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環境関連情報

最近の企業における環境経営への取組み(1)

製品ライフサイクルとトップランナー方式

情報発信日:2011-05-20

はじめに

企業における環境問題への取組みは、いわゆる現在の環境問題がまだ「公害」と呼ばれていた時代に始まりました。それは工場で生産活動を行った結果として発生する排煙、排水や廃棄物を適正に処理しなかったことが原因で、近隣の住民に対して長く健康被害をもたらしてきました。このような状況の中、我が国では昭和43年に公害対策基本法と大気汚染防止法が、昭和45年には汚濁防止法、昭和49年には自然環境保護法が制定されるなど、公害防止に向けての法整備が進み、各企業もこれに従い工場の改善を行いましたが、この頃の各企業はこれらの法規制に対して必要最小限の投資と処置を行いさえすればよいと考えていました。

しかし、その公害の規模が大きくなり国境を超えるようになった現在の環境問題においては、その対応は大きく変化しているといえます。即ち、二つの大きな変化がありますが、一つは現在の環境問題は「工場だけの問題」から「製品の生産・運搬・使用・廃棄までのいわゆるライフサイクルを通しての問題」に変化していること。もう一つは、過去の公害問題での「法に抵触しないために必要最低限の努力さえ行えばよかった」から、現在の環境問題は他社、他国に先んじてより積極的に対応する「トップランナー方式」、「他社に先駆けて環境問題に取組まないと生き残れない」という状況へ変化してきていることを理解する必要があります。即ち、現在の環境問題は公害時代とは別の環境問題であり「必要最小限方式の対応」では乗り切れなくなってきています。

環境経営における製品ライフサイクルと環境配慮設計言う考え方

公害時代、企業の環境対応は工場の生産過程のみの問題でしたが、現在の環境問題は製品のライフサイクル全体(原料調達→生産→運搬・据付け→使用→解体・廃棄または再利用)を通しての環境に対する負荷低減を考慮することが重要といえる時代に変化してきています。したがって、工場の生産部門だけの問題ではなく、研究開発や設計部門も大きく関与すべき問題であり、環境に優しい製品とは何かを考えて商品の開発・設計を行う必要があり、これを「環境適合設計」または「環境配慮設計」と呼び、製品が環境に配慮されているかどうかを判定することを「製品アセスメント」と呼びます。

環境適合設計によるエコ商品とは、(1)有害な化学物質を含有しない、(2)省エネ・省資源が優れている、(3)リサイクル性が優れている、などを考慮した製品といえます。現状における環境法規制の大半は有害化学物質の含有管理ですが、欧州においては「省エネ性」を求めるErP指令(エネルギーに関連するエコ設計指令)が徐々に実施され、シャワーヘッドや水栓などもこの指令の対象となりつつあります。

本年2011年3月に当工業会においても「バルブ製品アセスメントガイドライン」が公表されましたので、是非この機会に自社製品の環境配慮設計に対して利用されることを推奨したいと思います。

環境経営におけるトップランナー方式と言う考え方

環境法規制は欧州が世界をリードしていますが、これらの環境法規制を見ていると「べき論」や「予防論」が先行していることがわかります。例えば「この化学物質は危険だからこの規制値以上は含有禁止」または「製造及び使用禁止」なる法律が提示されたとします。しかし、すべての企業において「その化学物質が使用禁止になったら産業に大きな打撃となり製品が製造できなくなる」「その規制に対応するのは現状では無理」という大合唱を行うと、当局は「では暫定的に適用除外にします」となり、法令のスタート時点では例外なく多くの適用除外が付帯してきます。しかし、この「適用除外」とは永久に適用を免除するという意味ではなく、「暫く待つが、できるだけ早く適用除外は外します」という督促の意味であり、1社でも2社でも「当社では対応が可能になった」と手を上げた時点で適用除外の意味が失われ、「解除」が行われる可能性が高くなります。これをもって「トップランナー方式」と呼び、法規制に積極的に対応した企業が先行利益を得、「対応に遅れた場合には企業の存続に関わる問題にも成りかねないリスク」を負うことになります。

