を示していない企業・経営幹部の方も多いかと思いますが、運用上では大きな変更があり決して無関心ではいられない状況にあると思われますので、今回再度要点を確認すると共に、現状の問題点などについてもまとめてみたいと思います。
RoHS指令は原文、"DIRECTIVE 2002/95/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 27 January 2003 on the restriction of the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment"でありRestriction of Hazardous Substances(危険物質に関する制限)の頭文字からRoHSと呼ばれ、日本語に訳すと、"電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令"ですが、一般的にはRoHS指令(ローズ指令)と呼ばれています。
ここで、「指令」とはEU加盟国に対して「指令内容に対応するために国内法を整備せよ」と言うもので、一般の企業やユーザーに対して直接効力を持つ法律ではありませんので、実際には対象国の国内法を参照して対応する必要があります(今回の改正RoHS指令では指令の公布後18ヶ月後以内の2013年1月2日までに加盟国が国内法を整備するように求めています)。 今回の改正における違いは本コラム「2011年改正RoHS指令の動向」(2011年6月23日付)でも記しましたが、以下に再度記します。
現行RoHS指令と改正RoHS指令の主要な改正点比較
現行RoHS指令では特に市場監査は実施していませんが、中国製品等において有害物質非含有宣言品から規制有害物質が検出された例が多数あったことから、改正RoHS指令では市場監査が実施され、違反した場合は適合宣言書のサイン者に対する処罰が実施されることになります。
今回の改正の要点は表1の通りですが、特に重要な点は従来では「RoHS適合品」を謳った場合に川下ユーザーから請求があった時点で「規制化学物質の非含有証明書」を提出すれば済みましたが、改正後は「RoHS適合品」を謳う場合には、まず「CEマークの添付」が必要になります。加えて適合宣言書の作成と保管、技術文書の作成と保管が義務付けられ、請求があった場合には提示しなくてはなりません。これらに対して第三者認証は必要ありませんが、上述のように市場監査が実施されますので適合宣言をしたにも関わらず、規制有害物質の含有が発覚した場合には相当の罰則が設けられることになりますので注意が必要です。
改正RoHS指令に対応するため、経済産業省が中心となり過去4回(2011年2月23日、4月18日、11月10日、2012年6月6日)、関連工業会の合同勉強会が実施されましたが、最新第4回勉強会において議論された問題点について以下にまとめます。 改正RoHS指令の原文を読んだだけでは明確になっていない事項が多いため、EU委員会は改正RoHS指令に関するFAQ(良くある質問と回答例)を作成しており、何回かドラフトが公開され、最終稿が近々公表される予定ですが、大きな問題は以下の2点です。
今回の改正で従来は適用除外になっていたカテゴリー8(医療機器)及びカテゴリー9(産業用を含む監視及び制御機器)の適用除外が外れて規制の対象となり、「大型据付け型産業機械LSITまたは大型固定式設備に該当するものは適用除外」と適用除外継続の注意書がありますが、この「大型」の定義が明確になっていません。前回のFAQドラフトに示されたISOの20フィートコンテナに記載された5.71m×2.35m×2.39m、44トン以上の定義が適用されると多くの半導体製造装置や工作機械が適用除外にならならず、規制対象になってしまいます。「もしそうなった場合には、部品点数が多すぎることや特に工作機械メーカーは外注先が零細企業であり、とても対応が出来そうにない」と言う理由で、半導体業界団体が中心になりロビー活動を行った結果、最新のFAQからは上記ラージスケールの定義が外れましたので、多くの半導体製造装置や工作機械が引き続き適用除外になる可能性は残りますが、RoHS指令の基本的な考え方の中には「少しでも電気を使用して動く製品は出来るだけ多くRoHS指令の対象に取り込みたい」と言う意思がありますので、適用除外になったからと安堵する事なく、出来るだけ早く対応出来るように努力することが必要です。
例えば「電気・電子製品に付属するケーブルやメンテ部品(例えばプリンターのインクカートリッジ)、コンポーネントにまでCEマークを添付しなければならないのか?」と言うことが指令では明確に記載されていません。これに対するFAQでは「製品に付属しているケーブルにはCEマークの添付は不要、しかし同じものでも単独で販売される場合はCEマークの添付が必要」と言うことになるようです。しかし、プリンターのインクカートリッジは電気電子機器ではありませんので、最終的にFAQにどう記載されるのか流動的と言えます。但し、FAQは法的な責任は一切なく、裁判になった場合はあくまでも指令に基づく国内法に照らして判決が下されるとのことであり、「製造者が自らの責任において自社製品がどのカテゴリーに属し、どの規制を受けるのかを判断する」のが基本と言えます。
最近、EU発の環境規制が多くなってきていますが、自社に不都合な場合にも「仕方がない」と諦めるのではなく「一言モノ申す!」と言う動きが出て来ています。この場合、1社で動いてもなかなか力に成らないかも知れませんが種々の工業会や団体として動けばかなりの圧力に成りえます。欧州における迅速な情報取得とこれに対するアクションを起こす団体としてJapan Business Council in Europe (JBCE:在欧日系ビジネス協議会)がありますので紹介しておきます。
JBCEの目的は「日系企業の関心が高い政策分野について、①公式・非公式情報の収集・分析・意見交換を行い、②政策に関する意見をまとめ見解を表明し、③他団体とも連携しEU当局等への働きかけを行い、④日本企業についての理解を深めるため関係当局等との意見交換、セミナー、情報発信を実施」と記載されており、現在日系企業の約60社が参加しています。年会費は6,000€だそうですが、このような機関を利用するのも一つの手段と思われますので参考までに紹介しておきます。
種々の規制において当局に対するロビー活動などによって自社に関係する不利な部分が「適用除外になった」と安堵する場面が多いかと思いますが、適用除外はあくまでも規制側はすぐにも実施したいが「業界全体が即刻対応は不可能であり、もし即刻実施された場合には市場に対して大きな不利益が生じる」と口を揃えるので、しばらく、施行を猶予しようと言う意味と解釈するべきです。
本コラム「2011年改正RoHS指令の動向」(2011年6月23日付)でも記しましたが、2008年4月1日に欧州司法裁判所は、2005年10月31日に欧州議会及びデンマーク王国が提訴した「Deca BDE」(PBDEの類と考えられる)の適用除外を認めた「2005/717/EC」を無効とする判決を出しました。この判決によって、RoHS指令のAnnex9aが削除され、2008年7月以降はDeca BDEは含有制限(0.1%以下)を受けることになりました。これは「Deca BDEが有害か無害かと言う議論ではなくDeca BDEには代替品が存在するにも拘わらず適用除外としたことは法令違反である」とする原告の意見が認められたことによるものです。
即ち、適用除外は「代替品が存在する」と認められた時点で解除される可能性が常に存在していると解釈するべきであり、今回の改正でも適用除外用途、適用除外品、適用除外の有効期限など明確に記載されてくると思われますが、「適用除外」は「代替品の存在有無」の上に成り立つ非常に危うい立場にあると理解した方が良く、適用除外になったと安堵する事なく、一刻も早く対策を講ずる必要があると考えるべきです。
2003年2月に廃電気・電子製品指令であるWEEE指令と共に公布され2006年7月に施行されたEUの電気電子機器に対する特定有害物質の使用制限を規定するRoHS指令は、2011年7月1日付けのEU官報によりその改正が公布されました。これによりEU加盟諸国はこの指令に則り18ヶ月以内(2013年1月2日まで)に自国の国内法を整備しなければなりません。今回の改正では規制物質は従来と同じ6物質に据え置かれましたが、適用の範囲が従来適用除外であった医療機器や産業用を含む監視及び測定装置まで拡大されました。
さらに大きな変更は従来、RoHS指令適合品に対しては製造者の自己宣言のみで川下ユーザーから請求のあった場合に「特定有害物質の非含有証明」を提出すれば済んでいましたが、改正法では①CEマークの添付(第三者認証は不要)、②適合宣言書の作成と保管、③技術文書の作成と保管が義務付けられ、さらに従来は行われていなかった市場監査が実施され不正が発覚した場合には適合宣言書へのサイン者に対する罰則が適用されることになりますので、十分な注意を払う必要であり、製造者にとっての負荷は増大する方向になります。
また、適用除外に関しては上述しましたが規制側は出来るだけ速やかに適用除外を解除しRoHS指令の適用範囲の拡大を目指していますので、適用除外に対しては安堵することなく、何時適用除外が解除されても対応出来るようにいち早く準備を進めることが重要と言えます。CEマークについては次月に説明したいと思います。