したがって、「適用除外」になった場合は「安心」するのではなく、他の企業は対応に向けて既にスタートしており、自社も一刻も早く解決に向けて努力しなければならないと理解するべきだと思われます。「そうは言っても工業会もあるし抜け駆けは許されない」という考えもあるかも知れませんが、環境問題は世界規模の問題ですので、自国で共同戦線を張っても他国で解決されてしまえば意味がないということを理解すると同時に、どこか新製品・新技術の開発競争に似ていると理解するとよいかもしれません。即ち、環境問題にいかに素早く、効率的に対応するかが企業における差別化因子の一つになっていることを理解する必要があります。

過去において企業の差別化因子はQCD(品質・コスト・納期)の三つでしたが、今日ではQCD+E(品質・コスト・納期+環境)と言われ、環境問題は企業の差別化因子の一つであり、より積極的に関与することが求められます。

バルブ産業における環境法規制の対応

環境法規制は、電気・電子機器対象としたEUのRoHS指令や、自動車を対象としELV指令のように、規制対象が明確に絞られたものと、ストックホルム条約やEUの総合化学物質規制のREACH規則のように、産業を特定しない場合があります。しかしバルブはあらゆる産業に使用されますので、あらゆる環境法規制は自社に関係があると考えて対応した方が間違いないと思われます。例えばRoHS指令ですが、当初は「関係ない」と考えられていましたがバルブが自動販売機や電気洗濯機に使用されれば規制の対象になりますし、今回の改訂によるカテゴリー追加によって電動弁の場合には適用例が増えると予想されます。また、タンクローリー車や冷凍車に搭載されればELV指令の対象になります。

さらに、例えばRoHS指令では鉛は含有量で規制を受けていますが、「水道の世界では鉛は浸出量規制であり、含有していても浸出してこなければよいからRoHS指令は関係ない」と考えるのではなく、RoHS指令の鉛規制が、家電製品の不法投棄に起因する鉛の地下水・環境汚染防止までを考えている点に着目して、「含有している以上は浸出してくる危険性はある」「それであれば、水道の世界でも非含有規制はやがて着実にくる」と予測し、「規制に先行して対応を検討してみよう」と先読みして積極的に対応することが極めて重要な時代になってきているともいえます。

即ち、多くの企業においては未だに公害時代のように「環境問題は必要だと思うが人と金が掛るので適当にお付き合いすればよい」という「必要最小限的発想」を有している経営幹部も少なくないと思われますが、「現状の環境問題は過去の公害時代の環境問題とは別物であり、研究開発と同様に、より積極的に関与し他社、他国に先んじて対応することが企業の差別化の重要な因子であり、生き残りのために必須となる」という発想に転換するべきだと思われます。

まとめ

繰り返しますが現在の環境問題は過去の公害時代の環境問題とは別物と考える必要があります。公害時代の環境問題においては、生産部門において法に抵触しない程度の必要最小限の対応で済みましたが、現在の環境問題は生産部門だけでなく、製品が作られてから捨てられるまでのライフサイクル全般を考慮して、いかに環境負荷の少ない設計を施しているかが問われ、また環境配慮の強さが品質・コスト・納期と並んで企業の差別化因子になってきています。したがって、現在の環境問題への対応は公害時代の対応のような必要最小限対応ではなく、より積極的に関わりトップランナーとなることが企業の存亡の鍵となると言っても過言でない時代にきていると認識するべきだと思います。

「環境問題は重要だと思うけれど、人も金も出せないから適当にやる」では市場から退場させられるリスクが高まると思います。

先般「RoHS指令における銅合金含有の鉛に関する適用除外」についての質問がありましたが、実際には仮に明日「適用除外解除」となっても、実施までには多少の猶予はあるとは思いますが、「適用除外の解除」はいつあっても不思議ではないと思われます。なぜなら世界のどこかの企業が「鉛を使わなくても、ほぼ同じコスト、ほぼ同じ加工性を有する銅合金供給の見通しがたった」と当局に申し出て、それが認められればトップランナー方式によって採用される可能性が高いからです。

少なくとも、この「適用除外」は「暫く猶予しますができるだけ早い時期に実施しますよ」というメッセージと読み、一刻も早く対応を検討する必要があるということが現在の環境問題への対応法を象徴しているといえるのではないでしょうか?

参考資料・文献

注意

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